グラフィック薄氷大魔王[544]「実家の遺跡発掘」「フードコートで蘇る原初の感覚」他、小ネタ集
── 吉井 宏 ──

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今年前半、愛知の実家に長期滞在してました。制作のための長期滞在は以前から何度もしたけど、たいてい夢中で作業してるので、周囲を見渡す余裕がなかった。

今回はゆったりしてたのでいろいろ気づいた。メモしたまますっかり忘れてたけど、今年の内に書いておこうってことで。





●実家の遺跡発掘

上京した1990年夏の引っ越しを含めると、5回の引っ越しをした。その度にいろいろ処分するので、モノが生き残れる確率は相当低い。

10年前に部屋を埋め尽くしてた大半の本を処分、6年前には残りも書籍自炊した。それ以前の部屋の写真に写っていて、今でも持ってるモノはほとんどない。

なのに、実家の自分の部屋には上京した27年前どころか、40年以上前のモノがざくざくある。「これはいらないだろう、かさばるからヤメ」で置いてきたのだ。もし東京に持ってきていたとしたら、引っ越しを繰り返す間に処分したに違いないモノ。

古いからって愛着があるとは限らない。多少は惜しいと思っても、それ以上に愛着のあるモノを無数に処分してきたわけで。今までのうのうと生き延びてきた、それら古いモノに妙な憎しみさえ覚えるw

実家の古いモノは「有史以前の遺跡の発掘」って感じ。「これからの人生の正念場には必要ないモノ」だったから置いてきたのに、27年後にもしっかり存在してるんだもんなあ。代表的なモノを列記してみる。

・小学校時代までの絵や賞状など
・高校時代に描いたマンガやイラスト
・学生時代の課題作品や卒業制作、コンクールに出したB1作品パネル
・デザイン事務所時代に描いた仕事のイラストの原画
・刷り見本のポスターのポスターを丸めた筒
・本や文庫本、マンガや雑誌、ムック
・マンガやSFのサークルの会報や同人誌
・組み立て途中を含むプラモデルやモデルガンの箱
・Uコンのハンドルやエンジンやタイヤなどの半端パーツ
・LPやEPのレコード、かさばるボックスセット
・紙の展示会でもらった大量のB5サイズのサンプル紙
・ケント紙やキャンバスのストック
・多重録音にハマってたときのオープンリールテープ
・その他捨てそこなったガラクタ

細かいモノでは、高校3年の一学期の期末テストが終わった日に友達3人で買いに行って一回使っただけの釣り道具なんてのもある。値札が付いたままw

ブラウン管テレビ。3台あった70年代の14インチテレビは、今回、リビングの大きなブラウン管テレビを買い換えるついでに、リサイクル処分。ラジカセも家中に5台ほどある。

ソニーのDoDeCaHORNなんて、最近のレトロラジカセブームからすると良いものかもしれない。鳴らしてみたら、ボリュームがガリガリだったけど。

実家滞在中に、東京に置いてるのと同型のScanSnapを買って書籍自炊した。本やマンガなどで、そのまま捨てるには惜しいもの数百冊。先週書いたように、小学館の学習図鑑も自炊したかったけど、残した。万有百科事典はA4より大きいので自炊不可。

ありったけのイラスト原画や作品も、デジカメで簡単に撮影。今まで、アナログ作品は、たまたま撮ったL版写真しかなかったのでした。

これで高校時代以後のほとんどの作品を網羅できた。昔のイラストは画像がなかったから、見せられなくて残念だったんだよ〜。

2011年の長期滞在のときに、大きなステレオセットやガラスの入った大きな額縁多数、十数年分のSF雑誌、数百本のカセットテープなんかも処分してるのだ。

それでも部屋の風景はあまり変わって見えない。物置のどこかにスチール本棚一本分のマンガ単行本を詰めた段ボールと、模型飛行機の雑誌もあるはずなんだよなw

東京で家賃を払ってると狭い上に「空間はコスト」って意識が強いから、モノが増えることに神経質になる。実家では無尽蔵の空間を使い放題だったんだなw

●歩いて行ける距離感

運動不足解消のため、数年前から毎日30分くらい歩いてる。ウォーキングほどでもないけど、ストップウォッチを見ながら歩く。千回も歩いてる定番コースでは、「この角を曲がるときは14分」「コンビニに寄らなければこの交差点では20分」など、誤差数秒で安定してる。

実家滞在中もなるべく歩くようにしてた。普通にクルマで行く距離のコンビニに徒歩で行ってみたところ、たったの10分だった。最寄りの名鉄の駅には7分程度で行けると判明。そんなに近かったのか!

昔、実家にいたときはどこへ行くにも自転車かバイクorクルマだったから、歩いた場合の距離感は把握してなかった。子供の頃には徒歩で遠くまで出かけることもあったけど、所要時間の概念がなかったし。

驚いたのが近くのJRの駅。会社員時代、毎朝バイクを飛ばして約10分の距離。中学の頃自転車で行ったことあるけど、うんざりするほど遠かった印象。歩いて行ってみたら、25分ほどで着いちゃった。

あらためて、Googleマップでクリックして折れ線の距離測定機能を使って調べてみたら、その駅まで2.6km。ウォーキング一回分とほぼ同じ。なんだ、意外と狭い範囲なのに乗物必須と思い込んでたんだ。

●フードコートで蘇る原初の感覚

実家滞在中、平日午後のショッピングセンターのフードコートで。スガキヤラーメンを食べつつ、横のゲームコーナーで高校生たちがダラダラ遊んでるのを眺めたり、小さい孫を連れたおばさんがいたり、BGMで何だかよくわからない洋楽のヒット曲とか流れてるのをぼんやり聴いてたり。

で、ふと思った。たとえばそのテイラー・スウィフトでも誰でもいいけど歌手がいて、作曲家などミュージシャンがいて、写真家やデザイナーがいて、プロデューサーや会社があって、アメリカだから世界に売る体勢が整備されていて、など。そのへんの仕組みってなんとなく知ってるじゃん?

しかし、フードコートで聴くと仕組みがあることを忘れる。ゲームコーナーで遊んでる高校生には、流れてる音楽がどうやってここに届いたかまったく見えないだろうし興味もないかもしれない。

彼らがやってるクレーンゲームだって誰かが作ったものだし、中身のぬいぐるみのキャラクターだってそう(以前、ひつじのしつじくんのぬいぐるみが、まさにそのゲームコーナーで景品になってるのを見たことがあるw)。

「ガイアの夜明け」なんか見てるとイヤでも意識させられるけど、コンビニのおにぎりだってスーパーの衣料品だって、誰かがプレゼンなどで神経をすり減らして企画し、工場で作り、営業が必死で確保した店頭のスペースまで届けてるものなんだよね。ショッピングセンターそのものも誰かの仕事なわけだし。

かつての僕も、テレビやマンガや映画なんかも作り手の存在を意識しない「向こうからやってくるもの」だった。

だから、昨年書いた「マカロニウエスタンは『純粋娯楽映画』『(ティーンになっていろいろ知る前の)幸せなバカ時代』の象徴。いつかそこへ帰りたい大切な心のふるさとのようなw」の感覚はちょっと貴重。

中学ときに作り手にあこがれて、自分もそういう仕事するようになったから、音楽や映像やデザインは特別なモノと思いたい。

でも一般には「ただ当たり前に存在する、そのへんに生えてる草みたいなもの」なんだろうなと、フードコートで思ったのでした。

●白熱電球の寿命

「市販されている白熱電球の多くは1000時間程度の寿命を持つ。階段・廊下のオン・オフの頻度が多い場合の寿命は短い」んだそう。

実家の階段の電球が切れた。この20W電球は、1975年に二階を増築して以来42年間、一度も換えたことがない。階段の天井近くのすごいところにぶら下がってるので、もし切れたことがあっても父が交換したとは考えにくい。

真っ暗な階段は危険なのでしかたない。LED電球にしなきゃいけないのかと量販店に行ったら、まだ白熱電球って買えるのね。

壁の桟を足場にしてよじ登ったけど、転落したら骨折以上のケガは免れなさそうで、かなり怖かったのでした。

……オチは特になし。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


そっか、上京以前と以後がちょうど同じ27年! ところで、「ブレードランナー2049」が観たいのに、苦手な映画館に行きたくない。配信されるまで4か月くらい待つのかー。割増料金払っていいから公開と同時に配信してほしい!

「ブレードランナー(ファイナル・カット)」を35年ぶりに見て、予習も済ませた。当時は期待の割に面白くなくてガッカリした。暗くて狭っ苦しく居心地悪い印象は同じだったけど、レプリカントそれぞれの人物描写がこんなにされてたとは気づいてなかった。

怖ろしい悪役って印象だったルドガー・ハウアーも、自分の運命に必死で抗いながら、最後にはそれを受け入れるイイやつ、というか優しい男として描写されてるし。彼らはみんな不憫。いい映画だった。カルト映画として今まで生き残ってることにようやく納得w

・スワロフスキー干支モチーフの「ZODIAC」発売
https://www.fashion-press.net/news/33277


・スワロフスキーのLovlotsシリーズ「Hoot the Owl」
http://bit.ly/2ruVM9x


・パリの老舗百貨店Printemps 150周年記念マスコット「ROSEちゃん」
http://departmentstoreparis.printemps.com/news/w/150ans-41500


・rinkakインタビュー記事
『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん
https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii