わが逃走[213]ソフトフォーカスレンズの巻/齋藤 浩

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ソフトフォーカスってのはアレですよ。

70年代のアイドル写真やエロ写真なんかによく見られた、ピンはあってるんだけど、ぼやーんとした表現手法のこと(超大雑把)。

ひょんなことから「MINOLTA AFソフトフォーカス100mm f2.8」なるレンズを手に入れた。

これはとても妙ちくりんなレンズで、本来ならば抑えるべき球面収差をあえて残し、ぼやーんとした雰囲気の写真を撮ることができるというもの。

しかも、「ぼやーん」の発生量を三段階にわたって調整でき、さらに0にもできる。0にしてみると意外なほどシャープな写真が撮れて、その変貌ぶりに腰を抜かす。こ、これは面白い!





ぼやーんとした写真が欲しければ、普通に撮った写真をデジタル加工すればいいし、実際そういった使い方の方が融通きく。

そういうわけで、現在ソフトフォーカスレンズの需要はほとんどない、といっても過言ではない。

しかし、後処理ではなく、撮影時の自らの意思で、光学的にぼやーんとさせるという、前世紀的な思想(実際、前世紀のレンズだが)にはなにか狂気のようなものを感じるし、それだけのためにマスプロダクトが存在していたことにも、今となっては驚きを禁じ得ないのだー!

というわけで、実際にどんな写真が撮れるか試してみた。

ベタな被写体といえば、うつろな瞳+口半開きの美少女となるのだが、そんな人に心当たりがなかったので、我が家の埴輪を撮影した。

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ソフト効果1

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ソフト効果2

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ソフト効果3

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ソフト効果0

みなさん、脳内で埴輪を眉の濃い美少女に置き換えてみてほしい。

少年だったあの春の日、橋の下に落ちてた雑誌を思い出しますね。

あえて今、このレンズで美少女を撮るというのもイイし、おっさんやジイさんを撮ってみても面白いかと思う。

いずれにせよ、こちらにその気なんてなくても、思い切り演出された写真が撮れてしまうのが、このレンズの特徴である。

なので、その効果を逆手にとってみたい。たとえば、ポートレートに使わないとか。花を撮らないとか。できることなら心霊写真やUFOを撮りたい。

きっとインチキ感が増大して、たとえそれらがホンモノだったとしても、トリックにしか見えなくなるだろう。

というわけで、このレンズとともに近所を散歩してみた。

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世田谷区役所

前川國男による名建築。すでに建て替えが決まっている。写真は第一庁舎の一部で、煙突(?)のように見える塔を見上げたところ。ちょっと柳宗理っぽい。

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止まれ

と言われればそう見えるが、黒いところを読もうとすると訳がわからなくなる。ソフト効果もあってか、意味不明感大。このように、レンズの実力を無駄遣いする行為は実に楽しい。

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三角コーン

駐車場入口を生け垣越しに撮ったところ、光の輪っかがきれいな円形だったのでびっくりした。

地面に収納されているポールの金属反射表現も、冗談みたいに俗っぽくてイイ。反射素材を逆光で撮りまくってみるのも楽しそうだ。

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暗渠脇コンクリートの構造物に落ちた影。金網や鉄柵などが交差し、非常にハードな、シャープな、無機的な美しさを感じてシャッターを切ったのに、レンズからは真逆の回答が出された。

といった具合に、うまくいけば想像のナナメ上をいく写真に心躍らされ、うまくいかなければコレジャナイ感満載の写真が撮れる。

誰でも普通に思いどおりの写真が撮れる今こそ、この奇妙なレンズに主導権を奪われながらカメラ散歩するのもアリだなあ。

などと思う今日この頃です。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。