Otaku ワールドへようこそ![244]薔薇のような百合のような ─ 戯れあう日泰セーラー服おじさん
── GrowHair ──

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●出発直前まで逡巡した末のA面

一か月間は喪に服しておるべし、と政府からお触れが出ている。外国人が観光で入国するのは歓迎するし、黒を着用する必要はないという。ただし、ちゃんとした格好をしてほしい、とも。

私にとってセーラー服はちゃんとした格好である。なにしろ制服なんだから。フォーマルである。トレードマークである。まじめにやっておるのだ。

と、私がいくら主張しても、人々がそうはみてくれないかもしれない。こういう空気に包まれているときに、なにをふざけてやがる、不謹慎だろ、と怒りに火をつけてしまいかねない。

騒ぎになってはよろしくない。こっそり誰かが写真を撮ってSNSにアップして、ネットで大炎上とか。実際、赤いシャツを着て食堂でかゆを食べていたタイ人がそんな目にあっていて、最後には本人が出てきて謝罪してるしなぁ。

もっと悪ければ、国際問題に発展しかねない。タイには不敬罪というのがあって、外国人にも適用される。けっこう重いんじゃなかったっけ。




当局に拘束されちゃったりなんかした日にゃ、外務省のお偉いさんが出てきて、「ウチの馬鹿がやらかしまして、どうもすみません。二度と国から出られないようにしときますんで、どうか今回ばかりは大目にみて、身柄を本国に送り返してくれませんか」みたいな交渉をするんだろうなぁ。

国内でも大きなニュースになっちゃうだろうなぁ。そうなったらオレの社会生活が立ちゆかなくなる。それはマズい。

しかしどうなんだろ。案外許されちゃって、まかり通っちゃうってことはないだろうか。で、そのあたりの空気はどうなのかと、現地在住のタイ人二人に聞いてみたところ、二人とも心配だという。見逃してもらえず、罵詈雑言浴びせかけられるぞ、と。

ううむ、現地の人がそう言うんじゃ、しかたない。今回はB面で行くことにするよ。と、一旦は決めたのであった。

出発前日の10月20日(木)の夜、スーツケースに荷物を詰め込んでいて、意外と面倒くさいことに気がついた。

B面でスクールバッグはおかしいから、スーツケースに入れるだろ。手荷物用に別のバッグが要るだろ。靴まで入れていくのか。けっこうな荷物になるじゃないか。今までそれだけラクしてきたってことなんだけどね。

そこまでがんばった末に、得られるのは、現地の空気に溶け込める目立たなさだけ、って、報いがなさすぎじゃないかい? アイデンティティまで引っ込めちゃったら、おもしろみまで消えちゃわないか?

セーラー服おじさんが行くのと、ただのおっさんが行くのでは、意味が違ってくるんじゃないか? B面だったら、そもそも行く意味なくないか?

どっかの国の選挙みたく、ずっと劣勢のようにみえてた陣営が、土壇場で勢いづいてきた。ええい、ままよ、A面で行っちゃえ!

三角スカーフは黒、靴下はワンポイント柄のない無地の濃紺、眼鏡はB面用の金属フレームのやつ、ヒゲは三つ編みにするけど、小さい輪ゴムで留めるだけで、リボンはなし。

これくらいで、いちおう喪に服しているという記号を示しておけば、許してくれるんじゃあるまいか。てか、お願い、許して!

●ほぼ全員が黒を着ている

プミポン国王が逝去されたのは、10月13日(木)のことである。ひよ子さんと私がバンコク入りしたのは、21日(金)。11:05羽田発のANAの便に乗り、15:40にスワンナプーム国際空港に到着している。

搭乗口前の液晶ディスプレイはすべて、プミポン国王の肖像のモノクロ静止画になっていた。入国審査の外国人列に並ぶ人々の9割は黒をまとっていた。

街中や地下鉄の車内で見かける人々は99%がモノトーンの服を着ている。たいていは、上下、黒。上だけ黒で下はブルーのジーパンという人はけっこういた。間に合わせで、グレーだったり、薄い水色だったりする人もいたが、概して、地味。大声で話したり笑ったりする人はほとんどいなくて、空気が重い。

100人に一人ぐらい、まったく無頓着な人もいる。南国なだけに、ふだんの格好はやたらとカラフルで、やけに目立つ。外国人なのだろうか。自宅近くの裏路地で遊んでいる子供などは、ふつうにカラフルだった。

空港、デパート、ホテルなどの入り口前には、プミポン国王の非常に大きなモノクロの肖像写真が掲げられ、劇場の幕のような大きく丈夫な黒と白の布で縁取られていた。マンションの入り口などにも、それほど大きくはないが肖像が掲げられていた。

日本人を主たるターゲットにする夜の歓楽街、パッポン通りでは、ゴーゴーバーなどのお店がふつうに営業していた。女の子の衣装が普段白なのが黒に切り替わっているだけという不真面目な自粛モード。タイ、たくましい。

われわれの滞在中、調査でプーケットへ行っていてお会いできなかったN島氏によると、ビーチのギャルは黒いビキニを着用するわけでもなく、街には音楽が大音響でかかり、いつもと大差なかったとのこと。いったい何を調査しに行ってたんだか。

プミポン国王逝去後、最初の週末にバンコクを訪れたという法政大学の浅見靖仁教授が、ハフィントン・ポストのインタビューに答えて現地の状況を伝えているが、適確な描写だと思う。

投稿: 2016年10月22日 11時14分 JST
更新: 2016年10月22日 14時10分 JST
The Huffington Post
プミポン国王死去、後継濃厚な皇太子はどんな人か 浅見靖仁教授にタイ情勢を聞く 中野渉
http://www.huffingtonpost.jp/2016/10/17/pro-asami-about-thailand_n_12521308.html


●許してもらえた……のか?

おそるおそるバンコク入りした私だが、A面で公の場を歩くのは、アウトだったのか、セーフだったのか。

入国審査は、拘束されそうな気配もなく、するっと通過できて、何の問題もなかった。電車に乗ったり街を歩いたりしても、非難してくる人はいなかった。

なんというか、真面目な態度で着て歩いていたので、許してもらえていたのかもしれない。あるいは、外国人だからってことで、「しょうがないなぁ」と大目にみてもらえたのかもしれない。

「一緒に写真を撮らせてください」と声を掛けてくる人は、去年よりも圧倒的に少なかった。ふざけるのは控えるべし、というムードがあった。

黒を着てさえいれば、何でもいいってわけではないらしい。私の帰国後、黒基調ながら、スーパーマンとバットマンのコスプレをしたタイ人二人が王宮前広場に現れたそうで、写真がネットで晒され、炎上していたそうである。

さすがに王宮前は空気が違うようだ。あぶねぇ、あぶねぇ。行かなくてよかったぁ。

●ミッションは、タイのセーラー服おじさんと写真を撮ること

渡航目的は、前回書いたとおりである。
https://bn.dgcr.com/archives/20161021140100.html


軽くおさらいしておくと、タイに現れたセーラー服おじさんに会って、一緒に写真を撮ってくること。この人物のことは、9月10日(土)のRocketNews24の記事で知った。
http://rocketnews24.com/2016/09/10/798392/


今年の7月1日(金)にオープンしたばかりの、コスプレ専用の写真撮影スタジオ「COSPRIZE」で10月23日(日)に撮影させていただける話になっている。

COSPRIZEのCEOである滋野真琴さんのご厚意の賜物である。滋野さんは、コスプレ雑誌「COSPLAY MODE」タイ版の編集長でもある。

去年の11月に行ったときにもたいへんお世話になっているのだが、今回もまた、途方もなくご親切に甘え倒すことになる。

●イベント延期、代わりにマッサージへ

10月22日(土)、23日(日)にBTSスカイトレインのサイアム駅の北側にある巨大ショッピングモール「サイアム・パラゴン」の5階にある「ロイヤル・パラゴン・ホール」で開催されることになっていた、漫画・アニメ系のイベント「C3 in Bangkok 2015」は、渡航前から延期が決まっていた。
http://c3bkk.com/


見に行く予定にしていた22日(土)が丸々空いてしまった。滋野さんに案内していただき、BTS スカイトレインのスクンビット線シーロム駅近くにあるマッサージ店へ。

たっぷり2時間、揉んでもらう。たいへんよかったが、ひとつ問題が起きた。外した腕時計がどっか行っちゃって、出てこないのである。

最初、着替えて、脱いだ服を、床に置いてあるかごに入れた。その後、お店の人が、かごをベッドの下へ押し込んだ。その後、腕時計を外した。暗くてよく分からなかったが、だいたいこの辺だろうというところへ置いた。

終わった後、なくなっている。ベッドの下を見ても、何もない。ベッドの下から運び出したものがあれば、その中に紛れ込んでるはずだと、お店の人にもずいぶん探してもらったが、出てこない。あきらめる。

いや、きっと後になって、ひょんなところから出てくるんだろうな、とは思っていた。そのときは滋野さんに連絡をくださいと言い残してきた。

帰国してから、滋野さんから連絡が来た。見つかった、と。どこから? 枕の中。わははー。そういうことか。手探りで押し込んだのが、そこだったわけだ。

やはり帰国してからだが、面識のないN成さんという方からメールが来た。「NNA ASIA(アジア経済ニュース)」の記者で、以前、滋野さんにインタビューして記事を書いたことがあるという。

NNA ASIA アジア経済ニュース
【アジアで会う】滋野真琴さん オリノスBKK代表:第84回コスプレで草の根クールジャパン(タイ)
http://www.news.nna.jp/articles/show/8614


マッサージ店で、滋野さんと私の姿を見かけたが、声を掛けそびれたという。用件は、私のことも、記事にしたい、と。ただし、服喪期間が明けてから、12月くらいに。おお、ありがとうございます。

聞いてみると、N成さんは、12月に東京に来る用事があるという。なら、私の腕時計を持ってきてくれませんか、とお願いして承諾していただけた。

安物すぎて郵送代をかける価値もないものなので、困っていたのだが、偶然の働きにより、戻ってくることになった。ラッキーである。

●メイド喫茶とアニメイトへ

マッサージの後、ひよ子さん、滋野さんと三人でBTSスカイトレインのスクンビット線とシーロム線とを乗り継ぎ、終点のナショナル・スタジアム駅で降りると、「マーブンクロン(MBK)センター」の2階に直結している。

7階にメイド喫茶「めいどりーみん タイランドMBK店」が入っている。去年の11月、店長である上田氏のご厚意により、売れ残りのポスターを販売する場を急遽提供していただけたお店である。

ごあいさつしに行った。C3の関係者も交えて、軽くお話しした。KokoPandaさんは、今もお店に在籍してはいるが、この日は出勤日ではないという。

前に来たとき、同じフロアーに「アニメイト」がオープンする予定になっていることを聞いた。帰国してから、正式発表になり、ニュースで見た。そっちにも行ってみる。

アニメイトバンコクの店長、O谷氏とごあいさつ。お店の前でハロウィーンパーティーを開催しようと企画していて、汗だくになりながら飾りつけをして、やっと終わったというタイミングで国王逝去のニュースが入ってきたという。

ハロウィーンパーティーは中止が決まり、泣く泣く飾りつけを取り外し、片づけたという。また、2〜3日はお客さんがあんまり来なくて、店員のほうが多いほどだったという。

MBKセンターの2階の一番奥からは、デュシタニ系列のパトゥムワン・プリンセスホテルに直結している。私はそこに宿泊している。滋野さんとひよ子さんを見送り、27階へ。

●豪華なつくりの駅のホーム下にコスプレ写真撮影スタジオ

コスプレ専用の写真撮影スタジオ「COSPRIZE」のあるマッカサン駅は、パヤータイ駅とスワンナプーム国際空港とを結ぶ高架鉄道「エアポート・レール・リンク(ARL)」の途中駅である。この路線の特急列車は、マッカサンが始発駅で、途中駅はすべて通過していく。

また、ARLに沿って地べたをのろのろ走る国鉄のマッカサン駅もある。

駅前には巨大なショッピングモールがいくつも建ち、周辺には30階ほどの高層マンションがにょきにょき生えている、洗練されたピッカピカの未来都市……に、今にもなりそうな気配を見せつつ、実際には何もない。もう何年もそんな状態らしい。ちょっと昼飯を食いに行こうにも、たいへん困る。

ARLマッカサン駅は、空港の出発ロビーのような豪華な構造になっている。プラットホームは4階にある。エスカレータでひとつ降りた3階には改札口があり、それ以外は、がっらーーーんと広い空間が広がっている。車は螺旋の坂を上がってきて、3階に横付けできる。

ちょっとした飲み物の売店があり、喫茶店もいちおうあるが、余っている空間の広さからすると、申し訳程度という感じが否めない。午前中は開店しないし、開店しても、食べ物はろくなものを置いてない。賞味期限が1年ぐらいありそうなスナック菓子とか。

2階はもっと何もなく、1階はさらに何もない。1階は、いちおうバスターミナルになってはいるのだが、のどかな空気が漂っている。ペッチャブリー駅との間で乗り換える人たちは、2階から伸びている歩道を使うので、1階は人がめったに通らないのだ。

ARLの特急列車は、各駅停車と同じ軌道を走るのだが、まるで別路線のような扱いで、改札口が別になっている。マッカサン駅では、ホームの中ほどに立てられた仕切りで前後に分断され、停車位置が前後にずれる。なので、この駅は縦に長〜いのである。西武池袋駅や京成線成田空港駅がこの構造だ。

COSPRIZEは、でーっと広い3階フロアーの一番奥にある。(改札口の外ではあるけれど)駅ナカにコスプレ撮影スタジオという唐突感がたまらない。コンビニもレストランも飲み屋も本屋もレコード屋もなくて、コスプレスタジオですかい?

撮影スペースはうまく仕切られていて、多様な背景を提供してくれる。学校の教室、和室、庭園、古めかしい洋風の書斎、宇宙ステーション、白ホリなど。

●屋台で昼飯

Toffie氏とArt氏は、11:00amごろスタジオに到着すると、あらかじめ知らせてきていた。

私は、ナショナル・スタジアム駅からBTSスカイトレインのシーロム線に乗り、サイアム駅でスクンビット線に乗り換え、アソーク駅で降り、スクンビット駅でMRTに乗り、ペッチャブリー駅で降りた。

前日に買った腕時計がきっちり30分進んでいるのにだまされていた。9:40amごろCOSPRIZEに到着すると、滋野さんはまだ来てなく、従業員が二人、掃除していた。じゃ、ちょっとそこらで腹ごしらえしてこよう。

エアポートレールリンクのマッカサン駅の改札階を歩いていると、見知らぬ人たちがどんどん話しかけてくる。「コスプレスタジオはあっちですよ」と。あ、ありがとう。

私の姿から目的地が推測できちゃって、それは当たってるし、わざわざ教えてくれる親切心が非常にありがたい。けど、けど、それは分かってるんです。この近くに食事ができるとこってありませんかね? 地下鉄の駅からここまで歩いてくる限りにおいては、これといったところが見当たらなかったんですが。

ないこともないけど、ちょっとややこしくて英語では伝えきれないね、とか。いいよいいよ、じゃ、自分で見つけます。

地下鉄の駅との間には大きな十字路があって、どっちの道も車の交通量が非常に多い。さて、東西南北、どっちへ行ってみよう。結局、行っては戻り、行っては戻りしても、どっちにも何もない。

夜だけやってるビアガーデンみたいなのはあって、門が空いているのだが、入っても営業はしてなく、人がまばらに休憩しているだけ。

十字路からちょっと行ったところの歩道上に屋台がひとつ出ていて、チャーハンを作って出している。男性が野菜を包丁でトントンと切っていて、娘さんと思しき若い女性が手伝っている。

屋台の脇にはテーブルが4つ。それぞれに丸椅子4つと卓上スパイス3種類。テーブルは鉄筋コンクリートの古い建物の前に出ているのだが、シャッターが閉まっていて、何年も開けられてないであろうとみえる。

上の階は住宅。2階のベランダが張り出していて、雨よけになっているが、縁から水が垂れている。天気いいのに。

注文のしかたがよく分からん。おっちゃんに英語で話しかけても、答えてくれない。後から来た人が丸椅子に座ると、女の子が注文を取りに行った。なんだ、そうするのか。私も空いたとこに座ってみる。けど、こっちへは来てくれない。なんだよー。

隣りのテーブルでは夫婦と思しき初老の二人が食べているが、旦那さんが英語で話しかけてきてくれた。状況を言うと、代わりに注文してきてくれた。40バーツ。台湾から来ているという。近くに住んでいて、ここへはよく食べに来るようだ。

不透明な円筒形の水タンク、周辺に小さい蛇口がついてなく、どうするのかと考え込んでいたら、娘さんが、上の蓋をパカッと取り外してくれた。

水の中に大きな四角い氷がふたつ。氷の周辺からプラスチックのコップで、直接すくって水をくむ。タイで生水飲んじゃいかんって誰か言ってたっけ?多少不安になったが、みんな飲んでるし、平気っしょ。……実際、どうってことなかった。

私のが来た。ざくざくした食感の野菜、うまい。けっこういいぞ、これ。若干、野菜が古くなったようなニオイがしないでもないが、まあ、暑いし、しかたないよね。

反対側の隣りの客が立ち去ると、スズメが7羽、さっと飛んできて、食べ残しをつついている。

帰り際、おっちゃんの姿はなく、娘さんに手を振ると、振り返してくれた。

●タイのセーラー服おじさんはB面で登場

10:30amごろスタジオに戻る。スカーフをえんじ色のに取替え、眼鏡を赤縁のに取り替え、靴下を履き替え、ヒゲにリボンを結ぶ。

11:00am過ぎに、Toffie氏とArt氏、到着。Toffie氏はB面で来た。ラフなTシャツだが、服喪期間であるから、色は黒。地味だ。

Toffie氏は、奥のほうでセーラー服に着替えたらしい。A面になって出てきて、鏡に向かい、自分で口紅を引いている。その姿は、まるで漫画に出てくるようなカマっぽさ丸出しだが、実際には、そういう趣味はないそうである。

ひとえに、エンターテインメント目的なんだそうで。ヒゲは、オレもそうだからともかく、すね毛も剃らないのか。

Toffie氏は27歳。5年前に大学を卒業した。今は、パソコンやモバイル機器のテクニカルサポートの仕事をしている。なんと、彼も理系なのか。

女装して出歩くようになったのは、2年ほど前から。以来、ほぼ毎週土日に女装して出かける。Art氏に撮ってもらったり、セルフィーで撮ったり。出没するのは、サイアムとか、シーロムとか、いろんなとこ。

以前はドレスが主だった。今年に入って、学生の制服を着るようになった。2年前以前にも、学園祭やパーティーの余興として女装することはあった。

人々の反応は、「かわいい!」とか「一緒に写真を撮らせてください」とか。それって、私がタイの街を歩いたときの反応と一緒だ。

女装する目的は、人々に楽しんでいただくこと。それが第一だけど、ぐるっと回って、自分に返ってくるものも大きい。

以前、自分はシャイで、引っ込み思案な性格だった。けど、ドレスアップすることによって、自信がつき、堂々と振舞えるようになった。そのあたりも、私と似てるなぁ。

女装なのにヒゲを残しているのは、それが自分のスタイルだから。ヒゲがあることによって、自分が成り立っている。なくなったら、自分ではなくなってしまう。

私のことを知ったのは、2〜3年前。フェイスブックに上がっている日本のセーラー服おじさんの写真を、友達が「見ろ」と言って、タグづけしてくれた。「なんかおもしろそうなやつ!! もっと知りたいぞ!!」と思ったそうである。

パンツは男性用を穿いている。ブラはつけてないし、つけたこともない。女性用の下着を着てみたいともまったく思わない。そういう趣味ではなく、エンターテインメントが狙いなので。なんと、変態ではなかった。そこは私とぜんぜん違う。

●撮影者のインスピレーションが冴えた

Art氏のほかに、撮影者がもう一人来てくれた。通称Aberabbit氏。二人は撮影慣れしている。それぞれの背景で、想像力をはたらかせて、女子高生二人がキャッキャウフフしているシチュエーションを考え、指示を飛ばしてくる。

脳内BGMはALI PROJECT『pastel pure』(アニメ『マリア様がみてる』のオープニング主題歌)。「タイが曲がってるわよ」(←マリみてネタ)。

至近距離で見詰め合うシーンでは、Toffie氏が笑いをこらえて肩をプルプル、口元をヒクヒクさせているのが、もうおかしくておかしくて、それにやられたオレのほうが先にぶっと吹いてしまう。

後でToffie氏に感想を聞くと「非常に楽しく、一緒に撮影している間、ずっとはしゃぎまくりでした」とのこと。

撮影は効率よく進み、1:30pmごろには帰っていった。Toffie氏、帰りはA面のまま行こうとするので、「ちょっと待った」。せめてスカーフは黒にしとけ、と予備に持ってきていたのを差し上げる。ついでに巻いてあげる。腐女子垂涎のシーン。

てかこれ、百合なんだか薔薇なんだか。

Art氏の撮影による写真
https://goo.gl/photos/PshYY5XTZs5D5x9p8


Aberabbit氏の撮影による写真
https://goo.gl/photos/eSBo1npMhjmSF5qC8


●列車を見て湧く強烈なノスタルジー

国鉄の電化されていない単線の線路が気持ちよくまっすぐに延びているのを歩道橋から眺めていると、足許から列車が出てきた。やたらと重そうなディーゼル機関車が6両ほどの客車を引いて、のろのろと走っている。

速度をいっそう緩めていき、ついには止まってしまった。よく見れば、そこが駅だった。地べたよりも少しだけ高い位置にコンクリートブロックが敷き詰められていて、白い破線が引かれている。屋根もなければ、電燈もない。

線路を隔てて建物があり、線路側と道路側に出入り口があるが、駅舎ではなく、飲み物の売店のようだ。営業している気配はないけど。線路には板も何も渡されていない。

線路幅といい、枕木の形状や間隔といい、それらのジョイントといい、線路どうしの継ぎ目といい、線路脇の機器や標識といい、見慣れた日本の国鉄・JR仕様だ。

電気にせよディーゼルにせよ、機関車が客車を引くタイプの列車は、日本ではすでに絶滅している。蒸気機関車が観光向けに季節運転したりはするけれど。日本で引退した客車がタイで余生を過ごしていたりするらしい。ぜひ乗っておかねばなるまい。

料金はかからないとか。いちおう運賃表というものはあって、近場だと2バーツとか3バーツとかで、10円程度に相当する額だが、徴収する気がないらしい。

スタジオでの撮影後、滋野さんの部下のK氏が同行してくれた。ホームで待つ人がいて、どこからか駅員さんが出てきた。ほどなく列車が進入してきた。一直線なのに、ディーゼル機関車は巨体を左右に揺すってのろのろと走る。引かれる4両の客車は比較的軽いのであまり揺れずにするするとついてくる。

意外と混んでいる。座席はすべて埋まり、立っている人もけっこういる。窓が開いている。線路脇に建物があると、エンジン音が反射してくる。距離や材質によって反射音が異なり、音楽を聴くような心地よさ。

小さいころ、中央線の急行アルプスの一部の列車は、非電化の小海線に乗り入れていたため、新宿駅からディーゼル車で、こんなふうだった。なつかしい。

信号所で貨物列車とすれ違い、そのすぐ先がクローン・タン駅だった。戻る列車まで1時間近くあったが、K氏に撮ってもらったりして過ごし、意外と退屈しなかった。
15:45 Makkasan - 15:52 Khlontan、国鉄東線 Kabin Buri行
16:42 Khlontan - 16:51 Makkasan、国鉄東線 Bangkok行

この駅はちゃんとしている。がっしりとした駅舎があり、切符売り場の窓口があり、改札口があり、時刻表が掲げられている。駅員さんの姿はなく、改札口は素通りできる。切符を売る気はないらしいが、列車の到着前にはどこからか姿を現す。

駅ナカには売店があり、飲み物や菓子類や雑誌などを売っている。列車到着の少し前までは、われわれ以外に待つ人はなく、どう見ても繁盛していない。犬が寝そべっている。

戻る列車もそれなりに混んでいて、立っている人もいたが、なぜか一席だけ空席があり、そこに座った。丸一日でも乗っていたい、名残惜しい気持ちを抱え、マッカサン駅で下車した。

K氏に撮っていただいた写真
https://goo.gl/photos/jKYcNjfgAf6JZYJi7


滋野真琴さんに撮っていただいた写真
https://goo.gl/photos/iCPMsecTRzbZR6ee6



【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。
http://www.growhair-jk.com/


◎ロシア人によるメイドカフェにネット民が反応

10月17日(月)、早稲田にロシア人によるメイドカフェ「ItaCafe」がオープンし、初日に行ってきたこと、前回報告した。このカフェのこと、「ITmedia ねとらぼ」からレポートが上がった。

ITmedia ねとらぼ 2016年10月26日 12時00分 更新
店長はロシア人の美人コスプレイヤー
本場のロシア料理が堪能できるメイド喫茶「ItaCafe」に行ってきたよー!
「ガルパン」のカチューシャのコスプレで知られるナスチャんさんのお店です。
[藍乃ゆめ,ねとらぼ]
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1610/26/news035.html


非常に丁寧にレポートしている。最後のほうで、ある一人のお客さんとして私が登場。ツイッターでエゴサしてみると、私の写真に反応しちゃった人、多数。

・セーラー服おじさんで吹いた
・唐突なセーラー服おじさんに吹いた
・サラッと出てくるセーラー服おじさん吹いた
・途中でまさかのセーラー服おじさん
・しれっと来店してるセーラー服おじさんに吹いたw
・脈絡なく差し込まれるセーラー服着てないセーラー服おじさんwww
・なんでセーラー服おじさんおんのwwwwwwww
・セーラー服でないセーラー服おじさんは、仙人の趣があるな。
・さらっとセーラー服おじさん出てくるのウケるし、私服姿だからただのコーヒー飲みにきたおじいちゃんにしか見えない
・セーラー服おじさんが私服でただのやさしそうなおじいさんになってる
・めっちゃ普通の、近所に住んでてよく挨拶してくれるいいおじちゃんみたいな感じで座ってて笑った
・あとセーラー服おじさんの私服姿が落ち着いた品のあるおじいさんみたい。
・セーラー服おじさんの落ち着いたファッションという言霊w
・セーラー服おじさんの長老具合
・セーラー服おじさんが店長みたいww
・ちょっとwwwwwセーラー服おじさんwwwwwなにしてはるんですかwwwww
・セーラー服おじさんが常にセーラー服着てる訳じゃなくて安心した
・あの人勤め人なのか…日本すごいな…
・セーラー服おじさん社会人なんだ?!
・セーラー服おじさんの私服姿最高やん。むしろそこがこの記事のメインコンテンツやん。
・セーラー服おじさんの私服がすべて持ってってるだろこれwwwww
・セーラー服おじさんwwwww普通の格好もするんだwwwww 普通に行ってみたい
・セーラー服おじさんの「普通の人」コスプレに違和感wwwww
・なんでセーラー服おじさんいるんだよwww 仕込みじゃねーかwww
・セーラー服着てないセーラー服おじさんってそれもうただのオッサンじゃん

〈一句〉

エゴサせど 俺が出て来ん ハロウィーン