映画ザビエル[43]象の耳を触っているのか、鼻を触っているのか/カンクロー

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◎三度目の殺人

公開年度:2017年
制作国・地域:日本
上映時間:124分
監督:是枝裕和
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、満島真之介

●だいたいこんな話(作品概要)

裁判で勝つためには、真実は最重要事項ではないと考えてきた弁護士の重盛は、つねにビジネスライクに依頼人や案件と向き合ってきた。

30年前の殺人事件で、かろうじて死刑を免れたものの実刑判決を受けた、前科のある男の強盗殺人を争う裁判の弁護を引き受けたことで、重盛は流儀に反し真実という闇に引き込まれていく。



●わたくし的見解

邦画では稀少とも言える、ハートフルやコメディに頼らない重厚なドラマです。

本作は、裁判ものやミステリーとしては少々詰めの甘い感があるため、伊坂幸太郎のような伏線をすべて回収しきるミステリーを期待すると楽しめません。東野圭吾作品のような、エモーショナルなカタルシスも求めない方が得策です。

純文学系と割り切ってご覧ください。深淵を覗きこむと、深淵からもまた覗かれている。みたいな、ちょっと何言ってるか分かんないですけど(サンドウィッチマン(c))と言われかねない、モヤぁーっとした事象の映像化としては、かなり成功しています。実に面白い。(これも(c)か)

鑑賞後もモヤモヤできるので、モヤモヤするのが好きな方には格好の材料となるでしょう。公開中の作品ですしミステリーでもあるので、あまり具体的な内容に触れずに言及したいとは思うのですが、今回タイトルの「象の」云々というのは、劇中のセリフより拝借したもの。

三隅という男の強盗殺人を争う裁判で、最初に弁護を引き受けたのは、福山雅治演じる重盛とは別の弁護士です。三隅に前科のあることや、手口が残忍であることから、検察側からの死刑の求刑は必至。

にもかかわらず、容疑者の三隅は毎回違った供述をするため、お手上げ状態になった弁護士が、旧知の間柄の重盛に弁護の協力を求めるところから物語は始まります。

やり手弁護士の重盛が加わっても、裁判の行方は危うく厳しい展開が予想されるなか、二人の弁護士が事務所に泊まり込んだ際の雑談として「象の」くだりが登場します。

盲目の人々が実際に象を触ったあとに、象についてそれぞれが語ると、象の体は大きいため触った場所の違いによって見解がバラバラに。結果、口論になってしまうという昔話のようなもの。

もしかしたら私たちの行なっている裁判は、それに程近いのではないか。事実とは、象のようなものなのではないか。

象の耳を知っている人、鼻を知っている人、それぞれにとっての象は確かに真実で、誰も間違ってはおらず誰も嘘をついている訳ではない。ところが誰も象のすべてを把握できていない。そのなかで口論しているだけなのでは。

というのが、この作品のテーマのひとつなのだと思います。事実と真実の間に生まれる齟齬と言ってもいいかも知れません。

物語の本筋は、実際は何が起きたのか。知りたい鑑賞者は、主人公とともに翻弄され、主人公にリードされて結論に辿り着こうとした時に、それは違いますよ。と、三隅からスカされます。

え、じゃあ結局どうなの?! とモヤモヤしながら、作品のタイトルを見つめ、それで納得された方も多いことでしょう。私もその一人です。

と同時に、追いモヤモヤすることも出来ます。これは、まったく個人的な作品のしがみ方なのですが、三隅の真実、三隅の物語ではなく、重盛だけの物語と捉えることです。

極端なことを言えば、三隅などという男や事件そのものが実在せず、真実と向き合うことを意図的に避けてきた、重盛の反動の表面化なのでは、と。

(そうなるとシンプルに精神疾患の物語になってしまうので)もう少しソフトに言うならば、真実から逃れてきた重盛が変化するための、自己投影の道具でしかない三隅。という見解も、わたくしとしては捨て切れません。

しかしこれは、あくまでも副旋律、オブリガート。主旋律はやはり、重盛が三隅に取り込まれていく様子を眺め、物語の事実と真実を見つけようとすることであり、その視点だけでも実に面白い(←二回目)作品に仕上がっています。モヤモヤ好きには必見です。ぜひ、モヤモヤして下さい。

【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/

映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。