はぐれDEATH[36]はぐれでさえ恐れる絵の具の危険な誘惑
── 藤原ヨウコウ ──

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一応(!)エカキなので絵の具も使う。

ここしばらくは絵の具を使えなかったので、クロッキー帳と鉛筆、後はデジタルでフィニッシュしていたのだが、いよいよデジタルでは手に負えなくなってきた。

脳内シミュレーションで完成させているイメージを、デジタルでは再現できなくなったのだ。

ソフトウェアの問題ではない。ボクのイメージ力の問題だ。ちょっとお恥ずかしいのだが、どうやらイメージ力がここにきてさらに上がっているらしい。我ながら成長が止まらないよい子である(笑)

もともと絵の具で描いていたのだから、イメージの源泉はやはりアナクロな方法論にある。イメージと偉そうな言い方をしても、しょせんはボクの妄想の域を出ない。昭和の妄想力はデジタルに追従できなかったわけだ。

あっさり諦めたわけではない。関東単身赴任時代からずっと試行錯誤をしていて、「?」とは思っていたのですが、アホなボクのコトである。

ナニかの勘違いだろうと思って、しつこくデジタルでやっていたのですが、やはりどうにもならないコトが判明した。

きっかけはMac環境の大幅アップグレード。MaverickでCS4シリーズをずっと使っていたのですが、さすがに今後のOSのアップデートを考えると今の内に手を打たないとヤバいコトになりそう。

ハードは今使っているiMac(2015 MID)のメモリを16GBに増設して、外付けSSDから起動させるようにした。ソフトはParallels Desktop12を追加してMaverick環境を仮想デスクトップで走らせるという荒業である。

これなら最新のOSでも今の環境を守れる。幸い処理速度はまったく問題なし。

OSの問題もあるのだが、とにかくこれ以上Adobeに献金する気にはなれない。アホなアップデートでソフト単体は重くなる一方だし、使わない機能ばっかり追加されても意味ないし。

それでも京都にいる上でネット環境は重要だし、デジタルで楽が出来ることが多いのもまったく否定しない。ボクさえ満足できていればの話だが。





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だが、上記したように肝心要の絵を描く上で支障が出てきた。もやもやした気分でストレスを抱えるのも正直いかがなものかと思って、先日久しぶりに墨と硯と筆を引っ張り出してきて試しに描いてみた。

悲しいぐらいあっさり、求めていた表情が出来てしまって、ある意味がっくりした。あんなに必死でPainterとPhotoshopをいじくり倒したのに、墨と筆だと5分である。この落差はかなり激しい。

ちなみに墨はいつ買ったのか分からないぐらい昔のヤツだが、硯でこしこし摺るとイイ味が出る。墨をするのは結構楽しかったりする。

いっぽうの筆、もこれまたいつ買ったのか分からないぐらい昔のヤツだが、まったく問題なし。というか、むしろ昔よりも筆遣いが楽になってる気がする。

結構太い筆なのだが、極細の線が余裕でひける。これは恐らく鉛筆での訓練の賜物だろう。訓練といっても、ただひたすら描いてただけですが。

etudeが疎かになっていたので、少し不安だったのだが問題なかった。

むしろタブレットの方が困難なような気がする。それぐらい直接筆で描くのは楽だ。わざわざ困難な状態で描いていたのに気がついた。手錠を繋がれているようなもんだ。

それでも何だかんだで描いていたのだから、本来の方法に戻れば楽になるのは当たり前なのかもしれない。結果として、アホな訓練をしていたようなもんである。

さすがに紙は新調しました。ちなみに、最初に墨で描いたときは厚手のA4コピー用紙。描こうと思えばどうにでもなるのだ。

取り敢えずB3のケントブロックを用意したのだが、このサイズでちょうど良かった。というか、もう既にサイズアップをしたい気分があるのだが、これはどうにか抑えている。

モノを増やしたくないし、保管するのも面倒だから。ここはデジタルが圧勝ですな。

で、さくさく描き上がった下描き(?)をスキャナーで読み取ろうとしたら、スキャナーが死んだ…… _| ̄|○;

スキャナーも酷使してたから、仕方がないと言えば仕方がないのだが(これもいつ買ったのか分からない)、とにかく作業を進めたかったのでデジカメで複写して、無理矢理デジタル化した。

デジカメで複写が出来ちゃったので、原稿サイズの上限はいきなりほぼなくなってしまった。いやいやいや、それはダメだって。

まぁ、ともかくアナログレベルでの下描きの状態が変わっただけの話である。何しろ楽で早いのだ。上記したように、既にデジタル環境を整えちゃったのでアップデートを気にする必要もない。

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気がかりなのはアホな好奇心の発露である。

こうなると色を使いたくなるのが人情というもんだろう(ホンマか?)。

久しぶりに絵の具を購入しようと思って、ネットでいつものリキテックス(レギュラー)を検索してたら、「プライム」という新しいシリーズがいつの間にか出ていることに気がついた。透明度が上がっているらしい。

絵の具で描く時は、大概いかがわしい混合技法を応用しているので、透明度は重要である。いわゆるテンペラと油画の混合技法だが、ボクはテンペラの代わりにジェッソを使い、油絵の具の代わりにアクリルを使う。

この方法は、以前所属していた某団体で知り合った井上君に示唆してもらって、独学でマスター(?)した。

アクリル胡粉とやらがあったのにも驚いた。アクリル樹脂の進化はまだ途上にあるようだ。

実際、先日描いたetudeは出来上がってすぐに、一眼レフで複写してデータ化したのだが、まだ完全に乾ききっていなかったのか、三日ほどすると絵の具の厚み(といってもそれほど塗り重ねたわけではないのだが)が明瞭になり、見え方が丸っきり変わってしまったのだ。

レギュラー・シリーズとの透明度の差は歴然としている。まぁ、これはこれで当たり前の話なのだが、データ化したモノと比較すると圧倒的な存在感を発揮する。ちなみに、絵そのものの評価は別です。

こんなことは分かりきっていたはずなのに、自分が描いた絵でこのような格差を目の当たりにすると、データが実に虚しく感じる。

もっとも、データ化してしまえば応用の範囲は別の次元で大きく広がるので、これはこれで良しとする。上手に使い分けをすればいいだけの話だ。

最大の誤算は、ドライヤーを持っていないということだ。ぼーずにドライヤーが不要であるのは言うまでもなかろう。ただし、絵の具を乾かすとなると話は別である。

一週間ほどドライヤーなしでetudeをやっていたのだが、とにかく時期も時期なので(この稿を書いているのは6月末から7月初旬にかけて)なかなか乾かず、どうにもイライラしてくる。仕方なくドライヤーの購入である。

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かてて加えて、筆の手入れのためにシャンプーとリンスまで購入しなければいけなくなった。こちらもぼーずとは無縁のグッズである。近所のドラッグストアで購入したのだが、悲しいくらいつるピカなのでちょっと恥ずかしかった。

筆は選ばないのだが大事にする人である。アクリル絵の具はその名の通りアクリル性なので、自然素材の筆にかかる負担はかなりのもんである。

自然素材と言っても、高価で希少価値のあるモノではない。むしろ画材屋さんで安売りをしている筆しかボクは買わない。

上賀茂にいた時、ももちに筆をバラバラにされたので、「筆は安物に限る」強迫症があるのだ。何しろ高い筆から順番にバラしていってくれるのだ。

どうやら高い筆ほど噛む時に気持ちがいいらしい。学生時代から愛用していた刷毛もこの時バラされた……高かったから大事にしていたのだ。

防御措置もそれなりにしていたのだが、ことごとく防衛線を突破されてしまい、まともな筆がなくなったのはいうまでもあるまい。恐るべし、ももち! かわいいんだけど(ハートマーク)

ももちが傍にいないのは悲しいが、取り敢えず筆は安泰である。それでも、間違っても高価な筆は買わない。

とにかく絵の具で描くのは楽しい。この楽しみを思い出した上に、今後も続けていくと、確実に何かしでかしそうな予感がするのだ。実際、もういくつも思いついちゃっているので危険この上ない。

一番危険なのは、やはり画面サイズと素材である。

かつて試してめちゃめちゃイイ感じだったのが、シナベニヤ合板に綿布を貼り付けて、ジェッソで下地を作ったヤツだった。

とにかく絵の具を選ばない上に強固この上ない。しかも安い(!)。板なんぞはコーナンに行けば簡単に手に入る。綿布も行くとこに行けばかなり安く手に入れられる。油絵の具だってまったく問題なし。というか、もともと油画の手法なのだ。

画面のサイズが大きくなれば、当然絵の具の量も増えるわけで、この辺の兼ね合いをここしばらく考えていた。もちろん、描いた後の絵の措置の仕方も考慮に入れる必要がある。まだ手探りですが。

ついでに皮算用まで始めている。まぁボクの皮算用がまともな結果になったことはないので、当然妄想の域である。

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こんな具合で、危険な誘惑が一杯なのがアナログの世界である。

ちなみに、アナログレベルで少々ヘマをしても、デジタル化してしまえば大抵のことはどうにかなる。というか、アナログで修正する方が楽なんだけど。

フィニッシュはやはりデジタルになっちゃうので、入稿の仕方そのものは今までと同じである。クライアントに迷惑を掛けることもないだろう。速度の方も多分問題ないと思う。いざとなれば、デジタルでそっこー片付ける。

前にも書いた気がするが、ボクはデータを信じていない。モニターも全然信用できない。印刷はもっと信用していない。

色相も彩度もコントラストも、デジタルで大抵どうにでもなっちゃうのだから、信用しろという方が無茶である。とにかくクライアントが満足してくれればそれでイイのだ。

とにかく、アナログ作業は強固な自制心がないと泥沼に陥る。絵の具の誘惑はそれほど恐ろしい。

アナログレベルの完成度をより高度に求めれば、当然のコトながらデータ化した時のギャップに悩まされることになるし、原画を入稿しても結局はデータ化されてしまうのだから、どう転んでも不利なのだ。

とにかく、テキトーならテキトーである方が入稿する時は問題が減る。この辺はボクの線引きの仕方次第だが、恐らく死ぬまで悶々とすることになるだろう。

とか言ってるハナから、データで再現するのが不可能な金・銀等の金属顔料を使うことを思いついちゃっている。酸化する素材ならなお面白い。

タブローなら成立するが、ボクのように印刷という工程が必ず入る立場の人間にとっては、厄介この上ない。

とにかく危険が一杯な日々である・・・_| ̄|○;


【フジワラヨウコウ/森山由海/藤原ヨウコウ】
YowKow Fujiwara/yoShimi moriyama
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最近、本業で口に糊できないエカキ。これでエカキと言ってイイのか正直不安になってきている気の弱いぼーず。お仕事させてください…m(_ _)m