わが逃走[193]構造美2016の巻/齋藤 浩

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みなさま、新年あけましておめでとうございます。

年賀状書いてたら年が明け、あわてて実家に帰って、戻ってきてまた続きを書き、やっと一息ついたら通常営業という、年賀状に縛られる正月がここ数年続いております。

こうならないよう早めに書きはじめようと誓うも、やはり年末というものはなにかと忙しい季節であり、そううまくいくもんじゃあない。

パソコン使ってこれだもの。昔はプリントゴッコや木版画でよくもまあ、あんなに気合いの入った刷り物を作ってたもんだなあとしみじみ思う自分に、グラフィックデザイナーとしてそんな気持ちでどうするよ! そうツッコミを入れる、もうひとりのワタシがいることはいるのですが。

正月くらい日頃の業務をリセットして、ゆっくり過ごすというヤツを一度でいいからしてみたいという夢、憧れは年々増す一方であります。

さて、年明けということで私のライフワークである写真『趣味の構造美』を一年分振り返る、なんてことをしてみようと思う。

『趣味の構造美』を簡単に説明すると、構造として機能している、もしくはしていた物件を散歩中に探し出し、思わずグッときたモノをイイ塩梅に写真として定着させたい! という、まったくもって曖昧な価値基準と美意識によるシリーズです。いいんです、趣味ですから。

さて、構造美フォルダを月ごとにわけてテキトーに開いてみましょう。




1月
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こんなのが入ってた。ホントに1月に撮ったかは不明。おそらくフィルムをスキャンしてますね。尾道だったかなー。まんなかの右側に小石がのっかっていますね。この石はどっから来たのか、などと考えてみるとけっこう楽しい。

2月
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これは外神田あたりだったような気がします。ちょっと前までビルだったところが、いつのまにか更地になってた。

今までヒトサマに見せなかった壁面があらわになってしまうことで、本人(?)は恥ずかしいかもしれないけど、こういう飾らないぶっきらぼうな感じはとても好み。

“必要だから”這わせた配管のラインもイイ味出してる。おそらく今はもう新しいビルが建っていて、この写真と同じ光で同じ壁はもう二度と見ることができない。

3月
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これは世田谷区瀬田あたりの美階段です。iPhoneで撮りましたよ、たしか。既成建材を使わないダイナミックな階段の迫力に、改めて惚れ込んだ次第。

建築のスクラップ&ビルドのサイクルと比べて、地面そのものの新陳代謝は比較的ゆるやかですが、大規模な再開発にかかれば周りの風景ごと一気にリセットされる危険性は常にはらんでいます。

そんなわけで、今、普通に見ることのできる風景を大切にしていきましょう。

4月
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桜の季節、緑道沿いを散歩したとき、風情のある階段を見つけたので上ってみると、見事な高低差を鑑賞できました。ちなみに桜の写真はみんなが撮ってたので、私はあえて撮らんかったのです。

5月
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連休に盛岡へ行ってきました。初盛岡でしたが、その文化都市っぷりにすっかり魅了されちまったオレであります。風景を見るだけで歴史的背景が想像できる。これってスゴイことですよ。

写真は岩手県公会堂の裏側の地下へと通ずる階段に沿った配管。スクラッチタイルとの対比が実にツボでありました。

6月
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信州は上田に行ったとき、たまたま渡った鉄橋の六角ボルト。この密集感がたまらん。そしてこの陰影。

ボルトをナットで締めるという、誰でも経験したことのある行為の積み重ねでこの巨大な構造体が支えられてている、そう思うと人の力ってすごいなあと素直に思う今日この頃。

7月
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ウチは集合住宅なんだけど3階と4階と屋上に庭がある。これは3階から4階へと続く、ブドウがからまった階段。金属の表面もイイ感じに味わいが出てきた。ちなみにこのブドウはとても食えん。観賞用です。

8月
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取材でうかがった某酒造メーカーのホース。

ホースの巻きっぷりというのは以前から興味があり、整理整頓したり放置したりするにも、一種の地域性のようなものを感じている。栃木の巻きっぷりはかなり好みだ。

9月
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この日も栃木へ。途中、重要文化財クラスの自転車屋さんを発見、しかも現役。オヤジさんに頼んで店先を撮らせていただいた。

10月
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月末に沖縄へ。那覇は人が多いのでいつも素通りしていたが、実は興味深い物件の宝庫だった。写真は農連市場。戦後の復興を食で支えた生き証人が、しずかに再開発の波にのまれてゆく。

11月
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タイポグラフィ。出張先の金沢で発見。今はPhotoshopのフィルタ機能で何でもできる時代だが、偶然性が生み出す本物の迫力にはとうてい及ばず。

12月
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石垣と配管。質感の対比とか、陰影とか、ものすごく好きな壁に出会うも、じっと見つめていると不審者と思われるので、シャッター切ってとっととその場を離れた。

こういうものは美術品でもなければ文化財でもない。じゃあ、なんなんだろうね。と自問自答しながら、こんどの旅にはどのレンズを連れていこうか、などと夢が膨らむ2017年の幕開けであった。

そんなわけで、今年もよろしくお願いします。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。