羽化の作法[47]フリースクール「東京シューレ」との出会い/武 盾一郎

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◎4月8日(火)

美大浪人生三人組女子が段ボールハウスに絵を描きに来た。
https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1718765471501666:0


◎4月11日(金)

この日は「東京シューレ」に行った。不登校の子たちのフリースクールだ。ちょっと前にスタッフと一緒に何人かグループで西口地下道に来て、段ボールハウス絵画制作中の僕に話しかけてきたのだった。

雇用からはみ出した人たちの家に、はみ出し者の僕が絵を描いてたら、学校からはみ出した子ども達がやって来た。

フリースクールのカリキュラムは、子どもたちとスタッフで話し合って決めている。部活ではないけど「探検部」みたいなのがあって、「どこどこに行ってみよう!」とか「誰々に会いに行きたい!」などアイデアがあると、スタッフがそれらをアシストするのだ。

「新宿西口地下道に行ってみよう!」ということで、集まった子たちとスタッフでやって来たようだった。




子供たちといっても十代半ばの子たちで、人見知りというか思春期らしいよそよそしい感じがあって、みんながみんな積極的に話しかけてきた訳ではなかった。スタッフの山下耕平さんがその場を取り持ってくれた。

その中で、特に積極的に自分の考えを伝えようとしてた子がいた。現在「不登校新聞」の編集長の石井 志昂さんである。当時は「しこっちゃん」と呼ばれていた。
https://www.facebook.com/futokoshinbun/

「では、今度は僕が東京シューレに行きますよ」ということで、訪ねていくことにしたのだった。場所は曙橋で新宿駅から歩いて30分くらい。

マンションの二階のドアに「東京シューレ」という看板があった。玄関には子供たちの大小様々な大きさの靴があり、仕切りのない広い事務所用のマンションという感じで、この一室に幼稚園くらいから高校生くらいの年齢の子どもたちがが混ざり合っていた。

本を読んでる子、卓球をしてる子、鬼ごっこをしてる子、何人かで話し合ってる子。

スタッフの山下さんが玄関先に来て、「みなさん聞いて〜、絵描きの武さんです!」とみんなに声をかけたけど、子どもたちの反応はほとんどなく、スルー状態。

山下さんは「まあ、こんな感じです」とにこやかに中に案内してくれた。

https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1718754414836105:0


これからしばらく僕は定期的に「東京シューレ」に通うことになったのである。

◎4月12日(土)

ウィーン世紀末展を観に行く。

当時はエゴン・シーレが好きだった。油彩というよりもドローイングのようなスピード感がカッコよく見えたのだ。

https://www.google.co.jp/search?q=%E3%82%A8%E3%82%B4%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%AC&rlz=1C5CHFA_enJP754JP754&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwih0Obg-9LWAhXBUbwKHcc0DAsQ_AUICigB&biw=1915&bih=960

自分はライブペインティングのような感じで、新宿段ボールハウスに絵を描いて来たのだけど、絵にスピード感を出すのは難しい。絵は完成してしまうと、墓石のように静かに佇んでしまうのだ。

◎4月13日(日)

自宅で油絵の制作を始める。

新宿段ボールハウスといったストリートだけではなくて、家でも絵画作品を制作したいと思っていたのだが、この頃になってようやく着手できたのだ。

それは、強制撤去で段ボールハウス絵画がすべてゴミとして廃棄された経験から、遺しておける作品を作りたいと思うようになったからだろう。

ストリートでやり始めた当初は、「作品を遺す」という発想はなかった。記録写真すら撮らなかった。瞬間は永遠を凌駕すると心底思っていたからだ。この瞬間はもう訪れない。ならば「記録」は「あの時の瞬間」ではない。偽物だ。

と、本気で思ってやってきたが、実際に100点以上の作品がゴミとして捨てられてしまうと、無意識下に「捨てられずに遺る作品を作りたい」願望が芽生えて来たのである。

この取り組みが20年後、今の自宅での線譜制作に繋がる。もちろん当時は20年後なんて想像していないが。

きっと今、無意識的にやり始めたことは、20年後に形となって顕れてくれるのだろう。線譜のコンセプトがちゃんと伝わり、かつちゃんと食えてるアーティストとして。

◎4月14日(月)

父がやっている会社「セブン企画」の台本の仕事を引受ける。

当時を振り返りながら「羽化の作法」を執筆してるのだが、「しかし、どうやって食っていたんだろう?」と自分でも思ったりする。高田馬場で製作会社を営んでいた父が、ちょくちょく仕事を振ってくれていたのである。

僕は母子家庭で育ったので、父親がどんな仕事をしているのか知らなかった。高田馬場のアパートに自宅兼事務所を構えて、スバルやサンヨーなどから、社内向けマニュアルやビデオなどの製作をしていたのだ。

段ボールハウスに絵を描く前、僕は大学を中退して新宿区新井薬師前にバンドのメンバーと一緒に暮らしていた。その時に初めて親父が高田馬場に住んでることを認識した。

親父は僕が何をやってるかは関心がないようだったが、飯の足しになるからと仕事を投げてくれた。僕は父と会うのはそんなに気が進まなかったけど、お金が欲しかったので仕事を手伝うことにした。

最初の仕事は「キーパンチ」だった。当時はまだ手書きで原稿を書く人が多く、親父の原稿や、セブン企画から外注したライターの手書き原稿を、ワープロでデータに変換する仕事があったのだ。実際に求人でも「キーパンチ」というのがあったのである。

成人して初めて、仕事という形で親父と出会った。それは少し嬉しくもあり、そしてまたとても悔しくもあった。喜びと憎しみを同時に抱えていた。

その後バンドが解散し、失恋もし、埼玉の実家に引き篭って親父との接触も断たれるのだが、絵を描き始めて、新宿西口地下道に通うようになるのである。

段ボールハウスに絵を描き始めると、埼玉に帰れなくなる状況が頻繁に起こるので、高田馬場の親父のところに泊まらせてもらうようになった。そこでまた親父と再会するのである。

最初は段ボールハウスに絵を描いていることに、何の関心も見せなかった親父だが、僕が逮捕されたニュースを知った親父の友人から連絡が来て、「倅さんはあなたの(左翼)思想を受け継いでますよ!」的なことを言われたらしく、そこから親父は僕の絵画活動を評価し始めるのである。

親父は60年安保闘争の中央執行部だった。革命を本気で夢見た青年だったのだろう。当時の話を聞くと、本当に「革命前夜」のような状況が日本にも繰り広げられていたらしい。

しかし親父はその後除名され、他人には理解できないような挫折を味わったのだろう。それ以降、一切選挙にも行っていなかったようだ。

別に僕本人は親父の思想なんて受け継いでる自覚はないが、なんらか凄く影響を受けているのは間違いないだろう。

そして「絵なんか描いてるんじゃあ野垂れ死ぬしかないだろう」と、再び仕事を投げて貰うようになって行ったのだ。

この頃になると「キーパンチ」という仕事はなく、親父もキーボードで原稿を書くようになっていたが、台本自体を任されるようになった。

資料を渡されて台本にまとめる作業で、ニッチな製作物なので原稿の書き方も独特だったが、かつてキーパンチをしていたので、なんとなく要領がつかめていた。

何も考えずに他人の文章をトレースするキーパンチだけど、それによって僕は親父の文体をなんとなく体得していたのである。

なので、このトレース作業は割と意味があるんだなあと今になって思う。それは絵でも一緒なのだろう。気になったらトレースして出力してみるのだ。何度も繰り返してるうちに、なんとなく出来るようになってくる。

新宿で段ボールハウスに絵を描き、親父の会社セブン企画から台本の仕事を貰い、東京シューレに通い始める4月であった。

5月はまた新たな出会いが待っていた。(つづく)


【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/ちゃんと食えてるアーティスト】

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藤井春日(写真)
藤沢芳子(絵画)
能野裕子(造形)
Bird Deco(造形)
武盾一郎(線譜画)
H@L(絵本)
うえだしげこ(イラスト)
野谷美佐緒(絵画・アラビア書道)

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