[4494] 超併読術のはなし

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《主催者のお仕事は決めることにあり》

■羽化の作法[54]
 コリーヌと神戸行きのこと
 武 盾一郎

■LIFE is 日々一歩(67)[コラム]
 セミナーという場の作り方(1)
 森 和恵

■エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[12]
 超併読術のはなし
 夜勤と夜勤の間
 海音寺ジョー(超短編ナンバーズ)




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■羽化の作法[54]
コリーヌと神戸行きのこと

武 盾一郎
https://bn.dgcr.com/archives/20180123110300.html

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1997年の5月初旬だっただろうか。記録がないので具体的な日にちは分からないのだが、一本の電話がかかってきた。キッチンの玄関側コーナーの三角面の台に置いてある黒電話が、チリリリリンと鳴る。

電話が鳴るといつもほんのちょっとだけ何か期待をする。

「なんだろう?」と思いながら黒電話の受話器を耳に当て「もしもし〜」と出ると、相手は見知らぬ女性の声だった。発音から外国人かな? と思った。

声の主はフランス人ジャーナリストのコリーヌ・ブレという人だった。

「平井玄さんから電話番号を教えて貰いました。新宿の段ボールハウスに絵を描いている人ですか?」と聞かれた。

その時は平井玄さんを知らなかったので、なんで平井玄という人が自分の電話番号を知ってるのだろう? と思ったが、「そうです」と答えると、「素晴らしいですねえ!」と褒められたのですっかり気を良くして、電話越しの見知らぬ女性と話をした。

内容は「コリーヌの会」というのを開いてるので、今度ぜひお会いしましょう、とのことだった。

平井玄
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E4%BA%95%E7%8E%84


コリーヌ・ブレ
https://www.amazon.co.jp/%E6%9C%AC-%E3%82%B3%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%8C%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AC/s?ie=UTF8&page=1&rh=n%3A465392%2Cp_27%3A%E3%82%B3%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%8C%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AC


僕は普段は母に「何をしてるか、どんなことがあったか」などはあんまり話さないけど、「フランス人の女性ジャーナリストのコリーヌ・ブレっていう人から電話があった」ことは積極的に伝えた。

その後、コリーヌとはちょくちょく会うことになる。

5月23日(金)は新宿ロフトプラスワンで、駒場寮がテーマのイベントだったと思うが、そこでコリーヌと会う。

5月28日(水)は、コリーヌがノンフィクション作家の豊田正義さんを連れて来て三人で新宿で飲み、そのままコリーヌの家に泊まることになった。

ちなみに、翌日は山本夜羽音さんとしょんべん横丁で飲んだと、日記にある。

豊田正義
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%8A%E7%94%B0%E6%AD%A3%E7%BE%A9


山本夜羽音
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E5%A4%9C%E7%BE%BD%E9%9F%B3


5月30日(金)コリーヌの会に初出席する。メディアアーティストの大榎淳さんと会う。

大榎淳
http://www.tku.ac.jp/department/communication/teacher/?id=1/0000099


そこでコリーヌは、震災後の神戸のことを主に話していた。震災から三年経ち、メディアの報道もなくなり、すっかり復興したかのような印象を与えているが、まるでそのようなことはない。むしろ今の方がシリアスなところがある、と。

1995年の大ニュースは、なんといっても阪神淡路大震災と、オウム真理教・地下鉄サリン事件だ。

当時、僕にとっては大震災よりもオウム真理教の方が衝撃的だった。友達がスレスレで違う地下鉄に乗ってたりしてかなり生々しかったし、今までぼんやりしていた「日本」のグロテスクな正体が地下から吹き出して来たようなリアリティを、オウム真理教に見たりしたのだった。

だから、スルーして来た震災のことを言われると罪悪感のようなものを感じ、何かやらなければいけないような気もしてくるのだった。それにしても神戸はちょっと遠い。

そして、コリーヌの家に自分の作品を持って行って飾ったり、娘のローラちゃんとお絵描きをして遊んだりするようになった。

8月2日〜10日に東大駒場寮オブスキュアギャラリーで行った「世紀末とのコラボレーション」が終わり、8月17日の新宿夏まつりが過ぎ、秋が来た。

羽化の作法[52]世紀末とのコラボレーション
https://bn.dgcr.com/archives/20171212110200.html


1997年10月4日(土)、僕はコリーヌとローラ、そしてコリーヌの友人ルネと四人で神戸に行くことになるのだった。この前神戸に行ってから、ちょうど一年だ。

羽化の作法[41]神戸占い館での製作と写真展への参加
https://bn.dgcr.com/archives/20170620110200.html


新幹線で京都まで行き、京都に住む蒔田さんという、ボランティアをしてる女性の車に乗せてもらって神戸に向かった。

車はかなり古くてかっこいいワーゲンだった。「この車、ドアが閉まらないのよね」と言って乗り込むと、本当にドアがきちんと閉まらない。蒔田さんは颯爽とハンドルを切り、高速をかっ飛ばした。

案内されたのは、震災後三年経った今もなお、仮設住宅に暮らしている人たちだった。何か所の仮設住宅を回った。

蒔田さんと個人的に付き合いのある人にも会いに行った。ひとりは市街地の仮設住宅に暮らすバーのママさん。そしてもうひとりは、市街地から遠く離れた山の方の仮設住宅に犬と暮らしてる方だった。

https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1838672439510968



最後に向かった場所が、神戸市須磨区にある「しんげんち」という場所だった。そこは行政が建てた仮設住宅ではない。被災した人たちが公園に作っているテント村だった。コンテナハウスが並んでいる。テント村の人たちと集会所のコンテナハウスで食事をした。

女性陣はそのまま集会所に泊まり、僕は倉庫代わりになっているコンテナハウスに泊まることになった。

制作ノートにはこう記してある。

《震災の問題は行き着くところまで行き着いてしまったという感じがある。これから先は、個々人がひとりの人間としてどう生きて行くかということなのかも知れない。

ただ、いくら個人で生きて行くとしても、アジールは必要なんだと思う。

神戸の仮設住宅を見てまわった。事の問題はいつも根深い。行政に憤り、支援の虚しさを不毛を嘆きつつも、ボランティアの人たちはみな生き生きしていた。関西弁のせいなのだろうか?

関東人は考え込む、関西人は生活をする。そういう感じがした。僕はなんだか悲しみと憤りを深くするだけで、何も出来ないような気がするのだ。》(つづく)


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■LIFE is 日々一歩(67)[コラム]
セミナーという場の作り方(1)

森 和恵
https://bn.dgcr.com/archives/20180123110200.html

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こんにちは! 森和恵です。いま、大雪の東京に来ています。昨日の降り出しはじめに危険を察知して、午後からの予定をすべて中止し、食料など必要なものを買ってホテルに籠もりました。おかげで、大きなトラブルなく朝を迎えています。

雪国に比べたら積雪量はそれほど多くないのですが、交通機関のトラブルが怖いですね。雪が原因というよりも、たくさんの人が同時に動くことで起こるように思います。

「やばいな」と思ったら、早めに動くのがよいですね。

予定のキャンセルは辛かったですが、月曜夜の「おそ松さん」を東京でリアルタイム視聴できたのが唯一の救いでした。

いつもはネタバレが怖くて避けているTwitterでつぶやきながらアニメを観ていると、ファンの方々との謎な一体感が生まれて、いつもの倍楽しかったです。

さてさて。今回から、久しぶりに自主開催するセミナーの開催者側からの体験談を通して、場の作り方、つまり、ブランドの作り方をまとめていこうと思います。


2月25日にAdobe Dreamweaverをテーマにした勉強会を開催します。

【ウェブかける × Dreamweaver(XDもあるよ!)- connpass】
https://r360study.connpass.com/event/76854/


主催は私なのですが、開催するにあたって、川合和史さんにアドバイスいただいてます(デジクリ月曜担当の川合さん。いろんなセミナーの企画・運営をしている主催者のベテランさんです)。

無事に告知を始めることができ、多くないながらも順調にお申し込みをいただいています。ありがたいです。

●セミナーの名称って大事

川合さんに手書きの企画書の段階で相談したところ、「これから継続してやっていくなら、名称つけた方がいいよ」と言われました。

場作りをしていくなら、みんなに覚えてもらうような名前をつけようということでした。自主開催の勉強会は何度かやっていて、2014年に開催したときに「r360study」という名称をつけていました。

【HTML5とCSS3を書籍と学ぼう! 勉強会のお知らせ:r360studio】
http://r360studio.com/coworklabo/


屋号が「r360studio」なので、セミナー(勉強会)をするための名前として「r360study」という、簡単に決めた名前なのですが、割と気に入って使っています。

今回の勉強会は、「ひとつのテーマを掘り下げて、ゲストをお呼びして行う」という前提があったので、自分のブランド名とは別の名称が欲しいなと思いました。

川合さんと打ち合わせした後、その内容を反芻しながら思いついたのが「ウェブのことを話すのは毎回決まってて、それに何かのキーワードをかけていくんだ」ということでした。

そこから思いついたのが『ウェブ×(かける)』という名称でした。毎回、右側にテーマに沿ったキーワードを入れて、勉強会のタイトルにしていきます。

余談ですが、二次元キャラのカップリングを表す言葉の「×(掛け算)」が頭によぎってニヤリとし、それが決定打になったことは、ここだけの秘密にしておきます。

●セミナーの特徴を決める

名称の次に決めたのが、特徴です。きっと、それが今後の指針にもなるだろうと思ったからです。

いま、長く続いているセミナーやイベントのブランドを立ち上げた方々の話を伺うと、「うちは○○」とすぐ一言で特徴が帰ってきます。

なんとなく……では、長く続かないんだろうなと思って、聞いていました。

アドバイスを聞いたり、他の例を見たり、自分にできること・したいことは何だろう……と考えた結果で方針が決まりました。

・何かしら「聞いて得をする」ことをテーマに取り上げる

・セッション時間を長めにとり、じっくり掘り下げる

・最後に登壇者と参加者を交えて感想戦をする

の三つです。

私の仕事が講師だということが表れている方針ですが、流行っているからという理由だけではなく、自分が理解してみて、「これは役に立つ」と思ったことを授業のような形式でじっくりと学べる場にしたいなと思っています。

また、セミナーを受けてそれで終わりにせずに、講師も学んだ人も受けてすぐにどうだったか? を話し合う場としての「感想戦」をもうけます。

感想戦とは、将棋の試合後にするアレです。お互いのプレーを研究し、深めるために行われます。

本来なら、終わってから関係者だけで行うものかもしれませんが、これを公開でやってみたら、相乗効果が生まれるかもしれないと思っています。

●主催者のお仕事は決めることにあり

「船頭多くして船山に登る」ということわざがあります。

指図する人が多いと、意見の統一ができなくて、なかなか物事がまとまらず、とんでもない方向にそれてしまうという意味です。

わたしも、これまでいろんなセミナーに関わってきましたが、「みんなの意見を出し合って決めていきましょう!」という民主的なやり方をしていると、よほどリーダーの手腕がないと、後手後手に回ってしまい、場が暗礁に乗り上げてしまっていました。

セミナーというのは、告知して、集客して、当日ちゃんと来てもらって、会を円滑に回していく必要があります。

「この方針で行こう!」と決めるのは、怖いものです。失敗したらどうしよう? とか、あっちのやり方の方がベストだったのでは……と不安にもなります。

でも、船頭は、一人の方がよいと思っています。物事を円滑に決めて、ちゃんと前に進めるのは一人が一番効率があがります。

もちろん、いろんな方々の協力を得ること、意見を聞いてきちんと役立てることは、めちゃめちゃ大事なことで、ありがたいことです。

それを踏まえた上で、怖いけど、自分で決定をする、責任もとる。これが主催者の仕事だと思っています。

いやはや、怖いですが、頑張っていきますよ。人徳をもっと積んでおけばよかったな。人間としての自分の軽さを身にしみているところです。はい。

というところで、今回はここまで。決意表明的なお話でした。

次回はこの続きで、どんなシステムを使って集客したのか? など、セミナー開催までのお話をまとめたいと思います。

ではまた、次回お目にかかりましょう!
(^^)

【森和恵 r360studio ウェブ系インストラクター】
mail: r360studio@gmail.com
Twitter: http://twitter.com/r360studio

講座受付中: http://r360studio.com/seminar/



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■エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[12]
超併読術のはなし
夜勤と夜勤の間

海音寺ジョー(超短編ナンバーズ)
https://bn.dgcr.com/archives/20180123110100.html

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◎超併読術のはなし

本を読むのが好きだ。しかし読むのが遅くて未読の本が溜まっている。積ん読本である。漫画も溜めている。その上で図書館もよく使うので、未読の本が沼底の泥炭のように溜まり続けている。

雑誌の広告にある速読術や自己啓発本に載ってる、フォトリーディングの類に頼ろうとした。しかし、それらについて調べていると、大意を掴むのがミソであり細部はすっ飛ばす、というような説明があって、それは自分のしたい読書ではないなあと早々に諦めた。

ハウツー本はそれでいいかもしれないが、小説の魅力は細部の書き込みにあるのだと思っている。いや小説だけじゃなく、漫画も雑誌も新聞もルポルタージュも読むのだが、そういう書籍もやはり細部まで読みたい。

となると、結局積ん読問題は未解決になるのだが、普通の読書のしかたで大量の本を読みおおせる方策を考えた。「ワイは集中力が足りん」と思われる方は是非参考にしていただきたい。それは、数十冊の本を同時に読み進める超併読法だ。

ぼくは集中力がなくて、本を長時間読んでるとだんだんダレてきて、文章が目に入らなくなってくる。面白い本かどうか、自分の興味関心のど真ん中かどうかで、もちろん差はあるのだが。

そこで読書スピードを検証してみたのだが、最初の見開き2ページなら最高速度で読めるのだ。まず、椅子の横に読みかけの本を5冊〜10冊ほど置いて2ページずつ読むのだ。

そして、許される時間の限りそれを繰り返すと、最良の効率で読みかけの本を読了することができるのである。

「それはかえって効率が悪いんじゃないの?」という反論もあるだろう。本を本棚からとって来たり、読みかけの途中のページをまた探し出すロスタイムを考えると、ただ一冊をパラパラと読み進める方が合理的だし手間がかからない。しかし、ぼくは集中力がないのである。

読むという行為は脳みそ内部の大脳皮質、神経、海馬を行き来する複雑無比の行程での「記憶」作業だが、本を運ぶ、ページをめくるなどは「運動」作業であり、最新の研究では、脳には「記憶」「運動」の情報を区別して伝える並列神経回路があると考えられている。

http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170905_1/


今はショウジョウバエでの研究段階だが、ヒトにも当てはまるなら、この読むという行為に特化したやり方は理にかなってると言える。

読んだところまで付箋を貼っておいて、すぐに目視できるようにしておく、などの細かい工夫でロスタイムを短縮できる。この付箋と言うのも重要で、栞よりはるかに効率がいい。

2ページ読んだところで、勢いが残っているようなら、次のページも読む。「もうあかん」「これ以上は難しい」と感じたら、すぐに付箋を張り付けて中断する。

この方法だと集中力がなくても忙しい仕事に就いていても、年間100冊以上読破可能だ。無論、本の厚さにもよるので、一冊読破するのに、週5日2ページずつ読み進め2年近くかかる場合もある。

2年も同じ本を続けて読んでいると、伝記ものだと物語の主人公が辿ったであろう月日を追体験するような感慨深い気持ちになる。これも併読によるロングスパン読書の醍醐味だ。

積ん読で悩んでいる方は、是非試していただきたい。しかし数十冊規模で併読していると「あれっ、この話、どういう行きさつでこのような展開になったんだっけ?」と、前まで読んだ分を忘れている場合がある。

これは超併読術の、避けがたい問題なのだが、ぼくは思い出せなくても気にせず読み進めることにしている。

「おい海音寺、細部のことは重要じゃなかったのかよ」と御叱りをくらいそうだが、99冊中2、3冊そういう本があったとしても、それは自分には手に負えなかった作品だったと潔く白旗を上げて、老後忙しくない時代が到来したらゆっくりと読み直せば良いんじゃないでしょうか。


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◎夜勤と夜勤の間

雪の降らなかった月曜日。町の図書館でタブッキの短編集「とるにたらないちいさないきちがい」の『マドラス行の列車』を読んでいる。マドラスには学生の時行ったことがある。タブッキの「インド夜想曲」は旅から帰ってきてから読んだ。それから26年後に、この小さな物語を読んでいる。

あの時ぼくはカルカッタからマドラスまで飛行機で移動したが、この物語はボンベイから鉄道でマドラスへ向かう、その行程を綴っている。これもまた本書の題でもある、とるにたらぬ小さな出来事なんだろう。

夜勤明けの頭で、うつらうつら頁を追いながらぼくはあの時見たマドラスの海辺を思い出していた。少年が駱駝を寄せて来て、兄さん乗らないか? 50ルピーでいいよ、としつこく付いてきたことを思いだした。

少年の顔は太陽を背にしていて良く見えなかったが、口元には笑みが浮かんでいたことを思いだした。マドラスに滞在した時は熱を出していて、海辺と博物館を観たことだけが思い出となった。残りの時間はミネラルウォーターを飲みながら、ホテルのベッドに横たわっていた。

図書館の窓のブラインドから細い陽光が顔に射してきて、さらに眠気を誘う。マドラス。まどろみの思い出。


【海音寺ジョー】
kareido111@gmail.com

ツイッターアカウント
kaionjijoe@
kareido1111@


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編集後記(01/23)

●主要登場人物が三人、わかりやすいスリラー「ザ・ギフト」を見た(2015/アメリカ)。サイモンとロビンの夫婦が、シカゴからLA郊外の贅沢な住宅に引っ越して来た。ある日、街でサイモンに親しげに話しかけてきた男がいた。学生時代の同級生、ゴードンである。サイモンはほとんど記憶にないようだ。

後日、引越祝いとしてワインが玄関前に置かれていた。その後もギフトが続く。ゴードンを夕食に招く。ゴードンは、まるで親友だったかのように語り、サイモンは非常に不快感を覚える。ゴードンはサイモンが会社に行っている間に来る。このへんまで、ゴードンは非常識、不気味、サイモンはまともな感じだ。

サイモンはゴードンと二人だけで会って、もう家に来ないでくれと宣告する。その後、池の鯉が死んでいる。飼い犬がいなくなる。ゴードンの家を訪ねると、本当の持ち主が出てくる。留守中にゴードンが入り込んでいたのだ。ロビンは、家にも入り込まれたような感じがする、家の中で誰かの気配がする、と言う。

ゴードンから手紙が来る。「君たちに謝罪したい。この手紙を最後に二度と連絡はしない。過去は水に流す」とある。ロビンは、ゴードンと和解しないと精神的に落ち着かない。そもそも、水に流すって何? あなたはわたしに話すことはないの? と迫るが、サイモンは語らない。彼は次第に悪相になっていく。

ロビンはサイモンの同級生を訪ねて、ゴードンとの関係を知る。サイモンはいじめっこで意地が悪く、弱虫のゴードンを標的にしていた。彼のウソはゴードンの人生を破壊した。ロビンに問い詰められたサイモンは「25年も前のことだ。ゴードンの人生をぶちこわし奴をクソ扱いにした、俺は人でなしだよ」と告白する。

腹の大きなロビンは「私たちのために彼と関係を修復して」と言うが、その私
たちに、既にサイモンは含まれていないだろう。サイモンはゴードンと対決し、
謝罪を申し入れるが、「もう手遅れだ。君が過去を忘れても、過去は君を忘れ
ない」と返され、逆上してゴードンを蹴り倒し、家族に近づくなと警告する。

ここからサイモンの悲劇がエスカレートしていく。身から出た錆でもあるが、25年も前の悪事を今になって復讐されるのも運が悪い。シカゴから遠いLA郊外に引っ越すって、25年前に住んでいた地に戻って来たのだろう。そこでゴードンに見つかり、じわじわと追いつめられていく。卑劣だけど気の毒な男だ。

じっさいゴードンはサイモン宅に潜入し、とんでもないことしている。狂った復讐鬼である。だが、サイモンの表情がどんどん悪くなるのに対し、ゴードンの表情はどんどん良くなっていく。ロビンは口の大きなおばさんで、ヒロインとしての魅力がない。誰にも感情移入ができない、後味悪い映画であった。

……これをようやく書き終わった時、いきなり電源がダウン。暖房器具をつけ過ぎたらしい。保存する前である。ああ、また書き直すのか、もうやだ、と思った。起動したら、未保存のテキストがあるが保存するか? と聞いてくるではないか。スノウ・レオパルド時代にはなかったような。うれしー。(柴田)

「ザ・ギフト」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B01MSZV8F5/dgcrcom-22/



●森さんのセミナー!

/直感ザワザワの続き。こちらの再起動中やあちらの調査中に、保留音が鳴らない。再起動には数分かかる時もあって、その間とても気まずい。保留にしたいなと思うけれど、向こうは一度もしないわけで、送話口を手で覆ったり、息をする時は顔から話したりしたよ。

Wi-FiとBluetoothのオフオン、両方の再起動、iPhoneのOSバージョンと機種確認、iPhoneの設定リセット。ここまでやっても再ペアリングできず。サポートは何度も「申し訳ないです」と恐縮しつつ、AWのコンテンツリセットを促した。

コンテンツリセットをしたら、ペアリング画面でAWが表示され、その後は問題なく進んだ。何もかも試してみてのリセットなので、心は晴れやか。私がデータに執着したため、長時間つき合わせてごめんなさい。貴方が悪いわけじゃないのに。続く。 (hammer.mule)