ローマでMANGA[124]五日間のマンガ三昧「ルッカコミックス」/Midori

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。


●イタリア最強のルッカコミックス

今年も例年通り11月の最初の週に、五日間の「ルッカコミックス」が開催されて、例年通りスタッフとして日本人ゲストのお世話係(?)をしてきた。

このフェスティバルの正式名称は「ルッカコミックス&ゲームス」で、実際にはアニメも入っている。「ルッカコミックス、ゲームス&アニメーション」にするとちょっと長すぎだから入れないのかな?

フェスティバルが開催された当初は「&」以後はなくて、コミックスの祭典だった。新たな表現媒体が登場するたびに名称を変えるのも不便だし、よっぽどのことがない限り、これで行くのだと思う。

「ルッカコミックス&ゲームス」の特徴は、町の郊外の展示会場で開催するのではなくて、中世時代に建設された街(当時は一国)をぐるりと取り囲んだ外壁の中の、旧市街ほぼ全部を使って開催されること。





●去年も書いたけどとりあえずルッカの概要

ルッカ市は、かの花のフィレンツェを州都にいただく、トスカーナ州の一都市。フィレンツェからは中近距離列車で約一時間の場所にある。

イタリアの都市は新興でない限り、古代ローマの足跡がついている。そして、フィレンツェで花開いたルネッサンスも。

ルッカ市はイタリアが統一される前は、他の都市同様に独立した都市国家だった。6世紀に伯爵領、12世紀には共和国になった。

現在のルッカの外観を特徴付けているのは、欠くことなく残っている街を取り囲む外壁だ。

外壁はすべての街にあったのだけど、19世紀の終わりにイタリアが統一された時に、一部残してもよいが外壁は取り壊すようにとのお達しがあったのだ。ルッカは市民がすべての外壁を個人的に購入し、全部残したという特殊な事情がある。

現在見られる外壁はルネッサンス期のもので、全長4.5キロ、十一個の要塞と三つの門がある。

壁の上は車が二台すれ違い、かつ歩行者が悠々と歩いて支障のないくらいの幅になっております。並木があって、ルッカ市民の犬の散歩やジョギングコースにうってつけ。

中世の終わりからルネッサンスにかけて攻勢を誇った街だから、当然ロケーションはその当時の建物に囲まれていることになる。

これもルッカコミックスの特徴で、時代がかった建物と石畳にコスプレイヤーが歩き、マンガを探し、マンガ家を求めて歩き、ゲームを求めて歩く、という組み合わせがルッカならでは。

↓会場の地図。
https://maps2017.luccacomicsandgames.com/

メイン会場は街で一番大きな「ナポレオン広場」に設置された、大テントのコミックス出版社のブースが集まった所。

この広場は代々統治するファミリーが、お屋敷兼仕事場として使っていた建物の真ん前に位置し、その広場をコミックスブースに当てるということは、コミックスへの敬意を失っていないということだ。

ローマで年二回開かられるコミックスフェア「ロミックス」が、どんどんキャラフェスになっているのと一線を画している。

元公爵のお屋敷は現在「ルッカ県」の事務所になっていて、ルッカコミックスの時は展示会場になる。

大人気の日本のアニメ、グッズ、画材は「ジャパンタウン」という別会場が設けられていて、オッセルバンティ庭園という元兵舎を使って、カップラーメンブースまで出る日本街と化す。

http://www.giuseppelunardini.it/progetti/giardino_degli_osservanti.html
http://goo.gl/JnCkT7

ゲーム関係は外壁の外に大きなテントの専門の会場があり、外壁の上はちょっとジャンル分けが難しい、ファンタジー系のグッズやコスプレコンテストの舞台、壁から降りなくても腹ごしらえができるように、食べ物の屋台などがブースを設けている。

ルッカの旧市街に入るのは自由だけど、各会場に入るには切符を提示する必要がある。切符はカード系だとなくす恐れもあるので(かつてそういうことが多々起きたのだと思う)、繊維の入った紙の腕輪状の物で、引っ張って切れてしまうような代物ではない。

一般入場者は毎日日替わりで色違い。スタッフは別の色(今年は水色)で、五日間ぶっ通し装着していなければならないわけだけど、一度着けるとお風呂に入っても取れない。
http://goo.gl/5W246w

●ルッカコミックスの楽しみ

ここまでに書いたように、ブースがジャンル別になっているので、自分の好みのジャンルでルッカのフェスティバルを楽しめるわけ。

私の場合はマンガ、manga。五日間マンガ三昧になるので夢の世界のよう。

ルッカコミックスにはお役目で行くわけだが、マンガに囲まれる以外にmanga家さんとお近づきになれるという役得もある。

お近づきと言っても、お迎えに上がってルッカコミックスとしてようこそのご挨拶をする10分だけ、あるいはイベントの間の一時間だけ、という場合もあるし、昼食も夕食もご一緒という場合もあって密度にかなり差があるけれど。

これまで「お近づき」になったmanga家さんは一様に作品に対して真摯で、読者のことを考え、インタビューの答えを聞いてイタリア語に訳しつつ、感謝の念が湧き上がってくるのが常なのだった。プロ、の一言。

●タケダサナさんの場合

今回、インタビューの通訳を受け持ったのはタケダサナさん。
http://www.sanatakeda.com/

日本よりも海外で知られているマンガ家さんで、アメリカのイメージコミック社から、原作家のマジョリー・リュウさんと「Monstress」というファンタジー作品の作画を担当している。

今回、イタリアの大手出版社から、この作品のイタリア語版の第2巻が出てゲストとして招待された。

日本ではなくアメリカで(海を渡るのはデジタル原稿でご本人は日本住まい)仕事をしているのは何故か、と誰でもがまず疑問に思うことを、どのインタビューでも聞かれた。

ゲームの会社をやめてイラストレーターとして独立した頃、日本では萌えのブームが始まった。タケダさんの絵柄は萌えには遠く、萌を描きたいとも思わなかった。

切羽詰まったところ、日本で受け入れられないなら、日本に閉じこもらなくても受け入れてくれるところに行けばいいじゃないかと思って、アメコミに売り込んだそうだ。

そこでマーベルからOKが出て、マジョリーさんと組んで「X-23」の作画を担当し、マジョリー・サナコンビが誕生した。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0785147985/dgcrcom-22/

マンガの作画はそれが初めてで、現在の「monstress」にしても、マジョリーさんが世界観を表すキーワードとして示してきた「アール・デコ」、「少女」、「怪物」のどれもサナさんには無縁のキーワードで、苦心しながら自分のものにしていったそうだ。

monstressの絵を見て、誰もが魅了される細かい柄は、マジョリーの要求した「アール・デコ」を嘘にならないように、自分の中にある日本的なものを融合
して作ってったそうだ。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1632157098/dgcrcom-22/

「本当はああいう細かい作業が苦手で、吐きそうになりながら描いてます」という言葉はほほえましかった。

これまでの自分の体験から、苦手な案件がどうしても持ち上がってくるので、それを自分を広げる機会と捉えることを学習した、今は「お、今度はそう来たか」と思えるそうだ。

マンガで哲学。というか、一芸に秀でると人生哲学に行き着くのだと思う。

●ルッカコミックスでのお仕事

ルッカコミックスで、期間中だけスタッフとして仕事をするようになったのは、2011年に谷口ジローさんがルッカコミックスの特別ゲストとして招待された時に、私を通訳、お世話役として指名してくださったのがきっかけだった。

(↓Lucca Comics Talks フランス、アメリカ、イタリア、日本のマンガ家の「私とマンガ」)


それ以来、日本人ゲストのお迎え、及びイベントの通訳を仰せつかってきた。実は三年前から裏方でちょっと派閥ができて、あちらの派閥から若いイタリア人の日本語通訳が入って私の御役目が減っていき、昨年はほとんど何をしていいのかわからない、窓際状態だった。

今年は派閥間で調整がついたらしく、私が所属(?)していた派閥の人々も昨年に比べていきいきしていた。

私の仕事は日本人ゲストが気持ちよくいられるように、日本式のお迎えをする、ということに落ち着き、突発で通訳の必要がある場合(突然のインタビューの申し込みとか)は受ける、ということになった。

日本というのはどの業界でも、ちょっと特殊なのだ。日本人の習慣というべきか。日本はいかなることでも、始まりと終わりの儀式が必要なのだと思う。

学校の入学式、卒業式。始業式、終業式。会社にも入社式やそれに類したものがあり、すべての業務に大なり小なりその儀式がついて回る。日本人にとっては当たり前すぎてその儀式があることすら意識していないノだろう。

たとえば、ルッカコミックスで言えば、「12時にどこそこでファンを前に質疑応答イベントがあります」という時に、日本人は10分くらい前に会場に着く。

会場では前のイベントが開催中で、そのイベントに必ずしもルッカコミックス側のスタッフが付いているとは限らない。入り口には切符の腕輪を確かめるアルバイトがいるだけだ。

日本だったら、イベント自体の司会者とは別にゲストをお迎えする係、あるいはその会場のイベントをすべて把握している運営係がいる。

「ようこそ、こちらへどうぞ」と、とりあえずどこにいたらよいか示してもらい、関係者と簡単な挨拶とか、超簡単なイベントの要約の説明とか(たとえすでに文書やメールなどで確認しあっていたとしても)があるわけで、それが「儀式」なのだ。

こうしたことが当たり前だと思っていたでしょ? イタリアでは違います。

10分前に会場につきました。会場の入口には、切符腕輪を確認する人しかいません。次、ここでやるはずなんだけどと、片言の英語で聞いても彼にはわかりません。

ふと、会場を間違えたかと何とか確認しようとします。間違っていなさそうだけど……と、だんだん不安になります。

イタリア人とか、他のヨーロッパ人だったら、単に時間が早いだけとわかっているし、「儀式」はないので、時間までコーヒーを飲みに行ったりしてリラックスしたまま臨みます。

私はこの「儀式がある国」の人を、「儀式のない国」の中で不安を持たずに臨んでもらうクッションの役目をすることに、今年からなったわけ。

還暦過ぎて、人と人を繋ぐ役目というのは実に良いではないかと、楽しくマンガ三昧をしてきたのであった。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

前回に触れた100%イタリア製の90年代風ゲーム、「オッパイデウス」がキックスターターで資金募集をかけて、6日で必要額に達したそうだ。

http://leganerd.com/2017/11/10/lindie-italiano-oppaidius-raggiunto-100-kickstarter-6-giorni/
http://4news.it/oppaidius-raggiunge-100-kickstarter/

よかったね!!!

若い人が、ネットを利用して自分で仕事を作っていって、夢を実現する姿を見るのはほんとうに嬉しい。

トランプさん、無事極東訪問終了。ゴルフ場で安倍さんが転んで、みっともないとか言ってる人って何なんだと思ってしまう。他にけなすところが見つからないほどのおもてなしだった、ということなのだと思うけど。

外交で効果を上げるには長期政権ではなくては。安倍さんがいるうちに憲法改正して、まともな国家の道を歩む日本になってほしい。

日本は大国なのだという意識を日本人全員が持って、それにふさわしい役割を国際社会でこなしていくことで、そして日本の技術力でもっとみんなが経済発展をしていける。豊かになれば紛争を少なくしていける。