Otaku ワールドへようこそ![252]渋谷で見かけるあの演説おじさん、どうなった?
── GrowHair ──

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性の悦びを知りやがって... 許さんぞ... 俺にさせろよ... グギギ...。

電車の中でぶつぶつぶつぶつ言ってたあの西郷隆盛似のおっさん。通称、性の悦びを知りやがっておじさん。殺害されたらしい。性の悦びを知らずに死にやがっておじさんになっちゃったのか?

いでたちや振る舞いにおいて、大多数の人々の平均からの逸脱量の大きな人が公の場に現れると、目撃したほうは心がざわつくものらしい。で、その場にいない人々とも情報を共有することによって、事態を公共化すれば、多少なりとも気持ちが落ち着くものらしい。

昔だったら、警察に通報するとか、新聞社やテレビ局に電話するとか、後で家族や友達に話すとかだったんだろうけど。今は、twitterという便利な道具がある。とりあえず、つぶやいとけー。

で、つぶやくに際して、まあ、いいんだけど、「セーラー服おじさん」を参照する人が、なぜかけっこういる。平均値からの逸脱量の大きな部類における、一種の基準、みたいな扱い?

そういうわけで、エゴサしていると、いろんなタイプの風変わりな人の目撃情報が、ついでにひっかかってくることがよくある。おかげで、その手の人の出現が、割と早めにキャッチできている。





●人物像が明かされるにつれて人気も上昇

性の悦びを知りやがっておじさんの映像がYouTubeに上がったのは、2016年10月6日(木)のことである。電車のシートに座って、不機嫌そうにぶつぶつ言っている。車内アナウンスから、京王井の頭線各駅停車吉祥寺行が永福町駅にさしかかるあたりのようである。


次のふたつのつぶやきがtwitterに上がったのは、それから四日後の10月10日(月)のことである。

・ただ性の喜びおじさんはセーラー服おじさんやファミマの加藤さんみたいにいい意味で名物になりそうな気はする
21:08 - 2016年10月10日

・性の喜びおじさんもセーラー服おじさんみたいにいつか女子高生の間で人気者になって「私にも性の喜び教えてください〜」みたいに言われるんじゃないの 
21:46 - 2016年10月10日

電車内の動画は一方的に撮影したもののようだが、それから二週間ほど経った10月23日(日)、実際に話しかけてみた人からの情報が上がった。

・許さんぞ! 性の喜びおじさん? 普通にいい人だった。面白半分で絡んだら普通に面白かった(笑)その辺のボンクラよりよっぽどセンスあるよ。愛のあるDisを♪ それに俺と同郷だって! だけん街で会っても変な事はすんなよ〜! そんときは俺らが変わってお仕置きよ。
12:09 - 2016年10月23日

・さっきの写真はお願いして撮ってもらった写真です! お願いしたら快くOKしてもらえました「盗撮してくる人が多くて腹立つけどお前達はいいな!」って言ってくれてそこから1時間以上話し込んで、すっかり仲良くなっちゃいました。誤解生むようなツイート内容でごめんなさい!
20:40 - 2016年10月23日

これ以降、性の悦びを知りやがっておじさんは人気が急上昇していった模様。

●話しかけたら怒られた、けど笑ってた

私が実際に目撃したのは、12月21日(水)のことであった。「Time Out Tokyo」主催の『LoveTokyoAwards 2016 授賞式』が「渋谷ヒカリエ」9階で開催されることになっており、私は賞を渡す役で呼ばれていた。

山手線内回り電車が渋谷駅に到着したのが1:50pmであり、B面から A面に変身するために「ビッグエコー渋谷店」にいたのが1:57pmから2:44pmまでであるから、間の7分間に遭遇している。

スクランブル交差点を斜めに渡り、センター街入り口を左に見て、JRの軌道と並行して北上する道を入ったすぐの左側、段を上がったところに彼はいた。

聴衆がいるわけでもなく、一人、演説をぶっていた。すぐに「あの人だ!」と分かった。そうとう面白いんだけど、お笑い芸を披露しているというより、素で、頭の中のネジが一本、それも、そうとう太いやつが、ポーンと飛んじゃっているんじゃなかろうかという印象であった。

「あーっ、性の悦びを知りやがっておじさんっ!」と声をかけると、「うるさい! 黙れ黙れ! 俺の話を聞け!」と早口で返された。でも、顔は笑っていた。

じっくり聞いている暇はなく、すぐに立ち去った。3:00pmまでにヒカリエに行かなくてはならないのだ。

A面になってから同じ道を戻ると、もういなくなっていた。A面の姿で道行く人に2ショ写真を撮ってもらい、ネットに上げてもらえるといいなぁ、という期待が多少あったので、ちょっとがっかり。

しかし、まだ遠くへは行っていないかもしれない。あきらめきれず、人々に聞き込み調査してみた。だが、見たという人はいなかった。けど、性の悦びを知りやがっておじさんを知っているという人がほとんどであった。特に女子中高生。すでに有名になってんじゃん。

最近どうもオレの人気がぱっとしないと思ってたら、時代はヤツのほうへ移ろっていたのか。グギギ...。

……ってなことをやっていたら、遅刻した。

●テレビ出演で明かされる素性

「BS スカパー!」のバラエティ番組『BAZOOKA!!!』の1月30日(月)9:00pmからの放送回で、彼は初のテレビ出演を果たしている。

本名は岩下竜二といい、出身は熊本、年齢は55歳、彼女いない歴は23年、現在は無職であることなどが明らかになった。

どこからどういう経路で伝わってきたのか覚えていないので、信憑性も定かではないのだが、テレビ収録はたいへんだったらしい。何か気に食わないことがあって、というのではなく、何の前触れもなく、突然怒り出し、暴れたりしたらしい。テレビ向きではない人だ、とか。

●駅のホームで取り押さえられて死亡したのは本人なのか

3月11日(土)11:00pmごろ、TBSテレビが下記の内容のニュースを放送した。

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11日午後、東京・世田谷区の東急田園都市線の車内で乗客の男性が暴れたため、居合わせた乗客が取り押さえたところ男性は突然、意識を失いその後、死亡しました。

11日正午すぎ、世田谷区の東急田園都市線上りの車内で50代とみられる男性が暴れ、居合わせた乗客の男性3人に桜新町駅のホームで取り押さえられました。男性はうつ伏せの状態で肩や足を素手で押さえられていましたが、その後、突然、意識を失い搬送先の病院で死亡が確認されたということです。

警視庁によりますと、男性は車内で大声を出したあと、注意した乗客の男性(30代)の顔をいきなり殴るなどしたということです。警視庁は男性の身元の確認を急ぐとともに司法解剖を行い、死因を調べることにしています。

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同日、「澄」(@htcb8810) 氏が、twitterで次のようにつぶやいている。

・うわ、性の悦びおじさんが見ず知らずの乗客(盗撮してたのか?)に暴行をはたらいて警察に付き出される瞬間を目の前で目撃してしまった 
2017年3月11日 12:22

・性の悦びおじさん生で初めて見たわ→なんか動画で見るより暴れてないか?→突然その辺にいた乗客に殴りかかる→有志によって取り押さえられる←イマココ おそらく駅から警察に通報されるもよう 
2017年3月11日 12:26

・え、性の喜びおじさん死んじゃったの?! 
2017年3月11日 23:05

・性の喜びおじさん押さえ付けてるとき周りの人が「死んじゃうから気道は確保してあげて!」って言ってたのになあ 
2017年3月11日 23:08

・押さえ付けてたサラリーマン相当キレてたからな。俺てっきり押さえ付けられた性の喜びおじさんが喚いてるんだと思ってたら全部押さえ付けてる人がおじさんを威嚇するために叫んでるだけだった。 
2017年3月11日 23:11

ネットに上がっているもろもろの情報も照合すると、どうやら、死亡したのは性の悦びを知りやがっておじさんで間違いないようだ。

しかし、その後、確定情報がどこからも上がって来ない。死亡したのは間違いなく岩下竜二氏なのか。司法解剖の結果、死因はなんだったのか。取り押さえた人は、当局に拘束されて取調べを受けているのか。

一方、一週間以上にわたって、彼の生存確認情報も、どこからも上がって来ない。いや、たまに目撃情報が上がってくるのだが、どうもガセネタくさい。

ほぼ確定的なのだが、ちゃんと確認が取れていない、というのが、今の状況である。

●扱いがデリケートな問題

痛ましい事件と思う。社会適応性という観点からすると、多少問題があったかもしれないけど、決して悪い人のようではなかった。

もし仮に、もっと知名度が上がっていて「誰でも知ってるあのおじさん」ぐらいの存在になっていたとしたら、多少奇異な言動があったとしても、「あの人はいつもああいうふうだから」と許容されていたのではあるまいか。

かつて、「裸の大将」という愛称をもつ、山下清氏という画家がいた。3歳のころに罹った病気の後遺症で、軽い言語障害・知的障害を患っていたというが、そのことが人気に対してマイナスには作用せず、人々から慕われていた。映画にもなっている。

性の悦びを知りやがっておじさんも、その路線を行けそうな気がしていて、楽しみにしていたので、私自身、けっこう落胆している。少なくとも、駅のホームで見ず知らずの人に圧迫されて人生を終えるに価するような凶悪な人物ではなかったと思う。

彼が知的障害を抱えていた可能性について、私は否定しない。ぶつぶつ独り言を言うのは、トゥレット症候群の症状とみえないこともないし。

現代においては、知的障害の可能性が絡んでくると、報道は、一様に、触れるのを避けたがるようだ。うーん、なぜなんだろ? 人々の偏見を助長しかねないから?

しかし、偏見というのは、正しくない思い込みによって生じるものであるから、正しい情報を伝達すれば、むしろ偏見は減る方向に作用するのではあるまいか。

偏見の助長の可能性を理由に報道を控えるのだとしたら、それは論理的にみて筋が通っていないような気がする。

ただ、精神系・神経系の障害や疾患についての話題は、なかなかデリケートなものであって、不用意に取り上げると、狂気をはらんだ者への世間からの恐怖を煽る結果になったりして、まったく人畜無害の人までもが巻き添えにあって忌避されるなど、混乱を招きかねないので、慎重を要するのはたしかである。

さらに言えば、取り上げ方にさほどの不備がなかったとしても、この手の話題に異常につっかっかってきたがる人がいるようである。障害者に対して侮蔑的な目を向けているとはとうてい受取れないような発信に対しても、差別的な意識の現れだとかなんとか、がーがーがーがー激しく責め立ててきたり。

おまえの情報発信媒体のアクセス稼ぎのダシに障害者を使うとは悪辣である、みたいな、わけのわからない言いがかりをつけてきたり。

発達障害や精神疾患についてろくに知りもしない素人が、誤解を世間にまき散らすような発信をするな、とか。まあ、そう言われちゃうと、はいはい、専門家ではありませんでした、としか言いようがないのは確かだけど。

じゃあ、政治について、あるいは、科学について、意見や感想を述べていいのは専門家だけなんかい? って反論したくはなるけど。そう考えてみると、まあ、この話題が特にデリケートなんだね。

マスメディアなどの情報発信側の立場で考えると、もしこの種の話題を取り上げれば、どんなリアクションが返ってくるかがあらかじめ目に見えているから、まあ、触らないのが無難、ってことになっちゃうのかもなぁ。

●正しい知識がもう少し広まってもいいような気も

そう言えば、30年くらい前の昔に比べて、明らかに精神状態のまっとうでなさそうな人を見かける頻度がめっきり減ったような気がする。精神科の医療技術が進歩して、みんな治っちゃった結果なのだとしたら喜ばしいことであるが、どうも、そうじゃないような気がする。

どの時代にも、どの地域にも、ほぼ一定の割合で正常の範囲を逸脱したような人が出てきちゃうのだとしたら、見かける頻度が減ったのは、みんなどっかに隔離されているからなのではなかろうか。

病的な妄想に駆られて、凶悪な行為をはたらいたりするケースが実際に起きることはたまにあり、障害が重度である場合、犯行時に心神喪失状態だったとして、責任を問えないこともある。

なので、言動に奇矯なところのある人に対して、世間が漠然と恐怖心を抱き、何かよからぬ事件を起こす前に一般社会から隔離して、一生出て来れないようにしておいたほうがいいのではないかと考えたくなるのは、気持ちとして、まあ、ある程度、理解はできる。

そんなのを野放しにしておくことを許しておいて、もしなにかあったとき、あんた、責任取れますか? と問われれば、いや、取れません、と答える以外にない。

しかし、一方、恐怖心というものは、多くの場合、ものごとの全貌が分からないことに由来しているのではあるまいか、とも思う。分かっちゃえば、もはや怖くない。

その観点からすると、発達障害や精神病理についても、正しい知識が一般の人々の間にもっと広まってもいいんじゃないかと思う。

水分子は酸素原子1個と水素原子2個からなる、とか、日本は1都1道2府43県からなる、というのと同じくらいのレベルで、躁鬱病、統合失調症(旧称: 精神分裂病)、自閉症スペクトラム、てんかん、人格障害10類型など、基本的なところは大概の人が知っている、くらいになっててもいいんじゃないかと思う。

その知識があると、前述の、妄想に駆られて凶悪行為に及ぶようなケースは、統合失調症に特徴的な現象だと分かってくる。だからといって、逆はかならずしも真ならずで、統合失調症の人がかならずしも凶悪犯罪に走る潜在性を秘めているということにはならない。

自力で生活もできないほどの重度の障害を負った人に対しては、もちろんプロによるケアが必要であろうが、それほどでもない人が、単に奇異だから怖いというだけで、無駄に隔離されちゃってないだろうかという点が、若干、心配だ。

ちょっとでも不安をかきたてる存在を十把一絡げにして一般社会から排除したからといって、即座に、社会に不都合が現れるというものでもない。

しかし、そのようなムードが固定化して、積もり積もって社会が画一的になっていく方向へ作用していくとなると、なんだか不健全な感じがする。世間の相互監視の目がどんどん厳しくなっていき、スタンダードからちょっとでも外れた人は、次から次へと塀の中へと送り込まれていく。

そうこうするうちに、塀の中のほうが混雑していったりとか。文化が爛熟していったりとか。で、ふと気づくと、なぜか自分が入れられる番になってたりとか。で、そうなるころには、塀の外の景色は、ロボットの隊列みたく、完璧に均質的になってたりして。ちと寒々しくはないか。

どうもなぁ。たとえ少しくらい障害を抱えていたとしても、性の悦びを知りやがっておじさん程度の軽度なものであれば、愛されキャラとして、社会的に受け入れられてふつうに生活できているほうが、社会のあり方として、健全なような気がするのだ。

電車の中で、性の不満をわーわーぶちまけられてうるさかったとしても、その迷惑の度合いなんて、たかが知れている。

あの御仁は、よくしゃべるし、人混みに出ていって演説をぶちたがるけど、私の見立てでは、自閉症スペクトラム系の人なんじゃないかと思う。そんなに大して害はないのだ。……ってなことを素人があんまり言わないほうがいいのかもしれないけど。

ただ、言いたいのは、社会における、あのおじさんの健全な扱いとしては、「裸の大将」と同様の、愛されキャラでよかったのではないかと思う。その限りにおいて、彼の目撃情報がネットに上げられ、拡散していくのも、それ自体は悪いことではないんじゃないかなぁ、とも思う。

あの人はああいう人なんだ、という情報が拡散され、多くの人に共有されれば、たまたま遭遇した人も、「ああ分かってる、あの人でしょ」ってことで、無駄に恐怖心を抱かずに済むであろうし。

ただ、ずいぶんと心ないコメントが吐き捨てるように投げられることもあり、そういうのはいただけないなぁ、とは思うけど。

たしかに、私とても、性の悦びを知りやがっておじさんを笑って見ていたクチではある。しかし、それは、生きてようが死んでようがどうでもいい赤の他人として、冷たく嘲笑を浴びせかけていたのとは違う。

マジョリティの平均値からの逸脱量の大きな部類に入れられがちな仲間として、ある程度の親しみの情を込めて、笑いつつ見守っていた、という感じである。

この調子で確定情報が出てこないまま、風化を待つばかりというのは、なんだかやるせないなぁ。


【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。
http://www.growhair-jk.com/


今回は、いつもの数学話を一回休みました。実を言うと、プロフィール欄から先に書き始めたら、そっちが際限なく長くなっていってしまい、しょうがないので、本文に格上げした、というのが経緯です。


 ◆列車編成の鉄道パズル◆

3月11日(土)、映画を見るため、大館に向かった。「大」きな映画「館」ではない。秋田県の大館(おおだて)である。

東京から鉄路で行くには、東北新幹線で新青森駅まで行って奥羽本線で戻ってくるルートか、秋田新幹線で秋田駅まで行って奥羽本線でやっぱり戻ってくるルートあたりが標準的である。いずれにせよ、往った道とほぼ平行にコの字型に戻ってくる格好になっているのがなんとも言えない。

コの字ルートを避けるなら、盛岡駅からいわて銀河鉄道・花輪線という手もあるけど、盛岡駅から大館駅まで3時間かかり、時間的にはちっとも得しない。

私は少しひねくれたルートを選択した。東京駅から上越新幹線「とき」に乗り、終点新潟駅で白新線・羽越本線特急「いなほ」に乗り換え、終点秋田駅で奥羽本線特急「つがる」に乗り換え、大館駅に至るというもの。

6:08東京発で、大館到着が14:12。都をば霞と共に立ちしかど秋風ぞ吹く……ってほど悠長な旅ではないにせよ、8時間かかっているね。しかし、これで、「御成座」で上映される『この世界の片隅に』の15:30からの回に間に合う。

当日の朝5:00amごろ、中野駅の自動券売機で切符を買おうとしたが、これが、できない。まず「乗換案内から購入」モードを選択し、乗車駅と下車駅を指定すると、ルートの候補が表示されるのだが、ページをめくってもめくっても希望するルートが現れない。

次に「指定席」モードを選択してみると、「とき」と「いなほ」の特急券までは購入できるのだが、特急列車3本乗り継ぎには対応していなかった。「いなほ」の座席指定の操作までしてから、その先がないことが判明して、ぜーんぶ取り消し。そりゃねーよ。

南口に回ると、まだ時間が早すぎて、みどりの窓口が開いていなかった。駅員に聞くと、東京駅で買えるという。

この時間はまだ快速電車が走っていないので、5:06中野発の各駅停車東京行に乗り、東京駅到着が5:32。乗車予定の「とき」の発車まであと36分だ。

窓口には人が並んでいたが、フォーク並びしていたので、意外に早く自分の番が回ってきた。若い女性が対応してくれた。

「とき」の指定席が満席なのは中野駅ですでに知っていたので、自由席で。「いなほ」と「つがる」は右側窓際の席を希望した。

2両以上で編成されている列車において、号車番号が若いほうを「前」とすると、言い換えると、1号車を先頭車両とみることにすると、一般的に、座席は左からA、B、C、Dと符号が振ってある。新幹線のように5列あるときは、Eまである。

このとき、A席が左側窓際になり、D席またはE席が右側窓際となる。飛行機も同様で、A席が左側窓際になり、K席またはL席が右側窓際となる。

ただし、列車が飛行機と違うところは、帰りは逆向きに進むという点である。進行方向が示されていない限り、A側とD側のどっちが右側窓際になるのか、特定できないのである。

窓口の人が操作している端末の画面に、「いなほ」も「つがる」も進行方向が表示されていなかった。

「いなほ」については、私も中野駅で、情報不足を確認しており、「変だな」と思っていた。座席マップから「この席」と指定できるようになっているのに、進行方向が表示されていなくては困る。

ただ、座席マップを見ると、座席の埋まり具合に歴然と差があり、A側がD側よりも圧倒的に多く選択済みになっていた。羽越本線は、海側の景色がたいへんよい。おそらくA側が左側なのであろうことは、容易に推測がついた。

しかし、窓口の若い女性は、そんなことでは妥協しなかった。特急列車の座席マップの掲載された紙の冊子を引っ張り出してきて、ちゃんと調べてくれた。

しかし、無尽蔵に時間を使っているわけにもいかないので、その先の「つがる」については、おそらく同様であろうという推測をもって妥協せざるを得なかったようである。

これがなんと、はずれであった。

「いなほ」が12:04に終点秋田駅の3番線に到着したとき、同じホームの反対側、4番線には、12:41発の「つがる」がもう入線していて、ドアが開いていた。

「いなほ」は1号車が先頭であったのに対し、「つがる」は4号車が先頭になっている。いわゆるシックスナインのポジション。

特急券に記載されている「2号車7番D席」は、右側ではなく、左側窓際であった。車掌さんに事情を話し、自由席へ移らせてもらった。4号車8番A席。

考えてみると、どの列車も始発駅から乗っているので、ぜんぶ自由席にしときゃ、ぜんぜん問題なかった。

瞬間、頭の中に電球が灯り、鉄道パズルがひらめいた。今回のケースでは、秋田駅終点と秋田駅始発で、重複区間がなかったが、走行区間を共有しつつ向きが逆ってことはあるだろうか。

【問題】同一路線、同一区間を走る2種類の特急列車で、号車番号の割り振られている順序が互いに逆向きになっている例を挙げよ。

さて、このあと、ヒントと解答が続きます。自力で考えたい方は、いったん読むのをストップしましょう。

【ヒント】6の字線やらデルタ線やら。

「6の字線」という用語はなく、いま私が考えたのだけど。例えば、蘇我駅から外房線を走り、安房鴨川駅から内房線に入り、再び蘇我駅に戻ってくると、前後がひっくり返っている。

なので、もし、東京駅発の京葉線・外房線特急「わかしお」と京葉線・内房線特急「さざなみ」のどちらかが、安房鴨川駅を突き抜けて相手の路線に乗り入れていたら、必然的に回答例が生じていたところである。実際には乗り入れていないので成立しないのだけれど。

「デルタ線」は、おそらくギリシア文字のデルタの大文字が三角形をしていることに由来していて、「三角線」ともいう。

例えば、武蔵野線は、東側の終端において、京葉線の東京方面と蘇我方面の両方に乗り入れている。武蔵野線から京葉線東京方面に入り、京葉線を戻って蘇我方面に行き、また戻って武蔵野線に入ると、やはり、車両の前後がひっくり返っている。

なので、もし、このデルタ線のすべてに対して特急列車が走っていれば、必然的に回答例が生じていたところである。実際には、武蔵野線を定期的に走る特急はないので、成立しないのだけれど。

各駅停車においては、確実に起きていることである。どの区間で生じているのか。各駅停車の車両編成は、市販の紙の時刻表には掲載されていないので、実際に行って見てきたところ、京葉線南船橋駅 - 海浜幕張駅間で逆向き編成の混在が生じているのを確認できた。← この一文を書くために2時間かかったよ。

【解答例】湘南新宿ラインの新宿 - 大崎間において、特急「成田エクスプレス」と「踊り子」の編成向きが逆になっている。前者は新宿方面が1号車であるのに対し、後者は逆である。大崎駅の南側で横須賀線に乗り入れる際にデルタ線が生じており、どの線にも特急列車が走るので、必然的に生じている。

ほかにもある。総武本線の錦糸町 - 千葉間において、特急「あずさ」と「しおさい」の編成向きが逆になっている。前者は千葉方面が1号車。後者は逆。

篠ノ井線の塩尻 - 松本間において、特急「あずさ」と「しなの」の編成向きが逆になっている。前者は新宿方面が1号車。後者は逆。

後の2つの例は6の字線でもデルタ線でもなく、「あずさ」と「かいじ」をひとまとめにしてひっくり返せば解消しそうなもんだが、その場合、東京駅においてシックスナイン禁止、全員南枕の原則に反することになる。

湘南新宿ラインの新宿 - 大宮間において、特急「あかぎ」と「日光」、「きぬがわ」の編成向きが逆になっている。前者は新宿方面が1号車。後者は逆。

「あかぎ」のほうが、他の列車と整合性がとれている。「日光」と「きぬがわ」は、JRが東武鉄道との間の綱引きで負けたのであろう。そもそもJRには日光線というものがありながら、そっちを通らず、栗橋駅から先を東武線に乗り入れる時点で、たいへん屈辱的と言える。


 ◆あきれたもんだ◆

いや〜、自分でも、これはちょっとはなはだしいな、と思う。何がかって、えーーーっと、なんだっけ? そうだ、物忘れが。

タイのバンコクで飛行機の中に置き忘れたパソコンを、今度は新潟駅で新幹線の中に置き忘れた。

座席で使用していたパソコンをいったん黒いバッグにしまったのだが、それをスクールバッグにしまう作業は、隣りに座っている人に肘が張ったりして迷惑になるかもしれないので、降りるときにしようと、一旦足許に置いておいた。

それから眠りこけてしまい、起きたのが終点新潟駅に到着する間際だったもんで、パソコンのことはすっかり忘れたまま、慌てて降りてしまった。

秋田駅で、「いなほ」から「つがる」に乗り換えて、さあ使おうと思ったら、スクールバッグの中に入っていない。しまった!

「いなほ」に置き忘れた可能性を考えて、いったん戻るが、すでに座席の向きが転換されており、3号車10番D席には何も残っていなかった。

改札口横の駅事務所へ行き、聞いてみたが、出て来ていないという。そこから新潟駅にも問い合わせてもらったが、届いていないという。

遺失物に関する問い合わせの電話番号の印刷された紙をもらった。大館駅に到着したとき、駅前の公衆電話からかけようとしたら、その紙が出てこない。どっか行っちゃった。

しょうがないので、大館駅の改札口横の駅事務所へ行き、新潟駅に問い合わせてもらったら、それっぽいのがあるという。

6:08東京発の上越新幹線とき301号の最後尾の自由席車両、1号車5番A席に座ったことを手帳に記録してあり、ちゃんと一致した。

さらには、なぜか私の本名が新潟駅に把握されている。どうして分かったのか不思議がっていると、「"Japan Weekend" って分かりますか?」と聞かれる。

あ、それか。マドリードで開催されたイベントのゲストパスが入りっぱなしになっていたのか。おかげで、本人のものだと証明することができた。

できれば、帰りがけに新潟駅に立ち寄って受取りたい。3月12日(日)、「御成座」で10:00amから上映の『この世界の片隅に』を見て、新潟でパソコンを受取って、その日のうちに東京に帰る解はあるだろうか。

大館駅の人が調べてくれた。

14:00 大館 - 15:28 秋田、奥羽本線特急つがる4号秋田行
16:35 秋田 - 20:07 新潟、羽越本線・白新線特急いなほ14号秋田行
21:34 新潟 - 23:40 東京、上越新幹線 Maxとき350号東京行

これでいけるじゃん、と、いったんは思ったのだが、忘れ物受取りの窓口が開いているのが7:00pmまで、ということで、不適解だった。

11:35 大館 - 12:17 弘前、奥羽本線弘前行
12:58 弘前 - 13:40 新青森、奥羽本線青森行
13:52 新青森 - 16:38 大宮、東北新幹線はやぶさ 22 号東京行
16:42 大宮 - 18:16 新潟、上越新幹線 Max とき 331 号新潟行

こんなのまで調べてくれたが、これだと、映画を途中で抜けなくてはならない。あきらめて、郵送してもらうことにした。東京へは、当初の予定通り、下記のコースで帰った。

15:45 大館 - 18:37 盛岡、花輪線・いわて銀河鉄道盛岡行
18:50 盛岡 - 20:58 上野、東北新幹線こまち32号東京行

後日、クロネコヤマトの宅急便で届いた。これの梱包がすばらしかった。

パソコンをいったんバッグから取り出し、マウスとの無線通信用のUSBプラグが引き抜いてある。突起になっているところに変な力がかかって破損するのを防止するためだ。

パソコン本体をプチプチで包み、それとは別にネット接続機器とマウス用USBプラグをプチプチで包み、バッグに戻してあった。

そのバッグごと、プチプチで包み、さらにその外から目の大きいプチプチで包み、それごと段ボールの箱に入れ、その箱ごと、目の大きいプチプチで包んであった。

精密機器取扱い注意のラベルが張ってあったけど、これなら投げ落としても壊れないかも。

これで、たったの1,118円。いやぁ、申し訳ない。新潟駅の方、ヤマト運輸の方、ありがとうございました。


◆カタカナ語鬱陶しい◆

英語が嫌いってわけじゃないけど、日本語の中で不必要にカタカナ語を濫用す
るのは好きではない。

もともとあった日程を変更することを「リスケ」なんて言ってくるやつにゃ、皮肉のひとつも言ってやりたくなる。

その単語はひょっとしてフランス語由来の英単語 "risque" のことでしょうか。意味は「際どい、わいせつじみた」でよろしかったでしょうか。

皮肉を言ったつもりが、かえってバカにされたりする。「リスケ」ぐらい、知ってますってばさってばさってばさ。ただ、なぜか嫌いなだけで。

マーケティング方面の人々の「私たち、業界人ですもん」みたいな空気がどうも苦手でなぁ。本人たちはそんなふうに気取ってるつもりはないのかもしれないけど。


◆宣伝映像に出させてもらった◆

大根ぶりがちとハズカシイ...。