映画ザビエル[32]シニカルな笑いに覆われた哀しみ/カンクロー

投稿:  著者:  読了時間:3分(本文:約1,400文字)



◎アメリカン・ビューティー

原題:American Beauty
制作年度:1999年
制作国・地域:アメリカ
上映時間:122分
監督:サム・メンデス
出演:ケヴィン・スペイシー、アネット・ベニング、ソーラ・バーチ、
ウェス・ベントリー、ミーナ・スヴァーリ

●だいたいこんな話(作品概要)

舞台はアメリカ、郊外の閑静な住宅地。うだつの上がらないサラリーマン、レスターは不動産業を営む妻とのあいだに娘を一人持つ、ごくごく平凡な中年男だった。

妻とは倦怠期まっ只中、典型的なティーンエイジャーの娘はいつも不機嫌で会話もない。会社ではリストラ候補としてレポートの提出を求められる。

くさくさした毎日に変革をもたらしたのは、娘の親友アンジェラと、隣に越して来た少年リッキーとの出会いだった。





●わたくし的見解

冒頭、薄暗い部屋で家庭用ビデオカメラに撮られている少女は「あんなパパ、死んで欲しい」と洩らす。

カメラを構えているボーイフレンドは「僕が殺してあげようか」と答える。

その後、舞台となる住宅地の空撮とともに主人公によるナレーションが始まり、軽い自己紹介と「一年以内に俺は死ぬ、この時はまだ当然そんなこと知らないけどね」と、いきなりの死亡宣言が。

不吉な言葉のもたらす印象とは裏腹に、映像は晴れた日の愛すべき我が街、愛すべき我が家を丁寧にとらえます。

そして物語はひたすらにコミカルで、やはり丁寧にうわべの美しさとその裏側にずっと隠してきたものを描き出します。

ビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」のように、死んだ男の回想として繰り広げられる数日間。

主人公は、いかにして死を迎えたのか。

エピソードの数々を常にシニカルな笑いでシュガーコートすることで、静かに漂っていた哀しみが、かえって浮き彫りに。

そのバランス感覚の妙は、実に見事で鮮やかでした。

アメリカン・ビューティーとは、劇中にもしばしば登場し、画面に彩りを添えている深紅のバラの品種名だとか。

しかし同時に、この「アメリカン」は作品に登場する(一見した限りは)絵に描いたように幸せな? アメリカの中流家庭を指しているに違いないし、さらに続く「ビューティー」の語をもってして、皮肉に満ちたこの映画を完璧に表現していると思うのです。

サム・メンデスにとって初映画監督作品であり、脚本家もまた(TVの脚本家として活躍していたものの)映画脚本を手がけたのは、これが初めてと言うから驚きです。

1999年公開の作品ですが、今観ても断然おもしろい!

またサム・メンデス監督による「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」では、さらに洗練を極め、その完成度は極めて高いものとなっています。

「アメリカン・ビューティー」とは同じ系譜の作品ですので、ぜひ比較しながらご覧になってはいかかでしょうか。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/

映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。