Otaku ワールドへようこそ![270]テクノロジと芸術の交差領域に何があるのか
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『第11回AI美芸研 シンポジウム』 11/26(日)聴講レポート

名称:第11回AI美芸研シンポジウム『未来のAI』
日時:2017年11月26日(日)1:30pm 開場、2:00pm〜7:30pm
会場:沖縄科学技術大学院大学(OIST)セミナールーム B250
   沖縄県国頭郡恩納村字谷茶 1919-1
   https://www.oist.jp/ja

主催:人工知能美学芸術研究会(AI美芸研)
   沖縄科学技術大学院大学(OIST)

パネリスト:
高橋恒一 理化学研究所 チームリーダー 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ 理事・副代表
中ザワヒデキ 美術家 人工知能美学芸術研究会 (AI美芸研)発起人代表
ロルフ・ファイファー チューリヒ大学名誉教授、上海交通大学自動化学科、リビング・ウィズ・ロボット社科学コンサルタント
モデレータ:銅谷賢治(OIST)中ザワヒデキ(AI美芸研)
参加費:無料
https://groups.oist.jp/ja/aiaae/symposia#03


【開催主旨】

2017年11月3日(金・祝)〜2018年1月8日(月・祝)に沖縄科学技術大学院大学(OIST)で開催される『人工知能美学芸術展』の会期中に6回開催されるンポジウムの第3回。
https://groups.oist.jp/ja/aiaae

https://groups.oist.jp/ja/aiaae/symposia


『未来のAI』をテーマに、3人のパネリストたちがそれぞれ講演した後、全員でパネルディスカッションする。全体で5時間半と、たっぷり時間が取られている。

【プログラム概要】

14:00 〜 14:05 開会のお知らせ
14:05 〜 14:10 OISTからのご挨拶
14:10 〜 14:15 AI美芸研からのご挨拶
14:15 〜 14:30 銅谷賢治氏小講演
14:30 〜 15:50 Rolf Pfeifer氏講演
15:50 〜 16:00 質疑
16:00 〜 16:10 休憩
16:10 〜 17:00 高橋恒一氏講演
17:00 〜 17:10 質疑
17:10 〜 18:00 中ザワヒデキ氏講演
18:00 〜 18:10 質疑
18:10 〜 18:20 休憩
18:20 〜 19:20 全体討論
19:20 〜 19:25 OISTより閉会の言葉
19:25 〜 19:30 AI美芸研より閉会の言葉
        懇親会





【ケバヤシが聴講する狙い】

主催する中ザワヒデキ氏のことを知ったのは、恥ずかしながら、つい最近のことである。10月21日(土)、武盾一郎氏と差しで飲んでいるときに教えてもらったのである。

この日は勝どきで『シンギュラリティサロン@東京 第23回公開講演会』が開催され、金井良太氏(株式会社アラヤ代表取締役)による人工意識についての講演を一緒に聴講した。この講演については、11月10日(金)のこの欄でレポートしている。

『ニューラルネットワークに意識が宿るか?』
https://bn.dgcr.com/archives/20171110110100.html


終了後、バスで有楽町へ行き、ぱっと目についた「八吉酒場数寄屋橋店」に入った。武氏と私が差しで飲むと、頭をフル回転させなきゃならんような抽象的な話題が延々々々と続いてそうとう楽しいことになるのだが、証言者がいないのが残念である。

このときは、金井氏のあの講演の直後だったこともあり、特に調子が上がった。「科学×アート」の話題になった。

科学とアートとの交差領域で、何かおもしろいことができる可能性について、私自身は大いに肯定的であるけれども、ただ、アーティストの中には、科学のことをろくに分かってもいないくせに、自分の作品を理論武装するための飾りとして難しい科学用語を借りてきて、自己流の解釈で使っちゃう例が散見され、あれはみっともないし不快だな、と言った。

そのとき、武氏は中ザワヒデキ氏のことを持ち出してきて、彼はケバヤシ的にはOKなのか、と聞いてきた。その時点で、私は知らなかったのである。

今、振り返れば「すばらしい!」の一言に尽きる。まさに交差領域でおもしろいことをやってる人である。科学の心に対する理解とセンスも、ものすごくいいものを持っていらっしゃる。ゲスト講演者のチョイスもすごい。

金井氏の講演のあった日に中ザワ氏のことを知り、それから一週間も経たないうちに、中ザワ氏の主催するイベントのことを知った。しかも、そのイベントの中で1月7日(日)に開催予定の『第15回AI美芸研シンポジウム』では、金井氏が呼ばれていて、『人工意識/人工生命』をテーマに講演することになっているではないか!

運命的な何かを感じる。10月28日(土)7:06pm、高田馬場のインターネットカフェ・漫画喫茶「自遊空間」から武氏にfacebookメッセージを送り、一緒に行かないかと誘った。しかし、8:47pmに来た返信では、日曜は難しいとのこと。あら、残念。じゃ、私一人で行ってきます。

さらに、11月26日(日)には、『第11回AI美芸研シンポジウム』が開催され、『未来のAI』をテーマに「全脳アーキテクチャ・イニシアティブ」の方が講演されるとか。それも行かなきゃ。沖縄に二度行くことになるけど。

この前、沖縄に行ったのは海洋博のときで、私は中一だった。博多で新幹線から特急列車に乗り継いで、鹿児島で一泊し、そこからフェリー。鹿児島は大正ロマンを思わせる木造の洋館がたくさんあり、宿泊した旅館もそのひとつであった。

沖縄は返還後ではあったが、車が右側通行していた。8月のことで、日焼けなんてもんじゃなく、完全に火傷だった。手足が水疱だらけになり、強烈に痛かった。

沖縄の場合、海水浴のベストシーズンは11月なのかも。セーラー服ふうのビキニを持っていった。実際、寒いと思うことは一度もなかった。前回、プロフィール欄でちょこっとリンクを張っておいた写真がそれである。再掲。
https://photos.app.goo.gl/Xmi0UYYpx8zGzpII3


あれ? 聴講目的を書いてたはずなのに、なんだか分からなくなってしまった。

【概要】

沖縄科学技術大学院大学(OIST)は実に不便なところにある。那覇空港が本島のほぼ南端にあるのに対し、真ん中らへんの恩納村(おんなそん)にある。

高速バスで石川インターまで1時間、そこから大学のシャトルバスが出ているというが、土日は出ない。一般道をとろとろ行くバスでは2時間かかる。

帰りだって、最後まで聴講していると、那覇空港20:05発の最終便に間に合わない。

いつも撮っていただいている、プロの写真家である岩切等氏に同行していただいた。空港でレンタカーを借りていただき、運転していただいたというわけだ。畏れ多いことしてるけど、まあ、正解だ。

会場は「セミナールーム B250」という部屋で、教壇から扇形に広がる立派な階段教室だ。「講堂」よりは狭いけど、200人ぐらい入れそうだ。聴講は無料で、事前登録も必要ない。

開始前、展示を眺めていると、中ザワさんがみずから解説してくれた。碁盤の上に白黒の碁石が置かれている作品は、確定した「目」がひとつもなく、黒先にせよ白先にせよ、先に手を出したほうが負ける図なのだそうだ。

開始時刻が迫ってきても、聴講者がなかなか集まって来ないので変だなと思っていたら、始まってから終わるまでずっと10人程度しかいなかった。内容がものすごーく濃くておもしろかっただけに、これはもったいない。Ustreamで生中継していたというが、どれほどの人が見ていたのだか。

誰もいない森で木が倒れたら音がしたことになるのか、みたいなことになっちゃってる。

(1)ロルフ・ファイファー『ロボット誇大宣伝に対処する』

人々のロボットに対する期待の大きさと、現実の到達レベルのショボさとのばかでかいギャップについて、おもしろおかしく解説した。

映画に出てくるロボットは人間さながらのスムーズな動きで、しかも、遥かに強力で、知能や感情をもっていて、友情や恋愛感情が生まれたりする。一方、現実のロボットは、玉子焼きにケチャップをかけようとして、狙いを外す。

碁でAIが人間のプロを負かしたのが脅威のように言われているけど、AIには決定的な欠陥がある。勝ちたいと思う心がないのだ。

人工知能の知能レベルが人間のそれを追い越す「シンギュラリティ」が来るというのは、ものごとが指数関数的に発展していくのを根拠としているが、倍々ゲームが永久に続くわけがない。いつか平らになっていくよ。シンギュラリティなんて、起きっこないから安心したまえ。

ううむ、たしかに誇大宣伝という側面はある。実際、今は第三次AIブームと言われており、間には二度「冬の時代」があった。

なぜそうなったかと言えば、AIへの期待が膨らみすぎて、今にメイドロボットみたいなのが出てくるんじゃないかと思われていたのに、いつまで待っても出てこないもんだから、反動でペテン師呼ばわりされるようになったのだ。

しかし、だからと言って軽視するのも恐いという思いがある。30年前と現在とではインターネットの普及などにより、世の中ががらっと変わっている。今と30年後とを比べたら、それ以上の大きな変化が来るであろうと予想される。それがどんな変化かは分からない。

30年前に、今の世の中を予見できなかったのだとしたら、そこを大いに反省し、どんな可能性も排除せず、ひとまず保留にしておく態度も大事なのではあるまいか。

(2)高橋恒一『人類を再発明するために必要なこと』

私が沖縄に行った目当てはこれだった。非常におもしろかった。けど、内容が高度すぎて、よく咀嚼しきれていない。

まず、シンギュラリティについて、ファイファー氏の論に楯突くようでやりづらいなぁ、と断りつつ、次のように言っている。テクノロジのアセスメントは、3つの観点を考慮すべし。

1・世界へのインパクトの大きさ
2・いつごろ起きそうか
3・生起確率

これらの掛け算で考える必要がある。シンギュラリティについては、2と3は小さいかもしれないけど、1が大きいので、やはりまじめに考えるべきである。

「第5の科学とは、AI駆動型科学である」という主張が気になったが、第1から第4はなんだったのだろう?

対象の複雑性には「創発的(emergent)複雑性」と「存在論的(ontological)複雑性」があるのだとか。むずかしすぎる〜。オートポイエーシス(autopoiesis)の話も難解。

「創発」とは、以前の論理と以後の論理とを接続する関係性である。それって、ふつうの創発の定義とだいぶ違う感じがする。あれがどうしてこれになるのか、よく飲み込めていない。

理解できれば、ぜーったいにおもしろいはずなのだが、抽象的すぎて理解が追いつかないのがちとつらい。

(3)中ザワヒデキ『未来のAI』

中ザワ氏の講演もこれまた抽象的でむずかしかったのだが、いちばんおもしろいと感じたのは「唯物論的美意識発生仮説」における「美はそれだけで価値をもつ」という考え方だ。

美はどこにあるのか? 対象物と鑑賞者との関係性の中にあるのではないのか?

対象物としては、芸術作品であってもいいし、きれいな景色であってもいい。それを鑑賞する人間がいて、その人間の主観の中に美を感じ取る機構が備わっていて、そのスイッチが入ったから美しいのではないのか?

中ザワ氏は、そうではなくて、鑑賞者がいようがいまいが、美は対象物の中に絶対的に備わっているものだと考えている。

私は、数学の数理体系の中にそのようなものを感じている。数理体系は人が発見しようがしまいが、絶対的にそこにある。で、人がそれを美しいと思おうが思うまいが、それは絶対的に美しい。

人が発見して美しいと感じたその時点から美しさが生じるのではなく、それ以前から絶対的に美は備わっている。発見されるかされないかは、問題ではないのだ。

中ザワ氏は、一般的にも美というものは数理体系のようなものだと捉えているようである。

じゃあ、もし……。AIが創作した美術作品がここにあるとしよう。それを鑑賞するのもAIで、「ううむ、これは美しい」とかうなっている。一方、人類はとっくの昔に絶滅している。このとき、この作品は美しいのか?

たいへん気になったので、挙手して聞いてみた。中ザワ氏の答えは「然り」であった。

【内容】

YouTube に 5時間22分の動画が上がっているので、ご参照いただければ。


【所感】

5時間半という長丁場ではあったが、退屈するということがまったくなかった。3人の講演者に対してこれだけたっぷり時間が取ってあるのはめずらしく、存分に質問できたのがよい。

行くのが大変ならUstreamで見るという手もあるのだが、その場にいることによって、質問し放題という特権にあずかれるのは大きい。

1月7日(日)には金井良太氏(株式会社アラヤ代表取締役)の講演があり、それも行くことにしている。非常に楽しみだ。

写真:
https://photos.app.goo.gl/ZBVqNqQYbuI2gslI2



【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。
http://www.growhair-jk.com/



明日、23日(土)から旅に出る。キューバのハバナと、中国の天津から呼ばれている。フライトスケジュールはこうなった。

12月23日(土)18:00 成田(NRT)─21:30 北京(PEK)、中国東方航空 MU8720、4時間30分

12月24日(日)2:05 北京(PEK)─5:25 モスクワ(SVO)アエロフロートロシア SU201、8時間20分

12月24日(日)7:40 モスクワ(SVO)─12:40 ハバナ(HAV)アエロフロートロシア SU150、13時間00分

12月28日(木)7:00 ハバナ(HAV)─10:30 トロント(YYZ)エアカナダ AC1877、3時間30分

12月28日(木)16:10 トロント(YYZ)─12月29日(金)18:35 北京(PEK)海南航空 HU7976、13時間25分

1月1日(月)16:35 天津(TSN)─20:50 成田(NRT)、春秋航空日本 IJ1032、3時間15分

世界一周である。おっさんがセーラー服を着て世界一周なんて、人類初ではないだろうか。

地球は東へ東へと自転している。西へ向かうと、昼夜の進行から遅れていく。日がなかなか暮れていかない。夜がなかなか明けていかない。12月24日(日)は31時間ある。そのうち21時間20分は機上にいる。

日付変更線を越えた瞬間、ぱっと24時間進む。昼夜の回数が人々よりも一回足りない。周回遅れ。キューバだけがやたらと暑くて、それ以外は寒い。身体がもつのか、ちと心配。