まにまにころころ[124]ふんわり中国の古典(孫子・その4)謀攻篇を一気に読破
── 川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito ──

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コロこと川合です。まにフェスが終わってはや一週間。まだ疲れが心身の奥に残っていることに、驚きと焦りと嘆きを感じる月曜日。

これが老いというやつか、と思わないでもないけど、よくよく考えれば過去の開催後だってひと月くらい抜け殻になってたような気も。

大丈夫、大丈夫、というわけで、元気に今回も孫子の話です。孫子に健康法とか回復法とか書いてないかなあ……

孫子は基本的に人を使う側の話なので、部下をどう活かして敵に勝つかということは書いてあっても、疲れた体にはこの漢方が効くよ、なんてことは書いてないんですよねえ。そんなこと書いてある兵法書、あったら逆に怖いけど。

行軍中、喉の渇いてきた部下に、この先に梅林があるよ、って言ったら、皆が梅干しを想像して唾液が出て渇きが癒えた、なんて故事は他でありますけどね。





◎──『孫子』作戦篇(四)

敵を倒す動機は怒り。敵の利を奪う動機は報償。だから、戦車戦で敵の戦車を十台以上も奪う働きがあれば、真っ先にその者を賞賛し褒美を与える。

そして、奪った戦車の旗を付け替えて自軍を乗り込ませ、捕虜は手厚く扱って取り込む。

これを「敵に勝って強さを増す」という。戦は勝つことを良しとし、長期戦を良しとしない。そのように戦のなんたるかを知る将軍は、国民の生命と国家の安危を司るのだ。


◎──『孫子』作戦篇(四)の解釈

ごめんなさい、作戦篇、四まででした。前回取り上げておけばよかった。内容も完全に前回の続きです。前回の部分は、長期戦は避けろ、物資は敵地で調達しろ、という話。今回、それに加えて、兵士のモチベーションの話と総括。

作戦の骨子にあたるのが、この篇ですね。

・戦争には国が傾くほどコストがかかるから、短期決戦が要。

・長期戦は勝ったところで疲弊してしまい、他国に狙われる。

・物資の調達は敵地で行うことで、輸送コストやリスクを大きく削減できる。

・敵を倒す動機付けは、敵に対する怒りをうえつけることによる。

・敵の持つものを奪う動機付けは、褒賞による。

・大きな戦果を挙げた者は、大いに賞賛し褒美を与える。

・敵から奪った軍需品や捕虜を自軍に編入し、勝つごとに軍を増強する。

こんな感じでしょうか。

コスト感覚、モチベーション管理、業績に応じた褒賞、設備や体制の増強、と。ほら、なんか経営者が好きそうな雰囲気でしょ。(笑)


◎──『孫子』謀攻篇(一 〜 四)

戦は敵国に損害を与えずに勝つのが上策で、打ち破るのは次善である。敵軍に損害を与えずに勝つのが上策で、打ち倒すのは次善。

大隊、中隊、小隊も同じく、打ち倒すのは次善にすぎない。百戦百勝が最上ではなくて、戦わずして相手を屈服させることが最上の策である。

したがって、最も望ましい戦というのは、敵のはかりごとを潰すことである。次いで、敵が頼みとする外交関係を潰すこと、さらに次いで、敵の軍隊を討つこと。

最悪なのは城攻めである。城攻めなど、他にどうしようもなくてやむを得ず行うものだ。攻城兵器の準備に三か月、土塁を築くにも三か月はかかる。

将軍が怒りを抑えられないがために、兵士をアリのように城壁にとりつかせて、兵士を三分の一も失ってなお城を落とせない、なんていうのは悲惨である。

つまり優れた将軍というものは、戦闘によらず敵兵を屈服させ、攻城戦をすることなく城を落とし、国を落とすのも長期戦に持ち込まない。相手に損害を与えることなく、何も損なうものが無い状態で天下を争う。

だから兵も損なわず、完全な状態で得るものを得るのだ。これを、敵のはかりごとを攻めることで、実現させる。これが「謀攻の法」というものである。

ここまでの話に従って戦の仕方を考えるならば、自軍の兵力が敵軍の十倍なら相手を包囲し、五倍なら攻めかけて、二倍なら相手の分断を図る。

互角ならば、頑張って戦う。劣っているならなんとか逃げ、勝てそうにないのならそもそも戦をしない。兵力が少ないのに頑なに挑んでも、強大な敵に虜にされてしまうだけである。


◎──『孫子』謀攻篇(一 〜 四)の解釈

要は、直接的な戦闘行為にいたる前に、相手を屈服させることこそ最上という話。そりゃそうだろうって話ですが、戦争ってのは殴り合いがすべてじゃないよと。

あいつとやり合ったらマズい、と思わせるのも戦争。兵器の開発競争だって、敵国を潰すためにするんじゃなくて、相手を屈服させるとか、譲歩を引き出すとか、そのためにするものですよね。孫子的には、理屈にはかなってる。

でも、大陸への進出を阻まれ、物資を絶たれ、外交的にも孤立させられ、結果、暴発を招いて大惨事に至った戦争もあったので、何事も理屈通りに事を運ぶというのは難しい。

こちらの理屈と相手の理屈が合致しない場合だって、多々ありますしね。教育レベルの問題もあれば、宗教や思想、信条が絡んでくる問題も。


◎──『孫子』謀攻篇(五 〜 六)

将軍というものは、国、すなわち君主の補佐役である。その将軍と君主が緊密であれば国は強く、隙があれば弱い。そのため、君主が軍に対して気をつけておくべきことが三つある。

一つ目は、進むべきではないことを知らずに進めと命じ、退くべきではないことを知らずに退けと命じること。これでは軍に枷をはめるというものだ。

二つ目は、軍のすべてを知らないのに、将軍と同じように軍について執務を執ろうとすること。これでは兵が困惑してしまう。

三つ目は、軍の部隊ごとの役割や指揮系統、現場での動き方を知りもしないのに、将軍と同じように命令すること。これでは兵は疑念を抱いてしまう。

軍が困惑し疑念を抱いていては、他国の諸侯に攻められるだろう。

君主が軍を統率する将軍をさしおいて余計な口出しをしては、軍は乱れ、利を逃すことになる。

つまり、勝利を得るためには五つのポイントがある。

一つ、戦うべきか否かを知るものは勝つ。

二つ、兵力に応じた戦い方を理解できるものは勝つ。

三つ、国のトップから末端の兵士まで目的を共有し一丸となれるものは勝つ。

四つ、十分な備えをして、相手の不備を待てるものは勝つ。

五つ、将軍が有能であり、君主がいたずらに干渉しないものは勝つ。そのため、相手を知り、己を知れば、百戦しても負けない。

相手を知らず、でも己を知っていれば、一勝一敗、勝つことも負けることもある。相手のことも己のことも知らなければ、戦うたびに負けるだろう。


◎──『孫子』謀攻篇(五 〜 六)の解釈

軍師や将軍の心の叫びというか。現場を知らないで余計な口出しをするな、と。

でもこれって、孫子のような優れた人間が将軍として部下にいてこその話で、信じて任せてしまうというのはなかなか難しいものなんですよね。

それでも、任せるべきことは任せ、目を配るべき要所のみを押さえて把握し、兵ではなく将軍に指針を示すのが、君主の仕事ということでしょう。

さて「彼を知り己を知れば、百戦あやうからず」というのは、孫子の中で最もよく知られているフレーズのひとつ。ここで出てきます。

これまた、そりゃそうだろうって話なので、相手の情報はどうやって入手するんだよと言いたくなるでしょうが、孫子の最後の篇にスパイを用いた情報戦の話が出てくるので、それまでお待ちください。

最後の勝つためのまとめが、分かりやすいですね。

・戦うべきかそうでないかの判断ができるか

・兵力に応じた戦い方ができるか

・上から下まで意思統一ができるか

・準備を整え、相手の不備につけこめるか

・信任できる将がいて、余計な口出しせずにいられるか

ほら、これまたなんか経営者が好きそうな雰囲気でしょ。(笑)

古代中国の兵法も、現代の会社経営も、根っこは似通ってるのが面白いところ。二千五百年前から必勝法が言われているのに、百戦百勝の国も会社もないのもまた面白いところ。

結局、これを知ってることに意味はあるのかという疑問も出てくると思いますが、ほら、『はじめの一歩』で鴨川会長が「努力した者がすべて報われるとは限らん。しかし、成功した者は皆すべからく努力しておる」と言ってるのと同じで、知っていることが勝利の必要条件ってことで。


◎──今回はここまで

今回、謀攻篇を一気に片付けました。ふんわりざっくり書いてるつもりでも、なかなか読むの面倒くさい感じだと思いますが、ちょいちょい面白くもあると思うので、どうぞお付き合いください。

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【川合和史@コロ。】koro@cap-ut.co.jp
合同会社かぷっと代表
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・最後の味園で新年交流会&断髪式
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