わが逃走[214]列車の中で本を読みたいの巻/齋藤 浩

投稿:  著者:  読了時間:3分(本文:約1,400文字)



なにもしたくないときってある。体や脳がそう欲しているのだ。

こういうときは積極的になにもしないに限る。

こんなとき寝台特急に乗りたいなあ、と思う。

「北斗星」は札幌まで16時間、「富士」は西鹿児島まで24時間、“何もしない”ができた。

昨今ブームの豪華列車みたいに理不尽な付加価値もなく、ただ普通に在来線で旅ができた。

普通に個室でくつろぎ、普通に食堂車で食事をし、ひとり楽しくぼーっと車窓を眺める。よいねえ。





何もしないとか言いつつ、列車の中で本を読みたい。読もうと思っていた本が何冊も積んであるのだ。

本を読むにも周囲の風情というのがあって、たとえば地下鉄や通勤電車の中での読書は日常すぎて
イマイチ“目的”な感じにならない。“ついで”っぽいのだ。

地上を走る列車で、速すぎず遅すぎず慌ただしくない、ロングシートでない、できれば尻が痛くならない、そんな車両での読書が望ましい。

そう考えると、在来線の特急がベストかなあ。

また、本を読むなら席はどこでも同じと思われがちだが、できれば車窓からの風景が美しい窓際、自然光の入る環境が好ましい。

栞の位置と車窓の景色はリンクするというか、どこまで読んだか、どこまで走ったか、が視覚化されるところが快いのだ。

次に同じ本を読んだとき、ふと見た景色が思い出されるのも愉しいねえ。

さて、来月仕事で金沢に行くことになった。

その場できっちりイイ仕事をするからには、旅程が楽しくなければならぬ。

ということで……早速、脳内でルートを検証してみる。

東京から新幹線というのは定番中の定番だが、景色を見ていると目が疲れるのが難点だ。

車内で本を読もうと思っても、物語の序盤で到着してしまう。新幹線は速すぎるのだ。特急「白山」や「北陸」がまだ走っていればなあ。

新宿から中央線の特急「あずさ」を使って松本経由で、と思ったけど、もはやJRは歯抜け状態になっており、第三セクター路線へ頻繁に乗り換えることになる。

在来線を使って松本経由で金沢に出るなら、「しなの」で一旦名古屋に出てから「しらさぎ」で向かう方が早く着くのだ。

しかし、日本海に近づいておきながら反転してわざわざ……というのは納得がいかない。

だったら素直に米原経由で「しらさぎ」に乗る方が潔い。それも悪くない。

しかし、中央線の「あずさ」で“春まだ浅い信濃路へ”向かう、という昭和歌謡な響きにはなんともいえぬ魅力を感じるのである。

それなら松本まで「あずさ」で行って、篠ノ井線で長野まで出て、そこから先は新幹線ということで妥協しようか。

尻も痛くならなそうだし、悪くない選択である。

早速運賃を計算してみると、やはり東京から新幹線の方が2000円近く安い。そりゃそうだよなー。

しかし、それだと3時間半も早く着いてしまう。

その点、松本経由なら3時間半も(※1)長く電車に乗っていられるので、新幹線だと1時間あたりの座り賃が約5600円なのに対しこのコースだと約2500円(※2)。

これはお得ですねえ。ということで、今回は中央線かな〜。

※1 待ち時間含む
※2 自由席料金


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。