晴耕雨読[34]再び共謀罪ことテロ防止法のなにが問題なのか
── 福間晴耕 ──

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森友学園問題や復興相の失言などもあって、共謀罪ことテロ防止法の可決が遅れているので、以前も書いたが改めて共謀罪ことテロ防止法のなにが問題なのか書いてみたい。

前回はこの条文の中に著作権侵害など、一見テロ防止とは関係なさそうな膨大な罪状が検挙の対象になっていて、その中には運用次第では著作権法などで二次創作からカラオケやコンサートでの音楽使用などの一般生活にまで、大きな制限になりかねないという話を中心に書いた。

https://bn.dgcr.com/archives/20170317140200.html


その後、与野党の多くの議員の尽力もあって、何とかこうした二次創作や日常的な創作物の使用が共謀罪の対象にならないように調整が進められているものの、11日の与党と維新との法案修正では、この部分については後退しているのが実情だ。

さらに、きちんと内容が報道されてないせいなのか、共謀罪に関してはいくつか誤った言説も広まっているようなので、それらについて指摘したい。





まずよく言われている話では、テロ防止法は国連で求められている国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(TOC条約)に、日本が加入する為に必要な国内法整備だという話がある。

国連加盟国の中でこの条約にまだ加入していないのは日本を含めて11カ国しかなく、これに加入しないと組織犯罪の捜査に必要な証拠が外国にある場合にいちいち外交ルートで交渉しなくてはならず、犯罪者の引き渡しも捜査の協力も得られない(から共謀罪が必要)と言うものだ。

だがこれについては、与党の中でさえTOC条約に参加するために共謀罪を通す必要はないという指摘もある上に、仮に共謀罪を設定するにせよ277もの罪状を対象に入れる必要があるのかという問題がある。

結論から言えば、277の罪状を対象にする必要はまったくない。平成17年10月21日法務委員会質疑の中で、平岡秀夫元議員質疑への小野寺五典答弁で条約が要請する犯罪の範囲は、国内法の原則に反する場合の留保というのも当然に認められている事が指摘されている上に、肝心のアメリカ自身が連邦法が効果的に対応しているので、TOC条約に参加するために国内法を調整する必要はないと言っているのだ。

参照:http://anond.hatelabo.jp/20170502181320


また仮に、日本の国内法では条約が求める条件に達していないと言うのであれば、このTOC条約で名指しされている汚職に関する法律である政治資金規正法、公職選挙法違反が、今回の共謀罪に含まれていないというのはおかしな話だ。

話が出たついでに言えば、あれほど多くの罪状を対象にしている共謀罪では不思議なことに政治家が対象の公職選挙法、政治資金規正法、政党助成法違反はすべて除外されているほか、警察などによる特別公務員職権濫用罪・暴行陵虐罪は重い犯罪だがこれも除外されているのだ。

こうして見ていけば、今回のテロ防止法がテロ防止と言う名目ながら、テロ防止が目的ではないのは明らかだろう。テロ防止のために法整備や各国との協力が必要なのは理屈としてよく分かるものの、今回の共謀罪はあきらかにテロ防止は単なる口実に過ぎないのである。


【福間晴耕/デザイナー】

フリーランスのCG及びテクニカルライター/フォトグラファー/Webデザイナー
http://fukuma.way-nifty.com/


HOBBY:Computerによるアニメーションと絵描き、写真(主にモノクローム)を撮ることと見ること(あと暗室作業も好きです)。おいしい酒(主に日本酒)を飲みおいしい食事をすること。もう仕事ではなくなったので、インテリアを見たりするのも好きかもしれない。