Otaku ワールドへようこそ![258]われわれはなぜ不良設定問題をそれと気づかず解けるのか
── GrowHair ──

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いきなりですが、問題です。

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【問題1】次の文章を読んで、括弧に入る言葉を答えなさい。

ウサギは耳が長く、ゾウは鼻が長い
耳が長いのは(   )である
……………………………………………………………………………………………

バカにするな、とお思いかもしれません。俺は小学生じゃないぞ、と。仮に小学生に出題する問題だとしても、簡単すぎるだろ、と。

勘のよい読者諸兄におかれましては、また、次のようにも思われるかもしれません。アンタ、まさか、この問題を引っ張りに引っ張って、長ったらしいコラム一回分に仕立て上げようって魂胆じゃあるまいな?

はい、そのまさかです。この問題、私にとってはたいへん難しく、ずいぶん考えたのですが、未だに解けずに苦しんでいるのです。

もし仮に、人工知能に解かせたら、何と答えるでしょう。もし「分かりません」と答えてきて、そのココロをよくよく聞いてみたら、そっちが正解だった、なんてことになったらどうでしょう。

人工知能は、すでに人類を超えてた、ってことになりはしないでしょうか。たいへん心配です。





●中高生の文章読解力が低下したと嘆くけれど

この問題を取り上げようと思ったのは、下記の記事を読んで、「言ってることが、なんだかおかしいような気がする」と思ったのが発端です。

・AIに勝てない中高生の読解力

2016年11月21日 14時30分更新 ITmedia
「AI の性能を上げている場合ではない」──東ロボくん開発者が
危機感を募らせる、AIに勝てない中高生の読解力 山口恵祐
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1611/21/news096.html


記事によると、東大入試を突破する人工知能(AI)を開発しようと国立情報学研究所(NII)が挑むプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」の2016年成果報告会が11月14日(月)に開かれ、中心メンバーである新井紀子教授が「東ロボくんの性能を上げるよりも、中高生の読解力向上が直近の課題」と警鐘を鳴らしたといいます。

例として、ある国語の問題を挙げています。

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【問題2】以下の文を読みなさい。

仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、
南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、
西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適切なものを
選択肢のうちから1つ選びなさい。

オセアニアに広がっているのは(     )である。

1、ヒンドゥー教
2、キリスト教
3、イスラム教
4、仏教
……………………………………………………………………………………………

これは、どの宗教がどの地域に広まったかの知識を問う問題ではなく、正解が問題文中に書いてあって、文章を正しく読み取ることによってそれが拾い出せるかどうかを問う問題です。しっかり読みさえすれば、「2、キリスト教」の正答に行き着けるはずのものです。

しかし、全国約1,000人の中高生のうち、約3割が正答を選べなかったそうです。

で、この正答率の低さは、中高生の読解力の低さの表れであると解釈して、AIうんぬんよりも国語教育を何とかすべきじゃないかと危機感を表明しているわけです。

私は、その論理に疑問を持ちました。この問題への正答率の低さをもって、読解力の低さの表れだと推論するには、論理の飛躍がないだろうか、と。基本的な読解力ぐらいは備えているであろうと期待される中高生をもってしても、この正答率の低さだとしたら、逆に問題に問題がある可能性はないだろうか、と。

というか、この問題、おかしいと思います。論理的に考えていくと、穴があいていて、これはひょっとして解けないのが正解なんじゃなかろうかと思うようになってきました。

そことはぜんぜん関係ないのですが、ひとつ、思い違いをしていました。この論を張っているのは、てっきり文系の人なんだろうな、と。論理的に緻密に考える姿勢が薄いような印象を受けたので。

ところが、新井紀子氏は、Wikipediaによれば、高校までは数学が嫌いで、一橋大学法学部に入学したが、大学の数学の授業で数学の面白さに目覚めてイリノイ大学数学科に留学し、現在の肩書きは、数理論理学を専門とする数学者となっています。

数理論理学に明るい人が「逆は必ずしも真ならず」をうっかりするはずもなく、私の疑問は、いっそう深まりました。この問題、これでいいのでしょうか。

●構文が取れれば一丁上がり、ではない

まずは、問題2を軽くしゃぶってみましょう。

なんだか、ごちゃごちゃした文章です。解きほぐして、構造を見やすくしてみましょう。こんな感じになりましょうか。

(1)仏教は
 (1-1)東南アジアと
 (1-2)東アジアに
(2)キリスト教は
 (2-1)ヨーロッパと
 (2-2)南北アメリカと
 (2-3)オセアニアに
(3)イスラム教は
 (3-1)北アフリカと
 (3-2)西アジアと
 (3-3)中央アジアと
 (3-4)東南アジアに
 おもに広がっている。

文によっては、構文解析の結果が一意には定まらず、二様、あるいは多様な解釈が可能なものもあります。しかし、この問題文に限っては、上記以外の解釈は無理なんじゃないかと思います。

主語として地域が三つ併記されていて、それらが「おもに広がっている」という述語を共有しています。それぞれの主語に対して、複数の地域が併記されて修飾語句となっています。

併記の中にまた併記という入れ子構造をしていて、若干ごちゃごちゃはしてますけど、構文を解きほぐすのは、そんなに難しくないんじゃないかと思います。

ここまでたどり着けなかったとしたら、読解力不足を言われてもしかたがないんじゃないかと思います。

で、ここまで来たら、正解はもう目前のように見えます。文中に「オセアニア」という単語は1回しか出て来ておらず、それは「キリスト教は」にぶら下がっています。

なので、「オセアニアに広がっているのは(     )である」の括弧の中に入るのは「キリスト教」であろうというのがみえてくるでしょう。ごく自然な流れであって、誰にとっても自明なことのようにみえるかもしれません。

しかし、私が問題にしたいのは、まさにこの点です。答えに至るまでの論理の筋道はどうなんだ、と。

一見自明なことのようにみえるところに、実は、簡単ではない問題が潜んでいるのだということに気づいていただくのは、けっこうたいへんなことかもしれません。

そこをちゃんと説明するには、言葉を尽くさなくてはならないような気がしています。それでも「屁理屈」の一言で片づけられちゃったら、もう絶望するしかないですが。

で、これからこの問題をさらに掘り下げていくわけですが、その前に、共通認識として押さえておきたい、前提を三つ掲げておきたいと思います。

そのさらに前に、ちょこっと脱線します。

上記問題2に対する正答率が、中1から高3まで、学年が進むにつれて単調に上昇してはおらず、中2と高3で下がってるんですね。しかも、10ポイント以上、ガクっと。これ、どうしてなんでしょうね。

中2のほうは、まさに「厨二病」で、自己を英雄視する空想世界とは裏腹に、現実世界においては馬鹿になってるってことでしょうか。

高3のほうは、どうなんでしょう?
(1)受験勉強でノイローゼになり、思考力がかえって低下した
(2)進学しない組が、もはや学業から興味が離れ、本気を出さなくなった
(3)あらかじめ獲得している知識に頼り、問題文を読むのを省略した
(4)短時間で解こうと、「オセアニアに」から遡って主語を探したが、
   うっかり「キリスト教」を見落として「仏教」へ目が行ってしまった
(5)もう老化による衰えが始まっている
(6)サンプリング(被験者選定)に偏りがあって、母集団の分布を反映でき
   ていない
(7)その他

●前提1:脳内エージェントの仕事は意識に上らない

われわれの脳のはたらきは、たとえて言えば、部下が勝手にやった仕事を、あたかも自分がやったかのごとく、うっかり錯覚しているマヌケな上司、みたいなことになっています。

「歩く」という行為を遂行するためには、右足と左足を交互に前へ出さなくてはならず、そのために、脳は、今この瞬間に、この筋肉を収縮させよ、という指令をいちいち送り出しているに違いありません。けれど、われわれはそんなことを意識できません。

下記の文章がなんとなく読めちゃう部下の働きは大したもんだと思います。「こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です」。

冒頭の問題なんて、チョー簡単で、一瞬で解けたかもしれないけれど、それを分解すれば、けっこう長い思考過程を経てきているはずです。

目の前にある文章から拡散した光を水晶体が集光し、網膜に倒立像が結像されます。それを視神経が捉え、脳内にイメージが再現されます。

眺めている対象は文章であることを理解し、一文字づつ区分けし、「次」「の」「文」「章」「を」と頭から読み込んでいき、文字列を記憶したのかもしれません。

全部読み終わるのを待つことなく、読んだ端から、構文解析を試みていたのかもしれません。「ウサギは」まで読み込んだところで、「ウサギ」はこの文の主語を表す名詞であることを理解したのかもしれません。

そして、その文字列は、あの動物を表現したものであると理解し、予め記憶されているその動物の姿を引っ張り出し、意識に上らせたのかもしれません。

そうは言っても、あの問題が解けるためには、きっとこんな思考過程を経てきているはずだ、と後付けの推測をしているにすぎず、本当にそんな過程を経たのか、自分でもよく分かりません。

思考過程を明示的に書き出すのって、そんなに簡単なことではないのです。それができたらAI研究に苦労は要らないわけで、われわれの頭の中に組み込まれたアルゴリズムをせっせと書き出して、機械に移植していく作業を続けていけば、最後には、ぜんぶ移植し終わって、われわれと同等に賢いAIが誕生するわけです。そうは問屋が卸しません。

「ウサギ」という答えが出てくるのは、「あたりまえ」な感じがするけれども、あたりまえの中身はさほどあたりまえではありません。このことは、後に続く話の前提として、押さえておいていただきたいことのひとつです。

●前提2:候補空間を舐めつくして、網羅的な解を提示すべし

次の問題を見てみましょう。

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【問題3】

xを実数として、次の方程式を解きなさい。

x^2 - 5 x + 6 = 0
……………………………………………………………………………………………

二次方程式を解く問題で、何のひねりもない、ごく普通のものです。レベルは、中学3年。

回答欄には、割と大きな空白が設けられています。もし、ここへ、でかでかと

x = 2

とだけ書いて提出したら、どうなるでしょう。

x = 2 は解であることには間違いありません。試しに元の方程式の左辺のxに2を代入して計算すると、結果はゼロになり、確かに右辺のゼロと等しくなっています。

じゃあ、正解を答えているのだから丸をもらえるかというと、そうはいきません。この問題の配点が10点だとすると、せいぜいいいとこ1点もらえるくらいが相場なんじゃないかと思います。

その2という解は、いったいどこから湧いてきたのでしょう。天啓のごとく、突然ひらめいたのでしょうか。この問題は、霊感力を問うものではありません。

問題文をスマホに入力し、「Yahoo! 知恵袋」に投稿したら、親切な誰かが答えを書き込んでくれたのでしょうか。それはズルです。

「方程式を解く」と言ったとき、次の二つのことをしなくてはなりません。
(1)方程式を満たす解をすべて示す
(2)示した解以外に解はないことを証明する

後半の部分が、なかなか大変です。問題文に「xを実数として」とあります。なので解の候補空間は「すべての実数からなる集合R」(※)です。ところが、すべての実数を、しらみつぶしに調べ尽くすことはできません。

※Rは、"real number"の頭文字より。

なので、候補空間内に、(1)で示したもの以外に解が存在しないことを示すには、論理の力を駆使しなくてはなりません。それをちゃんと示すことができていなければ、満点を差し上げることはできないのです。

標準的な解答は、次のようなものです。

……………………………………………………………………………………………
与えられた方程式を因数分解すると

 (x - 2) (x - 3) = 0

が得られる。

2つの実数の積がゼロであるためには、どちらか一方がゼロであればよい。
したがって、x = 2 および x = 3 は解である。

また、xが2でも3でもないとき、(x - 2)も(x - 3)もゼロではないので、
それらの積はゼロにならない。よって、2と3以外に解はない。

答え:x = 2, 3
……………………………………………………………………………………………

では、次のような答案はどうでしょうか。別解と認めて満点を上げてもいいものでしょうか。

……………………………………………………………………………………………
x = 2 および x = 3 が解であることは、元の方程式に代入して確かめること
ができる。

一方、二次方程式には、相異なる3つ以上の解が存在することはない。
それは、背理法で示すことができる。
相異なる3つの実数 α, β, γ が与えられた方程式の解だったと仮定する。
すると、三元連立一次方程式に帰着し、これを解くことにより、解が得られる
が、その解は互いに等しくなる。これは、α, β, γ が相異なるとした最初
の仮定に反するので矛盾。よって背理法により、相異なる3つ以上の解が存在
しないことが証明できた。

答え: x = 2, 3
……………………………………………………………………………………………

先生によっては、2と3という解がいったいどこから湧いてきたのか示していないからダメとするかもしれません。

しかし、私は、論理的に穴が空いていないので、これを別解と認め、満点を与えるべきだと思います。

私は学生時代、こういうふうに先生の実力を試すような、ひねくれた回答を提示するのが得意でした。イヤな生徒ですね。

それはともかく、問題を解く上で大事なことは、中途半端な不完全解では駄目で、解の候補空間を舐めつくした上での網羅的な解でなくてはならないということです。

網羅的に解を示すとは次のことをいいます。
(1)与えられた条件を満たす解をすべて示す
(2)解の候補空間内に、示したもの以外に解はないことを証明する
これが出来ていない限り、「方程式を解いた」とは言えないのです。

さて、この原則を、最初の問題に適用すると、どうなるでしょう。いや、もう、ぐらぐらしてきます。その議論は、また後ほど。

●前提3:逆は必ずしも真ならず

河童の屁がくさいからといって、くさいものがすべて河童の屁であるとは限りません。生ごみだってくさいし、シュールストレミングだってくさいです。これを「逆は必ずしも真ならず」といいます。もうちょっとマシな例はあったかもしれませんが。

ちゃんと見てみましょう。例えば、次の二つの命題 A, B を考えてみます。

命題A:「Xは犬である」
命題B:「Xは哺乳類である」

もし、Xが犬であるならば、Xは必ず哺乳類です。なので、AならばBは成り立っています。

逆はどうでしょう。もし、Xが哺乳類だったとしても、Xは必ずしも犬であるとは限りません。Xは猫かもしれないし、猿かもしれないし。犬である可能性はあるけど、犬であるとは特定できません。

「AならばB」が成り立っているからといって、必ずしも「BならばA」が成り立つとは限らない、これが「逆は必ずしも真ならず」ということです。論理学の初歩中の初歩です。

では、練習問題です。次の“三段論法”の誤りを指摘してください。

 大前提:英雄は色を好む
 小前提:私は色を好む
 結論:ゆえに、私は英雄である

こんなのにだまされちゃいけません。そもそもこれは、三段論法の体をなしていません。三段論法として成り立たせるには、次のようでなくてはなりません。

 大前提:私は色を好む
 小前提:色を好む者は英雄である
 結論:ゆえに、私は英雄である

これなら、論法としては、いちおう合っています。けれども、「色を好む者は英雄である」という命題は、「英雄は色を好む」という命題の逆命題です。

仮に元が真であったとしても、逆は必ずしも真にはなりません。

つまり、三段論法として成り立たせるためには、「英雄は色を好む」の逆が成り立ってないとならないのに、そんな保証はどこにもないってわけです。

●問題を簡略化してから、吟味してみましょう

以上三つの前提を踏まえた上で、これから、元の問題を掘り下げていきます。

問題2において、構文がちゃんと取れるかどうかはポイントではないので、その要因を除外した簡単な問題に置き換えます。

……………………………………………………………………………………………
【問題4】

以下の文を読みなさい。

 仏教は日本に広がった。キリスト教はフランスに広がった。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適切なものは何か。

日本に広がったのは(     )である。
……………………………………………………………………………………………

このように単純化しても、問題の本質は損なわれていません。

さて、ここで「逆は必ずしも真ならず」を思い出してみましょう。「仏教が日本に広がった」という命題が真だったとしても、その逆命題である「日本に広がったのは仏教である」は必ずしも真とは限りません。

神道かもしれないし、キリスト教かもしれないし、盆踊りかもしれないし、田んぼかもしれないし、風呂敷かもしれません。

確かに、仏教は日本に広がったもののひとつであることは述べられているけれども、何かが日本に広がったとしたら、それは仏教に違いない、と特定することはできません。Xが哺乳類だからといって、Xが犬であるとは限らないのと同じ理屈です。

次に、「網羅的な解の提示の原則」を思い出してみましょう。これに則ると、日本に広がったものをすべて挙げなくてはならないことになります。しかも、それ以外にはないということまで示さなくてはなりません。たいへんです。

ホッキョクグマの生息域は、さすがに日本には広がっていないだろうと思うかもしれませんが、それはわれわれの側に知識があるからであって、問題文にそんな情報は提示されていません。なので、それもまだ消去できない候補です。

ただ、ホッキョクグマの生息域が日本に広がったか広がっていないかを、論理的に決定づけるのに必要な情報は、どこにも提示されていません。

つまり、網羅的な解を提示しようとすると、それに必要な情報がじゅうぶんに出揃っていない、ということになります。問題としては、不完全だった、ということになります。

●問題に問題があるときの救済策

この手の困った状況は、工学においてもよく起きます。未知数が、例えば、x, y, z と3つあるのに、方程式が2つしか立たないことがあります。

そうすると、解となる(x, y, z)の組は、無限に出て来て、ひとつに絞ることができません。

こういうのを、劣決定系(underdetermined)不良設定(ill-posed)問題といいます。

こういうときによく使う救済策があります。条件がゆるゆるすぎるのだから、どこかから、新たな条件を引っ張ってきて、厳しく縛ってやればいいわけです。その「どこか」として、先験知識がよく用いられます。

劣決定系不良設定問題に対して、先験知識などによる拘束条件 (constraint condition)を加えてやることで、解が一意に定まるようにすることを「正則化 (regularization)」といいます。

例えば、"Time flies like an arrow." という文があります。この文の構文は、2通りに解釈することが可能です。
(1)時間は、矢のように飛んでいく。
(2)“時蠅”は、矢を好む。

われわれの感覚だと、第一の解釈が自然で、第二の解釈は「無理矢理」な感じがします。しかし、論理だけで攻めようとすると、どちらの解釈も同等に可能で、正解をひとつに定めることはできません。

構文解析のアルゴリズムに「隠れマルコフ過程」を導入すると、確率的な評価が可能になります。二様の解釈が可能であるけれども、品詞の並びにおける隣り合わせの組の起きる確率を評価すると、前者のほうが確率が高い、と出ます。

「生起確率を最大化する」という拘束条件を導入することにより、解をひとつに絞り込むことができた、というわけです。

●拘束条件は内省によってあぶり出せるか

さて、問題4に戻って考えると、与えられた条件のみを用いて、論理を頼りに解こうとした場合、解が一意に定まらない、劣決定系不良設定問題なのでした。

しかし、われわれの側としては、唯一の正解として「仏教」が出て来てほしいと期待する気持ちがあります。

では、この問題を正則化するための適切な拘束条件は何でしょう。この問いこそが、この問題の本質なのだと思います。

われわれは「仏教」という答えに至ることができているので、どうやって解いたのか、自分に聞いてみればいいだけのことです。

「常識」とか「文脈」とか、そういったものを拘束条件として使ったはずなのだと思うけど、それの正体って、論理の言葉で述べるとどういうことになるんだい? と。

それができりゃ、苦労はしないわけですが。先ほど、前提でみたように、脳内エージェントの仕事は意識に上らないので、内省したからといって、あぶり出せるものではないわけです。

問題の難しさが見えてきたでしょうか。

以下は、おまけみたいなもんですが。

●問題の味付けを変えただけで見え方が変わる

問題4における味付けの部分を除去して、味も素っ気もない記号で置き換えてみましょう。

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【問題5】
A は P である。B は Q である。
このとき、P であるのは (     ) である。
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こうしてみると、純粋に論理の問題として眺めることができ、不良設定問題であることが、見えやすくなったと思います。

では、ここへ別の味を付けてみましょう。Aのところへ「ウサギ」を入れ、Pのところへ「耳は長い」を入れ、Bのところへ「ゾウ」を入れ、Qのところに「鼻が長い」を入れます。

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【問題6】
ウサギは耳が長く、ゾウは鼻が長い。
耳が長いのは(   )である。
……………………………………………………………………………………………

これは、冒頭で掲げた問題1そのものです。

記号のところへ具体的なものを当てはめただけなので、論理構造は何ら変わっていないはずです。なのに、不良設定問題であることが、急に見えづらくなったのではないかと思います。

冒頭でこの問題を見た瞬間に、これは不良設定問題だから解けない、とピンと来た人は、あまりいないのではないでしょうか。

ほんとうの問いは、次のようなものです。

……………………………………………………………………………………………
【問題7】
ウサギは耳が長く、ゾウは鼻が長い。
耳が長いのは(   )である。
このままでは劣決定系不良設定問題であるが、これを正則化して、
「ウサギ」が唯一解となるような、拘束条件を挙げよ。
……………………………………………………………………………………………

その拘束条件は、できれば、他の問題にも有効に使い回せるものであることが望ましいです。言い換えれば、われわれが「常識」とか「文脈」とか呼んで、漠然と分かったような気になっているものの正体を、論理の言葉を用いて定義しなおしてください、という問題になります。

たぶん、猛烈な難問なんだと思います。少なくとも、私は、考えても、考えても、これといった答えに至ることができずにいます。

分かった方は、ぜひ教えてくださいませ。

●余談、その1:正答率が低い問題をもうひとつ

……………………………………………………………………………………………
【問題8】
以下の文を読みなさい。

Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、
男性の名Alexanderの愛称でもある。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適切なものを選択肢の
うちから1つ選びなさい。

Alexandraの愛称は(     )である。

1、Alex
2、Alexander
3、男性
4、女性
……………………………………………………………………………………………

この問題に回答した中学生の正答率が38%だそうです。素直な答えは「1、Alex」ですが。

しかし、「AlexをAlexandraの愛称として用いるのは女性である」という文は正しいので、その意味かと思って「4、女性」を回答するのは一理あるような気がします。

この問題に対する正答率が低いことをもって、回答者集団の読解力が低いと推論するのは、短絡的なのではないかと疑わしく思います。

●余談、その2:文脈に引っ張られやすい私たち

こういうの、ご存知でしょうか。

A:平山、平山って10回言って。
B:平山平山平山平山平山平山平山平山平山平山。
A:世界一高い山は?
B:ヒマラヤ。
A:エベレストでしょ。

ピザ、ピザ……と言わせておいて、ひじを指すというバージョンもあります。

こんなのにだまされちゃう人が意外とよくいます。正解をちゃんと知ってるのに、なぜやられちゃうのでしょうか。どうやら、文脈に引っ張られるのがわれわれの思考のクセになっているようです。


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《森園みるくさんの個展を見てきました》

6月10日(土)〜20日(火)、銀座「スパンアートギャラリー」にて、森園みるくさんの『マンガ家森園みるくの官能とエロス』出版記念個展が開催されました。

私は、17日(土)に見てきました。エミ・エレオノーラさんのアコーディオン弾き語りを客席で見ていた女性、ただ者でないオーラを放っていましたが、やはりただ者ではなかったです。山桜桃(ゆすら)さん。
https://matome.naver.jp/odai/2142389069458493201

http://himeyusura.com/


写真はこちら。
https://goo.gl/photos/EM9tKJ2h6t1jT12w5



《本日正式オープン! 鶯谷「コスプレ横丁」》

200人収容できて、7店舗から自由に注文できて、ウェイトレスはコスプレイヤーというオイシイお店が、本日6月23日(金)、鶯谷に正式オープンします。

店員として登録されているコスプレイヤーは100人以上いて、その中には「世界コスプレサミット」日本代表を務めたトップレベルの人もいるのだそうです。

初日は
・チーズ&ワインバーのお店
・焼き鳥のお店
・海鮮のお店
・ケーキ&アイスのお店
の4店舗が営業する予定です。もしかすると、
・串揚げのお店
が加わって5店舗になるかも、とのことです。

場所は、JR鶯谷駅南口から左手へ徒歩2分ぐらいのところです。歩道から階段を降りて車道の下を右へくぐり抜けたすぐ左。「東京キネマ倶楽部」が入っているビルの1階で、入口が隣り合わせになっています。

前身は2016年8月9日(火)より営業していた「うぐいす谷 劇場型横丁」です。一度閉店して、全面リニューアル。出店店舗は総入れ替えです。

「コスプレ横丁」の企画者の一人にあまの もの氏がいます。あまの氏は所沢の出身で、たわしおじさんと十年来の仲です。

そのつながりがあって、私は、開店準備中の14日(水)と、プレオープン初日の16日(金)に、ちょいとおじゃましてきました。

開店前のことは、たわしおじさんが、ブログに写真入りでレポートしています。
http://ameblo.jp/tokorozawaaisu/entry-12284161660.html


鶯谷駅を降りて帰宅の途上にあるサラリーマンと思しき人たちが、店の中を覗き込んで通り過ぎていきます。営業してるなら、今すぐ入るぞ、ぐらいの姿勢の人もけっこういます。

徐々に整えていくような格好で、まだ大々的に宣伝はしていませんが、プレオープン当日には、お客さんがいっぱい入っていました。待ち構えていたんでしょうね。

イチオシは、チーズ&ワインバーのお店で提供している赤ワインです。モルドバ共和国産で、絶品です。これがグラスで一杯500円! ありえない安さです!


《『よろずや探偵談』近日上映!》

沢村東次監督『よろずや探偵談』が、6月29日(木)〜7月2日(日)の4日間連続で、「ザムザ阿佐ヶ谷」にて上映されます。また、7月16日(日)には、『カナザワ映画祭 2017』にて上映されます。

映画のウェブサイト、および上映スケジュールはこちら。
http://yorotan.com/

http://yorotan.com/news/


沢村東次監督へのインタビュー記事が、ウェブ版の産経新聞に掲載されています。さらに「ねとらぼ」も記事にしてくれました。

◎生命保険を解約して制作費を捻出、『よろずや探偵談』監督

2017.6.17 02:00
産経ニュース【映画深層】
生命保険を解約して制作費を捻出 本業は実は…
「よろずや探偵談」沢村東次監督のロマン
藤井克郎(産経新聞文化部)
http://www.sankei.com/entertainments/news/170617/ent1706170001-n1.html


◎セーラー服おじさん、映画デビュー、教祖になっても「にゃんっ♪」

2017年06月22日 22時38分 更新
ねとらぼ
セーラー服おじさん、ついに映画デビューを果たす
教祖になっても「にゃんっ♪」
怪しい人だらけのナンセンス娯楽活劇!
藍乃ゆめ
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1706/22/news149.html



《鯉沼愛実監督『ささくれ』上映会は明後日!》

かつてデジクリに寄稿してくれていたこいぬまめぐみ(鯉沼愛実)さんの映像作品『ささくれ』の上映会が、明後日、日曜日にあります。

名称:ささくれ上映会
日時:6月25日(日)3:00pm〜5:00pm
場所:池袋「月の砂漠」(ヨルダン料理レストラン)
   東京都豊島区西池袋 1-26-5 東山ビル2階(池袋駅西口徒歩1分)
   http://tsukinosabaku.com/

参加費:500 円
上映会告知ページ:
https://www.facebook.com/events/283266285456884/


経緯等は、こちらをご参照ください。
https://bn.dgcr.com/archives/20170530110100.html