デジクリトーク 史上最悪の名画といわれる「國民の創世」を見た/柴田忠男

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町山智浩「最も危険なアメリカ映画 『國民の創世』から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで」を読んだ。全部じゃないけど。では、目次を紹介しよう。

1「國民の創世」:KKKを蘇らせた「史上最悪の名画」

2「滅び行く民族」:先住民の視点を描いた知られざるサイレント映画

3「空軍力による勝利」:ディズニー・アニメが東京大空襲を招いた?

4「光あれ」封印されたジョン・ヒューストンのPTSD映画

5「クーンスキン」「南部の唄」:スプラッシュ・マウンテンの「原作」は、禁じられたディズニー映画

6「バンブーズルド」「ディキシー」:ブラックフェイスはなぜタブーなのか

7「4リトル・ガールズ」:黒人教会爆破事件から始まった大行進

8「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「エルマー・ガントリー 魅せられた男」:石油ビジネスとラジオ伝道師

9「何がサミーを走らせるのか?」:金はやるから、これを絶対に映画化しないでくれ!

10「群衆」:ポピュリズムの作り方

11「摩天楼」:リバタリアンたちは今日も「アイン・ランド」を読む

12「群衆の中の一つの顔」:「普通の男」から生まれるファシズム

13「影なき狙撃者」:マッカーシズムのパラノイア

14「オール・ザ・キングスメン」:アメリカの王になろうとした男ヒューイ・ロング

15「侵入者」:インディオの帝王が命懸けで撮った「最も危険な映画」

16「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ」:なぜ60年代をアメリカの歴史から抹殺したのか






「はじめに」で取り上げられたのが、1992年の政治風刺劇「ボブ★ロバーツ」で、トランプ騒動を24年も前に予言していたという。なるほど本当にそっくりだ。何から何まで符合点がぞろぞろ、面白いなあ、面白過ぎる。

「はじめに」は、「もはやPC(政治的正しさ)にかまっている暇はない!」と叫ぶトランプに熱狂的に拍手喝采していたアメリカ人々のアメリカにようこそ」と結び、いよいよ「最も危険なアメリカ映画」が開幕する。最上級の「最も」なのに、いくつも出てくるのは変だがまあいいや。

20本の映画が取り上げられているが、そのうち見たことがあるのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ」、それに「エルマー・ガントリー 魅せられた男」わずかに3タイトルである。

こんな古そうなタイトルはレンタルショップでは見つからないと思い、川口市立図書館のサイトで所蔵するDVDを探ってみたら、「國民の創世」と「群衆」の2本が見つかった。ともにアイ・ヴィ・シーが発売元の、「淀川長治総監修 世界クラシック名画100撰集」であった。

まず映画を見て、それから該当する本文を読む、というめんどうな手続をとった。あまり情報もないままに映画を見て、自分でその映画の問題点を見つけられるだろうか、というトライである。



「國民の創世」の冒頭に淀川長治の解説風おしゃべりが入っている。その一部
を抜き出してみる。

【これは、どんな話かと申しますと、南北戦争が始まる前に、南のお嬢ちゃんと北の坊ちゃんが仲良かったんですね、仲良かったけれども、南北戦争で二つに別れたんですね、この男女は生き別れになったんですね。

そういうような話なんですけれども、この映画で見事だったのは北軍と南軍の大戦争ですね。もの凄い戦争ですね。これでもしも戦争が激しく、激しく、激しくなったら、アメリカは二つに別れなくちゃならなかったんですね。

南北戦争がもし燃え上がって、燃え上がって、リンカーンが暗殺されなかったなら、この二つの国が生まれるんですね。これは見事に治まったことで有名な話なんですけど、そこで初めて『國民の創生』、アメリカいうものが出来たんですけれども、この映画で何が凄かったかいうと、アメリカのこの歴史ですね。

いかに、いかに、北軍が南部の黒人達を憎んだか、いうことが見事に出てるんですね。というのは、グリフィス自身が北軍の人なんです、北軍びいきなんですね。それで黒人を随分、随分苛めたんですね。だからこの映画に初めて、KKKというのが出て来るんですね。

これは顔をかくして、白い服を着て、馬に乗って、何か木の棒を持って、ずーっと廻り歩いて黒人見たら殺すんですね。怖い、怖い連中、KKK、今でもこのKKK、アメリカにいるんですね。

黒人はみんな、みんな殴り殺すんですね。黒人の家を焼くんですね。なぜそんなことをするんだろう、いや、黒人はいやなやつだ、黒人は悪いやつだ、顔がブラックでいやだ、そういうような時代があったんですね。

この南軍北軍の物語、この映画の終わり、やっとアメリカが一つになった、アメリカが一つになった、タイトルが『國民の創生』ですね。】

映画を見た後で、もう一度、淀川節を聞いてみたが、いかに北軍が南部の黒人達を憎んだかが見事に出てるって、そんなところが見どころじゃ、見たくないと思わされたのであった。先生、ちょっと違うんじゃないですか。



町山智浩は、「國民の創生」を「KKKを蘇らせた『史上最悪の名画』」と定義する。監督はD・W・グリフィス、1915年の作品である。「この映画は、黒人の選挙権を否定し、黒人をリンチして殺す白人至上主義の秘密結社KKK(クー・クラックス・クラン)を正義として描いている」から最悪なのだという。

アメリカに滞在する筆者は、映画だけでなくあらゆる分野の論評に優れている。なかでも映画に見るアメリカの暗部を語らせたら、この人の右に出る人はいないのではないか。しかもそこに笑いと愛があった。だが、この本からは愛があまり感じられない。笑わせてくれない。よほどひどい映画なのだろうか。

「國民の創生」は、世界映画史上最大の難物だ、という。現在、世界で観られている娯楽映画の基本的技術、文体、興行形態はグリフィスが「國民の創生」で、まさに「創生」したものだ。第一部の南北戦争の大スペクタルシーン、第二部の手に汗握る四つの場面のカットバックなど、いま見ても見事だと思う。

北部のストーンマン家(奴隷解放運動家)と南部のキャメロン家(黒人奴隷を使って綿花農園を経営)が親交を深めるが、南北戦争で両家の息子たちは死ぬ。ふたつの家族は北部と南部の象徴である。彼らは南北戦争で引き裂かれたが、南北は再び和解して、アメリカ国民が誕生した、という話らしい。

アメリカの歴史、南北戦争の経緯など、わたしは知識がない。戦争も政争もよくわからない。だから、モノクロ・サイレント映画の一画面全体を使った解説(次のカットの説明)と、ややぎくしゃくした俳優の動きを見て、たぶんこういう話なんだろうと想像するしかないが、わりとわかりやすい物語であった。

「しかし、この映画は嘘と欺瞞に満ちていた」と筆者は断じる。

KKK誕生のシーンの字幕にはこうある。「KKKは南部を黒人による無政府状態から救った組織である。しかし、そのために流した血はゲティスパークの激戦に劣るものではない。カーペットバッガー(南部に移住した北部人)のトゥアジー判事もそう書いている」。

筆者は書く。「グリフィスの字幕は意味が曖昧だ。トゥアジーは、『KKKが南部を黒人から救った』と言ったのか(※言ってるじゃない:柴田)、『KKKはそのためにゲティスパークの戦い以上の犠牲を払った』と言ったのか、よくわからない。しかし、実際はどちらも違う。トゥアジーは、その著書で『KKKはゲティスパークの戦死者にも匹敵する数の黒人を殺した』と怒っているのだ」

トゥアジーはノース・カロライナ州の判事となり、KKKの犯罪を厳しく裁き続けた。彼の書いた小説「見えざる帝国」で南北戦争直後のKKKを記録している。グリフィスは、その本からいくつかのシーンを「國民の創生」に引用している。

ところが、グリフィスは人種の白黒を逆転させて使っているのだ。これは筆者の発見か、すでによく知られていることなのかはわからない。だが、何にも知らないわたしが見ていても、とても印象に残ったシーンであった。

「見えざる帝国」では、投票に行こうとする黒人たちを、KKKがリンチして殺す場面が緻密に描写されている。グリフィスはこれを裏返して、投票を拒む黒人を黒人たちがリンチするシーンに作り替えた。

また、一人の屈強な白人が多数の黒人暴徒に襲いかかられ、素手で次々と返り討ちにするが、背後から銃で撃たれてしまう。なんというスーパータフガイだと記憶にあるが、これも黒人と白人を入れ替えて使っている。

さらに、結成されたばかりKKKの一団が町に着くと、いきなり二人が銃撃されて死ぬ。あれあれ? と思う。字幕は「リンチの支持者たち(黒人)が先にKKKを殺した」と出たが、これは完全に嘘だ。

KKKはまだ何もしていないし、黒人がいきなり銃撃する理由がない。実際、黒人がKKKを撃った記録はないそうだ。「つまりグリフィスは、KKKの犯罪行為の記録を黒人の犯罪へと意図的に歪曲した『確信犯』なのだ」。これには同意する。

南北戦争の後、戦争の目的だった人種の平等は実現されず、南部での黒人差別は100年後まで続いた。KKKはある意味、勝利してその役割を終えた。ところが、1951年に「國民の創生」が公開され、国民的大ヒットを飛ばすと、消滅していたはずのKKKが復活したという。

全米各州でKKKが次々に旗揚げされ、20年頃には600万人に達したらしい。映画というメディアによるプロパガンダの結果だ。新生KKKは秘密結社ではなく、民主党、共和党に続く第三勢力になったこともある。「國民の創生」がKKKを正義のレジスタンスと描かなかったら、これほどの人気は出ないだろう。



この映画では悪役として三人の傲慢なムラトー(混血)が配されている。政治家サイラス・リンチ(実在の二人の政治家がモデル)、メイドのリディア、ガスという名の自由黒人(解放された元奴隷で白人気取り)である。顔を黒く塗った白人俳優が演じているが、三人とも目がギラギラ光って邪悪に見える。

「『國民の創生』では、黒人たちは基本的に善良でイノセントな存在であり、彼らが暴動を起こしたりするのは、邪悪なムラトーたちにたぶらかされていただけ、という形になっている」

「では、なぜ、この三人のムラトーだけが、こんなにも邪悪に描かれるのか? 三人とも白人との性的関係を象徴しているからだ」

「人種混交への恐怖は、原作者トーマス・ディクソンのテーマだった」

「最もおかしな点は、黒人たちが白人との混血を求め、白人がそれを拒絶するという展開だ。なぜなら、ムラトーたちが存在するのは、黒人が求めたのではなく、白人の奴隷所有者たちが奴隷の女性たちを犯したからだ」

筆者は映画の力を、映画の持つプロパガンダの力のすさまじさを語る。

「『國民の創生』がヘタクソな映画だったら、何の影響力も持たなかっただろう。しかし、運悪くグリフィスは天才だった。『國民の創生』は美しく、わかりやすく、サスペンスフルで、ロマンチックなエンターテインメントになった。

言葉の通じない人々、南北戦争なんて知らない人々でも、北部人エルジーと南部人ベンが結ばれて『これが国民の創生だ』と締められるラストに感動した。

そして、この映画の力によって、とうの昔に滅んでいたKKKが復活し、多くの黒人たちがリンチされた。また、南部で進んでいた黒人の参政権人種隔離撤廃の動きも後退し、実現されるまでにさらに45年以上を要した」

昨年だったか、わたしはクエンティン・タランティーノ「ジャンゴ 繋がれざる者」を見た。南北戦争前の南部における黒人奴隷制度のもとで、解放された元奴隷が主役であった。

白人の農園主が、面白半分で奴隷同士に殺し合いさせたり、脱走奴隷を犬に食い殺させたり、女性奴隷をハンマーで殴り殺したり、ずいぶん凄まじいシーンがあって辟易した。「國民の創生」にはそれはないが……。

そして、筆者は最後に、「そう、どの国にも、もちろん日本にも、歴史の汚点を直視することに映画の可能性がのこされているはずだ」と結ぶ。

町山智浩は「『國民の創生』は南部の失われた大義の物語だ、とグリフィスは言う。この『南部の失われた正義』は、戦前の日本を正当化しようとする人々の論理とよく似ている。日本はアジアを侵略していない、欧米にはめられた云々……」という立場の人であった。

結局、わたしが自前でこの映画の問題点を見つけることができたかというと、実はかなり心許ない。アメリカの歴史を知らないから、ただ物語を追っていくしかない。エンターテインメントとしては優れている。ただし、この映画を見てどう思ったか、踏み絵を迫られるのはいやだなーと思ったのであった。



大分前(2014/1/29)、この欄で「エルマー・ガントリー/魅せられた男」の感想を書いた。この程度の認識である。評論家ではないただの老人の素朴な感想である。まあいいか。いまさら世界史の勉強は無理である。


「信仰復興(リバイバル)は皮肉にも伝統的キリスト教と慣習化された宗教儀礼のこっけいさを露呈した。誰しも良心に従い信仰を貫くのは自由だが信教の自由とは他人の信仰を繰ることではない。復興運動のもうひとつの側面を描いた本作品は子供たちに見せるのがはばかられる問題作である」。

映画「エルマー・ガントリー/魅せられた男」(1960,アメリカ)の冒頭に出て来るメッセージだ。キリスト教系大学を出たわたしではあるが、さっぱり意味がわからない。めんどうくさそうだなと思うが、「名画」だから見なければならない。

エルマー・ガントリーとは、この映画の主演バート・ランカスターの役名だ。彼はカバンひとつで全米を旅するセールスマン、日本で言うテキ屋か。超絶の口のうまさとキンキラの笑顔で人をひきつけるが、正体はほとんどペテン師である。女たらしでギャンブル好きで腕っ節も強い。

彼はたまたま出会ったキリスト教系新興団体の、純潔の女教祖シャロンに邪な心を抱き、教団に入りこみ彼女の伝道活動を手伝うようになる。

彼は神学校に通ったこともあり聖書には通じている。持ち前のセールストークを駆使して、信心深い人々の心を掴み、いつのまにか宗教界のカリスマに上り詰めて行く。

バート・ランカスターは、みごとな演技で本物のカリスマを演じた。シャロンをものにした彼は、さらに名声高めようと活動するが、思わぬスキャンダルで窮地に陥り、彼らの宗教団体は存亡の危機を迎える。

後半はさらにドラマチックな展開になる。大衆の信頼を取り戻したシャロンらは、念願の教会を建てることができたが……結局はすべてが失われる。

キリスト教を知らないわたしなどにはよくわからない言葉を残して、エルマー・ガントリーは去って行くのだが、ここに至ってもカリスマらしい笑顔を見せる。

この映画ではバート・ランカスターがとにかくよく笑う。白い歯をズラッと見せてニカッと笑う。見終わってそれしか思い出せないくらい強烈だ。女優ではシャーリー・ジョーンズ、昔なじみのルル(悪役)がものすごくかわいい。女教祖もきれいだったなあ。そこしか見ないのか、はい。


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淀川長治総監修 世界クラシック名画100撰集 発売元 アイ・ヴィ・シー
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