わが逃走[195]今年もやっぱり冬の尾道の巻/齋藤 浩

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年に一度は尾道に行かねば落ち着かない。

訪れる度、なつかしさをおぼえ、なんだかほっとする。

初めて訪ねてから、かれこれ四半世紀以上になるが、当時と変わらない雰囲気が魅力だ。

しかしここ10年で少しずつ、空き家が増え廃屋が増え、更地が増えた。

尾道の風景といえば、急な坂にぎっしりと立ち並ぶ家々と、それらをつなぐ路地だ。

傾斜地の場合、いちど更地になってしまうと、再びそこに家を建てるのはけっこうタイヘンと聞く。

観光客はその町並みに魅せられて訪れるのだから、なんとか歯止めをかけたいものだなあ。

心の故郷に対し、私にできることはなんだろう。

などとボーッと考えつつ「わが逃走」です。





前回(2015年12月)は、東久保町を中心に撮って写真集を作る! と心に決めて赴いたが、今回はとくに何も決めず、ふらっと旅立った。

無計画ならではの出会いというのはなかなか貴重で、数十回足を運んでいるにもかかわらず、気づかなかった風景をいくつも発見することができた。

とくに初日は雨が降ったり日が射したりが、繰り返しやってくる天気だったので、馴染みのある路地も、いつもと違って見えてシアワセ感倍増。

そのときの写真をいくつかご紹介したいと思います。

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ラーメン食べて店の外に出たら、雨があがっていた。青空と、青空が映り込むアスファルトの路面にしばし見とれるも、かつてここに商店や家々が立ち並んでいたことを思うと、心情的に微妙ではある(これのみカラー)。

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ちょっとした路地に入り込む。水たまりの上が青空というのは、パラレルワールドの入口っぽく感じるのは何故かなーって、ずっと考えていたのだが、これは押井守監督作品『ビューティフルドリーマー』の影響かもしれない。

いかにも裏路地といった風情はこのあたりでは当たり前だが、旅人からすればなつかしげであり、貴重な存在。

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南北にも東西にも高低差。ちょっと歩くだけで、屋根瓦が目の高さまで下りてくる。午後の陽射しが石垣を照らし、路面に映る。ちなみに夏は、このへんでよく猫に出会う。

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やや西に傾いた太陽が雨上がりの屋根瓦を照らす。坂の町では反射する陽の光と、瓦が乾いていくにおいが普通に味わえるのだ。なんたる贅沢!

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昭和的装飾つき手すりと石垣との対比。いつかこんな環境で暮らしたい。

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こういうちょっとした素材の違いも、雨上がりだと対比が引き立つ。普通であることがこれほど美しい、そんな町が他にあるだろうか。いや、ない。反語。

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階段を切り欠いて家が建っているのか、その逆なのか。いずれにせよ、この階段の幅の変化には物語を感じる。うーん、こういう町で育ちたかった。

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西からの陽が美しいが、雲行きはあやしい。と思う間もなく驟雨が。しかし10分ほどでやむ。

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潮見町。初めて来た。かわいい曲線路地と階段。
雨脚が強まるも10分ほどでやむ。

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以前から気になっているモダニズムっぽい建築。よく見ると瓦屋根仕様であることが判明。隣の煉瓦倉庫と相まって、実にモダンな一角。


というわけで、わずか4時間程度の散歩にもかかわらず、ドラマチックな風景を堪能できました。

尾道はとくに目的を設定せず、「今日は東の端まで行ってもどってくる」など、なりゆき系散歩に最適です。

これからの季節はとくにオススメ。みなさんも、ぜひ尾道へ。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。