ラブホテルに暮らしながら一部屋を絵で埋め尽くす制作が終わってからも、新宿西口地下道段ボールハウス絵画制作は続いた。
僕らは丸腰で通行人に背中を向けて絵を描いている。なので突然誰かが襲撃してきたら防御できない。路上で描いていると、この恐怖が常にある。気を張った状態がずっと続くのだ。
とはいうものの、描き始めの頃に比べると怯えることはなくなった。今まで描いてきて、突然暴力を振るわれたことはなかったからだ。
近づいてくる人は、肯定的であれ否定的であれ、ちゃんと言葉でコミュニケーションをしてくる。また、たまに絵を見ながら踊り出す人もいた。絵にも音楽のような作用もあるようなのだ。
7月11日。
この日、不意に近づいてくる人がいた。
タケヲと僕は別々の場所で段ボールハウスに絵を描いていたのだが、タケヲの横にスッと近づいてきた男性がいたのだ。
その男はタケヲの横に来て一瞬かがみ、無言のままペンキ缶の横に「千円札」を置いた。タケヲが気が付いた時には、もう男は人混みの向こうに消えかかっていた。タケヲ曰く、肉体労働系の格好をした男の人だったと言う。
同じ日に、背広を着たサラリーマン風の人が話しかけて来た。彼は「なんでこんな暗い絵ばかり描くんだ? 仕事は何してるんだ? 生活費はどうやって稼いでるんだ?」と疑問を投げかけて去って行った。
このように賛否の両方の反応が一日の中で起こるので、内心は喜んだりムカついたり忙しいのだが、今思えばそれはとても幸福なことなのだ。
そして、通りすがりの人との会話がその後を決定付けることもある。
7月31日。
この日もふらりと現れて去って行った人がいた。
たったひとことふたこと交わしただけだったけど、この男性との会話がこれから先の自分の方向性を決定付けるのだ。
その男性は頭にバンダナを巻いたアウトドアな感じで、カメラマンだという。確かに野鳥とか撮ってるカメラマンらしい服装だった。
彼は僕にこう言った。「精霊を探して日本中を巡礼しているんです」
どうやら霊地の写真を撮っているらしい。そこでパッと思い付いたのは恐山とかだ。もちろん、そういう有名な霊地も巡って撮って来たそうだ。
新宿はただの通過地点だったようだが、西口地下道の絵が描かれた段ボール村に霊地と同じ何かを感じたと言う。
その時僕は、「自分が薄々感じてたけどくっきりと認識出来てなかったこと」を言い当てられたようにハッとした。
彼はしばらくの間、三脚を立てて絵が描かれた段ボールハウスを熱心に撮影していたが、いつの間にかいなくなっていた。
カメラマンは去ったが、ここに精霊たちがいるのだった。見えないけれど視えるのだ。
それから以降、僕はずっと「霊性を感じる」ことを軸に絵を描き続けることになって今に至るのだった。(つづく)
【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/アートで自立】
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