もじもじトーク[60]欧文フォントの読み方/関口浩之

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こんにちは! もじもじトークの関口浩之です。今年も、あっという間に4月になりました。新年が始まったばかりと思っていたんですが……。

今回は「欧文フォントの読み方」をお送りします。欧文フォントに興味のある方にとって、書体デザイナー小林章さんのことは必ず知っていると思います。

でも、デジクリ読者の多くの方は、小林章さんをご存じないと思いますし、欧文書体を日頃から意識している人は少ないでしょう。

後半で掲載する欧文で組んで看板の写真、ぜひ、見てください。そっか、「欧文フォントを読む」とは、そういうことだったのね、と理解することができます。ぜひ、最後までお付き合いください。





●小林章さんのセミナー開催は僕の夢

ウィキペディアで「小林章」を調べるてみると、「日本における欧文書体設計の第一人者である」と書かれています。

欧文書体は、通常、外国の書体デザイナーが制作していますが、日本生まれで欧文書体を設計している人は、小林章さん以外で著名な人を僕は聞いたことがありません。

一年ほど前、Monotype社のセミナーで小林さんにお会いした際に「Webデザイナー向けセミナーを定期開催しているのですが、小林さん、登壇していただけませんか?」とお願いしたところ、「うん、いいよー」と即答いただきました!

過去に数回、小林さんにお会いしたことはあるのですが、2001年からドイツに在住していることもあり、外部主催のオープンセミナーで講演いただくことは滅多にないと思います。

僕自身、欧文タイポグラフィは勉強中です。日本語組版を学ぶ機会は結構あるけど、欧文組版のそれはなかなかないですよね。

そして、欧文組版はアートディレクターやグラフィックデザイナーが駆使する、敷居の高いものだと思っている人が多いのも事実です。また、Webの仕事に携わっている僕らにとっても、欧文フォントの基礎を学ぶ機会がほとんどありません。

だけど、Webに関わる人にとって、日本語書体のみならず、欧文書体もすごく大事な存在なのです。そんな欧文書体の初心者がたくさん集まる場で、小林章さんのわかりやすい講演をどうしても開催したかったのです。

そんな熱い想いが伝わったみたいで(手前味噌ですが…w)、2月来日の一か月前に「日本に行くけど、関口さん主催のセミナーに登壇するよー」って連絡があったのです。

そんなわけで、2月22日、FONTPLUS DAYセミナー Vol.7[欧文フォントの読み方]〜タイプディレクター小林章さんをお招きして〜のセミナー開催が決定したのです。

TwitterとFacebookの告知のみでしたが、募集開始して3時間で80名の定員に達してしまいました。びっくり。

●欧文フォントの読み方とは?

小林章さんから、セミナーの冒頭でこんな話がありました。

「フォントは見た目で選んでもいいじゃん」

えっ、そんなんでいいんですか?

実は、この話をする前に3枚の写真が紹介されました。

https://goo.gl/wRCwwF

1枚目と3枚目の写真は、2001年、小林章さんがドイツに在住するようになったとき、レストランでケーキを食べた時に撮影した写真です。ちなみに、2枚目は、ジャガイモの写真だそうです。

フォークが刺さった状態でテーブルに運ばれてきたそうです。この店が特別というわけでなく、かなりの確率でこんな感じだそうです。

日本ではケーキの周りにセロファンが巻かれていますよね。でもよくよく考えると、手が汚れないないようにしてセロファンを外して、その残骸をどこかに置くのに苦労したりします。

なので、フォークが刺さった状態で出されるのは合理的と言えます。僕はこのスタイルが好きです!

なぜ、この写真が最初に出てきたかは、国が変わればお作法や感性が異なるということを確認したかったからなのだと思いました。

当たり前のことですが、この当たり前が、他の国の人にとって気づいていないことがあるのです。

さて、フォント話に戻ります。

フォント専門家的な発想だと「この書体はどこの国で誕生したのか」「書体デザイナーは誰」「どういう意図で書体設計されたのか」など、うんちくを学ぶことがスタートだと思ってしまいがちです。

もちろん、それらを学ぶことは悪くありません。でも、頭でっかちになって深読みすることが書体を学ぶということではないのです。

たとえば、世界で一番有名な書体といっていいかもしれない、ヘルベチカ(Helvetica)を例にとります。

ヘルベチカは、1957年にスイス人タイプフェイスデザイナーのマックス・ミーディンガーとエドゥアルト・ホフマンが発表した、サンセリフのローマ字書体です。「ヘルベチカ」の名称は、ラテン語で「スイス」を意味しています。

小林さんから「ヘルベチカを使う際、書体からスイス感じなくてもいいよ(笑)」「ヘルベチカは硬質で都会的で均整がとれている書体、ぐらいの感覚でいいんじゃない」と言ってました。

●フォントの正しい使い方はその国の人に聞け

こちらの日本語の看板をご覧ください。

https://goo.gl/DEC029

あー、なんで、漢字単語の途中で行を折り返すかなぁ………

「理由」の「理」と「由」を分離させると、非常に気持ち悪いですよね。キャッチコピーや見出しで使用するときは特にそうですよね。

これは、パリの駅のポスターと思われますが、そのデザイナーさんが、知り合いの日本人にちょっと見てもらったら、こんなポスターにはならなかったと思います。

こういう不思議な日本人向けのポスター、外国で、よく目にしますよね。

では、次に、この看板の英語表記の部分をみてみましょう。

https://goo.gl/yXVAM4

一枚目の看板の「g」や「j」をみて、どう感じましたか? 気持ち悪いと感じない人も多いと思います。英語の上と下のラインが一直線で、スッキリしていると感じる人もいるかもしれません。

でも、外国の人にとっては「とても気持ち悪い」のです。「g」や「j」は、下に飛び出ないといけないのです。そうしないとリズム感が出ないし、読みづらいのです。

2枚目の看板の「buildings」と「neighboring」をじっくり観てみましょう。全角と半角の文化に慣れ親しんでいる日本人にとっては、こういうのもありかな、と思う人も多いかもしれません。

でも、「i」の両側の隙間が開きすぎて、不安定な感じがしませんか?

そうなんです。来日した外国人がこれをみた時、「すごく気持ち悪い」「読みづらい」と感じるそうです。

3枚目の写真はルイヴィトンのお店のロゴです。高級感を感じますし、不安な感じもしませんよね。それは字間(文字と文字と間のスペース)が適切に表現されているからなのです。

また、安定感を出すために、きれいな字間バランスを保ちながら、ゆったり目に開いて文字を組んでいます。

また、ルイヴィトンのロゴで使用されている書体は特注で制作したわけではなく、フーツラ(Futura)という普通に使われているフォントです。

その国の人にとっては当たり前のことですが、外の国の人にとっては気づいてないことが多いのです。読み手の立場になって考えることは、フォントにおいても同様であり、大切なのです。

「見た目で選べはいいじゃん」というキーワードは、自分の見た目の判断だけでなく、「読み手にとってどう映るかの見た目で選んで、正しく文字を組む」ということだったのです。

最後に、僕の大好きな小林章さんの著書を二冊ご紹介します。

https://goo.gl/7qUZB2

「欧文書体」本は、欧文を学びたい方には超おすすめの一冊です。これしかないと思います。

「まちもじ 日本の看板文字はなぜ丸ゴシックが多いのか?」本は、フォント初心者にもおすすめです。もじもじトークの大先輩って感じのノリで楽しく書体を学べます。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/

1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。