映画ザビエル[42]陸海空、こんなところで世紀の救出/カンクロー

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◎ダンケルク

原題:Dunkirk
公開年度:2017年
制作国・地域:イギリス、フランス、オランダ、アメリカ
上映時間:106分
監督:クリストファー・ノーラン
出演:フィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、
バリー・コーガン、ハリー・スタイルズ

●だいたいこんな話(作品概要)

第二次世界大戦。ポーランド侵攻に勝利したドイツ軍は、その後一年足らずで北フランスまで勢力を広げ、新兵器の圧倒的火力と戦法で英仏連合軍を追い詰める。

イギリス首相チャーチルは1940年5月26日、フランス北部の港町ダンケルクに取り残された兵士の救出を命じ、民間船舶まで総動員したダイナモ作戦が発動される。それは史上最大の撤退作戦だった。




●わたくし的見解

今年の一本は「ラ・ラ・ランド」と、春に豪語してしまった気がするのですが、本年度観ておくべき作品の双璧をなす映画。それが「ダンケルク」です。(また、豪語してしまった。えへへ)

史上最大40万人の救出作戦! であるとか、実話!! など、プロモーションで大々的に打ち出している表現は、軽く受け流してもらった方が映画をより楽しめるかと。

監督自身の言葉を借りれば、戦争映画というよりは「サバイバル・アクションムービー」であり、そのジャンルとしては超大作で、かつ本年度最高の出来と言って過言ではありません。

少なくとも(前作「インターステラー」の時も言いましたが)クリストファー・ノーラン監督作品では、最高傑作です。

クリストファー・ノーラン監督作品は、そのファン以外にとっては少し小難しかったり、ちょっと面倒、くどく感じられたりするものでした。たとえ、それが「バットマン」のような、アメコミ原作の娯楽作品であったとしてもです。

しかし、本作「ダンケルク」は、もっのすごシンプル。一人の若い英国人兵士が、敵国ドイツ軍から包囲されたフランスの港町から、ドーバー海峡を越え無事に祖国イギリスまで戻って来られるか、ただそれだけの物語。

そのため、サバイバル・アクションムービーと位置づけるのが、極めて妥当と言えます。

主人公の若い兵士は、登場シーンに象徴されているように、ウンコしたいのに矢継ぎ早に訪れる命の危機に直面し、なかなかゆっくり用をたすことが出来ない不憫な若者なのです。

このように文章にすると、ブルース・ウィリスあたりが演じる、ややコミカルで飄々とした、しかしながら無敵で不死身の主人公が登場したかのようですが、残念なことに本作の彼は「ランボー」や「ボーン・アイデンティティー」シリーズの主人公のような特殊スキルをまったく持たない、本当にただの若者。

たまたま生きた時代のタイミングで兵士になっただけなので、ヒーロー的に描かれるのは主人公ではなく、彼(を含む30万人以上の兵士)を救出するべく、ダンケルクにやってくる人々です。

ダンケルクの沿岸で待つ兵士を救出にくるのは、海軍に加え民間の船舶、そして援護のためにやってくる空軍のスピットファイア(戦闘機)。

それぞれの視点から、救出作戦が時系列どおりに進行します。シンプルな構成の中にも、ノーラン監督らしい演出だと感じたのは、陸海空ごとの時系列は狂わないものの、それぞれの視点が合流するまでの時差を巧みに利用し、緊張感に拍車をかけているところです。

また効果として素晴らしかったことの一つに、時計の音。主人公がウンコしたいのに、なかなか出来なかった冒頭からチッチッチッと時を刻み始め、その音が鳴り止むまで、緊張の糸は張りつめたまま。

その緊迫感は、映画のほぼ全般にわたって維持され、映画体験として見事です。ノーラン作品としては、非常にタイトな106分の上映時間も、この体験に一役買っています。

私は勝手に、ノーラン劇団と呼んでいるのですが、クリストファー・ノーラン監督は、同じ俳優を何度も起用することで有名。本作は、主人公こそ無名の若手俳優を起用しているものの、やはり脇を固めるのはノーラン作品ではお馴染みの顔がちらほら。

もはやノーラン作品の代名詞に近いマイケル・ケインは、今回は声のみの出演でしたが、キリアン・マーフィーとトム・ハーディーが主要キャストであったのは、ファンとして嬉しいところ。

個人的に愉快だったのは、ノーラン監督は同じ俳優を使うだけでなく、彼らへのイメージがほぼ固定されているんだなと確信したこと。俳優に、今までのノーラン作品とは違うイメージのキャラクターを演じさせようとはしない。

今回も、ヒロイックな役柄は当ててもらえないキリアン・マーフィーと、自己犠牲の男トム・ハーディーを、ファンはご堪能下さい。

ファン以外の方にとっても「ダンケルク」は、絶対に充実した映画体験の出来る作品として、強く推奨します。好き嫌いが大きく分かれるミュージカルではないという点でも「ラ・ラ・ランド」以上に、お勧めの今年の一本です。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/

映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。