はぐれDEATH[45]はぐれは金泥・銀泥・雲母の誘惑にあっさり負けた
── 藤原ヨウコウ ──

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以前の稿の最後で、「金・銀への誘惑に負けそう」というようなコトを書いていたのだが、案の定あっさり負けた(笑)

クライアントとのやりとりで、金箔・銀箔(本物ではありません。アルミに着色したもの)の使い方を実験することになったのが発端だった。

金箔は本物を使ったことがあるし、銀箔は「温泉のもと」(現在は入手不可・成分は硫黄)で焼いたりして遊んだことがあるので、それなりの経験はあったのだが、どちらかというとテクスチャーとして扱っていたので、本格的に対峙するのは初めてである。

クライアントのものについてはここでは省く。現在進行形のものなので、無闇に晒すわけにはいかないからだ。ご了承願いたい。

問題は、金泥・銀泥・雲母にコロッと負けてしまったことだ。

PC上でそれなりの見せ方は出来るし、そういうテクスチャーは自作してストックしたものをいくつか持っている。金や銀を塗ってスキャナーで取り込んだものではありません。100%フルデジタル。

ちょっと頭を使えば、この程度のものはPhotoshopだけで十分作れる。やり方は安直にHow to本に頼らず、自分で工夫しましょう。







話が少し逸れるが、いわゆるHow toネタは大嫌いである。昔、某雑誌でHow toネタの記事をけっこう書いていたのだが、「こんなん頼りにして作るってどうなん?」と思ってしまい、ある時期から依頼を断ってしまった。書いてて気分が悪くなるのだ。

How toというのは、しょせん対処療法であり、キッカケに過ぎないとボクは思っている。キッカケにするには、ボクの記事はあまりに基礎的なツール(レイヤーとトーン・カーブだけで大抵のことは出来る)しか使っていなので「これじゃキッカケにもならんか」と思ってしまったからだ。

レイヤーがなかった時代のPhotoshopは、アルファチャンネルを駆使するので、まだHow toネタとして成立していたが、レイヤーの登場でほとんど意味をなさなくなった。

もっともボクは、いまだにアルファチャンネルを愛用しているのだが(笑)

だから、ボク自身もHow toネタは敬遠してしまう。本格的なのは別ですが。テンペラと油彩の混合技法とかは、教科書を横に置いて実験していたし。って、これぐらいか。

あ、あと顔料とメディウムや違う種類のメディウムの混合比の処方とか、顔料の混ぜ方(モノによっては混ぜると有毒ガスが発生する)の本は読んだか。

ただ、後者はいきなり元素記号が出てくるので、一瞬目を逸らした。ボクはロクに元素記号を覚えられなかった、超化学音痴なのである。

水墨にいたっては、完全に見様見真似で自得した。ある時に、後から本屋さんでその関係の本を立ち読みしたのだが、自得した通りのことしか書いていなかったので完全にスルーである。



話を戻す。とにかく自分でやってみて、実際に結果を確認しないと意味がないのである。

金と銀に関しては、ポスターカラーではあるが、学生時代から使っていた。もっとも、この当時は平塗りオンリーだったので(平塗りはめっちゃ苦手)、描画材料として本格的に扱ったことはほとんどなかった。

雲母はもちろん初めてである。これに墨と胡粉代わりにジェッソを併用する。ちなみに、金も銀もまともに本物を使っているわけではありません。高すぎて
よう使わんわ。

雲母の扱いが面倒なことは、先輩から聞いていたので敬遠していたのだが、ここまでくると使わないワケにはいかないではないか、とあっさり転んだのは言うまでもあるまい(笑)

金・銀はもちろん、雲母もそうなのだが、物質光と反射が露骨に出るので、PC慣れしたボクからすると、物珍しさが先に来てしまうのだ。

もちろん、油彩やアクリルでも同様の効果はあるのだが、金・銀・雲母ほど露骨ではないし、まともに重ね塗りの透明度を追求し出すとキリがない。それでも、7〜8月の間はやったんですがね。

墨もそうだが、とにかく物質色のインパクトは、かなりキョーレツである。インパクトのある材料は、ボクの場合、好奇心の対象にしかならない。

水墨を始めたキッカケは、伝・俵屋宗達の「阿吽牛図」を見てからなのだが、「墨でなぜこうなる?」という疑問と、好奇心がない交ぜになった感情が湧き起こったからであり、こうなると当然、ブレーキなど掛からない。

宗達に関しては、奥さんが光悦本絡みで資料を沢山持っていたので、それを参考にして、ワケの分からんコトは奧さんに補習してもらって、これまた見様見真似で学んだ。

この時、光悦本の料紙を宗達が手掛けていたことも知ったのだが、雲母の使い方に関しても(あくまでも見た目です)頭の隅っこにインプットされていたようだ。

金・銀・墨に関しては、実を言うと宗達からパクったものが大半である。金箔も同様。ちなみに、江戸淋派は無視だ。

別に京都を贔屓にしているわけではない。どうも体質が合わないのだ。もっと素直に白状すると、宗達と光琳を比較すればボク的には圧倒的に宗達の方が上なのである。お手本にするなら、上手な人はテッパンである。

書の世界なら王羲之をお手本にするようなもんだ。かの井上有一だって、前衛的な書ばかり書いていたわけではない。著書である『日々の絶筆』の中で、晩年になっても、王羲之のお復習いを何度もしていることが書かれている。

そういう点で、俵屋宗達をお手本にするというのは、ものすごい斜め上だったりするのだが、ボク的には宗達が一番しっくりきた。もともと、まともに水墨と付き合う気はなかったし(それは今でもそう)、あくまでも宗達の表現をどうにか手にしたかっただけなのだ。



当然のことながら、金・銀・雲母の使い方は墨に準じた形になる。当たり前である。墨同様にインパクトの強い材料なのだ。そのくせ、ボクはギラギラの画面を嫌う。

墨もそうなのだが、いわゆる「紙に滲ませる」描き方をボクはほとんどしない。画仙紙を嫌うのは、とにかく紙に滲んでしまうからである。平塗りにはイイと思うし、普通の水墨画をたしなむ皆様にはこちらの方が一般的なのだが、ボクは「垂らし込み」を多用するので、もっぱら雁皮紙か鳥の子紙である。

まともに雁皮紙や鳥の子紙を使うとなると、さすがに貧乏人の懐を直撃するので、ケント紙で代用することの方が多いが、和紙の方がしっくり来るのは言うまでもあるまい。

今回は一枚5円の雁皮紙を、100均で買った画用紙で裏打ちして、作業を始めた。本来ならこんな手間の掛かることをしなくてもイイのだが、とにかく安物の雁皮紙なので、そっこーで画面が壊れるのだ。本物の雁皮紙は薄くて丈夫です。めちゃめちゃ高いけど。

「垂らし込み」は、別に珍しい技法でもなんでもない。水墨はもとより、水彩画でもよく使われる。もっとも、ボクの「垂らし込み」の原点は宗達の『阿吽牛図』なので、一般的な「垂らし込み」とはどうも違うようである。これは先日、ネットで確認した。

調べていただければすぐに分かるのだが、垂らし込みというのは水(もしくは薄い色)を先に描いて、その上に濃色を垂らせて水分が飛ぶ前に、表面張力でできた表層の上で滲ませるという技法(そんな大層なコトとも思えん)である。

面倒くさがりなボクが、イチイチ筆を持ち替えて描くはずもなく、右手に濃色、左手に水を、それぞれ含ませた筆を持って両手で描く。

ちなみに、左手でも普通に絵は描けます。これは、もし右手がダメになった時用と、おねえちゃん対策(おねえちゃんは左利きなので、箸の持ち方から鉛筆の持ち方に至るまで、ボクが先に習得しておいたのだ)に訓練してたら、すぐにできるようになってしまった。

もともとが強情な左利きらしいので、大抵のことは右手と同じように出来る。

金にしろ銀にしろ、違う種類の金・銀を使って垂らし込みをすると、顔料の重さで沈殿の仕方が変化する。これはつい最近気がついたのだが、面白がって使っている。もちろん、墨の中に金や銀を落とすのもありだ。こっちは2004年の個展の際の、エスキースの中で確認していたので、でふぉである。

雲母に関しては、初体験だったので完全に手探りである。とてもではないが、垂らし込みなど無理。今のところ明白な原因は分かっていないのだが、どうも粒子が均一でないためにキレイにのってくれないのと、どうも雲母の粒子そのものが軽いようなのだ。

ドーサを加えて描くのだが、この時点で半透明状態である。ちなみに、墨を少し加えたら銀みたいな色になった。これで、金と銀は色々な種類が作れることが確認できた。胡粉を混ぜればパールホワイトになる(笑)

こうなると、さっさと垂らし込みを放棄して、別の手を使う方が楽である。面倒くさいので間をすっ飛ばして書くが、ジェッソで素描である。これで形を作る。先に雲母で有色下地を描いてしまってから描き込むという、これまた基本的な描き方だ。

ただ、この場合、細かい作業になるので、老眼という厄介な問題が浮上する。仕方がないので、裸眼で描いてますよ。老眼鏡より楽だし。但し、ボクは椅子に座らず、床に画面を寝かせて描くので、結構ものすごい格好になる。両手もこのようにしている。

https://bn.dgcr.com/archives/2017/11/17/images/001

ほとんどプランク状態である。稀に遠くに手を伸ばそうとすると、ナゼか片足が上がってしまうので、こうなると完全にプランクだ。しかも、10秒〜20秒の世界ではない。数分は維持したりするので、描いている間はほとんど筋トレである。

床に直接あたる膝は、クッション入りのサポーターで誤魔化している。座布団持ってないし。でないと、膝の皿が変形しそうで怖い。それでなくても、膝に爆弾を抱えているのだ。



話を戻す。これだけキラキラの画面を作ると、仕上げがかなり難しくなる。当たり前の話だが乱反射しまくりで、角度がちょっと変わると見え方が丸っと変わるのだ。正直、仕上げもクソもないのだがここはボクの勝手で止めている。

それはともかく、金・銀はポスターカラーとはいえ、粉末状のものを愛用している上に、雲母も粉末状である。もちろん、マスクをするなどという高等なことはしていないので、作業中に結構吸ってる気がする。

お部屋の掃除も大変だし。もちろん部屋の窓は全開である。さすがに箔を貼る時は窓を閉め切るが、夏の箔貼りは地獄だ。

エアコン? そんな文明の利器を使えるほど裕福ではないのだよ。扇風機が限界。それでも、箔を貼っている間は扇風機もストップだ。

ちなみに、銀だけはいわゆる銀泥も使っている。正直、アルミか何かに着色してるのだろうと高をくくっていたのだが、なんかの拍子に化学変化を起こして(!)青くなった。原因は不明だ。

黒く変色するならまだ理解できるのだが(硫化銀)、いくら調べても銀そのものが青く変色する事例は、硫黄+重曹の場合しか出てこない。

恐らく硫化銀に変色する過程を、重曹が無理矢理止めたのでこのようなコトになったのだと思うが、ボクは硫黄も重曹も使っていない。

ナゾだ……もしかしたら、有毒ガスが発生しているのかもしれないが、上記したように基本窓全開なので換気はバッチリ(それでいいのか?)



ここでよせばよかったのだが、ここまでくると金銀砂子的なコトもしたくなる。しかし、しつこいようだが、ボクは貧乏人である。諦めかけたのだが、ふとネイルアートに使われるインチキ金銀粉(グリッターというらしい)を思い出したのだ。

だからといって、画材屋なり何なりに走ると思ったら大間違いである。行き先はダイソーだ。言わずとしれた100均。サクッと見つけたのはよかったが、ひょいと顔を上げると、ラメ・マニュキュアがあるではないか。

グリッターは、膠液なりアクリルメディウムを使えばどうにでもなるのだが、マニキュアはエナメル系である。一瞬迷ったが、同時に入手した。

グリッターの方は予想できたし、エナメル系塗料は学生時代に散々使っていたので、それなりに匂いの覚悟はしていた。が、久しぶりに嗅ぐとけっこークラッとくる。歳のせいか????

ちなみに、クラッときたくらいで根を上げるほどヤワではなかったりするので(このへんは会社員時代の工場周りで鍛えてある)、半分ラリりながら作業を強引に進めた。

こうしてツラツラ書くと、結構身体に悪いことしてるなぁ。編集長に没にされるかも(笑)

グリッターはグラッシング・メディウムに混ぜて描くか、グリッターを蒔きたいところにグラッシング・メディウムを先に塗っておいて、その上からぱらぱらと振りかける。後の工程は砂子作りで採用した。

マニキュアはとにかく描くだけ描いて、その上から薄く溶いた胡粉と雲母を混ぜたものを塗り重ねて、光沢を調整した。

最後にラメのグリッターをグラッシング・メディウムに混ぜて、表面保護も兼ねて全体にテキトーに塗った。別にゴリゴリに光ってくれなくてもいいし、ここは偶然に任せたかったので、何も考えずにとにかく塗った。



こうして出来上がったのが、料紙風『金銀雲母墨胡粉蓮図』である。どこに墨を使っているのか分からないだろうが、実は銀の明度調整に使っている。ご覧のように、ぱっと見にはそれ程ぎらついていないようだが、実物はかなりエグいコトになってる(笑)

写真はスマホで撮ったので(一眼レフで撮るほどボクはマメじゃない)、色味は相当おかしなことになっている。ってか、蓮の花のところの薄い紫がふっとんでるではないか……(- -;)

あくまでも参考レベルなので、再現度は目をつぶってください。というか、この絵をまともに再現しようとしたら、ちゃんとしたカメラマンさんにがっつり複写してもらわないと無理だし。それでも、金銀雲母ラメの再現はかなりハードルが高いと思う。

https://bn.dgcr.com/archives/2017/11/17/images/002

とは言っても、それなりにしっとりした状態にはしたかったので、そこそこの光り具合だ。とにかく、角度が変わると表情ががらっと変わる。

これは一般的なタブローにも言えるのだが、今回は「間違ってもPC上で再現できないもの」という、アホな縛りを前もってかけていたので、とにかく乱反射しやすいブツばかりを意図的に選んだ。

トドメのラメ・グリッターは、我ながら実にオイシイ実験結果になった。ちなみに、絵の出来不出来は、今回は無視しているので勘弁していただきたい。

前置きで「How toはイヤ」と書いておきながら、How toっぽくなったのは理由がある。実はこの作文は、『金銀雲母墨胡粉蓮図』を描きながら、乾き待ちの間に書いていたからだ。

ちなみにこの絵は、9月2日未明から9月3日14時の間に描き上げた。作業過程を記録として写真に撮らなかったのは元々、この作文がこんなふうになるとは思っていなかったからである。

まぁ、成り行きと言うコトで(笑)

最後にこんな画材で描きました、ということで。細かいところは端折る。邪魔くさいし。

https://bn.dgcr.com/archives/2017/11/17/images/003

筆は右から100均で買った書道筆、削用筆、写経筆。墨はいつ買ったのか分からんヤツ。あとは頑張って拡大して見てください。

今回は大盤振る舞いだったな、呵々♪


【フジワラヨウコウ/森山由海/藤原ヨウコウ】
YowKow Fujiwara/yoShimi moriyama
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http://blog.livedoor.jp/yowkow_yoshimi/


最近、本業で口に糊できないエカキ。これでエカキと言ってイイのか正直不安になってきている気の弱いぼーず。お仕事させてください…m(_ _)m