わが逃走[197]異世界探訪の巻
── 齋藤 浩 ──

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屁の擬音といえば「プー」とか「ブッ」といったものがポピュラーだが、私の屁はここ数年、「オガッ」と聞こえることが多い。

このことを極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)に話すと、それはきっと男鹿半島が呼んでいるのよ。あなたは男鹿半島に行くべきだわ、と言う。

そんなとき、K川氏から秋田行きの誘いを受けた。

我々のカメラ仲間でもある元同僚・I中氏が、秋田の美大の先生になってから一度も訪ねてないので、行ってみないか、とのこと。寒いところには寒い時期に行くべきだよね、ということで2月の終盤、新幹線「こまち」に乗って秋田を訪問したのだった。





初日の夜は、きりたんぽ鍋と地酒で三人は旧交を温め、仕事と無関係な話題で夜半まで盛り上がる。この旅の主軸はまさにここにあるのだが、ものすごく内輪な話なので割愛する。

翌朝、雪の予報だったが市内は見事に晴れていた。この時期、秋田の天気はめまぐるしく変わるので、場所によっては雪が降ってるはず、とのこと。

この日、I中氏は超激務ゆえ同行できず、レンタカーでK川氏と二人で男鹿半島へと向かった。市内からは約35キロ。国道をまっすぐ、快適なドライブである。

しばらく青空が続いたが、男鹿半島に近づくにつれて、空は不思議な表情を見せる。

フロントガラスの右半分は晴れているのに、左分は低い雲に覆われている。青空と雲との比率が刻々と変化する。まるでスコットランドの空を見るようだ。行ったことないけど。

船越水道を越えれば正真正銘、男鹿半島だ。海沿いの道を名所『ゴジラ岩』目指して進む。

途中あまりにも空と海が幻想的なので、車を停め、シャッターを切った。

ここはもう、どこか違う星なのではなかろうか。水平線の陽射しと頭上の黒い雲。かと思えば、突然明るくなり足元に自分の影がくっきりと落ち、同時に雪も落ちてくる!

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眼前の風景に圧倒されて忘れていたが、風は強く、空気はとても冷たい。口を閉じていても寒さが歯にしみてきたので、車に戻る。

あ、あ、あたたかい!! 風をしのげるだけでこんなにもシアワセなのか!ここに比べれば、東京の冬なんざ激甘である。

さらに車は進む。車窓からは似たような風景が続くのか、と思えばとんでもない。空の表情は秒刻みで変化し、それに合わせて山肌の陰影も変わり続ける。まるで映画でも見ているかのようだ。

隣のK川氏とともに、「うおー」だの「スゲー」だの言い通しである。

カーナビが目的地付近だと言っている。速度をゆるめて周囲を見渡すと、ちんまりと「ゴジラ岩こっち」と書かれたプレートが見えた。

他に人影もない。駐車場もない。ガイドブックにも大きく載ってるし、観光ポスターにもなってるのにこのヒトケのなさはなんだ?

かろうじて車3台くらいが停められるスペースがあったので、そこに車を寄せて岩場へと下りる。

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岬の小さな灯台へと、電線が続く風景は実にシュール。周囲は奇岩・奇石だらけだ。

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足元には保護色をまとった古代魚みたいなヤツもいた。そして、見上げるとそこにゴジラ岩が。

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最もゴジラに見える角度から撮ると絵はがきになっちゃうので、今回はあえてギャオスっぽく見える角度からご紹介します。

灯台へと続く階段が美しい。まるで古代遺跡のようだ。

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いちばん海側の鋭角的に切り返すところには手すりもなく、かなりコワイ。

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寒さを忘れて夢中でシャッターを切る。それにしても、観光名所なのにホントに誰もいない。

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最後に高台からの一枚。晴れと雨と雪が混在しているかのような空だ。この数秒後、吹雪となった。

このゴジラ岩周辺、時間にして30分程度の滞在だったが、めまぐるしく変わる光と空と海の表情に、寒さを忘れるひとときだった。

その後、男鹿温泉でひとっ風呂あびた後、市内へついたのが6時半。

その後I中氏も合流し、地ビールとソーセージで旧交を温めつつ、仕事と無関係な話題で夜半まで盛り上がる。この旅の主軸はまさにここにあるのだが、ものすごく内輪な話なので割愛する。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。