[231] ここに精霊がいる

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《従来の操作方法でいいじゃない》

■羽化の作法[27]
 ここに精霊がいる
 武 盾一郎

■crossroads[35]
 未来の車の前に今やるべきこと
 若林健一




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■羽化の作法[27]
ここに精霊がいる

武 盾一郎
https://bn.dgcr.com/archives/20161115140200.html

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ラブホテルに暮らしながら一部屋を絵で埋め尽くす制作が終わってからも、新宿西口地下道段ボールハウス絵画制作は続いた。

僕らは丸腰で通行人に背中を向けて絵を描いている。なので突然誰かが襲撃してきたら防御できない。路上で描いていると、この恐怖が常にある。気を張った状態がずっと続くのだ。

とはいうものの、描き始めの頃に比べると怯えることはなくなった。今まで描いてきて、突然暴力を振るわれたことはなかったからだ。

近づいてくる人は、肯定的であれ否定的であれ、ちゃんと言葉でコミュニケーションをしてくる。また、たまに絵を見ながら踊り出す人もいた。絵にも音楽のような作用もあるようなのだ。

7月11日。
この日、不意に近づいてくる人がいた。

タケヲと僕は別々の場所で段ボールハウスに絵を描いていたのだが、タケヲの横にスッと近づいてきた男性がいたのだ。

その男はタケヲの横に来て一瞬かがみ、無言のままペンキ缶の横に「千円札」を置いた。タケヲが気が付いた時には、もう男は人混みの向こうに消えかかっていた。タケヲ曰く、肉体労働系の格好をした男の人だったと言う。

同じ日に、背広を着たサラリーマン風の人が話しかけて来た。彼は「なんでこんな暗い絵ばかり描くんだ? 仕事は何してるんだ? 生活費はどうやって稼いでるんだ?」と疑問を投げかけて去って行った。

このように賛否の両方の反応が一日の中で起こるので、内心は喜んだりムカついたり忙しいのだが、今思えばそれはとても幸福なことなのだ。

そして、通りすがりの人との会話がその後を決定付けることもある。

7月31日。
この日もふらりと現れて去って行った人がいた。

たったひとことふたこと交わしただけだったけど、この男性との会話がこれから先の自分の方向性を決定付けるのだ。

その男性は頭にバンダナを巻いたアウトドアな感じで、カメラマンだという。確かに野鳥とか撮ってるカメラマンらしい服装だった。

彼は僕にこう言った。「精霊を探して日本中を巡礼しているんです」

どうやら霊地の写真を撮っているらしい。そこでパッと思い付いたのは恐山とかだ。もちろん、そういう有名な霊地も巡って撮って来たそうだ。

新宿はただの通過地点だったようだが、西口地下道の絵が描かれた段ボール村に霊地と同じ何かを感じたと言う。

その時僕は、「自分が薄々感じてたけどくっきりと認識出来てなかったこと」を言い当てられたようにハッとした。

彼はしばらくの間、三脚を立てて絵が描かれた段ボールハウスを熱心に撮影していたが、いつの間にかいなくなっていた。

カメラマンは去ったが、ここに精霊たちがいるのだった。見えないけれど視えるのだ。

それから以降、僕はずっと「霊性を感じる」ことを軸に絵を描き続けることになって今に至るのだった。(つづく)


【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/アートで自立】

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アートラッシュ『カーニバル 〜カオスな夜〜』にて
2016年11月16日(水)〜12月5日(月)
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今回はこれまでの作品に加えて大作を展示します! 併せて、星野智幸コレクション全四巻の表紙の原画も4点展示販売します!

ガブリエルガブリエラTwitter
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13月世の物語・ガブリエルガブリエラ
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I・II巻9月下旬刊行、III・IV巻12月刊行予定!

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星野智幸コレクションIII リンク
http://www.jimbunshoin.co.jp/book/b226414.html


星野智幸コレクションIV フロウ
http://www.jimbunshoin.co.jp/book/b226417.html



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■crossroads[35]
未来の車の前に今やるべきこと

若林健一
https://bn.dgcr.com/archives/20161115140100.html

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こんにちは、若林です。

ここ数年来、問題視されている高齢者による交通事故、最近もそんなニュースを頻繁に見かけます。

高齢者運転でまた悲劇 「生活の足」…進まぬ免許返納
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161113-00000054-san-soci


問題が高齢者特有のものなのかどうかはよくわからないのですが、老若とは関係のない、最近の車のユーザーインターフェースの分かりにくさも、要因のひとつなのでは? と思うところがあり、その点について触れてみます。

●分かりにくい近頃のオートマティック車

よほどの車好きやこだわりのある方を除けば、ほとんどの方はオートマティック車に乗ってますよね。

現在市場に出回っている車のラインアップもオートマティックが基本ですし、マニュアル車を探す方が難しいぐらい。

従来のオートマティック車のシフトレバーは、奥から手前方向に向かって、次のような並び順で、モードを切り替えて操作するものがほとんど。

P:パーキング
R:バック
N:ニュートラル
D:ドライブ

最近の新しい車もこの並びは同じです。しかし、最近の車はこのシフト操作が直感的でなく、誤操作しやすいと感じています。

従来の(旧型の)車は、モードを変更した時、レバーが各モードの位置で止まるようになっていました。

一方で、最近の車はシフトレバーにゲーム機で使われるようないわゆる「ジョイスティック」型を採用しているものがあり、前後に倒してから手を放すと、元の位置(中央)に戻るようになっています。

従来の操作方法だとレバーの位置が動くので、モードを変えているという感覚があったのですが、「ジョイスティック」型ではそれを感じにくく、むしろ「後ろに動くためにレバーを前に操作する」「前に動くためにレバーを後ろに操作する」という、車の動きとレバーの動きの不一致に違和感を感じてしまいます。

「ジョイスティック」型であれば、車を前に動かす時にレバーを前に倒し、後ろに動かす時にレバーを後ろに倒す方が、よほど直観的ではなないでしょうか? 

言葉だけではなかなか伝わりにくいと思いますが、実際に操作してみるとその違和感は理解していただけると思います。

以前、車検の代車として利用した車がこの「ジョイスティック」型で、間違って前に飛び出してしまわないか、不安で何度も確認するほどでした。

これは、いわゆる「操作と動作の対応付け不一致」による、悪いユーザーインターフェースの一例であると思います。

●改善案

もちろん、従来と操作の方向が反対になることで混乱される方もいるでしょうし、前に倒せば前、後ろに倒せば後ろに動くというのが万人向けというわけでもありません。

むしろ、そういった対応付けに慣れているのは、ゲームで遊んだことのある比較的若い世代で、もしかすると年配の方にはかえって分かりにくいかもしれません。

このような状況に対応するひとつの案として「レバーの操作と動作の対応付けを設定で変更できるようにする」というものが考えられます。

車の中で、カーナビなどの機器の動作を設定することとはあっても、車そのものの動作を設定するという考え方はあまり聞いたことがありませんが、現在の車はほとんど電子制御となっていますので、技術的には難しくないはずです。

●新たな問題

設定できるようにすることで生まれる新たな問題もあります。それは、同じ車種でもオーナーによって設定が違う可能性がある。

車を借りて運転したら操作が違ってて混乱した、誤操作で事故してしまった、ということも起こりそうです。車を共有する家族の中で、好みの設定が違っていても不便ですね。

ではどうすればよいか? 個人ごとにキーを持つようにして、使うキーによって設定が変わるようにする、そもそも乗った時に毎回設定するようにする、どれもまだまだ新しい問題を生みそうで、100点満点は取れそうにないですね。

●どうしてそこまでして変えなければならないのか?

あれこれ考えて行くと、行き着く答えは「従来の操作方法でいいじゃない」ということになりそうです。

車メーカーもこの問題に気づいていないわけではないと思うのですが、車内部の制御が電子的に行われるようになったこと、電子制御の方が可動部分の多い機械式よりも故障率が下げられるというメリットがあるから、あえて変更しているのではないかと想像します。

今は、その過渡期なのですね。

●自動運転と並行して考えなければならないこと

車のIT化、進化は凄まじく、完全な自動運転も技術的には可能になってきていますし、完全な自動運転が実現されればレバーの動かし方なんて取るに足りない話。

しかし、自動運転をみんなが自由に利用できるようになるのはまだまだ先の話ですし、自動運転の前にソフトウェア的アプローチで対応すべき課題がたくさんありそうです。


【若林健一 / kwaka1208】
http://kwaka1208.net/aboutme/


CoderDojo奈良・生駒の開催予定
http://coderdojo-nara-ikoma.github.io/

奈良:調整中
生駒:12月3日(土)午後


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編集後記(11/15)

●映画「ジュマンジ」の10年ぶりの続編が「ザスーラ」である(2005、アメリカ)。これも川口市立図書館で見つけた。市内に10館ある図書館で、定期的にDVDの棚の入れ替えがあるらしい。時々覗くと新しいDVDがある。といっても古い映画ばかりだが、それが貴重だ。ベースとなるプロットは前作と同じで、舞台が宇宙空間に浮かぶ家の中。登場人物は兄弟、姉、宇宙飛行士、それから現実世界にいる父親、以上5人なんだから分かりやすい。映像はレトロだが、CGで違和感なく描けているのはすごい。ストーリーは「ジュマンジ」よりもわかりやすく、アメリカ映画の定番となっている〈家族の問題〉を描いている。

映画で見るアメリカの家族って、たいていは離婚か不和、きょうだいは不仲の関係で、その修復・再生を達成して、めでたしめでたしで終わるパターンが目立つ。ファミリー向けのお気楽コメディであるはず「ザスーラ」ですら、両親は離婚し、きょうだいは父親の家と母親の家を週毎に行き来するという変則家族である。舞台は父親の家。彼は仕事に抹殺されていて、二階の部屋で寝ている娘に、兄弟の世話を頼んで会社に行くのだが、娘は再び寝入ってしまう。一階の部屋では延々と続く兄弟げんか。兄は意地悪だし、弟は可愛げがないし、いいかげんウンザリしながら見ていたが、ゲーム盤「ザスーラ」の発見で一転。

ねじを回しスタートボタンを押すと数字が回転して止まり、その数字分だけ駒が自動的に進んで止まる。カードが吐き出される。そこには「流星群を回避しろ」と記されていた。天井を突き抜けて沢山の小さな流星が落下してきてリビングの床を貫通する。最後に大きな隕石が天井に大穴をあけると、外は満天の星空である。玄関を開けると、外は宇宙空間で土星が見える。ゲームを再開すると、カードの記載どおり次々と厄災が襲ってくるが、上がればリセットされることが分かる。ロボット、凶悪エイリアン、キーマンとなる宇宙飛行士なども登場するが、肝心なときも兄弟げんかが延々と続き、イライラさせられる。

やがて宇宙飛行士の正体がわかるが、このへんの意外性は子供には理解しずらいだろう。彼らの厄災への対処はなかなかスリリングで面白い。二階で寝ていた姉は、凍らされたり、宇宙飛行士に恋したり、ちょっとマヌケな役を笑顔なしで演じているのだが、どこかで見たようなかなりの美人である。エンドクレジットを見るとクリステン・スチュワートではないか。この3年後に「トワイライト」で大ブレイクする娘だ。兄弟はようやく本当に和解する。いい顔になっている。二人はなかなかの名演だった。この家族は再生できるのではないか、そういう期待を持たせる終わり方はアメリカ映画のお約束だ。 (柴田)

「ザスーラ」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00G7Z9SDM/dgcrcom-22/


「ジュマンジ」については
https://bn.dgcr.com/archives/20161102140000.html



●スマホ料金見直しの続き。まずはスピード。いくつかのネットメディアではテストをし、グラフ化していた。そこで優良だったUQがまず候補に挙がった。

検索してみたが、ユーザーの満足度は高い。他を渡り歩いている人ですら、UQは速いと伝えていた。話半分としても、いけるのではないか?

接続状況も同様。しかしこれは住んでいる地域で体感は違うだろう。都心部を離れたらドコモやドコモ系列のMVNOが強いはず。auを使った3年間で不便を感じたことはないので、私の行動範囲ではUQで問題なさそうだ。

緊急地震速報についてはとても不安だった。本気で乗換を考えたのは、ITmediaの記事「防災週間に『格安SIM』と『緊急地震速報』の関係を知ろう」が検索でひっかかったから。

「緊急地震速報では極めて限られた時間内に大量のスマートフォンに情報を届けなければならず、個別に通信を行っている暇はありません。そこで、宛先を指定せず、電波が届く範囲のスマートフォン全員に一斉に情報を送りつけるという特別な仕組みが用意されています。」

ただし「世界中で販売されるSIMロックフリースマホの中には、ETWS(Earthquake Tsunami Warning System:地震・津波警報システム)情報を表示する機能が搭載されていないものも含まれている」とのこと。

UQにMNPした後に起きた鳥取県中部地震では、大阪での震度3が通知された。 (hammer.mule)

防災週間に「格安SIM」と「緊急地震速報」の関係を知ろう
http://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1509/01/news077.html