わが逃走[209]冬の尾道の巻/齋藤 浩

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あけましておめでとうございます。今年はより一層、無理せず地道にゆっくりと、そして楽しく生きて行こうと思う齋藤浩でございます。

実は半年ほど前に体調を崩してしまいまして。とはいえ、もうすっかり元気なのですが、アラフィフだしね、そりゃあ無理もきかなくなってきているよなあ。

と反省しつつ、年末にリハビリもかねて写真旅へ行ってまいりました。

ここ半年ばかりほとんど写真を撮っていなくて、というよりも撮れなくなったという方が近いか。

撮ろうという気にならない、撮りたくない、撮るのがコワイ(笑)という今までの私としては考えられないような状態が続いていたので、こりゃいかん、というわけで、まずは大好きな尾道へと出かけたのでした。




尾道はまったく変わっていないようで、少しずつ変化しています。

お洒落なカフェや雑貨店が増えている反面、昨年まで建っていた日本家屋が取り壊されてしまったりなどなど。

尾道のランドマークでもあった美しい木造駅舎も、築126年目にして“現存せず”の仲間入りとなったのはさみしいかぎりです。

今回はとくに予定も組まず、あてもなく、主に山の手を東西に行ったり来たりしながら気になるものを撮影することにしたのですが、フタを開けてみれば、過去に撮ったことのある壁や階段などが、同じような感じでどっさり撮れていました。

よほど好きなんだなあと、半ばあきれる始末。しかも露出も構図も過去の写真の方が明らかにイイ。

写真もバイオリンと同じで、常に続けていないと腕が鈍るんですね。バイオリン弾いたことないけど。

そんなわけで、今回はそのときのお散歩写真を紹介していきたいと思います。


○商店街から脇道にそれる
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木造建築とか土壁とか、そういったものにぎゅっとはさまれる路地が何本もある。こういった空間を歩くだけで舞い上がってしまうが、落ち着いてディテールを見てみると、木目パターンや格子、街灯のデザインなど“詠み人知らずのデザイン”優秀作品が並ぶ。

○非常階段
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弦楽器みたいだなーと思うと同時にシャッターを切っていた。長らく尾道に通っているが、この物件に気づいたのは初めて。

町全体が迷路みたいなので、こういう新鮮な出会いもあるし、再びここに来たくても必ず迷子になるという面白さもある。

○逆光猫
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昔から好きな路地だが、このあたりも空き家が増えた。毎日こんな風景を見ながら過ごすと、人の感受性とかそういったものはどのように変化していくのだろうか。などと考えつつ坂を下る。

○朝日と夕陽の当たる家々
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毎日景色がかわるんだろうなあ、と思う。なぜなら来る度に光の色も空気のにおいも違うからだ。

こんなところで暮らしたら、日々この風景を記録したくなり、撮影やらスケッチやらでタイヘンなことになるだろう。

私が育った「インチキ造成地コピペ住宅群」とは真逆、暮らす側に主権のある生活を感じるのだった。

○重ねられたバケツ
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バケツは水を運ぶためだけのものではなく、光の反射を鑑賞するための装置でもあった。

このバケツさえあれば、空、雲、太陽のいつもと違った美しさをどこでも楽しめる。さあ、バケツを持って旅に出よう。

○直線的階段・手すりつき-1
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一見普通の階段だが、踏面の奥行きも一段ごとの高さも(おそらく)すべて違う。植物の覆われっぷりも秀逸。

手すりの基部も非常に特徴的なのだが、もはや草をかき分けないと確認できない。年に二度はこの階段を確認しているのだが、この変わり様を見ると、建築とか土木とかいったものも風景の一部なのだなあと思う次第です。

○直線的階段・手すりつき-2
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「直線的階段・手すりつき-1」から少し下ったところにある。10年前は手前左側に重厚な瓦屋根の日本家屋が存在していたが“現存せず”。

右側壁面には手すりの影だけが落ちる。夕方の路地の風情もずいぶん変わってきた。

といったところで日が暮れたのでした。まあいろいろと思うことあるのですが、無理をせず、穏やかに暮らすことこそ、人生最大の目的なんだと考えられるようになりました。

カメラの腕は鈍ったけど、今回は半世紀近い人生において、最も有意義な散歩だったような気がします。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。