グラフィック薄氷大魔王[552]自由に描きなさい/吉井 宏

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,500文字)



先日話題になってた、昔の図工の教科書の前書きらしい文。

「【40年前の教科書がすごい】小学生が美術をする意味をズバリ解説」
https://feely.jp/76873/

「これを昔聞きたかった!」ってコメントを読むと、気分的には8割くらい賛成したいところなんだけど、僕はちょっと違う考え。中段はその通りだと思うから、三分の一だけ賛成w

「上手に描くことが目的ではありません」……いや、上手に描くことを目的の一つにしてもいいんじゃない?

絵を描いたり工作って、技術やテクニックで相当なところまで行けるものだって、最初に教えてあげなきゃ。数学だって楽器だって基本から順に学んでいくのに、絵だけ「自由に感じなさい。自由に描きなさい」って放り出される。

下手と言われて傷ついた子や、下手と思い込んでる子も、技術を学んで上手に描けるようになっていたら、不要な劣等感を持たずに済んだかもしれない。





形の取り方も線の描き方も技術。構図も色の選択も技術。テーマやアイディアをどう落とし込むかも技術。

それらをすっ飛ばしていきなり「自由に表現しなさい」では、むずかしさに萎縮するばかりなんじゃないかと。特に、苦手意識があったりどう取りかかったらいいのか悩む子にとっては。

画数の多い漢字をきれいに書けるんだったら、記号的な絵を描くくらいの技術は誰でも習得できるはず。技術があれば、表現できない/しないというもったいない状況が減る。

やはり、コミュニケーション手段の一つと割り切って「絵で伝えること、的確に表現すること」を、従来の美術とは別に置くのはアリなんじゃないかと。

手塚治虫「マンガの描き方」の表情や表現のリスト、ポーズのゴム人間などのお手本。ああいうのを学校で教えたらいいのに。「ボブの絵画教室」は嫌いだったけど、まず技術という点で言えばアリだし。

「技術がなくて表現できない。描くと笑われるからさらに描かなくなる」は、英会話が上達しないのと同じ。伝えるための最低限の技術ってものはある。

たぶん「自由に描きましょう」と対極にある、「つまんない反復訓練」みたいのが必要なんだろうな。他の科目と同様に「絵のドリル」「絵のテスト」も効果的かも。

まず技術を習得。そこから先は自由に、でいいと思う。ピカソなんて子供の頃に技術を極めちゃったから、そこから先の前人未踏の地へスタートできた時期が早かったのが勝因なんじゃないかと。モーツァルトやベートーヴェンも。

以下、雑感。

・美術鑑賞だって歴史や流れなどの知識が必要なのに、「自由に感じなさい」じゃわかるわけないもん。それで、わからない美術に反感を持たれてしまう。

・技術とアート性や精神性は直接は関係ないかもしれないけど、伝えたい内容や衝動があっても、技術が追いつかないことはあるだろう。逆に、衝動が弱ければ、技術がすごくても意味ないこともある。

・技術とセンスがごちゃ混ぜになってるのが混乱の元かも。技術を学べばセンスは後からついてくるし、個性もにじみ出ちゃうから心配しなくても大丈夫だと思う。

・ガチガチに規則で縛られた学校は「自由になりたい! 自分を表現したい!」って気持ちが芽生える。図画工作だけ自由にされた結果、表現欲や個性が消える、かも。

・ネットで大人気の「写真みたいに描いててスゲ〜!」。あれだって、ほとんど技術の範疇。根気があれば誰でもできる。

そんなのできるわけない! って人は「根気があれば」を3桁くらい思い違いしてる。1時間じゃ無理。100時間とか1000時間とか費やすんだよw

・学校でダンスを基本から教えるんなら、絵だって!

・僕の時代の授業を思い出すと、道具や手順を教えてもらったことはあっても、描き方そのものや何をどう表現するかは、生徒まかせだった。この文が40年前ってことは、僕が小学生だった頃の数年後か。現在はどうなってるんだろ?

・子供が自由に描いた絵は「すっげ〜!」ってものが時々ある。大人には真似できない。けど、本人には「子供らしくて素晴らしい」なんてわからないし、逆に「こういう絵が大人にウケるのね」って思われたら不健全w

・僕は「大人ウケ」する絵を描く子供だったのか、賞をもらったりして「絵が上手い子」のくくりに入れられた。学校関係の絵はつまらなかったし、何を評価されてるのかもわからなかった。

それより、クラスメートの子が描くとんでもなく面白い絵(化け物だったり図鑑風だったりドイツ軍や戦艦だったり)に打ちのめされて、ものすごい劣等感だった。そっちが出発点。

・昔、子供絵画教室に通いはじめた近所の友達が、みるみるうちに上手くなっていくのも見た。知らないけど、ああいう教室って技術を教えてくれたんだろうなあ。

・「自由に描きなさい」が苦手だった人も、身近に魅力的な見本があって、様式がある程度固まっていて、How Toもあふれてて、世界でちゃんと評価してもらえる! って飛び込むのが、マンガ絵アニメ絵の世界なんじゃないかと思う。


【吉井 宏/イラストレーター】

HP  http://www.yoshii.com
Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/

現在の図画工作指導がどうなってるか知らないので、話半分でおねがいします。ところで、まとめない雑感の列記ってアリだなw 無理に流れを作らなくていいし、書くのラクだし読みやすい。

◎吉井宏がデザインしたスワロフスキーの招き猫が発売されてます。
フクロウや干支シリーズなどよりひとまわり大きい5cm。
http://bit.ly/2ni8HaD

・スワロフスキー干支モチーフの「ZODIAC」
https://www.fashion-press.net/news/33277

・スワロフスキーのLovlotsシリーズ「Hoot the Owl」
http://bit.ly/2ruVM9x

・パリの老舗百貨店Printemps 150周年記念マスコット「ROSEちゃん」
http://departmentstoreparis.printemps.com/news/w/150ans-41500

・rinkakインタビュー記事
『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん
https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii