装飾山イバラ道[185]「環境DNA」と「暗黒物質(ダークマター)」と……
── 武田瑛夢 ──

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NHKの「サイエンスZERO」を録画して、気になるものから順番に見ているけれど、ずいぶん前の「環境DNA」の回が面白かった。

要約すると、現代の海や川の生態調査は、その場所のわずかな「水」を採取するだけでわかるのだという。「水」に含まれるDNA情報を分析すれば、そこに生息する動植物や微生物の生態系が、かなり具体的に調べられる段階に来ているらしいのだ。




●環境に溶け込む

生き物の存在がDNAという形で水に溶け出しているというのは、なんとなく理解できる。このDNA配列を詳しく見ていくことで、個々の生物の種類や量の判別までが可能になっているという。

テレビ画面ではDNAのアルファベットの羅列のようなコンピュータの画面だったけれど、そのうちわずかな水だけを機械にかければ、グルグルポンッと生息生物一覧が表示されるような時代も近いのではないだろうか。

「そしたら、ネス湖の水を分析すれば、恐竜系のDNAがあればすぐにわかるんだ!」と私はすぐにUMA系動物発見の妄想をする。そう、いることもわかるけれど、いないこともすぐにわかってしまう(笑)。

なんだか夢もロマンも一瞬で砕ける時代が来る気がした。

木星の衛星「エウロパ」には水があるというし、他の星の水の分析にも期待が持てるという。私は最近huluで映画「エウロパ」※を見たばかりだったので、「サイエンスZERO」番組内で星の話が出る前にどんどん期待が膨らんで、口を挟みながら見た。

一緒に見ていた夫は、どうも私の話が飛躍しすぎてうるさかったらしく、学者の説明を聞き逃しがちで、録画を巻き戻しながら見るハメになっていた。

※映画「エウロパ」は、地球外生命体を探す民間探索機の話で、乗組員たちの使命感が強い作品だった。トラブルは多いけれど、大きな悪巧みなどはなく、とても真面目に対処する乗組員たち。

ハリウッドに多いトンデモ乗組員と違い、人としてしっかりしているけれど、科学者として未知なる物の発見を最優先する姿がかえって怖かった。

「サイエンスZERO」に話を戻して、これは娯楽系科学番組なので、私のような一般視聴者にわかる範囲でしか説明をしていない。それでも「環境DNA」という分野がとても面白いということはわかった。

水の中では、剥がれた皮膚や排泄物のDNAが溶け出た世界に生きている魚たち。水という環境を共有しているので、ミクロの世界で皆混ざり合って存在していることになる。エサとして取り込む以外にも、ただ吸い込んでしまうこともあるだろう。

そういえば水だけでなく空気だって、周囲にあるものの匂いや温度や微粒子を含んでいる。近くにいればいるだけ強く濃く、環境を共有しているのだ。

よく仲が悪くなった夫婦が「同じ部屋の空気も吸いたくない」という表現を使うけれど、環境DNAの共有を拒否しているような気分なわけだ(あまり良くない例えだけれど)。

環境の成分分析のジャンルはコンピュータの計算が速くなることで、利用価値はたくさんありそうだ。

例えば、山に山菜を採りに行ってクマに襲われるニュースがよくあるけれど、将来的にはクマが近くにいれば匂いなどで危険を察知できるかもしれない。

動物的勘に頼らずに、分析的に可能性の高さを見る。排泄物の痕跡があればどの程度の時間が経っているか、DNAで個体番号もつけられるかもしれない。水と違って、空気はもう少し複雑そうだけれど。

●宇宙に満ちるもの

もう一つ見た「サイエンスZERO」の録画は宇宙の「暗黒物質(ダークマター)」に関するものだった。

この番組では今までも同じようなテーマの回があった。科学系の番組って、研究の先端かつテレビ放映しても安心の、根拠の大きい情報という特徴があると思う。番組としては驚かせたいけれど間違っては困るので、学者にとっては当たり前のネタも多いのかもしれない。

最先端すぎると理解しにくいし、正しさにおいて何かと危険だ。

よくテーマになる暗黒物質は、宇宙空間に満ちているらしい観測できない物質。私の周りにもあるらしいそれについての興味は尽きない。

番組では観測を目指す人たちが理論を組み立てながら、それぞれの方法で痕跡を探していた。あまりにも見つけられないので、理論自体を疑いながら進むこともあるそうだ。あのヒッグス粒子も疑われた中での発見だったという。

物質として存在している私たちの間に、水のように満ち満ちて、決して存在を確認されないもの。海や川の場合は、水がその他の成分を運んでいるけれど、空間には一体何があるのだろう。

銀河系の星々は大きくみれば粒子のようでもあり、海の水の中のミクロの世界とも似ている。ひきつけあってぶつかり合い、混ざり合って変化する。太陽の暖かさの恩恵の場所に位置する地球では、すべてが変化の途中だ。

昔の映画で実験室のキテレツな発明博士が何かの液体を混ぜるシーンのように、私たちもとりあえず混ぜてみるという実験をされているのではないかと思える。

宇宙という海の中で混ぜ回されて、温められて、ぶつけられて、良い塩梅になった地球の上で、ケンカしたり楽しくやったりしているのだ。

そして未確認動物の痕跡らしいものに未知のDNAが発見されたり、暗黒物質の正体が突き止められたりするかもしれない未来。

この記事を書いていたら、エウロパ関連でNASAが何かの発表を行うらしい。まだ内容を知らないけれど期待が止まらない。


【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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暑くもなく寒すぎない秋はやることを片付けるチャンス! といつも思うけれど、時間が増えるわけではないのが辛い。夜長って言っても夜いつも起きてるしなー。