ショート・ストーリーのKUNI[216]メリアンの愛されキャラ弁/ヤマシタクニコ

投稿:  著者:  読了時間:9分(本文:約4,200文字)



青空にぽっかり白い雲、木々は緑に小鳥がさえずる美しい街にひとりの娘がおりまして、名前をメリアンといいました。

娘といってもすでに42歳。でも、いまだに未婚、恋に恋する乙女には違いありません。

「かわいいメリアンや。今日のごきげんはいかがかな」

「とってもよくってよ、大好きなパパ」

「それはよかった。おまえが病気にでもなったら私はどうして生きていけばいいかわからないよ」

「うれしいわ、パパ。だいじょうぶ。私はこのとおりすこやかで元気いっぱいよ。でもね」

「でもね?」

「パパにだけ打ち明けるわ。あたし……好きなひとができたの!」





「ほんとうかね。で、どうしてほしいのだ。そいつをなぐってほしいか、それとも池に突き落としてブラックバスのえじきにでもするか」

「そんなことしなくていいわ。あたしの大事なひとですもの。それに……あたしの片思いなの」

「おまえのようなかわいい娘がなんで片思いをしなくちゃいけないんだ」

「いいの。あたしは42歳だし」

「長く生きてきたことのどこが悪い」

「それに美人でもないし」

「十分きれいじゃないか」

「とにかく、あたしはジョルジャンが好きで、でもこの思いがジョルジャンには届かなくて、とても苦しいの」

「安物のフランス風を気取ったそこらのパン屋みたいな名前なんだな、そいつは。なにがジョルジャンだ。ああ腹が立つ。でも安心おし、メリアン。おまえの幸せのためならパパは何だってする。そうだ、そいつがおまえのことを好きになればいいんだな」

「もちろんだけど、そんなこと不可能だわ」

「なんでだ」

「あたしだって、だてに42年間生きてきたわけじゃないわ。古今東西の書物を読んで、恋愛についてはひととおりわかっているつもり。あたしの恋はかなわぬ運命。もちろん、ジョルジャンがあたしに邪険にしたわけじゃない。ジョルジャンはとてもやさしいわ。

でも、もて男というのはだれにでもやさしいの。同時に10人でも20人でも自分に気がありそうな女にはやさしくできる、誕生日や記念日、好物を覚えてられる、それぞれの名前のついたフォルダを脳内に作って整理して、決して他の女とごっちゃにして失敗なんかしない、それぞれの好みにぴったりの気の利いた言葉をかけることもできる、マルチタスクの男なのよ、もて男って」

「ほう。マルチタスクか。だじゃれを言いたくなったがやめておくよ」

「だからジョルジャンのまわりにはレノアとかフレアとか、それからランドリンとかダウニーとか、いろんな女がいつもいっぱいいるの」

「いい香りがしてふんわり仕上がりそうな女ばっかりじゃないか。そのたくさんの中でただひとりの女になればいいのだな、簡単だ」

「そんなことができるの」

「メリアン、私が稀代の発明王だということを忘れたか」

「忘れてたわ! そういえばあたしが小学校のとき、夏休みの工作の宿題用にといってドラえもん型懐中電灯を作ってくれたわね。ドラえもんの目が光ってとてもこわくて、あたし思わずぎゃっと叫んだわ。今は亡きママのために自動物干し機を作ったこともあったわね。直径4メートルもあってスチール製で重くて、ママが下敷きになって肋骨を3本折った、あの物干し機」

「そうさ。私にできない発明はない。まかせるんだ、メリアン」

メリアンのパパは意気揚々と自室に閉じこもり、それからというもの毎日研究に没頭しました。そしてある日、鼻歌交じりに研究室から出てきたパパは得意げに、黒い粒の入った小瓶をメリアンに見せました。

「あら、パパ。どうしたの正露丸なんか持って。おなかでもこわしたの」

「正露丸ではないんだ、メリアン。これが私の発明した薬だ」

「そうなの?!」

「この薬をジョルジャンにのませるんだ。この薬の中には『のんだ者は必ずメリアンを好きになる』成分が含まれているのだ」

「そうなの? でもどうやってのませるの?! あ、そうか。キャラ弁を作って、それに入れたらいいかしら! なんのキャラにしようかしら、えーっと、おそ松さん、それともジョジョ」

「キャラ弁でなくてもいいが、ジョルジャンの食べそうなものに仕込めばよかろう。言っておくが、これは少し苦い」

「どれどれ……ほんとだ! 何これ! やっぱり正露丸じゃないの? いや、違う。おえー……これに比べたら正露丸は甘納豆みたいなものね」

「そんなにひどいか」

「うん!」

「じゃあ、気づかれないようにほんの少しずつ、少しずつキャラ弁に混ぜ込めばいいのでは。だいじょうぶ、継続は力なりだ。じわじわと成分が効いて、そのうちジョルジャンの心はおまえのものさ」

「ありがとう、そうするわ、パパ!」

というわけで、メリアンは愛しいジョルジャンのためにキャラ弁を作り、激まずのお薬をほんの少し混入させました。念のため、少し食べてみて、パパにも少し食べてもらい、これならだいじょうぶ、気づかれないしお弁当としても十分おいしいというものができました。

「ジョルジャン! あなたのためにお弁当を作ってきたわ。スーパーのチラシ作成のお仕事は疲れるでしょ。これを食べてがんばってね!」

「メリアン! なんてすばらしいサウスパーク弁当なんだ。スタンがゲロを吐いてるシーンを選ぶなんてクールすぎるよ! あとでゆっくりいただくね! 今、来週のまぐろまつりの校正で大変なんだ」

「それはたいへん、からだこわさないでね!」

「ジョルジャン、今日もお弁当を作ってきたわ! あとでゆっくり食べてね!」

「メリアン、昨日のお弁当はとてもおいしかったよ。今日はまたすてきな進撃の巨人弁当じゃないか! 巨人の顔がすごくリアルだ。こういうの作るときって絶対自分も同じ表情してるよね!」

「うふ、その通りよ!」

「君の苦労をしのびながらあとでゆっくりいただくよ。今、アジの開きの値段変更の連絡が来て、急いで修正してるところさ!」

「うん、じゃあまたね!」

「ジョルジャン! 今日も作ってきたわ!」

「メリアン! 今日もすばらしいね。ポケモンgo弁当かい! ナッシーがカイリュウにソーラービームをぶちかましてる図だなんてかっこよすぎるじゃないか! いつもありがとう!」

「ジョルジャン!」

しつこいのでこのへんにしときます。

さて、そんなふうにメリアンが毎日お弁当を作って持って行ってるにもかかわらず、ひと月たってもいっこうに効果が出るきざしもありません。

「パパ、ほんとにあのお薬、効果があるの?」

「どうしたんだい、私のメリアン。そんなに暗い顔をして」

「お薬に効果があるなら、そろそろジョルジャンがあたしに『メリアン、ぼくは君が好きになってしまったみたいだ……』と打ち明けるころじゃないかと思うの。でも、そんな様子は全然ないわ」

「ああ、メリアン。実は」

「実は?」

「薬の純度にやや問題があってだな。おほん、えー、その」

「純度?」

「そうだ。あの薬にも欠陥があってな……その……不純物を取り去ることが難しいもんで。一錠のうち『のんだ者は必ずメリアンを好きになる』成分はほんの少ししか含まれていないんだ」

「え、ということは」

「効果が出るには、そうだな……あの錠剤をバケツ一杯ほど摂取しなければいけないかもしれないがそんなことはとても言えることではないし、さりとてやっぱりその可能性が、えー、まー、高いような気がする今日この頃だったりして、うーん、どういえばいいのか、あー、うー、わー」

「パパ!」

「ああ、ごごごごごめんよ、メリアン、私もがんばって作ったのだよ、だからその、わかってほしいんだが、いやそのもうなんというか」

「パパ、じゃあバケツ一杯分ジョルジャンがお薬を摂取すれば、あたしのことを好きになってくれるのね! 二杯なら大好きになってくれるわよね!」

「ん? ああ、もちろんだとも、それは、間違いない!」

「じゃあ、あたし、これからもがんばってお弁当作る! 何年かかってもかまわないわ! ありがとう、パパ!」

「おお、私のメリアン、おまえはなんてポジティブシンキングな子なんだ……わかった……一緒にがんばろう!」


そして5年がたち、メリアンは47歳になりましたが、ジョルジャンが自分を好きになってくれる気配はやはり全然ありません。

「あーん、もう、ジョルジャンったらいつになったら告白してくれるのかしら。でも、告白してくれなくてもいいわ。なんだかあたし、今とっても幸せなんだもん」

「メリアン、おまえはますますかわいくなるね。私のひいき目かもしれないが、こんなにかわいい天使のような47歳なんて奇跡だよ。美魔女コンテストに出てもいいかもしれない。まったくもう、うっとりしてしまうよ。おまえのためなら何だってするよ」

実は毎日お弁当を作るとき、必ず試食してもらうパパにも少しずつ『のんだ者は必ずメリアンを好きになる』成分が蓄積されていきまして、以前にも増してメリアンが愛しくてたまらなくなっていたのです。

もちろん、メリアン自身も毎日味見してるうち成分が蓄積され、ついでにぜい肉も蓄積されているのですが、自分のことがどんどん好きになるのでそんなことも気になりません。

一方、肝心のジョルジャンといえば、メリアンのお弁当はほとんど食べず、数多いるガールフレンドにあげたり、そこらの犬や猫にあげたりしておりました。

そんなわけですから、いまやジョルジャンのまわりの女たちもそこらじゅうの犬や猫も、みんなメリアンが大好きになっておりました。

「はーい、メリアン、元気?」

「あら、レノア、それにダウニー! 一緒にお買い物にいきましょう!」

「メリアン、今日の晩ご飯、あたしたちと一緒にいかが?」

「フレアにハミングにファーファじゃない! ええ、いいわよ!」

「ワン、ワン、ワワワン!(メリアン、愛してるよ)」

「ミャ〜ミャミャミャーミャ〜(メリアン、遊ぼ!)」

マルチタスクのジョルジャンのことはどうでもよくなっている幸せなメリアンですが、キャラ弁の写真は毎日ブログにアップしていて、けっこうなアクセスがあるそうです。書籍化できるといいですね!


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