[4269] 1996年「世界都恥博覧会」と「新宿夏まつり」

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《アーロンチェアの上でも胡座》

■羽化の作法[31]
 1996年「世界都恥博覧会」と「新宿夏まつり」
 武 盾一郎

■crossroads[42]
 いま注目のプログラミングロボット
 若林健一

■はぐれDEATH[20]
 はぐれは胡座(あぐら)をかく
 藤原ヨウコウ

■イベント案内
 成安造形大学・卒業制作展&進級制作展2017





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■羽化の作法[31]
1996年「世界都恥博覧会」と「新宿夏まつり」

武 盾一郎
https://bn.dgcr.com/archives/20170124140400.html

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新宿地下道に突如出現した「突起物オブジェ」に対して、何かアクションはできないだろうか? タケヲと僕は考えた。

「突起物に顔を描くのはどうかな?」「突起物に何かを被せるとか?」「ハニワを被せるのはどうだろう」「一人だと寂しいから二人にするとか」「じゃあ、核家族の親子にしよっか」「ひとりっ子がいいね」「ハニワ親子が食卓を囲んで食事してる風景てのはどうかな」……という感じでイメージを連鎖させながら作品像を話し合った。

なぜハニワなのか、なぜ家族の食卓なのか、これといったコンセプトや意味があったワケではないのだが、潜在的に段ボール村に「家族」を感じていたのだろう。イメージラフはこんな感じだ。

https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1376923115685905



僕らの手法は「オートマティズム」で、コンセプトがあってから作品を作るのではなく、何かをきっかけにしてそこからイメージを増殖していくやり方を好んだ。

制作日記によると8月6日にはオブジェ作戦の準備を始めている。

●1996年8月11日(日)『路上ゲリライベント世界都恥博覧会』

突起物に対してアクションを起こしてるのは僕たちだけではなかった。野宿者支援活動をしてる稲葉剛さん( http://inabatsuyoshi.net/
)たちが中心となって野宿者排除の突起物に抗議する『世界都恥博覧会』という名前のイベントを企画した。

当時話題となった「東京都市博」をパロディにしたネーミングだ。場所は西口から都庁に抜けていく直線歩道、通称〈B通路〉、かつてズラーッと段ボールハウス長屋があった通路だ。

僕たちはそこでライブペインティングをすることにした。といっても、その頃はまだこれを「ライブペインティング」と呼ぶとも知らなかった。そこら辺にある段ボールをかき集め、路上に敷き詰めて即興でペンキで絵を描いてゆく。それが可能だったのは、オートマティックに絵を描いて来たからだろう。

ところで『世界都恥博覧会』の二日前、8月9日に酒井敦さんという写真・舞踏家の方が段ボール村にやって来た。日の出の森ゴミ処分場問題で反対運動が勃発し、そこにはアーティストたちも加わっている、という話を聞かせてくれた。

その時に『世界都恥博覧会』で路上ゲリライベントを11日にやるみたいだから、なんかする? みたいな話をした。

『世界都恥博覧会』当日。

僕らが敷き詰めて描いている段ボール路上絵に、独特な和風の衣装を身に纏った全身白塗りの酒井敦さんが踊りながら徐々に近づいてくる。

酒井さんの舞踏が僕らの描いてる段ボールの上に乗る。僕らは酒井さんの体に筆を走らせていく。すべて即興だ。

路上の脇には突起物が並び、それを打楽器にしてる人たちが増えていく。打楽器と掛け声のプリミティブな即興音楽、路上に敷き詰められた段ボールに描かれる絵、そして舞踏、渾然一体となった即興コラボレーションがしばらくのあいだ続いた。

迫川尚子さんの写真がある。

https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1424313277613555



この『世界都恥博覧会』の模様を稲葉剛さんは1996年9月10日発行の『Peace Net News』102号の連載〈TOKYO路上日記〉に書いている。稲葉さんのコラムから『世界都恥博覧会』について言及してる部分を抜粋しよう。

文章に記されている「Jさん」とは僕のことである。なぜ「Jさん」と伏字にな
ってるのかは、後ほどに書くとして、以下引用。


──「動く歩道」が完成した日、私は新宿の先輩たちと共に「十三億円おめでとう!」というささやかなパフォーマンスを行った。しかし、歩道のヨコにポコポコと現れた「突起物」に対しても何かした方が良かろうということになり、八月十一日に「世界都恥博覧会」(略して、とちはく)を企画した。

野宿者を排除するためだけにつくられた「突起物」は世界に冠たる都市の恥、というわけだ。「都恥博」には多くのミュージシャンや舞踏家、それにJさんたちが「突起物」のある路上に集まり、それぞれの表現実践をおこなった。音楽と舞踏と絵画の個性がぶつかりあって、路上にすごい空間が現出した(ちょっと言葉では説明できない)。──


この『世界都恥博覧会』のイベントでグチャグチャに描いた段ボール路上絵を通称〈インフォメ前〉に移動して敷いた。そこから絵を描き起こして完成させることにしたのだ。

床に敷かれた僕たちの絵はかなり広く地下広場を占拠していたが、なぜか誰からも文句言われなかった。

路上に敷いたまま帰宅して、次の日またその絵に手を加えていった。

路上に敷かれた絵をそのまま踏んづけて行っても構わなかった。それも絵のうちだった。また、ペンキが乾いてないところを踏んだ人が、地下道に足跡を付けていくのも僕らの絵のうちだった。

こうして床に敷いた絵を描いていると、この絵を『新宿夏まつり』のステージのバック絵にしよう、とことになり8月18日(日)のまつり当日に向けて完成させる、というスケージュールが決まった。

●ホームレスの人たちのためのお祭り『新宿夏まつり』

『新宿夏まつり』とは、先ほど行ったゲリライベント『世界都恥博覧会』とは違って、新宿中央公園でちゃんと場所を借りて開催されている、ホームレスの人たちのためのお祭りである。96年で3回目だそうだ。

1996年8月17日(土)『新宿夏まつり』の前日。

僕は、新宿西口地下広場、通称〈インフォメ前〉の床に段ボールを敷き詰めて「新宿夏祭り」のステージ絵を制作していた。一方、タケヲは家で突起物に被せるオブジェを作っていた。

通称〈インフォメ前〉は『新宿夏まつり』の前夜祭になっていた。多くのホームレスの人たちが集まって「カラオケ」をやっていた。僕はそのすぐ側で絵を描き続けている。

そこに、ボランティアをしていた「石川さん」が話しかけてきた。
「カラオケやってるので何か歌いませんか!」

彼女は多分まだ大学生で、絵を描いてる僕らにも積極的に話しかけてくる黒髪が綺麗な女の子だ。熱心に新宿西口地下道に足を運んできていた。

僕が「自分は野宿支援者ではない、ただ絵を描いてるだけなんだ」と言うと、「私も」という感じで、支援の炊き出しなども積極的に手伝っていたりしたけど、支援者クラスター化してない単独行動的な感じの人だった。

彼女からの突然の前夜祭カラオケ参加の誘いに、絵を描きながら「うん、まあ、いいんじゃない」と生返事をした。

「武さん、尾崎豊とか知ってますか?」
僕は絵を見ながら「うん。実は高校の時大好きだったんだよ」と答えた。それは若干黒歴史をカミングアウトする気分でもあった。

彼女はぴょんとどこかに飛んで行ったかと思うと、また僕のところに戻ってきて「尾崎豊のI LOVE YOU 入れときましたから!歌ってくださいね〜」と言う。

「ええっ!?」

カラオケからは演歌を気持ち良さそうに歌っているおっちゃんの声が流れている。新宿西口地下広場の通称〈インフォメ前〉に広々と敷かれたブルーシート。ホームレスの人やボランティアの人たちが大勢座っていてカラオケ大会に興じている。

通行人は野宿者の権利を訴える段ボールの立て看を眺めたり、無関心に通り過ぎたりしている。その横に段ボールを敷いて僕は絵を描いている。そして、その周りには「段ボールハウス」が建ち並んでいる。新宿西口地下広場は広い。

演歌が流れていてもなんとなく馴染んでるが、尾崎豊は明らかに場違いな気がした。

「おいおいおい、ちょっと待ってくれよ!」と言う気分だったが、尾崎豊の I LOVE YOU のイントロが流れてしまった。人の前に出て、もう歌うしかない。

僕は尾崎豊の I LOVE YOU をあらん限りの力を込めて熱唱した。目を瞑って歌詞の世界に入り込み、全身全霊でマイクを握りしめた。

歌い終わって一礼すると、僕は下を向いたまま一直線に絵の方に戻り絵の続きを描いた。

そして、『新宿夏まつり』当日。

僕は新宿中央公園に出向き夏まつりを堪能した。僕らの絵が祭りの象徴としてステージの後ろにデカデカと掲げられている。ちょっとくすぐったいけど嬉しかった。一方タケヲは昨日と同様、家でハニワオブジェを作っていた。(つづく)


【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/量子哲学勉強中】
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『ネズミに恋したネコのタムちゃん』が組曲に!!

2017年4月9日(日)大宮ギャラリーゼフィールで『聴く展覧会・観る音楽会・
仔猫の物語』を開催します。『ネズミに恋したネコのタムちゃん』組曲をフルート・ピアノ・ヴァイオリンアンサンブルで演奏。詳細は決定次第告知いたします!

とあるプロジェクトの新作線譜を制作しております。こちらも詳細が決まったらどんどんお知らせします!

目指せジャケ買い!『星野智幸コレクション・全四巻』(人文書院)

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*13月世の物語*
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■crossroads[42]
いま注目のプログラミングロボット

若林健一
https://bn.dgcr.com/archives/20170124140300.html

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こんにちは、若林です。

昨年は多くのプログラミング学習用ロボットが発売され、価格も従来のものよりも手頃になったこともあって、ロボットを使ったプログラミングワークショップがあちこちで開催されるようになりました。

私もプライベートと仕事の両方で、これらのロボットに触れる機会があるのですが、最近特に注目している二つのプログラミングロボットについて紹介してみたいと思います。

●タブレットでプログラミングできるボール型ロボット

モーター、加速度、ジャイロなどのセンサーにLEDを内蔵した透明のボールロボットで、iOS/Android/Kindle Fireなどのタブレットやスマートフォンアプリで操作したり、プログラムを作って動かすことができます。

CoderDojoで扱う素材として、以前から関心を持ってはいたのですが、最近プログラミング教材としてよく使われているということを耳にして、私も買ってみました。

Sphero SPRK+
http://www.sphero.com/sprk-plus


タブレットやスマートフォンにアプリをインストールすると、Scratchのようなブロックを組み合わせるタイプのプログラミング環境が使え、内蔵のセンサーやモーターを制御して、ロボットに様々な動きを与えることができます。

標準で用意されているサンプルプログラムには、モーターを使って走らせるようなものはもちろん、センサーとLEDを使って、投げた瞬間受け取った瞬間だけ色が変わるボールにしたり、何度か投げ合ううちに爆発する爆弾ゲームにするなど、アイデアに富んだものも用意されています。

プログラムをどう作るか? ということ以前に、センサーやモーターを使って、どんなものを作るかどんな表現ができるかを考えるところが難しく、発想力、創造力が求められるデバイスだなという印象です。

●線でプログラミングするロボット

もうひとつ気になっているプログラミングロボットが "Ozobot Bit"。

こちらも各地でワークショップが開催されている人気のロボットで、最新のモデルではSphero SPRK+と同じようなブロック型のプログラミング環境でプログラムを作って制御することができます。

Ozobot Bit
http://ozobot.com/products/ozobot-bit


このロボットの特徴は、PCやタブレットで作ったプログラムを転送して制御できるだけでなく、紙に描いた線の色で動作を制御できるところです。

例えば、赤青青だったら「右に曲がる」という命令、というように線の色の並び順でロボットに対して動きを与えることができるのです。

これだけだと簡単そうに聞こえますが、実際にやってみると画面上でプログラムを作るよりも難しい。

うっかり線のパターンを書き間違えると、ロボットの動きが変わってしまい、動いた先には線がなく、続きの指示(プログラム)を読み取れないということになってしまうからです。

●論理的思考から創造力へ

それぞれできることや、動かし方がまったく異なるロボットですが、「どんな動きをさせるかを予め考える」ことが重要である、というところが共通しています。

画面上で動かすプログラムであれば、とりあえず何かプログラムを書いてみて、少しずつ変えていくような作り方でも進められますが、これらのロボットの場合は予め動きのイメージをしっかり作って、その動きをどうやってプログラムで表現するかを考えて進めなければ、思った通りの動作をさせるのは難しい。

「どんな動きをさせるかを予め考える」=「設計」の部分ができていないと、意図した通りの動作にならなかった時に、その原因がどこにあるのかがわからなくなってしまいます。

単にロジックを積み上げるだけの思考から、ゴールのイメージを作っておく創造力の部分が重要になってくるというわけです。

一見、おもちゃの延長に見えるようなロボットですが、舐めてかかるとはがゆい思いをさせられることになりそう。子どもたちの方が柔軟な発想力を持っているだけに、指導する大人の方が苦労させられるかもしれません。

自分も遅れをとらないように、しっかり勉強していくつもりです。


【若林健一 / kwaka1208】
http://kwaka1208.net/aboutme/


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http://coderdojo-nara-ikoma.github.io/


CoderDojo Japan公式ブック発売中!
Scratch(スクラッチ)でつくる! たのしむ! プログラミング道場
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■はぐれDEATH[20]
はぐれは胡座(あぐら)をかく

藤原ヨウコウ
https://bn.dgcr.com/archives/20170124140200.html

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ボクの普段の座り方のバリエーションは結構ある。胡座、正座、べべちゃんこ(女の子座り)、三角座り(体育座り)、結跏趺坐、ヤンキー座り等々。これらのどれかで普通に座るのだが、一番多いのは胡座(あぐら)であろう。椅子の上でも胡座。仕事中も胡座。とにかく胡座。さすがにそれなりの席ではきちんと正座しますが。

椅子の上で胡座、というのは妙に聞こえるかもしれないが、実際そうなってるのだから仕方がない。家にはハーマンミラーのアーロンチェアがあるのだが、この椅子でも胡座である。人間工学を完全に無視した座り方になってしまうので、椅子とデザインをした人には大変申し訳ないと思うのだが、ハタと気がつくと椅子の上で胡座をかいているのである。

胡座というのは上半身を強固に支える際、極めて有利である。座面の面積が広くなる上に関節への負担も少なく(個人差にもよる)長時間の作業にはうってつけである。ボクのように絵を描く仕事をする者には便利この上ない。そういえば、日本の伝統工芸の作業場でも胡座はよく目にするなぁ。多分、それなりに理に適っているのだろう。科学的根拠は皆無だが。

椅子の上での変な座り方と言えば、わざわざ正座をすることだろう。父方の祖母がそういう座り方をしていたので「お年寄りはそうなのかしらん?」とボケッと思っていたのだが、娘がこれをいつの間にかし始めたときにはびっくりした。娘に聞いたら「なんとなく」らしい。つまらん遺伝をしたもんだ。

椅子に座る生活習慣が生む最大の弱点は、股関節の可動域が少なくなることである。胡座を組めばすぐに分かると思うのだが、股間の内側の筋がかなり引っ張られる。この筋が硬いと胡座をかいた時の膝の位置が床から離れてしまい、長時間安定して座ることが出来なくなる。逆に膝の位置が低いと安定感が増して、長時間座ることが楽になる。

ちなみにべべちゃんこ(女の子座り)は、更に股関節の柔らかさが必要になる。大腿部の裏と下肢をひっつけて、足の裏全部だけで座るのである。本当か嘘かは知らないが、男性でこの座り方が出来る人は少ないらしい。ちなみにボクは余裕です。

胡座に関しては古今東西を問わない。エジプトのミイラが出土したときに、大腿骨が内にゆったりと湾曲していることから、胡座をかいて作業していたと推測されたそうだ。

うろ覚えなので正確かどうかは分からないが、筆記具も同時に発掘されたので、常時座り作業で筆記をしていた役人か、その類のモノと推測されているらしい。椅子という道具が発明されてから、この湾曲が徐々になくなっていく。もちろん、椅子のない地域や環境は除外である。

ちなみにボクの胡座は、赤ちゃんや猫にとっては極楽・安心らしい。もちろん、娘も乳児の時はボクの胡座でくーすか寝てた。しかも仕事中である。気色悪い絵を描いている時(骸骨とか蛾とか蜘蛛とか)に、ボクの胡座の中で赤ちゃんが機嫌よく寝ている風景というのも、なかなかシュールであろう。猫のももちも同様にくーすかである。どうやらはまり具合が絶妙らしい。

最初に気がついたのは、福山にいたとき飼っていた猫。中2の時にご近所さんから母がもらい受けて、生後まもなくの頃に来た。自分が稀代のネコたらしであることに気がついたのもこの子の時だ。

女の子だったのですぐに手なづけてしまったのだが、ボクが座るとぴょこぴょこ寄ってきて、胡座の中に潜り込んでくる。最初は「?」と思ったのだが、座る度に胡座の中にくるので、どうやらお気に入りの場所なのだろうと思った。

もっともこの子の場合は、とにかく引っ付きたがる。母から聞いた話なのだが、夜に変な唸り声がするので見に来たら、寝ているボクの首を横断するようにして、身体を伸ばしてぐっすり猫が寝ていたそうだ。

要するに、ボクはこいつの重みで窒息しかけてうなされていたのだ。ボクは寝ているときは微動だにしないそうだ。その代わりと言ってはなんだが、いびき、歯ぎしり、寝言がすごいらしい。殊に寝言に関しては、変な会話をよくするそうだ。

話が逸れた。娘は生まれて3か月ぐらいまで、お腹が一杯になるとボクの胡座の中で機嫌よく寝ていた。こうなるともうほとんどベビー・ベッドである。レンタルでちゃんとしたベビー・ベッドは借りていたのだが、とにかく娘は寝相が悪い。

奥さんに言わせると「お腹の中にいるときから」だそうだ。足癖の悪さはピカイチで、病院の新生児ベッドが並んでる部屋を眺めればすぐに娘がどこにいるか分かった。

娘だけ上掛けを足で蹴り出して、グチャグチャにしているのである。分かりやすいにも程がある。ベッドから蹴り出して、床に上掛けが落ちているのを見たときはある意味かなりショックだったのだが、まぁ仕方なかろう。生まれたばかりの子にしつけなど出来るわけがない。

娘の寝相に関してはちょっと逸話がある。娘は逆子で産まれたのだが、もちろん奥さんは逆子体操で通常の位置に戻そうと、それは一生懸命努力したのだ。出産予定があと二か月くらいに近づいた頃、ある日「ついにぐるっと回った」とドヤ顔で教えてくれた。

苦労していたのは見ていて知っていたので、ボクも諸手をあげて喜んだ。奥さんは自信満々で次の検診に臨んだのだが、結果を聞いて二人でがくっときた。本来なら水平軸に対して180度回るはずなのだが、垂直軸で180度回っただけだったのだ。どうやら子宮口の凹みにお尻をのせて落ち着いていたようだ。

足癖の悪さはお腹の中にいるときからのものらしく、逆子体操をし始めると中から蹴って抗議をしていたそうだ。どんだけ強情やねん。

とにかくお尻が落ち着かないことには安心出来ないらしい。これはただの推測だが、娘の寝相の悪さはお尻の安定感を欠いているところに遠因があるのではなかろうか。

ボクの胡座の中だと、もちろんお尻が落ち着くポイントは簡単に見つかるので、それほどごそごそしなかったし。周りがなんとなく囲まれているような感じがするのかもしれない。この辺は乳児に聞いても分からないし、今の娘に聞いてももちろん分からない。本人が憶えてるわけないからだ。

とにかく酷い寝相で、奥さんが朝目覚めたらお布団から遥か遠くでくーすか寝てるなど日常茶飯事だったようだ。こうなると下手に襖も開けられない。実際、玄関口のところまで転がっていって、あわや土間に落ちかけそうな所で寝ていたこともあるのだ。寝てるからといって安心して目を離せない子だったのだ。

この辺でやめておこう。娘が読んだら絶対に怒る……

ももちもやっぱり胡座の中に潜り込む口である。ちなみに中書島に来てから手なづけた野良の親子ネコも、最近そろって胡座の中に潜り込んでくる。潜り込むのはイイのだが、場所の取り合いで親子喧嘩をされるとかなり困る。とにかくお互いにベストな位置を確保しようとしているようだ。まぁ平和と言えば平和な光景なので黙って見ているが。

きゃつらの行動パターンを観察していると、どうやらボクが微動だにしないのが良いらしい。まぁ、胡座をかいてドタバタしろという方がどうかとは思うが。「動かない=安心」なのだろう。ことごとくくーすか無防備に寝よる。

で、こうした彼女たちの行動パターンをボクが嫌がるかというと、それはまったくの間違いである。むしろこっちもホッとするのだ。胡座の中で寝る子達を眺めたり感じたりするのは、本当に気持ちがいい。あたたかいし。

とにかくボクがほっこりリラックスしてしまうのだ。台座(ボクのコトだ)がリラックスすると、中に入る子達も安心する。安心して寝る子達を見てこっちも更にリラックスする。リラックスしすぎて下手をするとボクまで寝落ちしかねない。

つまらんネタかもしれないが、愚図る子を寝かしつける際には、こっちも本気で寝る気になって相手をしてやることである。もっともグズる原因がはっきりしている場合は、そっちを先に解決してしまう。お腹が減ってグズってるとか。

「眠たい波」が伝わると、赤ちゃんや猫はそっこーで寝る。更に突っ込むと、呼吸を合わせてやる。最初は赤ちゃんの呼吸に合わせておいて、段々こっちが呼吸をゆっくりさせていくのだ。大抵この手に引っ掛かってことんと寝る。もっとも自分も一緒に寝いってしまう可能性は大だ。実際ボクなど寝かしつけていて、いつの間にか寝落ちして、奥さんに起こされたことが度々ある。

ちなみにももちは最初から警戒心を抱いていないので、胡座の中だろうがボクの布団の中だろうが、ずんずん潜り込んできては寝る。ももちが一番分かりやすかったな。とにかくボクがじっとしていればくーすか寝るのだ。

ボクの胡座はそういったものらしい。ハタから見ればさぞや珍妙な風景だろうとは思うのだが、両方ともそれで満足しているのだ。むしろ胡座を奨励したいぐらいである。しないけど。

なぜなら、現代人にとって胡座という座り方はハードルが高いものになりつつあるからだ。これは生活習慣に寄るところが多いだろう。椅子の普及が胡座を排除しつつあるのは何となく理解できる。

そういえば、畳も最近はあんまり見なくなった。ちなみに上賀茂の家に一つしかない和室は娘が占領している。日本の座の文化を知らずに体現しているわけだが、ちょっと冷静になって考えると結構不思議である。

まぁ、普段からボクが椅子の上やベッドの上で胡座をかいているのを見ているので娘が「そんなもんか」と思い込んでいる可能性は高い。本当に油断も隙もないもんだ。そんな座り方をソファーでしていればももちは寄ってくるわ、となりで娘が三角座りして本を読んでるわ、とか妙なことになる。ソファーなくてもイイような気もするなぁ。

そういう意味では、生活習慣というのは恐ろしいもんだ。座り方一つでこれである。諸兄も、もしかしたら見直した方がイイ生活習慣があるかもしれない。


【フジワラヨウコウ/森山由海/藤原ヨウコウ】
YowKow Fujiwara/yoShimi moriyama
http://yowkow-yoshimi.tumblr.com/

http://blog.livedoor.jp/yowkow_yoshimi/


装画・挿絵で口に糊するエカキ。お仕事常時募集中。というか、くれっ!


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■イベント案内
成安造形大学・卒業制作展&進級制作展2017

https://bn.dgcr.com/archives/20170124140100.html

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成安造形大学・卒業制作展&進級制作展2017

まつむらまきお(デジクリ「ユーレカの日々」連載)が教えている、成安造形大学の卒業制作展&進級制作展のお知らせです。

まつむらが教えているイラストレーション領域では、「イラストレーションでできること」を探求すべく、雑誌や広告などをターゲットとしたメディアイラストから、マンガやアニメなどのストーリー表現、個性を追求するアート・イラスト、フィギュアやドールなどの立体造形まで、幅広く網羅しているのが特徴です。

もちろん、一線で活躍中のイラストレーターやマンガ家も多数輩出しています。デジクリ読者はデザイン業界の方がほとんどだと思います。ぜひとも、生きのいい才能をハンティングしに来てください。

会期:2017年1月25日(水)〜1月29日(日)9:00〜17:00 最終日は16:00まで
会場:京都市美術館 本館(京都市左京区岡崎円勝寺町)
市バス「京都会館美術館前」下車すぐ 地下鉄東西線「東山駅」下車徒歩10分

※ファッションショー、進級展の一部は別会場。Webでご確認ください。

成安造形大学 卒業制作展・進級制作展2017
http://exhibition.seian.ac.jp/2017/



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編集後記(01/24)

●島田雅彦「虚人の星」を読んだ(2015、講談社)。いや途中でやめた。7つの人格をもつ二重スパイと血筋だけが取り柄の三代目首相、一人称語り。面白そうだが、あまりにバカバカしいので投げ出した。2015年6月に北京で開かれた韓日中作家「第3回東アジア文学フォーラム」開幕合同記者会見で、「安倍は史上最悪の首相」と罵り、日中韓の関係も文学者の対話ならば和解の契機を得る事が出来ると空想するお方だ。島田は「本作は日本の現在の安全保障問題を解決するための『代案』を提出している。こちらの方が自民党の安保法案より百倍現実的である」という。多分お終いの凡庸な談話のことをいうのだろう。

途中は読まないが、最後の10ページは読んだ。総理が突然、談話を発表する。
テレビカメラはもちろん、フリーやネットメディアまでを集めて、たった一人の謀反を起こす。閣議決定でも、国家安全会議の決定でもなく、首相個人の意思の表明だ。自己を凡庸、思慮に欠ける人物、愚かであると知っている、という。安倍首相にみたてた人物にそう言わせて、島田は悦に入っている。「私たち誰もが、国家の取り決めよりも、自分の判断に忠実に行動する自由を持っている。私自身もこうして自由を行使し、国家の暴走を食いとめることにした」って、なんとまあ幼稚な思想であろう。ルールなき社会なんてあるものか。

「長い目で見れば中国とはギブ&テイクの関係を続けていくほかはない。中国がアジアの周辺諸国と平和的な関係を構築し、大国としての責任を果たすように助けるのが日本の役目だ」「領土問題については率直な意見交換を重ね、最良の形での結着をつける。尖閣諸島は、日中合意のもと、領有権問題を再度、棚上げする」「沖縄の米軍基地のグアム移転をすすめてゆく」「日中平和友好条約を安全保障上の連携にまで発展させる」って、もしかして中国でハニートラップに落ちたの(笑)「わたしは今一度、憲法に忠実に、不戦の誓いを立てることにした。それこそが戦争抑止の最も効果的な手段だと思うからだ」って。

これが「自民党の安保法案より百倍現実的である」と自信満々の中身? こんな陳腐なこと言って恥ずかしくない? 「いま権力の中枢に居座っているのは、72年前の敗戦を受け入れず、戦後の歩みを恥と考える右翼とアメリカに国益を譲り渡そうとする対米従属派たち」って。島田先生、ただの平凡な左翼じゃないの。ただの平凡な9条教信者じゃないの。最後の最後がひどい。「オレには心強い味方がついている。反戦デモに参加している国民も天皇陛下もスパイもオレを支持してくれるだろう」って。スパイはこの小説の登場人物だからいいが、天皇陛下をこんなプロパガンダ小説に引っぱりだすとは……。 (柴田)

島田雅彦「虚人の星」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/406219743X/dgcrcom-22/



●AED講習会続き。呼吸がない、または異常呼吸が見られたら、胸骨圧迫(人工呼吸)を実施。

倒れている人の横に、身体に対して垂直に、膝をつけ、腰を上げて座る。利き腕の掌を下向きにして指を広げる。もう片方の手を同じく掌を下向きにして重ね、それぞれ指と指の間に入れて握る。

圧迫する位置は、胸骨の下半分の位置。胸の真ん中あたり。脇に手を置き、スライドさせた位置。先に作った手の利き腕側(下側)の手首に近い部分(掌底)をあてがう。腕は伸ばし、体重が手に伝わるようにする。

1分間に100〜120回のペース、胸骨が5〜6cm沈み込むような力での圧迫を30回繰り返した後、呼気吹き込みを1秒×2回。ワンセット2分程度。これは血中酸素を巡らせるため。これを後で書くAEDと併用し、救急隊から指示があるまで続ける。

できないなら、無理にしなくてもOK。呼気吹き込みも感染防止具などがない場合や、不安な人は心臓圧迫だけでも。そして疲れたら他の人と交代するようにとのこと。続く。 (hammer.mule)

胸骨圧迫
http://www.city.ibara.okayama.jp/ibarasyoubou/kinkyu/cpr/4-6.html


胸骨圧迫
http://www.hokkaido.med.or.jp/firstaid/sosei/t005shinpai.html

小児、乳児へのやり方が説明されている