装飾山イバラ道[209]微妙で大事な加減をYouTube動画で会得
── 武田瑛夢 ──

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これまで私がYouTubeで見るのは、もっぱら猫動画だった。それが今は、いろんなジャンルの動画を作る人々がいるので、毎日楽しませてもらっている。

「困った時のYouTube動画」と言ってもいい。今は何かのやり方を知るのに、YouTube動画ほど便利なものはないかもしれない。

私はパソコンでつかういろいろなアプリケーションの、マニュアル本を作成する仕事をしてきた。動画は複雑な操作の説明にはあまり向かないし、本が持っている落ち着いて読める良さは変わらない。

しかし、数秒の連続した動きを流れで見せたいような場合には、やはり動画が一番てっとり早いと思う。

この点で「手芸」や「料理」は、動画との相性が素晴らしく良い。「手芸」は真珠のネックレスの糸通しの動画で、「料理」は秋刀魚を三枚におろす方法で、動画の便利さを実感した。




●真珠のオールノット

真珠のネックレスは真珠の粒の真ん中に空いた穴に、糸やワイヤーを通して作られている。しかし、この方法だと糸が古くなったり引っかかって切れた時に、すべての真珠の玉がバラバラと飛び散ってしまう、事故が起こる可能性がある。

真珠がもったいないだけでなく、切れる場所によっては周囲の人々が拾ってくれたりして、大変なことになりそうだ。

これを防ぐために、一粒ごとに糸を結んで玉を通していく「オールノット」という方法が昔からある。柔らかい糸で玉、結び目、玉、結び目と繰り返していくのだ。すべて結ぶからオールノットなのだ。

これだと一か所糸が切れたとしても、ネックレスは繋がったまま落ちるので、人に迷惑はかからない。このオールノットは手間がかかるそうで、数千円の加工料がかかる。

私が持っているネックレスもオールノットにしてもらったので、玉の間にきっちりと結び目がちょうど良いキツさで入っている。これを見て、どうやって結ぶのかに興味があったのだ。

YouTube動画で探してみると、その結び方をバッチリ解説している動画があった。真珠を糸で結んでいくなめらかな手つきを見ながら、長年の謎が解けたような気がした。

オールノットで真珠を結ぶのは、自分の頭で単純に考えていた方法とはだいぶ違っていた。

複数の方法があるようだけれど、私が見たのは玉に最初に一本の糸を通していて、その玉の穴に針がついた糸を再び通しながらきっちりと結んでいくというものだ。仕上がると玉には二本の糸が通っていることになる。

二本の糸でやるとはなるほどねぇ! という驚き。真珠は高いので、やはりプロに任せた方が安心だけれど、もっと安い天然石の玉だったら、自分でもトライできそうだ。

他に海外のオールノットの職人が結ぶ手際を見せる動画では、針は使わずに手で真珠を器用に移動させていた。とても早くて無駄のない動きは、見ていて飽きない。そして美しい。

●テンポが生む集中力

私は昔から人が編み物を編んでいるのは、見ているだけで面白いと思っていた。リズミカルな動きが好きなのかもしれない。母の編み物を編む手元は、かぎ針でも棒針でも見ているだけで楽しかった。

連続の作業というのは、ベテランになるとリズムが独特で、魅力的になるという不思議がある。リズミカルになるのは作業の効率のためだけでなく、本人が飽きないという効果もあるかもしれない。

私は自分でも帽子ぐらいは編むので、編み物にテンポがあるのはよくわかる。最初はぎこちないのが、ノってくると注意するポイントがわかり、無駄なく動けるのだ。

テンポを刻みながら編んでいくと、自分の意識が一瞬消えて、手が勝手に編み進めていくことがある。「無」になって編んでいたのか、脳が勝手に休むのかわからないけれど、何かしらの省エネモードなのは間違いない。

案外この時間って、集中できているような感じがして嫌いじゃないのだ。

YouTube動画には、延々と作業をするだけの動画が数多くある。お母さんの側で、毛糸が編まれて形になっていく様子をずーっと見ている子供の目線のような気持ちになってくる。

「すごいなぁ。上手だなぁ。zzz……」と、結局見ているだけだと眠くなってしまうけれど、身近な人にしか見せなかった手元の技術が、簡単に表舞台に出る時代なのだ。

●同時にできることの多さを競う

「ゲーム実況動画」というジャンルも、スプラトゥーン2をやって初めて興味を持って見た。今までやっていたゼルダのようなゲームの場合、できるだけ情報から離れてネタバレを避けてきた。ゲームを終了するまでは、動画を見るわけにはいかなかったのだ。

それが無事にガノン討伐を終え、YouTubeでゼルダ関連の動画を見て、その世界に驚いた。ゲーマーたちは独自に発見したものを動画にして、まったく異なる楽しみ方をしていたのだ。

トロッコとマグネキャッチで空を飛ぶアイデアなんて、私はゲームをしていて少しも思いつかなかった。これは開発者たちも驚いたアイデアのようだ。

スプラトゥーン2はシューティングで戦うので、「終わり」というものがないタイプのゲームだ。だからネタバレということも気にしなくていいので、動画による上手い人のテクニックや立ち回りがとても参考になる。

凄いと思うのは、ゲーム実況動画では喋りながらゲームをプレイしているのに、バンバン敵を倒していくことだ。四人対四人なので敵は四人いるのだけれど、どこに誰がいるのかの索敵が素早い。

ボムという爆弾を投げては相手を撃ち、高速で移動している。移動もイカになったりヒトになったりと常に変化しているのだ。

録画で後から声を当てている動画もあるけれど、説明しながら戦うことに特に苦を感じていないようだ。ライブ実況をしている人もいるので、同時にできることの多さというのが、ゲームの強さと言える気がしてくる。

照準を合わせるエイムの腕をあげるために、良いエイム練習の方法を紹介している動画も多い。私も動画を見て練習をして、もっとエイムの腕前を上げたい。

料理ジャンルでは秋刀魚の三枚おろしの動画は、この時期になると以前はほぼ必ず検索して見ていた。秋刀魚のお刺身がすごく好きなので、自分で作るためだけれど、ワンシーズンに二、三回ぐらい作って秋が終わってしまうので、動画を見ずに三枚おろしができるようになかなかならなかったのだ。

今はさすがに見なくてもできるけれど、料理では本当に動画のお世話になったと思う。クックパッドなどでも動画が増えていて、音楽と一緒に早いスピードで料理が出来上がっていくので、数秒で作り方の全貌がわかってしまう。

料理動画のおかげで、「少々」とか「適量」とか「火が通ったら」などの加減がわかる人が増えたのではないだろうか。

手芸でも料理でもゲームでも、作業上での「微妙だけれど大事な加減」を知ることに動画が役立つ。自分の周囲の人の教えだけに頼らなくてもいい。そういう時代が来ている有難さを感じるのだ。


【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/


YouTube動画で、流行りの「スクイーズ」を知った。小学生や中学生の少女たちが低反発素材でできた動物やパンのスクイーズを、ひたすら潰しては「めっちゃ低反発!」と喜んでいるものだ。

私もブルームのを一つ買ってみたら、すっかりハマってしまった。一昔前のゴム素材のものと違って、高品質のものは、驚くほど柔らかくてゆっくりと元の形に戻る。母もこれを握るのが楽しいみたいなので、年齢に関係なく「触感の癒し」というものはあると思う。