映画ザビエル[30]ルイ帰る/カンクロー

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◎たかが世界の終わり

原題:Juste la fin du monde
制作年度:2016年
制作国・地域:カナダ、フランス
上映時間:99分
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:ギャスパー・ウリエル、ヴァンサン・カッセル、マリオン・コティヤー


●だいたいこんな話(作品概要)

劇作家のルイは、自らの死期の近いことを知らせるために、疎遠にしていた家族の元へ戻った。母と妹の暮らす家に兄夫婦も訪れ、ルイの帰郷を待ち構えていた家族。

お洒落をし、ご馳走を作り、気持ちの高揚を抑えきれない母。しかし、血の繋がった家族にも12年ぶりの再会は一筋縄にはいかず、個々の思いにささやかな衝突が絶え間なく生まれるのだった。

気がつけば大人になっていた妹。家族の面倒を実際的にすべて引き受けている兄。初めて会う兄嫁。ルイは帰郷の理由を打ち明けられないまま、時間ばかりが過ぎてしまう。





●わたくし的見解

日本語的使用法から少し離れて、そもそもテンション(tension)とは、引っ張る力。「張りつめている」ところから「緊張」などの意味あいになるのだと思われますが、日本語的にも英語的にも、テンションの高い強い作品です。劇中、のべつまくなし喋られる言語はフランス語ではありますが。

ハリウッド映画にひっぱりダコの、マリオン・コティヤールと比べれば知名度は劣るものの、母親役のナタリー・バイを筆頭に、新旧フランスを代表する主役級のキャストで固められた、この映画のこの家族。

ほんと、一人ずつで一本ずつ主演映画撮れるような豪華なメンツですが、作品を観てみるとなるほど。結局、全員主役なのです。正直、主人公のギャスパー・ウリエルが一番サイドキャスト、語りべポジションと言うか、傍観者と言うか。家族が物凄いテンションで怒鳴り合う姿を、やるせなさそうに眺めるばかり。

なぜ、そこまで緊張が高まってしまうかと言うと、12年ぶりに帰省したルイは、家族にとって鬼っ子に他ならないからです。知的レベル、感受性、家族の中でルイだけが違う次元にいて、家族の誰もが彼を理解できずにいる。

慕っていないのとも違う、愛していないのとも違う。ただ理解できない存在であることが、家族にとって異物としての彼を際立たせます。

その上、ルイはその研ぎ澄まされた感受性を活かし芸術家(劇作家)として社会的にも成功していて、その事も家族にある種の負い目を感じさせ、ますますナーバスにならざるを得ない。

登場人物が少ないことを補うかのような、あまりにも膨大な台詞の量に圧倒されます。編集しているとは言え、よくこれほどの言葉の掛け合いを一気にできるものだと、ここで改めて主役級のキャストの力量を思い知るのでした。

しかし大量の台詞群は、そのどれも台詞らしからぬ、とても日常的で家族間ゆえに遠慮のない、時には過度に相手を傷つけるような言葉が見事に選ばれており、大変によく出来た脚本だと感心していたのですが、そもそも原作が舞台戯曲なのだそうで至極納得です。

主演クラスの俳優による台詞の応酬は素晴らしいのに、少し接写に頼りすぎている映像が気になりました。

あえて映画としての欠点を挙げるとするならば、この点かと思われますが、中産階級あるいは労働者階級の、決して広くはない実家を舞台にした密室劇とも言えるので、人物に寄らない引きの映像では、かえって不自然になってしまうのでしょう。

当然、接写の方が緊張感の演出効果もあります。また舞台とは違う映画ならではの演出も、きちんとなされており、世界から大注目の若手監督であることも十分理解できました。

「たかが世界の終わり」はカンヌ映画祭で(最高賞ではない)グランプリ受賞作品で、これもまさにその通りだな、と。

カンヌのは苦手なんだよな、という人には必ずや苦手系作品でありましょうし、パルムドール(最高賞)ではないのも確かに、あと一歩まだ早い、まだ若い作品であることは否めない。とは言え、グザヴィエ・ドラン監督は本当にまだ若く(なんと、20代!)驚きの成熟度であること、大注目株であることに間違いはありません。

最後に、個人的に最も印象的であったことを幾つか挙げると、注目作品に主演するのは少し久方ぶりだったギャスパー・ウリエル(かつての美少年)が、良い感じに老け、大人のイイ男になっていたこと。

舞い上がって見せていても、その実やはり一番冷静に家族のすべてを思いやっている母親を演じていた、貫禄のナタリー・バイ。

そして、マリオン・コティヤールの、善良であること以外に何ひとつ取り柄のない普通のおばさん(兄嫁)の演技の完成度の高さは見事でした。強い女性を演じることが多い人なだけに、その振り幅の広さに、彼女のひっぱりダコの必然を感じました。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/

映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。