もじもじトーク[74]ますます身近な存在になってきたWebフォント
── 関口浩之 ──

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。ジングルベルの音楽が、街中で流れる季節になりました。ほんと、一年経つのって早いですよね。

さて、みなさんが毎日接している身近な存在である「文字やフォント」。昨年ぐらいから、文字やフォントをテーマとしたテレビ番組や雑誌の特集が、目立つようになった気がします。

テレビ番組では「マツコの知らない世界 フォントの世界」が今年5月9日に放送され、話題になりました。3,000種類のフォントを見分けるという自称“絶対フォント感”の持ち主、数学教師の須藤雄生さんが登場しました。楽しかったですね。

そして、昨年6月13日には、僕が大好きな筑紫書体シリーズを制作している藤田重信さんがNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演しました。

書体デザイナーがNHKプロフェッショナルに出演することが、フォント業界の関わる人にとってはとてもうれしく、誇らしい気持ちになりました。

雑誌では、月刊「MdN」の2017年10月号で、「絶対フォント感を身につける。[明朝体編]」が特集されました。「絶対フォント感」は過去にも数回、特集がありました。

また、巷では「フォントかるた」なるものも流行しています。僕の大好きな文字グッズであり、Amazonでも売っています。

制作したのは「フォントかるた制作チーム」という女性四名のチームです。僕は「フォントかるた・エバンジェリスト」と言われています(笑)

・フォントかるた
https://www.fontkaruta.com/


書体に詳しいデザイナーや文字っ子だけでなく、一般の方々も、文字やフォントに興味を持つ人が増えてきたと肌で感じています。





●いま知っておくべきWebと文字の話。

昨晩は、株式会社LIGが運営する「いいオフィス」というシェアオフィス&コワーキングスペースにて、『いま知っておくべきWebと文字の話。』というテーマのイベントが開催されました。

・いま知っておくべきWebと文字の話。
https://lig.connpass.com/event/70507/


自分が主催する「文字とデザイン」がテーマの『FONTPLUS DAYセミナー』もそうなんですが、文字やタイポグラフィーに関するセミナーは、このところ、募集開始されるとすぐに定員に達してしまう傾向があります。

昨晩のセミナーも、募集開始日に100名以上の方が申し込みされました。活版印刷や写真植字(写植)を経験したことのない世代の人も、そしてDTPを経験したことのないノンデザイナーの人も、文字の歴史、文字組みの基本、Webフォントの話題などに興味をもたれているのは、素敵なことだと思います。

100名以上の参加者に対する「Webフォントを使ったことのある人?」の質問に、7〜8割の方が手をあげていました。今年、Webフォントはますます身近な存在になってきました。

●デジタルフォントの成り立ち

まずは、musubime(ムスビメ)主宰のグラフィックデザイナー、カワセタケヒロさんが、何百人もの人物のイメージにあったフォントを紹介しました。ガッキーや石原さとみさんの写真もでてきました(笑)

人物だけでなく、会社や製品のイメージにあった書体選びも大事ということなんです。海外では、その企業のブランドイメージにあったコーポレートフォント(制定書体:Corporate Type)を採用している企業がたくさんあります。日本企業はまだまだ少ないですけどね。

また、マイクロソフトOSに搭載されている、日本語フォントの変遷の紹介もありました。

ビットマップフォントってご存知ですか? たとえば、縦横24×24のマス目を使って、漢字や仮名の字形にあわせて、塗りつぶして表現したドットフォントです。

1990年代前半のWindows3.1の頃は、解像度の低いディスプレイ(640×480や800×600かな?)であったため、アウトラインフォントではなく、ビットマップフォントが使われていたのです。

そして、1995年に登場したWinodows 95で「MS Pゴシック」が搭載され、文字幅を文字毎に調整した、プロポーショナルフォントになりました。

2006年にリリースされたWindows Vistaから、「メイリオ(Meiryo)」が搭載されるようになり、すべての文字サイズがアウトラインフォントになったのです。「メイリオ」の語源は「明瞭(メイリョウ)」に由来しています。みなさん、知ってました…?

2013年にリリースされたWindows 8.1では、「游明朝」が搭載されました。ヒラギノ書体を設計した鳥海修さん(字游工房)が書体開発しました。品位のある日本語書体ですね。

Windowsに「游明朝」が搭載されたことが画期的なのは、Mac OSにも「游明朝」搭載されているので、WindowsとMacで共通のフォントが誕生したということなのです。

Webに関わる人にとっては、20年間、置き去りにされていたシステムフォント環境において、とても明るい兆しが見えてきたということなんです。

また、Webフォントという「新しい絵の具」が昨年ぐらいから本格的に普及してきたので、Web制作現場においては、さまざまな書体がブラウザの中で、自由に表現できる時代になってきました。

「新しい絵の具」と表現したのは、いままでは、画像でしか表現できなかった書体が、新しい絵の具のWebフォントを利用すると、HTMLとCSSという筆を使って、豊かに表現ができるのです。

こちらをご覧ください。いろんな猫を、いろんなフォントで表現してみました。じゃーん!
https://goo.gl/ya5W6A


昨晩、カワセさんが「いろんな表情をした人間がいるように、その人にあったフォントがある」ということを解説していました。まさに「いろんな猫がいるように、いろんな書体をWebフォントで表現しました」というのと同じですね。

後半では、専門誌『Typography』編集長の宮後優子さんが、書体の成り立ちから文字組みの基本までをおさらいし、印刷とWebの違いと共通点を解説いただきました。その内容もすごく良かったので、次回のもじもじトークでご紹介しますね。

●たてよこWebアワード

今回のイベントに協力いただいた『たてよこWebアワード』のコンテストの、応募受付が開始されています。W3C/総務省が後援しているので、受賞したら、「W3Cや総務省のお墨付きのコンテンツで受賞したよ〜」と誇れます。ぜひ、応募をご検討ください。

・たてよこWebアワード2018
https://tategaki.github.io/awards/


●日本タイポグラフィ年鑑2018

昨日はうれしいことがありました。砧書体制作所(旧カタオカデザインワークス)の片岡朗さんの新書体「砧明朝体」が、日本タイポグラフィ年鑑2018のグランプリを受賞しました。

片岡朗さん、木龍歩美さん、おめでとうございます! 来春リリースが楽しみです。

2000年に発表された「丸明オールド」から17年。片岡さんが数年前に「新しい明朝体に挑戦している」と、成城学園前前の鰻屋さんで熱く語ってましたが、それがこれなのです。

片岡さんらしい、優しくて熟成された明朝体だなと感じました。今回も、書体構想から何年も掛けてじっくり制作したんだと思います。

・新書体「砧明朝体」 日本タイポグラフィ年鑑2018 グランプリ受賞
http://www.moji-sekkei.jp/news.html


そして、砧書体制作所の木龍歩美さんのきりこの「会津」が、ロゴタイプ・シンボルマークベストワークを受賞しました。タブル受賞です。木龍さんは二年連続ベストワーク受賞、砧書体制作所としては三年連続受賞です。

お二人は丹精こめて書体制作をしており、ときどき、三人で「うなぎを食べる会」をしているので、自分事のようにうれしくなりました。

・きりこ 会津バージョン
http://www.moji-sekkei.jp/kiriko.html



【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。