羽化の作法[55]段ボールハウス絵画一軒目の家主にどつかれる/武 盾一郎

投稿:  著者:  読了時間:7分(本文:約3,000文字)



神戸から戻った次の日に、また新宿西口段ボールハウスに絵を描きに向かった。しかし、この日、今までにはなかったショックな出来事が発生した。

1997年10月6日(月)制作ノートNo11より。

《新宿に行ったが親分にどつかれる。殴られる直前まで行ったがどうにか助かる。平野さんが死んだ。(このあと、親分は平野さんの祭壇をぶち壊す)》

https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1854255944619284:0


「親分」とは、段ボールハウスに描き始めた最初の家の主人である。その人に、「テメーは出てけ! めざわりなんだよ!」と怒鳴られ、殴られそうになったのである。

この日は段ボールハウスに絵を描くことができずに、とりあえず花園神社に逃げて、しゃがみ込んで途方に暮れた。

制作ノートには続けてこう記してある。





《あまりにも憂鬱で、絶望的すぎて、心の中に重い固まりがない。スカスカだ。とにかく歩いた。一時間も、二時間も。

誰もこの気持ちは分からないし、誰かを引きずり込んで憂鬱にさせるのもいやだ。歩きながら、歩き続けながら、僕はずっと自殺することを考えていた。久しぶりだ。こんなに死にたいという思いが浮かんでくるなんて。

何度となくその思いを打ち切る。だって、どうせ死ぬ勇気なんてないのだから。こんな時、新宿の街は僕を受け入れてくれない。どこの広場も建物も、やわらかく冷たく僕を拒絶する。

西口地下道段ボールハウスペインティングをやめようか、という思いが込み上げてくる。なんか、もう、とても疲れたような気がする。いつも、現実はつらい。もう耐えられないかも知れない。今日、僕は浮浪者だった。》


次の日も新宿に向かったものの、段ボールハウスに絵を描くことができなかった。「親分」に怒鳴られて排除され殴られそうになったのが、よっぽどショックだったのだろう。

そりゃそうだ。段ボールハウス絵画の始まりが「親分」なのだから。

10月7日(火)の制作ノートにはこう記してあった。

《あてもなく新宿へ向かう。地下道に行ってみたいが、恐怖心がある。また親分にからまれたらどうしよう。

今までは何を言われても、あそこに描こうという意地があった。強烈に、何かに取り憑かれたように僕は西口へ通っていた。今でもあそこで描きたい思いはある。しかし、もう嫌な思いまでしてあそこには行きたくないのも事実だ。

僕の心はどこへ向かっているのだろう? 今の僕には強烈に惹かれる場所がないのか? 憂鬱も秋晴れにかき消され、なんとなく無の境地だ。今の僕は無に近い。心の中に逆流してくる強くて重い固まりがない。

平静なのだ。胸の奥にずっとあった熱くて抵抗感のあるゴロッとした胎児は、洗い流されて川の水のように透明でなんの抵抗感もない。スカスカなのだ。流れていたい。流れていたくない。》


それでも10月12日(日)には、新宿で段ボールハウスに絵を描いている記述がある。
https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1854261427952069:0


この制作ノートに相当する絵の画像が見つからないのが残念である。


10月13日(月)の制作ノートにはこう記していた。

《向こう側を夢想した。奇跡は信じるし、体験もした。もっと究極の状態を維持していないといけない、という強迫観念にかられている。

ただ、今の浮遊して不可解なバランスを取り続けている自分に、ある種の快楽を感じているのも事実だ。

何かが足りないことに鈍感になっているのか? それとも、全てを許せる境地に辿り着いたのか? 全てを忘れて眠りたい時もある。全てを引き受けて思い切り闘いたい気持ちもある。》


10月20日(月)の制作ノート。

《確かに僕はいろいろな事を感じて生きて来たはずだ。このウソ臭い社会の閉じられたフタの内側を見て来た。しかし、なかなか真実を言葉に、あるいは何かに表現し切れない。

僕の見た真実を吐き出させてくれる偉大な人を僕は待っているのか? 僕には見えるもの、見える何かがある。そして僕は重要な何かを知っている。

しかしそれを体系化する事が出来てない。僕は破壊者なのだ! 自殺する前に、事故死する前に、成し遂げてやる!》


10月21日(火)の制作ノート。

《新宿西口地下道、神戸の仮設・公園、不登校児のフリースクール、それから駒場寮。置き去りにされた所に未来を見てとれる。

そして置き去りにされた所は一種のアジール的役割を果たしている。それは行政の隙間であり、体制の圧力を常に受けている場所である。

僕はそんな場に漂う浮浪児である。そこで僕は絵を描く。自分に運命が課せられたような気がする。
僕はあくまでも不良であり、透明なのだ。僕は生かされてるが、生き抜く義務がある。》


社会から排除されてる、または排除されそうな人たちが、身を寄せ合って集っている最後の砦のような「場」、今にも潰されそうな「アジール」。

どこに行っても崖っぷちの場所だった。(つづく)


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