Otaku ワールドへようこそ![271]カリブ海に浮かぶ常夏の島キューバにもオタクはいる
── GrowHair ──

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●ベーシックな生活しかない

海外に出ると、建物や街の構造が違っていたり、言語や通貨が違っていたり、人々の生活習慣や価値観が違っていたり、国家体制や法体系が違っていたりして、ここは日本ではないのだと、否応なく思い知らされることがある。

ふだんなんとなくあたりまえに思っていることが、全世界で通用するわけではないと頭では分かっていても、実地で予想以上の度合いをもって再認識させられるのは、新鮮な感覚をもたらしてくれる。キューバはその最たるもんだった。

古い。なにもかもが古い。建物でも自動車でも、一度作ったものは永久に使い続けようというのだろうか。クラシックカーが現役で走っていると『地球の歩き方 キューバ&カリブの島々』に書いてあったが、たまに遭遇できればラッキーぐらいの感じなのかと思っていた。ぜんぜん違った。

半世紀ぐらいにわたって走ってきた、そうみられる年代物が7割方を占める。特にタクシーはほぼ10割だ。

メーカーからのサポートはとっくに終了しており、故障したら部品が調達できないのではないかと思うのだが、いくらでもごろごろしている中から似たのを選び出し、適当に組み合わせてなんとかしちゃうんだとか。

ハバナの中心街の建物のほとんどは、スペイン統治時代から100年以上にわたって建っているようにみえる。ハリケーンにもびくともしない、分厚いコンクリート造り。

ほぼ真四角で、飾りっ気のない武骨な外観。樹木が風で飛んできてもだいじょうぶなように、窓の外には鉄格子がはまっている。

生活必需品以外、ものをあまり見ない。作っているのはサトウキビや葉巻ばかりで、ものづくり産業がぜんぜんないのか。

カリブ海の美しさを売りにした観光産業はあり、海岸には比較的新しい造りのホテルが立ち並ぶ。しかし、ヒルトンホテルは「ニセモノじゃないよね?」ってくらい古めかしく、垢抜けしない外観だった。

幹線道路はそれなりの交通量があって、トラックが疾走していったりもするので、どこかでは建設ラッシュみたいなのが起きているのかもしれない。





所得税も住民税も消費税も徴収しない。税金は法人から徴収する。教育も医療もタダ。教育水準は高いらしい。しかし、道路の軽微な傷みを修復するなどに充てるお金はない模様。

ネットは普及していない。公園や公共の建物に設けられた Wi-Fiポイントに行かないとアクセスできない。しかも有料。1時間100円程度と、現地の生活水準を考えるとべらぼうに高い。それでも、スマホを持った人たちが群がっている。

テレビは国営放送のみで、故カストロ議長を褒め称える番組などをやっている。広告媒体がろくになく、情報伝達の主な手段は口コミである。

イベントの告知をするのにも、ウェブサイトを作って情報を掲載しておけば済むというわけにはいかず、原始的な手段を頼りにこつこつやらないとならない。

街で見る限り、7割方は黒人。残りは白人。アジア人はほとんど見かけない。日本との交流はほとんどなく、キューバ在住の日本人は98人とのこと。

ベーシックな生活以上の、娯楽的なものはほとんど何もない。けど、人々はやたらと明るくて元気だ。お互いに仲がよく、人種差別などほとんどない。

2両連結のデカくてゴツいバスに乗ったら、通路を隔てて、エンジン音に負けない大声で話すもんだから、非常ににぎやかなことになっていた。

ネットに晒されるという概念がないためか、生活臭丸出しな場面を見知らぬ人から写真に撮られるのを嫌がらない。

半年から一年ぐらい滞在したら、ベーシックな生活を生き生きと営んでいる人々の、めっちゃいい写真が撮りためられそう。10年も滞在すれば、『老人と海』ぐらいオレにも書けちゃうのではあるまいか。

●なぜかキューバにもあるオタクイベント

大した娯楽がなく、日本との交流もほとんどなく、ネットもさほど普及しておらず、気候はカラッとしてじめじめ感のまったくない常夏のこの国においても、奇跡のようにオタクはいる。

ネット環境を持っているリッチな人が、アニメ作品をダウンロードすると、親切にもDVDなどのメディアに焼いてくれるので、みんなで回し見するそうだ。

しかし、格闘系やギャグ系がウケているようで、「萌え」の概念はあんまり浸透していないっぽい。

2017年12月26日(火)〜12月28日(木)、キューバの北側の海沿いにある水族館の一室で『Anime Shuriken Winter』というイベントが催された。主催するのはNihon Bunka Grupoで、代表はDatenshi Otsusuki氏である。

Anime Shurikenは年に3回開催される。「国際オタクイベント協会(International Otaku Expo Association; IOEA)」の加盟イベントになっており、4月に開催されたとき、IOEA代表の佐藤一毅氏が見に行っている。

そのときに私のことを話してくれたのであろう。4月23日(日)にDatenshi氏からFacebookの友達申請が来て、承認すると、12月のイベントに来ませんか、とお誘いが来た。

飛行機代は自前になっちゃうけど、宿泊と食事はイベント側で持ってくれるという条件だ。キューバ、キューバ、キューバ……。自分の頭の中を検索しても、ほとんど情報が出てこない。

イカダでフロリダに上陸してくる亡命者が後を絶たないとか。「アメリカが滅亡するまでオレは死なんぞ」と豪語していたカストロ議長が、トランプが当選した途端に死んじゃったとか。

あと、バレーボールが強かったんだっけ? そのくらいだ。恥ずかしながら、チェ・ゲバラ氏を知らなかった。野球が強いというのも後から知った。

人は、よく知らない国に自発的に旅行してみようとはなかなか思わない。こういう機会に乗っかって、行ってみるというのはいいかもしれない。今後、急速に変わっていくかもしれないキューバの今の姿を見ておくのは、貴重な体験になるかもしれない。

一方、12月30日(土)〜12月31日(日)、中国天津の「天津市人力資源発展促進センター」にて開催される『第十六回大萌猫アニメ祭』にもお呼びがかかっている。そっちのは、飛行機代もすべて持ってくれるという。

ふたつのイベントをつなげると、どういうことになるか。せっかくなので、中国のイベント側が出してくれるという飛行機代も活用したい。で、こうなった。

12月23日(土)18:00 成田(NRT)- 21:30 北京(PEK)日本航空 JL869、中国東方航空 MU8720、4時間30分

12月24日(日)2:05 北京(PEK)- 5:25 モスクワ(SVO)アエロフロートロシア SU201、8時間20分

12月24日(日)7:40 モスクワ(SVO)- 12:40 ハバナ(HAV)
アエロフロートロシア SU150、13時間

12月28日(木)7:00 ハバナ(HAV)- 10:30 トロント(YYZ)エアカナダ AC1877、3時間30分

12月28日(木)16:10 トロント(YYZ)- 12月29日(金)18:35 北京(PEK)海南航空 HU7976、13時間25分

1月1日(月)16:35 天津(TSN)- 20:50 成田(NRT)春秋航空日本 IJ1032、3時間15分

世界一周である。天津が出してくれる渡航費用を活用して、東京から北京に行ったとしても、そこからキューバに行くには戻ってトロント経由のほうがまだ近い。しかし、それでは活用したことにならない。西へ行ったら、そのまま西へ西へと行かねば。

キューバのイベントの3日目にはどうしても参加できない。北京 - 天津間の110kmは近すぎて直行便が飛んでいないので、天津のイベントの人たちに車で北京まで迎えに来てもらうことになった。

北京での乗り継ぎのとき、自販機で飲み物を買おうとして、封筒からくしゃくしゃの一元札がポトッと落ちたのに気づかなかった。そしたら、近くに座っていた中国人の若い女性が拾ってくれた。これにはびっくり仰天だ。

失礼ながら、私のイメージの中の中国人は、見知らぬ他人に正直とか親切とか、ありえん。蛇に足が生えるかも。

●極寒のモスクワでメリークリスマス

国際線の乗り継ぎには、到着の遅れなどを考慮して、4時間以上取っておいたほうがいい。モスクワでの乗換えには2時間15分しかなく、若干不安ではあったが、同じ航空会社どうしだし、なんとかなるでしょ。

12月24日(日)、北京からモスクワへの便は順調に飛行していたが、着陸前にもたもたした。後から聞けば、吹雪いたために空港が40分間にわたって閉鎖されていたのだとか。上空でトンビのようにぐるぐる回って待つ間、窓から外を見ても真っ白白。

着陸体勢に入って高度を下げているはずなのに、いっこうに霧は晴れない。揺れながら降下。下からオレンジ色にぼうっと照らす光は、おそらく高速道路の街灯からのものだ。

結局、着陸してもターミナルビルが見えないくらいの視界の悪さだった。吹雪いているし。かなり強引な着陸だったのではあるまいか。さすがはアエロフロートロシアだ。

気温が -2°Fと表示されてるけど、-19℃ってことかな? 沖止めかよ?タラップを降りて地上を歩いて、バスに乗るまでの距離は長くないとは言え、ミニスカ生足のおっさんにはキツい。横殴りに降りつける雪はくっつかず、さらっとなでていく。

それより時間が厳しい。バスがターミナルに着いたのが、7:00amごろ。次の便の出発まであと40分しかない。モスクワ空港は、国際線の乗り継ぎにいちいち入国・出国の手続きが要らないのはラクだけど、これからターミナル間の移動がある。

乗り継ぎ専用のゲートがあり、そうとう並んでいる。ヤバいヤバい。アエロフロートの地上職員のすっごいきれいなおねいさんが、英語で話しかけてきた。私のファンだという。

一緒に写真を撮るついでに状況を話すと、乗継ぎ専用パスポートチェックの優先ゲートを通してくれ、ターミナル間移動通路の途中まで案内してくれて、見送ってくれた。天使ですかい? 極寒のモスクワで、たいへん暖かい気持ちになった。すかさず名刺を手渡し、写真ちょうだいと言っておいた。

ゲートに到着したのが7:20amで、ちょうど搭乗が始まったところだった。セーフ!!!

メールに添付されて2枚の写真が送られてきた。

「私たちのエアラインをご利用いただきまして、ありがとうございます。ハバナへのフライトが快適であったことをお祈りします。あなたは世界を明るくポジティブなものにしています。ありがとうございます。クリエイティブな成功をお祈りします。メリークリスマス&ハッピーニューイヤー! またお目にかかれることを楽しみにしています。あなたのファンより」

写真:
https://photos.app.goo.gl/dI6jcB4gbFpExjk83


●倹約の精神

どの国でも、その玄関である国際空港の見栄えをよくすることには精一杯がんばる。なので、空港を見れば、その国の懐事情などがだいたい分かる。

言語道断なのは成田空港第3ターミナルで、どこの極貧国かと思う惨状。天井板がなく、パイプや配線がむき出し。第2ターミナルとの間をつなぐのは寒風吹き抜ける戸外の通路。800mも歩かされる。作りかけで予算が尽きたけど、そのまま開業しちゃったのかね?

それといい勝負なのが、キューバのハバナ空港だった。預け入れた荷物が出てくるコンベアーが4基しかなく、乗ってきた便の便名がどこにも表示されていない。使用中のが終わったら次に順番が回ってくるのだろうと待っていた。

気づいたら同じ便の同乗者たちが誰もいなくなっており、自分のスーツケースがコンベアーで回っていた。しかし、便名は表示されていない。どうやらいろんな便のが混ぜこぜに出て来て、一部の便名しか表示されないシステムだったようだ。こんなの、初めて。

トイレには、個室が二つあるが、紙がないのはよくあることなのでまあいいとして、片方はドアをロックするための水平バーが欠損していて論外。もう片方に入ると、U字型の跳ね上げられる便座がない。

壊れたきり修理をサボっているのかと思いきや、その後、どこのトイレにもついていない。キューバではないのが標準だったとか。

5人が出迎えに来てくれた。稼働していないエスカレータを歩いて昇り(人が自分の足でエスカレートすることを促すエスカレータ)、上の階へ。

Datenshi氏が、大きいペットボトルの炭酸オレンジジュースを2本買ってきてくれて、一緒にもらってきたプラスチックのコップに注ぎ分ける。大した金額でなくとも、とにかく節約するのがキューバの流儀であるらしい。

Datenshi氏の家まで行くのにも、タクシーとバスとタクシーを乗り継いだ。タクシー料金は驚くほど安く、全行程をタクシーで行っても大して高くないのに……。

バスがハバナの中心街に着いてから、タクシー乗り場まで10分ぐらい歩いたのだが、その裏路地がたいへんよかった。

なにもかも古めかしく、建物や道路の傷み具合からしても、裕福な人たちのエリアではないのは一目で分かる。夕刻の薄暗さもあって、一人でだったら歩くのに少し恐怖を感じたかもしれない。

しかし、実際には、物騒さはなく、いたって平穏。子供たちが遊んでいる。老人が道ばたに座り、夕涼みしている。ポコポコした音楽をかけている。

私の姿を見て、囃してくる。サムズアップのポーズを取り、肯定的に見てくれている。人が寄ってきて、一緒に写真を撮っていく。しかし、ネットの普及していないこの国のこと、もともと私を知っていたという人は一人もいない。

今までの、中国やタイやシンガポールやベトナムやスペインやロシアの例からして、ホテルに部屋を用意してくれているものだと勝手に思い込んでいたのだが、そうではなかった。

Datenshi氏の家から幹線道路を隔てた反対側に、ご家族の営むアパート群があり、そこの空室が私にあてがわれた。食事はご家族のリビングで出していただけた。

豆が炊き込まれたごはん。トマトときゅうりの、すっぱい浅漬けのようなの。柔らかく煮た牛肉。よく分からない野菜。シードルは林檎から作ったお酒でスペイン産。これは多分、日々の献立とは一線を画したごちそうだ。

たいへんな負担をおかけしてしまったかもしれない点は、非常に申し訳なく思う反面、この待遇は私にとって願ってもなく嬉しいことであった。

私はどこかへ旅行に行っても、有名な観光スポットに行って自分の目で見てくるようなほうには興味が向かない。それよりも、現地の人々の生活を近い距離で見たり、話をして考えを聞いたりするほうに楽しみを見出している。その地域に特有の家庭的な食べ物を食べてみるのもよい。その点、理想的であった。

Datenshi氏は、他に定職があって片手間にオタクイベントを主催しているのではなく、Nihon Bunka Grupo代表が本業である。この会社はイベントの運営以外にも、「チェックポイント」というオタクグッズのお店を経営している。

お父様の職業は聞いたのだが忘れてしまった。お母様は獣医をされているとか。たぶん、キューバではかなり裕福な部類なはずだ。しかし、生活そのものは、ぜいたくを排し、きわめて質素だ。

庭があって、池がある。大きなハスキー犬が一匹と猫が4匹いる。自室には立派なパソコンがある。裕福さが伺えるのは、そのくらいだ。これ見よがしの豪邸に住んだり、内装をごてごてと飾りつけたりしない。

宿泊したのは、こんなところだった。到着したとき、あたりはすでに真っ暗で、よく分からなかったのだが。

広大な原野の中を十字に走る二本の幹線道路が立体交差し、相互に渡る道はダイヤモンド型の内側に四葉のクローバーが内接する。下をくぐる道の両側に設置されたバス停は屋根つきで三方が堅牢な壁になっている。

その周辺が小さい集落になっている。50人くらい住んでいるらしい。堅牢な一群のアパート。ゲリラのアジトっぽい。

アパートは分厚いコンクリート製の平屋建て。平らな屋根は鉄製。窓はない。この先何百年でもずっと建っていそうな頑健な造り。ハリケーンへの防備を考えると、窓はないほうがよい。

壁に大きな額縁がかかっており、絵の代わりにエアコンがはめ込まれている。後から壁に穴を空けて設置したのであろう。空けすぎた隙間を額縁で誤魔化している感じ。

ベッドの頭の壁と脇の壁に、それぞれ扇風機がついていて、枕のほうを向いている。

奥に手洗い場とトイレとシャワールーム。シャワーの蛇口をひねると水がしょぼしょぼ垂れ落ちる。蛇口の脇にスイッチがあり、これを入れるとお湯になる。蛇口とスイッチの順番が大事で、空炊きしないようにと念を押された。

テレビと冷蔵庫がある。テーブルと椅子は、骨が木製で、天板は籐製。コップを直接置くと不安定なので、灰皿の中に置いている。

変な音がずっとしている。
ヒョーオィヒョオィ、ヒョーオィヒョオィ、
ヒョーオィヒョオィ、ヒョーオィヒョオィ……
外へ出るとほとんど聞こえなくなる。

壁のコンセントの上の段に差してあるプラグはテレビと冷蔵庫に通じている。下の段のは、壁の小さな穴から外に出ていっている。試しに抜いたら音は消えた。再び差すと、あれ? 再開しない。15分ほど経ったら、また始まった。ヒョーオィヒョオィ、ヒョーオィヒョオィ……

後で聞けば、冷蔵庫の音であった。外に出ている電線は、隣りの部屋のテレビ用とのこと。

夜、寒くなった。20℃。この辺は地域でいちばん寒いんだとか。

朝、まだ薄ら明かりすら差さないうちから鶏がけたたましくて眠ってられない。鶏に起こされるなんて経験、今までにあったっけ?

12月24日(日)の写真:
https://photos.app.goo.gl/TYbnHNU73CWeHVP83


●庭でパーティー

25日(月)はイベントの前日で、なにもない日。ならば一日遅く出発してもよかったのだが、会社を休む日数は変わらないので、どうせならキューバの滞在日数を増やしたほうがよかろうと土曜日に出た。

イベントに呼ばれるとき、いつもだと、空港でおせんべいを買って手土産にする。おせんべいにしては少々値が張り、高級感のあるやつを選ぶ。

しかし、今回は、そうとうよくしてくれそうな感じがしたので、何かもうひとつ持っていきたい。オレの分身を記念に置いていきます、みたいな特別感のある何か。

早めに出て、中野のブロードウェイセンターのオタク街を歩き回っていると、ちょうどいいのがあった。フィギュア。『美少女戦士セーラームーン』のセーラーヴィーナスの。中古品で、色がやや褪せているけれど、元の売り値よりも高い値段がついていた。

Datenshi氏は、庭でホームパーティーを催してくれた。テーブルと椅子を運び
出してセッティング。持ってきたフィギュアを置くと、サマになる。8人ほど
来てくれて、にぎやかになった。

持っていったおせんべいも評判よかった。しかし、のりを知らない人がいて、これ何? と聞かれた。

池があり、石にうがった穴から水を通す仕掛けがしてある。バナナやヤシの木が生えている。

ヤシの実は、ボトボト落ちている。Datenshi氏は、慣れた手つきでさばいてくれる。力任せに外皮を剥くと、種というのか芯というのか、硬い楕円体が出てくる。この中に液体がタプンタプンと蓄えられているのが不思議だ。

一つは、上部をナイフでえぐって、空いた穴から中身をコップに注いでくれる。もう一つは、真っ二つに割り、液体を抱える白いところをパカンパカンと割って皿に載せていってくれる。

この白いところは、そうとう硬いけれども、シャコンと割れる食感が楽しい。けど、ほとんど味がしないので、すぐ飽きる。

犬や猫たちが慣れてきてくれた。

12月25日(月)の写真:
https://photos.app.goo.gl/VG7SxGLl7GTvlGgG2


●仲間内のパーティーのようなイベント

26日(火)はイベント初日。7:00amに出てタクシーで水族館に向かい、8:00amに到着。イベントは11:00amからだが、その前に準備がある。ところが水族館はまだ開いてなく、職員の姿も見当たらない。

今まで見てきたキューバの景色からすると、立派な水族館はちょっと意外な感じもする。しかし、やはりどこか年月を感じさせるくたびれ感がある。ハリケーンの威力がすごいってことだろうか。9月にもイルマという猛烈なのが来たそうだし。

水族館は海岸沿いにあり、周辺の建物は造りが比較的新しい。しかし、やっぱりどこかに年季を感じる。道を隔てた向かいに、同じくらい広い敷地を占め、中央に飛行場の管制塔みたいなゴツい感じのビルが建っているのがロシア大使館だ。

間の道を、ロシア大使館を左手に見て進むと、その先左側に韓国資本の大きなスーパーがあり、その先に大きなビルがある。そのビルの一室一室がいろいろな国の大使館になっている。ロシアのとはえらい差だ。その中のひとつに日本大使館がある。

また、そのビルの一階には官民共同のテレコム事業のショップがあり、Wi-Fiポイントになっている。

道の右側にはホテルが4つ建ち並び、そのうちのひとつがヒルトンなのだが、なんだか古めかしくて垢抜けない感じがする。

ファーストフードのお店のようなところで朝食をとり、戻ると水族館のシャッターのひとつが半分まで上げられていた。入ったすぐ右側に資料展示室のような事務室のような部屋があり、そこが会場。詰め込めば100人ぐらい入れるかな、という広さ。

設営が始まったのは10:00amくらいからだったが、7つほどしかないブースを作るのにそんなに手間はかからない。参加者に日本人がもう一人いる。向井優氏。知り合いの5人の漫画家の漫画本を持ってきていて、それを展示している。横田卓馬氏、架神氏、森下真央氏、清水しの氏、世鳥アスカ氏。

向井氏は、4月にも来ているという。今回はアメリカ経由でキューバ入りしたという。いやいや、距離的にはそれが一番近いけど、よくそんな難しいことにチャレンジしたね。誰もやらないもんだから、ネットで検索しても情報が出てこない。

ふつうにカナダやメキシコ経由で来るには、あらかじめ日本のキューバ大使館でツーリストカードを発行してもらっておかないとならない。申請書式はビザと共通だが、その場で発行してもらえる点が簡易だ。1,200 円かかる。

向井氏は大使館に行ったが、アメリカ経由の場合はここではなく、アメリカで発行してもらう必要があると言われた。しかも一万円かかると。しかし、実際その通りで、ちゃんと来られたという。

10:30amごろ、建物の外に出てみたら、50人ほど人がいて開くのを待っている。私の姿にわーっと盛り上がり、写真を撮る人の人だかりになった。

11:00amにイベントが始まると、Datenshi氏が開会の挨拶をし、その後の進行をすべて取り仕切る。小規模なイベントだからというのもあるが、内輪のパーティーのようなノリで、和気藹々としたムードで進行する。

これにはわけがある。この国にはろくな宣伝媒体がない。幹線道路沿いに立て看板が設けられていたりしない。テレビは国営放送のみで、CMは入らない。建物の側面にも文字をあまり見かけないのは、ハリケーンに吹っ飛ばされるからだろうか。

雑誌はあんまり流通していない。ラジオはいちおうあるけど。この国の一番の情報伝達メディアは空気。つまりは口コミだ。この手のイベントの宣伝をするには、それに頼るしかない。

来場者に住所と電話番号を記入してもらい、次回の宣伝にはハガキを発送したり、電話をかけまくったりする。すると今度は友達を連れてきてくれたりするので、顧客リストが増えていく。このようにして、毎回毎回、来場者が増えていくのだそうだ。

こういう地道な努力は、他の追随を許さないという強みがある。宣伝費をいっぱいかければ勝てるという世界ではないのだ。それに、来場者がみんないい人ばかりで、場の盛り上げに協力的なのだ。

11:20amぐらいから私の出番。ご挨拶や自己紹介やキューバの感想などで20分ぐらいしゃべった。現地の通訳氏は大学生だが、日本に一年間滞在した経験があり、日本語が非常に流暢で助かった。みんな熱心に聞いてくれる。

私のことを前から知ってたって人がほとんどいなかった。やっぱネットが普及してないと、そうなるかぁ。あと、日本へ来たことがあるか、という質問はしないほうがよかった。ぜんぜん手が挙がらなくて気まずかった。

ものすごくリッチな人じゃないと行けないというのがひとつあるが、そのまま逃亡する恐れのない人じゃないと駄目ってことで、許可がなかなか下りないのだとか。

そのあと、向井氏が話す。あとは、会場内で写真撮られたり、サインしたり。向井氏のブースにも人だかりができ、大人気だ。入れ替わり立ち代り人がきて、累計300人ぐらいになった。

日本大使館の外務省の方々の奥様がお二人お見えになったが、お二人ともすごい美人だった。私のことはご存知で、喜んで写真を撮っていかれた。

Datenshi氏の案内で、水族館の中を見て回った。いちばん奥が海に面している。会場に戻ってきて、クイズ大会とカラオケ大会。アニソンを日本語で上手に歌う人の多さにびっくりする。けど、多くは歌詞の意味が分かっていない疑いが濃厚。

タクシーで「チェックポイントへ」。Datenshi氏が営むオタクグッズのお店だ。まあ、アニメイトやまんだらけみたいなお店を想像しても大ハズレではないんだけど、生活必需品以外のものをめったに見ないこの国において、やはり陳列アイテムはそんなに多くない。

Datenshi氏が後から到着した。もう夜だった。タクシー乗り場まで裏路地を20分ほど歩く。タクシーって、電話して呼ぶもんじゃないんだね。街灯が弱々しく点き、薄暗いのがちょっと不気味だけど、治安はよく、人がくつろいでいて、平和。

タクシー乗り場に着くと、すでに10人ぐらい待っている。けっこう待った後、やっと一台来た。こんな調子じゃ、いつまで待てば乗れるんだろうと絶望的な気持ちになる。そしたら、Datenshi氏が車のほうへ行って運転手と何やら会話すると、「さあ、乗るよ」と我々を手招きする。

競り落としたのだという。え? そういう方式なの? 魚市場みたいに?持ってる者がお金にものを言わせて順番を無効にしちゃうって、残った人たちに不満が鬱積していったりしないんだろうか?

12月26日(火)の写真:
https://photos.app.goo.gl/XlrPJHA8eq1uZqQI3


●やっとネットにつながる

イベント2日目はゲームがテーマ。来場者どうし、格闘ゲーで戦う。みんな、かなりレベル高い。

それから日本大使館へ表敬訪問。職員の方が会ってくれた。キューバは2015年7月、54年ぶりに米国との国交が回復し、経済が劇的に上向くのではないかという見方もあるが、今のところ横ばいか微減ぐらいなのだそうだ。

あと、ネットにつなぎたいぞ。朝、イベント開場前に、テレコミュニケーション・エンタプライズで、Wi-Fiチケット買うために並んだ。

店のドアには8:00am〜8:00pmと掲げられているが、8:15amになっても列の先頭の人が中へ入れてもらえない。別の側面から入る別の部屋の前にも列ができている。そっちは進んでいるようなので、8:30amごろ並びなおす。

並んでいるのは10人ほどで、カウンターは3つ窓口が開いているので、すぐに順番が回ってくるのかと思いきや、いっこうに進まない。Wi-Fiチケットを買うだけなのに、なんでそんなに時間がかかるのだ?

実は、ネット関連のあらゆる相談に対応する窓口なので、かかる時間がまちまちなんだとか。あのさぁ、Wi-Fiチケット購入専用の列を別に設けてくれたりしませんかぁ? 9:00amごろになって、やっとカウンターへ。1時間1CUCのチケットを3枚買う。1CUCは約110円。

大使館訪問の後、テレコム会社へ戻ってくる。ここがWi-Fiポイントでもあるのだ。カードをスクラッチすると、パスワードが現れる。いやぁ、キューバに来て初めてネットにつながったよ。案の定、ケバヤシ行方不明説が出ている。Facebookなどに書き込んで、生存報告する。

私は翌朝早くにハバナを発つことになっているため、宿を空港近くに移す。といっても、ホテルではなく、Datenshi氏のお知り合いのバンガローだ。造りはDatenshi氏のところに似ているが、トイレにU字の便座がついていた。キューバで初めて見たよ。

Datenshi氏も宿泊して、翌朝、空港まで送ってくれた。イベント2日目までですでに働きづめでお疲れであろうところ、ろくに睡眠時間が取れない。

3:00am過ぎごろ、Datenshi氏がドアを叩いて起こしに来てくれた。まあ、私は私で、寝ずにがんばったので、だいじょうぶだったのだが。

Datenshi氏は、空港で私を見送った後、その足でイベント会場へ行き、3日目をこなす。たいへんな負担をおかけしてしまい、申し訳なく思う。

経済状態だけを見れば、キューバは日本にとって、とてもじゃないが、お手本になりうる国ではない。それどころか、アメリカに楯突くとこうなるぞ、といういい見せしめにされているようなところがある。

日本にもかつて日米安保闘争というのがあったらしい。アメリカの犬になって尻尾を振ってどこまでもついていくか、国としての矜持を守り独立独歩の道を行くか。まあ、犬の道で正解だったな。そこもキューバの轍は踏まないほうがよさそうだ。チェ・ゲバラはかっこいいけど。

日本がキューバから学ぶべきところは、あんなにお金やものがなくても、やつらはちゃんと「生きて」いるって点だ。

情報伝達の基本は、人と人とが対面してしゃべることにある。生活必需品は同じものが大量にあるだけで、選択の余地なんてほとんどないにも関わらず、一人一人の個性が光り、存在感がしっかりある。月曜の朝に電車に飛び込んだりしなさそうだ。

日本人はこつこつこつこつまじめに働いて、これだけの物の豊かさを手に入れたのに、その幸せを実感としてちゃんと享受してないなぁ。なんか、生きるのが苦しそうなんだよなぁ。もっとこの収穫を祝い、喜び、明日への活力につなげていっていいはずなんだけどなぁ。

東京の通勤電車はあんなに混雑しているのにしーーーんと静かだ。たしかに、あの環境でうるさくするやつがいたらマナー違反で、大迷惑には違いないんだけど。

しかし、キューバのバスのあの喧騒は、ちっとも迷惑には感じられず、むしろあの陽気さが見ていて楽しかったんだけど。この違いはなんだろ。

あくせく働きづめで、肉体的にも精神的にもくたびれてきているけれども、まとまった休みも取りづらい日本人と。

元気はあり余っていても、経済的にも手続き的にも外の世界を見にいける状況ではないキューバ人と。

ひょいとつまんで入れ替えてみたらおもしろかろう。むしろ、混ぜこぜにしちゃったら、お互いから学べる部分を学んで、すごくよくなりそう。

12月27日(水)の写真:
https://photos.app.goo.gl/hO3fbgSTi6hdgHrX2



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≪それに引きかえ中国は……≫

トロントから北京に至る航路の途中に、日本があるというわけではない。北方領土よりも北から大陸に入り、ハバロフスクの西を通り、北朝鮮の裏側、哈爾浜(ハルビン)のあたりを通り、北京に至る。

自分の中では、すでに世界一の経済大国になっているような気がしちゃっている中国。

GDPで日本を抜いて、米国に次ぐ世界第2位に躍り出たとき、どうせ数字の誤魔化しだろ、みたいな論が日本では出ていた。けど、今はすでに日本の2倍を超えている。いくらちょろまかしたって、2倍に膨らますのは無理でしょ。勢いがすごすぎる。

天津のイベントで私に用意されたのは、20階建てのホテルの12階の角部屋。私がよく自費で宿泊する京都や大阪のビジネスホテルの4倍くらいの広さがある。中国のイベントに呼ばれていくときは、だいたいいつもそんな感じだ。

2年前も中国で年を越した。あのときは南通だった。年明けの瞬間、見える範囲内でも5か所から花火が上がった。今回の天津は、部屋が海河とは反対側だったためか、音だけ聞こえた。

イベントでは、ステージに上がり、お客さんたちとじゃんけんをして、勝ち残った人に賞品として缶バッヂを贈呈するという重要な責務を果たしてきた。

物販コーナーで、すぐ右隣りでポスターを売っているコスプレイヤーがかなりレベル高かった。人気も高く、待ちの列が長かった。2日目になって通訳の人が教えてくれるまで、私はすっかりだまされていた。

えー、男だったの? ひょっとして中国で「男の娘」がブームになってる?

12月30日(土)の写真:
https://photos.app.goo.gl/XvUYd2gqxHrXpg4s1


12月31日(日)の写真:
https://photos.app.goo.gl/PLDySTj6jonFQRud2



≪NHKの電波に乗っかります≫

11月29日(水)、本宮映画劇場の田村U子さんからお誘いが来て、新宿にある花園神社の酉の市に行った。

NHK総合テレビ『ドキュメント72時間』の取材班がいて、インタビューを受けた。直前打合せすらなく、いきなり来た。不意打ちを食らって、ろくに面白いことも言えず、まあ、ボツだろうな、と思っていた。

だいたい、こういうのは放送する尺の10倍以上撮っておいてから編集するので、採用される可能性はもともと低い。

1月5日(金)放送分の最後の次回予告で映ったっぽい。ほぼ忘れていただけに、ちょっとびっくり。

1月12日(金)10:50pm〜放送予定。

写真:
https://photos.app.goo.gl/y2W01RkA0MBMoC772


予告動画にもいきなり……
http://www4.nhk.or.jp/72hours/x/2018-01-12/21/7086/1199204/