羽化の作法[37]拘留生活・その5 釈放前日 支えとしていた言葉
── 武 盾一郎 ──

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●1996年9月8日 釈放前日

現在第十留置室には5名。

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・マレーシア人の新ちゃん:オーバーステイ。肉体労働でとても均整のとれた体つき。

・イトーさん:覚せい剤。背も高くマッチョなお兄さん。ケンカ強そう。

・名前忘れた:大麻。22歳、奥さんがいる。新宿ロフトのライブを観た帰りにパクられる。

・名前忘れた:誰かを殴ってパクられた人。相手は重傷だとか。鳶さんらしい。

今日、午前中呼び出しがあった。刑事さんからコーヒーとカップラーメンを貰い、タバコを吸って世間話をした。とても嬉しかったが、カツ丼ではなかったのがちょっと残念な気がした。

そして刑事さんは、明日の月曜日の身元引き受け人として妹に電話をする。妹の声を久しぶりに聞いた。懐かしかった。明日、出られるのだ。

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●支えとなった詩

勾留中に支えとしていた言葉があった。それは拘留されて間もない頃、週刊誌「プレイボーイ」を読んでいたら偶然見つけた、佐野元春の一編の詩だった。

詩を読んでいくと胸が熱くなって涙がこぼれそうになった。何度も読み返した。

週刊誌や雑誌といった類は各部屋に適当に支給される。

「第○室、SMスナイパーくださーい!」とか、警官にリクエストする声が聞こえたりもして、一応要望には応えて貰える。

雑誌の類は例えば、雑誌は誌名だけをリクエストできる。「何々の1996年7月1日号ください」と言っても取り合ってもらえない。

檻の中で本が読める時間も限られている。本の返却の号令がかかった時、僕はとっさに週刊誌のページからその詩を破り取って、スウェットのポケットにしまい込んだ。

寝る前にもう一度、こっそり読もうと思ったのだ。

その日の夜だったのか翌日の夜だったか忘れてしまったが、布団を敷いてポケットから詩の書かれた紙切れを取り出して隠すように読み始めると、巡回中の警察官に見つかって取り上げられてしまった。

僕は泣きそうになった。

なんとか思い出して心の中で復唱した。順番や言葉があれこれ間違ってるかもしれないが、ずっと記憶していた。

改めて調べてみると、かなり記憶違いがあった。これは「ハートランドからの手紙#96」であった。

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1996年、東京。
電気的な、あるいは非電気的な放浪者たちが
街から溢れだしてくる。

新しい流れを見ている。
それは、何度か見てきたかのようではあるが
全く新しい流れのように見える。

都合よく管理されがちな世代、
あるいは、見捨てられがちな世代の叛乱が
静かに、陽気に、優雅に始まっている。

彼らは、XでもYでもZでもない。
彼らは、名を与えられた端から、居心地の悪さを感じている。
彼らは、誰よりも、世間と折り合いがついていないことを知っている。
彼らは、新しい態度で「旅に出る理由」を探している。
彼らは、新しい方法で「グッド・ラックよりマシンガン」を手に入れたがって
いる。

彼らに見えている情景は、吐き気のするくらいうんざりした果実。
ダブつき気味のシャツから、涙をこぼしている。
彼らに見えている情景は、至福の宝石に彩られた痙攣。
信じられないものを、信じようとしている。

オレは二番目の扉を開ける鍵を持っている。
もしオマエが三番目の扉を開ける鍵を持っているなら、交換してもいい。
オレは無条件に、無責任にオマエの背中を後押ししてしまいたい。

オルタネイティブでいること、とは、すなわち
野心を温存する状態を示す。

笑い飛ばせ。
野心をもって、笑い飛ばせ。

6/28/96
佐野元春

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●最後の接見

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昼食後、弁護士さんの接見があった。タケヲの日記と、彩光舎時代のクラスメイトからと、講師からのメッセージを見せてもらった。

9月6日に調書に応じて、いよいよ明日釈放となるのだが、弁護士さん曰く。

「弁護士は必ず検事の所で見習いにつくんですけど、検事はいうんですね。“どんなに黙秘をしてる人でも18日目あたりで必ず落ちるんですよ”そういう仕組みになってるんですよね」

僕もまったく例外ではなかった。(つづく)


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