[4219] 手取川七ヶ用水大水門を見に行くの巻

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《病院は丸ゴシックがお好き》

■わが逃走[190]
 手取川七ヶ用水大水門を見に行くの巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[50]
 文字の定点観測〜第1回〜 ターミナル駅構内のポスター・看板を調査
 関口浩之




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■わが逃走[190]
手取川七ヶ用水大水門を見に行くの巻

齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20161027140200.html

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金沢での仕事が終わった翌朝、手取川七ヶ用水大水門を見ようと思い立った。

明治36年、日本における近代治水の父、ヨハネス・デ・レイケの指導によって完成したという、煉瓦と石積みの美しい土木遺産だ。

手取川扇状地を流れる七ヶ用水の歴史は古く、川の支流などを基とした治水・利水は、すでに古墳時代には行われていたらしい。しかし、この地の歴史は洪水や日照りの歴史でもあり、周囲の村では長らく水争いが絶えなかったという。

近代用水への転換となったのは、幕末から明治にかけての「富樫用水」取水口新設工事だ。

枝権兵衛の指揮のもと、岩山を削ったトンネルを含む総延長1キロを超える水路が、四年の月日をかけた大工事の末、完成。

これにより、約1800ヘクタールの田畑への水問題が解決、村を干ばつから救った。しかし明治期に入るとこんどは水害が深刻化する。

ついに金沢県(当時)は手取川の洪水対策を決意、河川改修工事に乗り出すこととなった。そこでお声がかかったのが、我らがヨハネス・デ・レイケというわけだ。

日本を旅すると、行く先々でデ・レイケの仕事と出会う。

怪人二十面相も駆け抜けたであろう東京の神田下水、あまりにも有名な常願寺川の河川改修、そしてあの美しい四日市港の潮吹き防波堤など、土木遺産好きなら誰でも知ってる物件の多くに、その名前を見いだすことができる。

しかも、それらの多くが現役の施設で、今なお機能しているところがスゴイ。今回のお目当て「手取川七ヶ用水大水門」ももちろん現役。

というわけで、金沢駅前のホテルから白山市白山町へと向かう。ちなみに白山市白山町と書いて、はくさんししらやままちと読む。

JR西金沢駅経由という手もあるが、どうせなら北陸鉄道石川線を全線乗ってやろうと思い、金沢駅からまずバスで野町駅へ向かった。

20分ほどで到着。渋い昭和な駅だが、中途半端に改築した結果つまらんことになっていたので、写真を撮るのを忘れた。

周囲の店はほぼシャッターが下りていた。ふた昔前くらいは活気があったことだろう。

振り向けば駅前にカッコいい風呂屋が! おそらくもう営業してないと思うが、木造の入口と煉瓦造りの浴場?

こういうものこそ生きた文化財にすべきだと思う。

加賀百万石に暮らす人々は見栄っ張りなのか、名のある路地や名所旧跡をことごとくピカピカに修復してしまう傾向がある。

それに対し、観光客の少ない路地裏風景の痛みが激しく、空き家・空き店舗の劣化や取り壊しが目立つ。

結果、歴史的風景が失われるという負のループに入っているのではないか。ちょっと心配。

さて列車は野町、西泉と走り、JR乗り換え駅である新西金沢を出ると、終点までほぼまっすぐ進む。

車窓には規則的に並んだ建売住宅が延々と続く。この単調さは、音楽に例えればハウス。

それが途切れると、こんどは田んぼが延々と続く。富山地方鉄道のようなローカルならではのスペクタクルは期待しない方がいい。

終点の鶴来には約30分で到着。鶴来と書いてつるぎと読む。駅舎はそれなりに古く、由緒ある雰囲気の木造建築だ。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/10/27/images/001

ただ駅前は中途半端に再開発してしまったらしく、歴史と伝統の風情が消失。少々残念である。

さて、案内所で「手取川七ヶ用水大水門」について尋ねるも、誰も知らない。聞いたこともないという。パンフレットのpdfを見せてもピンと来ないらしい。

そりゃそうだ、そのスジでは有名な土木遺産も、地元の人にとってはあたりまえすぎて盲点なのだろう。

私が育った某S玉県で、見沼用水について尋ねられても私は答えられんし。

ダメもとでタクシーの運転手に聞いても同様だった。たしか近くに廃線になったナントカ駅と白山ナントカ神社があったはずなので(うろ覚え)、そこまで乗せてもらうことにした。

5分ほど走ると、右側に治水施設とおぼしき建物が見えてきた。どうやらアタリのようだったのでそこで下車、渋い国道の風情を楽しみつつ歩きはじめるとすぐにイイ感じの路地を発見。入っていくと美しい階段、その先に廃線跡。

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線路を越えるとそこに、手取川七ヶ用水土地改良区白山管理センターがあった。なんともいいかげんなノリで、よくぞここまで辿り着いたもんだ。

この脇に手取川扇状地の用水の要、明治36年に完成していまだ現役のフォトジェニックな『大水門』があるのだ!

ところがなにやら様子がおかしい。近寄ってみる。なんと!

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工事中ではないか!

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そこへたまたま施設の人がやってきたので尋ねてみると、現在大水門は大規模修繕中で、完成は2017年の春とのこと。うわー、こうなったらまた来年来なければ。

大水門入口から振り向けば、旧加賀一の宮の駅ホームと駅舎。廃線からまだ数年しか経っていないのに損傷が激しく、線路だったところは草ぼうぼうランドと化している。

こんな立派な木造建築を廃墟にしてしまうなんてもったいない! 是非水門とセットでの保存を願う。

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大水門は水戸明神の森南端にあり、写真は北端に位置する取水口。こっちは工事中ではなかったので、美しい煉瓦づくりの四連トンネルを見ることができた。

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手取川にかかる和佐谷橋。床が木で、歩くときしむ。主塔とおぼしき構造が残っていたので、おそらく以前は吊り橋だったのではなかろうか。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/10/27/images/007

帰り道、鶴来駅まで歩いてみたが、フォトジェニックな風景やシブい物件が次々と現れ、これはこれで大変満足。楽しい一人旅でした。

というわけで、次回(来年)へと続く。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[50]
文字の定点観測〜第1回〜 ターミナル駅構内のポスター・看板を調査

関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20161027140100.html

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

2014年7月11日にデジクリデビューしてから二年三か月。今回で記念すべき50回目のメルマガ掲載になります。おめでとう! パチパチパチ☆ 自分を褒めてあげたい…(笑)

読者のみなさんがいるからこそ、どんなに忙しくても一回もお休みすることなく、どうにか継続することができました。ありがとうございます。実は今回、今までで一番時間が取れなくて、あやうくお休みしそうな状態でしたが、がんばって執筆しました。

もし連載100回目を達成することができるならば、2019年のお正月頃になりそうです。その頃には僕は何才になっているんだろうか…… えっーー、内緒……

今回のテーマは「文字の定点観測〜第1回〜」です。

今日は終日、仕事で外出していたのですが、東京駅、渋谷駅、新宿駅、池袋駅と四つのターミナル駅を利用しました。

文字の定点観測をするために、朝のラッシュアワーに、ざっくりとしたこんな
計画を立てました。

◎ターミナル駅構内で設置されているポスターや看板を50枚観察し、何かおもしろい傾向がないか調査する。

はじめは片っ端から適当に観察していたのですが「何か仮説を立てて行動しないと定点観測にならないなぁ」と思い、具体的に下記二点について調査することにしました。

1)ポスターのキャッチコピー、見出しや本文の組み方が「横書き」「縦書き」「縦横混在」なのか?

2)今回調査する対象のポスターは「病院」「旅」「金融」の3業種に絞り、それぞれの業種でよく使用されている書体に、なにか傾向があるか?

●「横書き」「縦書き」「縦横混在」の調査

50枚のポスターを調査しましたので集計結果をお知らせします。
・横書き  40枚
・縦書き  3枚
・縦横混在 7枚

日本語は本来、縦書き文化だと思っていたので、もう少し、縦書きや縦横混在のポスターが多いのかなと仮説を立ててましたが、圧倒的に横書きで組むポスターが多かったです。業種を絞っていたので、この集計結果は「関口調べ」ということで……

あとで業種毎の書体の傾向を書きますが、明朝体をキャッチコピーで使用する際に、縦組みにする傾向がありました。

●業種毎の書体の傾向

1)病院

非常に面白い結果が出ました。圧倒的に「丸ゴシック」が多かったです。代表的な看板をいくつかこちらに掲載します。じゃーん!
https://goo.gl/ozdmbd


以前、病院関係者から「明朝体は先が尖っているので注射針を連想しちゃうかもしれない」と聞いたことがあります。つまり、病院では明朝体は意識して使用しないケースが多いようです。「丸ゴシック体が一番、心が和む」とかいう理由もあるかもしれませんね。

7割が丸ゴシック体、2割がゴシック体、1割が明朝体とデザイン書体でした。ちなみに、明朝体は美容整形外科で使用されていました。デザイン書体は歯医者でした。それもお子様の治療を得意とする歯医者でした。うんうん、なんか、わかるような気がする。

2)旅行関係

旅行会社やJR、私鉄などの旅行ツアー企画のポスターもたくさん目にしますよね。この業種のポスターにおいては、明朝体が好まれる傾向がありました。半数ぐらいが明朝体中心で組まれてました。残りはデザイン書体も多く見られました。

そして、縦書きまたは縦横混在を利用するケースは、この業種が一番多かったです。

そっか、日本語の文化はゴシック体というよりも明朝体ですね。ポスターや看板で、明朝体で縦組みのケースは、旅行関係や演劇、歴史展とかで多く見られました。

3)金融

銀行や消費者金融のポスターも多く見かけました。金融系はゴシック体が7割ぐらいでした。視認性が高く、あまり癖がない書体(嫌われない書体)が良いのでしょうね…。ゴシック体でウエイトがしっかりした書体が多かったような気がします。

みなさんも、知らず知らずと、書体を選定しています。たとえば、プレゼンテーション資料やビジネス文書を作成する場合、ゴシック体を使用することが多いですよね。そして、その多くは横書きです。

一方で、年賀状の住所の宛名書きには、明朝体、毛筆体、楷書体で縦書きで組むことが多いのではないでしょうか? 

ターミナル駅で今日、発見した素敵なポスターや看板は、みなさんに振り向いてもらうために、その広告に相応しい書体を選定し、意図をもって文字を組んでいるんだなぁと感じた一日でした。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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編集後記(10/27)

●だいぶ前のベストセラー、相場英雄「震える牛」を読んだ(2012、小学館)。優れたミステリーだが、謳い文句の「平成版『砂の器』」は意味不明である。近作の「ガラパゴス」は「平成版『蟹工船』」だという。変な売り方をするもんだ。主役は警視庁捜査一課継続捜査班に属する田川信一(47)、担当するのは迷宮入り濃厚な目立たない未解決事件ばかりで、この度は「中野駅前居酒屋強盗殺人事件」を押しつけられる。彼の地道な捜査のようすと、捜査線上にあがった人物が属する大手スーパーと悪辣な精肉卸業者の行状、暴力団員や腐った警察の利権構造などが並行して描かれて、非常にスリリングであった。

事件の謎解きだけでなく、地方都市の衰退の真の理由や企業のモラルの低下なども説かれており、ミステリーの枠を超えた社会的問題提起の小説であった。タイトルの「震える牛」とはBSEの兆候が現れた牛のことだった。事件は解決するが、田川にとっては苦い終わり方になる。この物語の中で、女性記者・鶴田が、これから調査しようと思っていた疑惑の会社の、元工場生産管理課長・小松の告発を聞くシーンがある。ここでおそろしい話が出てきた。二人は居酒屋に入り、鶴田がハンバーグとソーセージ、海鮮サラダ、焼きおにぎりをオーダーする。小松は皿に盛られたハンバーグとソーセージを頑として口にしない。

それは件の会社の製品だった。老廃牛のクズ肉、内臓、血液、つなぎのタマネギ類と代用肉(食用油を抽出したあとの脱脂大豆を原料にした肉のようなシロモノ)を、その会社が開発した特殊なブレンダーで混ぜ合わせ、各種の食品添加物をぶちこんで作られたのが、目の前にあるハンバーグだった。「私や同僚は絶対に自社製品は一切食べません」という。クズ肉に大量の添加物を入れ、なおかつ水で容量を増すから〈雑巾〉と呼んでいるらしい。老廃牛の皮や内臓から抽出したたんぱく加水分解物でそれらしい味を演出し、さらに牛脂を添加して旨味を演出し、一応ビーフ100%らしい食べ物になっているのだという。

これはフィクションであるが、多かれ少なかれ食品加工の現場はこんなものらしい。世界チェーンのファストフードも基本的な仕組みは一緒で、大量仕入れで世界中から老廃牛のクズ肉を集め、そこに添加物を混ぜ込む。刺激の強い調味料で肉本来の味なんてわかりっこない。食品と称する工業製品が売られているのだ。もはや、添加物なしの食生活は絶対に無理だから、中身を知りリスクが高そうなものを避ける知恵を持て、と小松は言うがそりゃ無理でしょう。せいぜい「国産しか買わない」「安すぎるものは買わない」という決意くらいだ。そういえば、映画「アメリカンバーガー」は本物の肉100%だったな。 (柴田)

相場英雄「震える牛」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093863199/dgcrcom-22/



●関口さん、ありがとうございます〜!/「震える牛」はWOWOWドラマで見た。

友人は原産・生産国のチェックが厳しい。いくつかの国のものは口にしない。加工食品でも不安なものは買わない。

たとえばおかき。もち米の原産地を見る。別の国と国産が併記されている。そもそも割合だってわからないと言い張る。そして、メーカー名を挙げて、そこは国産米しか使っていないと教えてくれる。

国産と書かれてあっても油断ならない。商品によっては、原料は海外品でも、国内で加工したら国産になる。ウナギの稚魚を輸入して、国内で育てたら国産。梅だって海外産が少なくない。国内生産が少ないはずなのに出回っているものは輸入品だろうと推測する。

メーカー品でも安すぎるものはおかしいと言う。同じメーカーでも、ラインナップで海外産と国内産があって驚いたことがある。全国チェーンのショップ名(ブランド)で売っているOEM製品によっては、パッケージに何も書かれていないものもある。

彼女は慰安旅行でいろんな国に行っているし、お土産をもらってヒドいのも食べているから考えるところが多いんだろう。生協を使っていて、偽装問題はあったが、まず信頼できると言う。

彼女からいろいろ学んだ。私の場合、海外旅行に行くとタフになれる気がする。たとえばキャベツ。多少痛み始めても、中国旅行に行った時に入ったレストランの衛生状況や、食べたアレコレを思い出す。もっとひどいもの食べていたはずだ。食中毒の心配はないだろうと結論を下す。火は念入りに通すけど。 (hammer.mule)

連続ドラマW「震える牛」|WOWOWオンライン
http://www.wowow.co.jp/dramaw/furueruushi/


加工食品の生産地に関わるその他の表示ルール
http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201509_07.pdf


国産うなぎの定義ってなに? 輸入しても国産表示の謎!
http://www.shend-trend.com/post-805/


ウナギ稚魚輸入、香港が抜け穴に 資源管理協議に参加せず
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23H4S_T20C16A4000000/