わが逃走[211]ちんすこうショコラの巻/齋藤 浩

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ちんすこうといえば、小麦粉・砂糖・ラードを原料とした、沖縄の伝統的な焼き菓子である。

ものの本によるとその歴史は琉球王朝時代までさかのぼり、中国やスペイン、ポルトガルなどから渡った菓子をベースに、琉球が独自にアレンジしたもの、とある。

我々がすぐに思い浮かべる、あの黄色い箱のちんすこうは王様御用達の由緒正しいブランドだそうだが、現在のような形状になったのは意外なことに戦後にのことで、米軍放出品のクッキー型を使ったことがその始まりと聞く。

紅芋味やらパイナップル味やらジンベエザメの形をしたものなど、複数のメーカーからさまざまなものが発売されており、「雪塩ちんすこう」など本家(?)をしのぐ人気商品も登場している。

いずれにせよ、ちんすこうは沖縄の土産物としての地位を揺るぎないものとして久しい。





さて。それまでの私は雪塩も紅芋も邪道、黄色い箱以外は邪道! としていたのだが、10年ほど前、本島北部の「道の駅許田」にて福引きで当たった「ちんすこうショコラ」を食べて以来、その考えを改めたのである。

旨かったのだ。

「ちんすこうショコラ」は、簡単に言ってしまえば、ちんすこうをチョコレートでコーティングしたもの。

このおしゃれだかダサイんだかわからないネーミングから、当時の私はパチもんな印象を受けてしまったもので、その存在は知っていたがなかなか手を伸ばさなかったと言えよう。

そんな折り、福引きが当たった。まさに福! ありがとう道の駅。

で、そのときはたしか11月で、11月といえば沖縄では秋も深まる頃ということになっているらしいが、気温は高いし蝉も鳴いてるし、旅人の立場からすれば、まだまだ夏ということになる。

景品は“冬期限定”の「ブラックココア&ホワイトチョコ」で、パッケージには雪の結晶が描かれていた。外の気温はまだ30度なのに。

ホテルに戻って、そんなに期待せずに食べてみたところ、旨い。旨すぎる!!と翌日もまた道の駅に出向き、こんどは「ダーク」と「ミルク」を購入したのだった。

「ちんすこうショコラ」の何がエライかといえば、まずコーティングされたチョコレート層の厚さにあると思う。いわゆるおみやげ品というものは、往々にして材料をケチるものだが、一口目でこれは“本物”だと確信した。

絶妙な層の厚みから演出される、ちんすこう本体とチョコレートとの食感、色彩、そしてもちろん味覚のコントラストから、それらが徐々に混じり合い、口の中にひろがってゆく。その過程にこそ、この商品の神髄を感じる。

混じり合う“時間”には、琉球の歴史や文化、さまざまな国の風習や思想を巧みに取り入れ独自のものへと昇華させてゆく「ちゃんぷるー」的考えがあるのだ(憶測)。

小さな船による異国との行き来から徐々に国が発展し、文化が育ち、ちんすこうが定着し、ちんすこうショコラへと結実する、そんな博物館の解説映像のようなムービーが脳内で勝手に生成され、さもその映像が実在しているかのごとく私の記憶として捏造されてゆく。

というわけで、この「ちんすこうショコラ」、あまりに気に入ってしまい、それ以来沖縄へ行く度に友人知人への土産として大量購入している。

しかし、つい独り占めしたくなり、いくつかを茶箪笥の奥底に保存しておくと、いつのまにか賞味期限が切れているのだから困ったものだ。

「賞味期限なんて気にしないさー」と試しに食べてみたら、やはり味が落ちていた。当たり前である。

素材や製法の微妙なバランスあってこそ、この味は成立しているのだなあ。

と、反省しつつ、こんどは夏限定のちんすこうショコラ「シチリアレモン」を食べてみたい、などと南国への想いをはせるのであった。

最後に、気になっていることをひとつ書き記しておこうと思う。

販売店の値札に「1袋約10コ入り」と書かれているのだ。「約」ってことは9個だったり11個だったりするのだろうか。だとしたら、それはとても沖縄らしいテーゲー(よく言えばおおらか)なことであるなあ。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられ
ないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィ
ックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。