映画ザビエル[20]職業監督の極み
── カンクロー ──

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◎ゴーン・ガール

原題(英題):GONE GIRL
制作年度:2014年
制作国・地域:アメリカ
上映時間:149分
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス

●だいたいこんな話(作品概要)

片田舎で暮らすニックとエイミーは、その土地に似つかわしくない都会的雰囲気を持つ、人も羨む幸せな夫婦のはずだった。

ところが五回目の結婚記念日に突如、妻エイミーが失踪したことで夫婦の本当の姿が浮き彫りにされる。

エイミーの捜索が大々的に行われるなか、愛妻家と思われていたニックの不倫が発覚し、ニックはエイミー殺害の容疑をかけられるようになるが。




●わたくし的見解

今年の春、「僕のヤバイ妻」という連続ドラマが放映されていました。番宣を見たとき、これは「ゴーン・ガール」ではないか。と思い、第一話を見てみたのです。

どんな風に日本に舞台を置き換え、またストーリーも、オリジナルをベースにどんなアレンジをし、そしてどのように独自の展開を見せるのかに興味がありました。

「僕のヤバイ妻」では、妻は身代金目的に誘拐されますが、それは妻による狂言誘拐のため、浮いた身代金二億円を巡って夫婦以外の人物も巻き込み展開していきます。

「ゴーン・ガール」でも実家が裕福なのは妻エイミーで、事件も彼女の狂言。しかし事件は、身代金目的の誘拐ではなく、エイミーはおそらく殺害されたであろう状況を残し失踪する。

エイミーの目的は、殺人犯として夫に死刑判決が下ることなのです。彼女の両親はただ裕福なだけなく著名人であることから、エイミー失踪と夫にかけられた殺害容疑は、全米の注目する事件となっていきます。

「僕のヤバイ妻」に対する私の興味は結局持続せず、第一話の次に見たのは最終回となりました。けれども、身代金の二億円を軸に二転三転を繰り返し、見ていた人はきっとスリリングな展開を楽しめたに違いありません。

驚いたことに「僕のヤバイ妻」は完全にオリジナル作品で、「ゴーン・ガール」をベースにしていたり、インスパイアされたり、まかり間違ってパクっていたりは一切ないようです。私は作品が面白ければ良いんじゃない、というスタンスなので、そのあたりを追及するのは本意ではありません。

本意の「ゴーン・ガール」についての、その面白さは妻のヤバさ、に尽きます。女の浅知恵なる言い回しが世の中には存在しますが、妻エイミーは大変に賢くてヤバイ。もう勝てる気がしない。絶対、敵に回したくない権化です。

夫が死刑になるように仕込んでいる罠の多いこと、周到なこと。準備期間の長さや、夫に不利な事実・状況・証拠が露見するタイミングの巧妙さにマジ震える。(←西野カナ調)

陥れられた夫ではないのに、私もエイミーにとりあえず謝ってしまいたい。どうか、お命だけはご勘弁。

149分と長尺な作品ながら、夫視点の事件/sideAと、妻視点の事件/sideBのような見せ方をするので、退屈せず鑑賞できます。

デヴィッド・フィンチャー監督は、枕詞のように「鬼才」と呼ばれがちですが、私は稀代の職業監督だと感じていて、エンターテインメント性にとても重きを置いている人。

「ゴーン・ガール」も、「僕のヤバイ妻」に限らず類似作品が簡単に見つかりそうな、さほど斬新な内容ではありません。

しかし、とにかく見せ方が巧い。プロフェッショナルの職人技です。やだな〜やだな〜、こわいな〜こわいな〜(←稲川淳二調)とつぶやきながら、この超常現象皆無で「生きてる人間(女)が一番怖い」話をお楽しみ下さい。

残暑が厳しい折の、納涼「ゴーン・ガール」のススメ、でした。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/


映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。