◎ここでコミを取ってください
この数年、夏に催される小鼓体験講座のお手伝いをしています。
(今年の夏のはこれ)http://www.iwf.jp/11osaka/item_2118.html
お手伝いというのは、具体的には会場の椅子並べと受付での半券受け取りです。
ところで、能の音楽って八拍だってご存じでしたか? わたしはお稽古を始めるまでまったく知りませんでした。
わたしも以前、小鼓を習っていたことがあります。
「どうして鼓(みたいなマイナーな楽器、という意味でしょう)を習おうと思ったんですか」とよく訊かれます。
細かいところを省略してざっくり言うと、やってみたい! という友人たちに引っ張られていって、結局わたしだけ残った、という感じです。
小中学校の音楽の時間にはドレミファを習い、カスタネットやハモニカ、リコーダーの演奏はしたけれど、邦楽はまったく教わりませんでした。今のカリキュラムには邦楽もあるそうですが。
体験講座では、能の舞台や楽器について、また、小鼓の構造や材質について、簡単な解説があったあと、実際に鼓を打ってみます。
鼓の持ち方、構え方。小鼓の音には「ポ」「プ」「チ」「タ」の四種類があって、弱い音である「プ」「チ」は、それぞれ人差し指、薬指一本で打つこと、等々……なにごとも、初めてのときには憶えることがいっぱいあります。
けれども、音楽で一番むずかしいのは憶えることではありません。それは鼓も、リコーダーやハモニカも同じです。
体験講座では、「高砂」の待謡をやります。この部分で小鼓は、五拍め、七拍め、八拍めで打つ、同じパターンを繰り返します。
まず、能楽師の先生が「一、二、三、四、……」とカウントを取りながら手拍子を打ち、生徒の皆さんがそれに合わせて小鼓を打ちます。
少し慣れてくると、先生が「じゃあ、謡をいれますね」と言って手拍子はそのまま「たかさごや このうらふねに ほをあげて」と謡います。
とたんに、バラバラッ、と皆さん混乱して脱落します。
わたしもそうだったので、混乱する感覚はよくわかります。手拍子はそのままなのだから、数えていればいいだけのはずなんですが。不思議です。どうすれば混乱せずに演奏できるようになるのでしょうか。慣れ、です。
能の楽器を習うとき、「ここでコミを取ってください」と言われます。
コミというのは休止です。「高砂」でいうと、小鼓を打つ五拍めのひとつ前、四拍めにコミを取ります。
息を吸ってから、お腹に力を入れて止め(これがコミを取るということ)、ほう、とかけ声をかけて鼓を打つ。と、ちょうど五拍めに当たります。
つまり、「どこで打つか」ではなく、「どこで打たないか」でタイミングを合わせるんですね。音楽の時間にカスタネットやタンバリンを演奏したときには、どこで打つかばかり気にしていましたから、小鼓を習い始めたときには目から鱗が落ちる思いがしました。
……………………………………………………………………………………………
◎薬指を楽器とする
あなたは左の掌を見ている。
ゆっくり、一本づつ指を曲げ、指先同士を触れさせる。まず親指と人差指。次に中指を加える。
すると、薬指もその仲間に加わろうとするのだ。小指は知らんぷりしているというのに。
ひとつまみの形は、小指ぬき、薬指ぬきでできている。けれど薬指は無関心でいることができない。いつも隣の動きに気を配っている。疲れる生き方だ。
雨上がりにいきなり増殖したきのこをつみ取るように、薬指から草をつみ取り楽にしてやる。そして、その楽を器に盛りながめてみる。
あなたは薬指を楽器としてながめている。隻手の音を聞く要領で、あなたは薬指の音を聞いている。
【松岡永子】
mail nifatadumi@gmail.com
blog http://blog.goo.ne.jp/nifatadumi
お稽古をしていて、発表会前に先生に言われるのは、間違ったときにそれを顔に出すな、演奏を止めるな、という言葉です。Show must go onですね。
会では自分以外(小鼓の発表会なら、謡、笛、大鼓、曲によっては太鼓)すべて玄人(プロ)の方が務められます。自分が間違わずに演奏すること、は素人でもできなくはないけれど、誰かが間違った時にそれをフォローして観客に悟らせない、というのはプロの技です。
少しかじってから舞台を見ると、プロのすごさがよくわかります。