エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[13]第三回 大阪てのひら怪談展 コートの手
── 松岡永子(超短編ナンバーズ) ──

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◎第三回 大阪てのひら怪談展

1月には京都で「文学フリマ」がありましたが、大阪では2月に「第三回 大阪てのひら怪談展」があります。

「手のひら怪談」は、毎回、インターネットで作品を募集します。今年は178作の応募があったようです。

実話、創作を問わず、大阪に関わりのあるオリジナルの怪談。広義の怪談なので、必ずしも幽霊やお化けがでる話とは限りません。優秀賞などが選ばれるほかに、応募作品には審査員でもある山下昇平氏が出来る限りイラストをつけて、会場のSUNABAギャラリーで展示されます。

「大阪手のひら怪談」のサイト イベントお知らせのページ
http://osakakwaidan.hatenablog.com/entry/2017/12/01/160204


SUNABA ギャラリーのサイト「大阪てのひら怪談 参」
2018年2月10日(土)〜21日(水)お知らせのページ
http://sunabagallery.com/upcoming/20180210_ghost/ghost.html






「出来る限り」とされていますが、昨年も一昨年もすべての投稿作にA4サイズの水彩画がつけられていました。

今年もきっと全作品に挿絵がつけられるんだろうと思っていたら、すでに山下昇平氏のツイッターにあがっていました。


会場であるギャラリーには全作品をプリントアウトしたファイルも置かれていて、昨年、一昨年は何度か通って読みました。

3回めの今年は、「大阪てのひら怪談」のサイト上ですべての作品が読めるようになっています。

ナンバーズのなかでは、わたし以外に海音寺ジョーさんが投稿しています。サイトの掲載は記名なので、誰が出しているのかがわかります。


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◎コートの手

簡単な囲いと雨除け。古着なのだろう、色も形もばらばらの服が安っぽいハンガーに掛けられて並んでいる。傍らに置かれた衣装ケースからも服が溢れ出していた。

約束の時間まで少しあったので、ひやかしてみようかと立ち止まる。間髪入れず、いかにもオバチャンといった風情の店員(露店の場合も店員というのだろうか?)が話しかけてきた。

「安いでぇ。品はええもんばっかしやし、お値打ちや。これなんか良う似おとるわ」

と、とんでもない柄のシャツを押しつけてくる。思わず後退り。そのとき、脇に掛かっていたダッフルコートが目に入った。

ややクラシカルだが上品な色合い。取り外しのきくフードがついている。

「これか? やっぱ兄ちゃん目利きやわぁ。ふだんやったら万札出しても買えんところやが、今日やったらヨンキュッパ。5000円でおつりがくんでぇ」

そう言いながら、こちらの返事も待たず着せかけてくる。

やわらかであたたかい。なんだか安心に包まれるような着心地の良さ。

今日は寒いからなあと思っていると、ふっと手が出て僕の頭にフードをかぶせた。痩せた白い手。絶対あのオバチャンの手ではない。

「えっ」

びっくりしてオバチャンの顔を見る。オバチャンは目をそらした。脱いだコートを受け取ると無言でフードを外し、そして、そのコートを僕の鼻先につきつけてくる。

「4000円ちょっきり! どや。」


【松岡永子】
mail nifatadumi@gmail.com
blog http://blog.goo.ne.jp/nifatadumi


「コートの手」は、昨年の大阪てのひら怪談に投稿したものです。

わたしが聞いた実話をもとに換骨奪胎しました(モノはコートではありません)。実話だ、というと友人たちから「こわーい」という反応が返ってきました。

でも、こういう、都合の悪い部分からは目をそらして、とりあえず売りつけようとするオバチャン(には限らない)はわりといる気がするのですが。