[4548] SMA:演出を学ぶための最強の方法

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《イタリアマンガ界に新風を吹き込むのだっ!》

■ローマでMANGA[129]
 SMA:演出を学ぶための最強の方法
 Midori

■グラフィック薄氷大魔王[561]
 「電話のあの保留音」他、小ネタ集
 吉井 宏




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■ローマでMANGA[129]
SMA:演出を学ぶための最強の方法

Midori
https://bn.dgcr.com/archives/20180411110200.html

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりしていきます。

●SMA:サイレント・マンガ・オーディション

20年越しでmanga構築法のセミナーをしてきて、やっと今年度から正式の三年生のコースになったmangaの授業。8人の生徒で昨年10月半ばから出発したのだった。実技担当のパオロ君、そして、manga構築法担当の私の二人三脚のコースだ。

教室内での授業の他に、サイレント・マンガ・オーディションへの参加を義務づけた。
http://www.manga-audition.com/japan/


以前に、正式コースではなく、学校生徒なら誰でも無料で受講できる「manga構築法セミナー(週に2時間)」の時も、同オーディションに参加を義務づけたことがあった。

このセミナーは年度の条件はないものの、ほとんどが比較的暇な一年生が参加する。一年生だとまだまだ色々基本ができてなくて、なんだかレベルの低いものばかりが出てきた思い出がある。

三年生だと描画の基礎はできてるはずなので、期待は大だったのだ。

私を師と呼んでくれるイタリア人二人が、相次いで同賞でグランプリを取ったので、参加する方も受賞は夢物語ではないとわかってもらえる。

そもそも、サイレント・マンガ・オーディションとは、2000年に設立された元少年ジャンプの編集長堀江信彦氏、同氏が担当していた漫画家の原哲夫氏(北斗の拳)、北条司氏(シティーハンター)、次原隆二氏(よろしくメカドック)が立ち上げたコアミックス社が、2012年に開催し始めたオーディションなのだ。
http://www.coamix.co.jp/


mangaの魅力を作っている条件の一つは、キャラの感情が読者と同期できる演出力なのだ。特に初心作家は台詞があると、ついつい台詞で解説してしまおうとする。

だから、その台詞を取ってしまうことで、感情や構図や小道具の使い方、要するに演出で表現するしかなくなる。演出を学ぶための最強の方法だと私は絶賛している。

●教室でのSMA

予定では、1月にアイデアを出してストーリーボードを作り、2月にはストーリーボードを何度か修正して、3月に仕上げるという段取りにした。しかも、作業は家でやる。そうしないと授業が進められない。

そのかわり、ストーリーボードをFBのメッセンジャーで私に送ってくれたら、いつでもお直しすると言った。幸か不幸か、しつこく何度も送ってきたのは一人だけだった。

みんな、作業が遅い。初めて一つの物語を原稿にする生徒がほとんどで、やり方がわからないということもあるのだろうけど、だったら、聞いてよ! と思うんだけどね。

ともかく、作品を一つ、決められた期間内に仕上げる、という体験をして欲しかったので、2月の半ばから授業中にストーリーボードの見直しをすることになった。

Facebookのメッセンジャーを通してストーリーボードを送ってくるフェデリカは、初めてデジタルでトーンを貼って、非常に満足していた。「すごく気に入ってる」と興奮した感じで書いてくる。

初めてトーンを貼った自分の原稿を見ると、なんだかプロ仕様に見えてしまうのだよね。実際は、あちこちに欠陥があって、それを指摘するけれど、なかなかわかってもらえない。

2月終わりにあった中間講評では、どれだけがんばったかではなくて、仕事の質を見るのだという教務課長の意見に従ったため、あまりいい点をあげられなかった。

フェデリカは頑張って描いていたので、えらくがっかりして落ち込んでしまったが、二週間もすると持ち直してきた。学生のうちにダメを経験するのはいいことだ。

今回のSMAの締め切りは3月31日。その週の火曜日、27日に提出することと決めていた。

先述のフェデリカともう一人、着実に製作を進めていたベロニカが、27日を待たずに仕上げを終了して、自分のブック型コンピュータから作品をアップした。

女の子のフェデリカじゃなくて、フェデリコという男子学生は、仕上げてアップした二人がいるのにまだ鉛筆の下書きを終えていなかった。すべての鉛筆下書きを細かくしっかりしないと、ペン入れができないと言う。

「とても間に合わないよ。絶対に仕上げるけど、SMAに送らなくてもいいかな」と言うので、締め切りを守ることを優先して、そのためには何でもするようにと指示した。

細かく描いた鉛筆の下書きは、それだけで鑑賞に値する仕上がりになっている。余計な線を消して、スキャンしてフォトショップでちょっとコントラストを強くしたら十分に使えるから、ペン入れは諦めてとにかく期日までに仕上げるようにと言った。

丁寧に作品を仕上げるタイプで、キチンとした線を引かないと気が済まない。だから、当初は鉛筆描きで提出することにすごく抵抗感があった。でも、鉛筆画の柔らかい線が彼のスタイルに合っている。

最後には納得して、鉛筆の原稿で提出した。フェデリコにとっては、裸で表に出たような違和感があったと思う。なんとしても締め切りに間に合わる、という経験をさせることができた。

コミックス課に在籍する子たちの80%は、mangaとアニメを見て育ってmanga家になりたいと夢見て学校に来る。我がEuromangaコース8人の内7人もそうだ。

フェデリコは特異で、mangaとかアニメにほとんど興味がない生徒だ。だからこそ、知らなかった世界を身につけて、自分を広げたいという積極的な生徒だ。

そのせいか、ストーリーボードを細かく直してその理由を説明するのを、すごく熱心に聞いてくれる。フェデリコ君にはなんとなく納得出来ないことも、やってみる、と言ってくれる。

●SMAとイタリア

SMAにはイタリアからの応募も多い。そしてなんと、スタッフに日本語を読み書き会話できるイタリア人が雇われた。イタリア人スタッフのエンリコ君は、生徒達の作品アップロードの手助けをしてくれた。

というのは、教室でアップロードをしていた先述の二人、SMAのアップロードページがうまく作動せずに「アップロードは成功です。」の表示が出るのに、いざプレビューしてみると全部のページが表示されなかったり、全く表示されなかったりするのだ。

次の授業の際に、それぞれ自分のコンピュターを持ってきて、アップロードをまたまた試みたが同じ結果。オーデション側にコンタクトを取ってもらったら、日本では午後8時、エンリコ君がFBメッセンジャーを利用して二人に同時に返事を書いてくれた。

結局、サイトが上手く作動していないとのことで、エンリコ君のメールに直接送ることにして事なきを得た。日本人並に働くイタリア人のようだ。

ついでにエンリコ君のことをちょっと言うと、夢を追って積極的に人生を歩んでいる人だ。

mangaが大好きで日本に興味があって、日本語を覚えたいのでお金を貯めて東京に行き、語学学校に通い始めた。

言葉がちょっとできるようになると、manga好きの殿堂、まんだらけに就職した。まんだらけではサイト構築を担当した。

やがて、まんだらけに客として来ていた原哲夫氏と親しくなって、SMAでイタリア人の応募者が増えると原氏に編集者として来ないかと誘われたのだ。

ほんの数行で彼の7年間を語ったけど、かなりの勇気とガッツが必要だったと思う。

●SMAとEuromangaコース

4月5日から8日まで、お定まりのコミックスフェア「ROMICS」が開催された。毎回、国際的なマンガ家一人ににRomics黄金賞というのを授与していて、今回は北条司氏だった。

エンリコ君が付き添いとして来伊した。いろいろ話すうちに、北条先生も交えて私とパオロ君とエンリコ君の4人で会って、SMAを学校内でもっと正式にしていく件を話すことになった。

SMA側からの正式認可(?)がなくても、ずっと課題の一部として強制的にやっていくつもりなので、私的には変化がないけれど、私のコースだけではなくて、他のコースからも参加していく道順を考えていこう。この素晴らしいコンタクトを活かして行こう。

そして、イタリアマンガ界に新風を吹き込むのだっ!


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】

今年の復活祭は4月1日だった。復活祭は毎年移動する。3月21日後の最初の満月の次の日曜、という「の」がたくさん入ってしまう、長い説明を要する条件を満たすのが今年は4月1日だった。エイプリルフールはイタリアではあまり騒がないので、幸い、この件はスルーできる。

舅姑が亡くなり、ヴェローナに住む義妹も同居の姑さんの体が利かなくなってきてローマまで来れなくなったので、ダンナと一緒になって初めてダンナと息子と私の3人家族水入らずの復活祭となった。

ダンナがいそいそとトスカーナの安いレシデンスを見つけてきて、飼い犬も連れてのんびり三泊して、トスカーナの美味しいものを食べてきた。


[注・親ばかリンク]息子のバンドPSYCOLYT


MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/


主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/


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■グラフィック薄氷大魔王[561]
「電話のあの保留音」他、小ネタ集

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20180411110100.html

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●電話のあの保留音

好きな保留音があって、何ていう曲かずっと謎だったのだが、検索したらこんなページが。
https://matome.naver.jp/odai/2133491291197601901


立ちどころにわかった。2ページ目の「エルガー『愛の挨拶』」だ。あの「威風堂々」のエルガーか! こんな優しい曲、イメージと違うw


他にもなんとなく聞き流してたけど、そういう曲だったのね! って保留音があって面白い。聞き慣れて音楽として認識しなくなっちゃってた。

「威風堂々」といえば、「時計じかけのオレンジ」のサントラに入ってて知った。FPMのこのバージョンはすごい好き! ユニクロカレンダーで気に入って、アルバム買ったんだった。
https://apple.co/2qfn54P


●Appleが独自CPUを搭載?

Appleが独自CPUに代えるかもしれない、という話が出てた。iPhoneやiPadなどではすでにApple製CPUを使ってるんだし、あり得なくもないだろう。

680x0、PowerPC、インテルと、何度もCPU替えして、そのたび開発者も対応がたいへんだった。今回はどうなんだろう? Macとしての性能が上がるのなら大歓迎。

ただ、インテルだから可能だったと思われる、BootCampができなくなると困る。……いや、困らないな。今BootCampやParallels含めて、Windows環境はひとつもないけど困ってないや。

Windows版しかないため、BootCampしてたのは3ds MaxとRhinocerosくらい。今はMac版があるMAYAに代えたし、RhinoもMac版が出たし。

ホントはWindowsマシンだってバリバリ使いたい。Macは3DCG向きでないし、MODOのキャラクターアニメーションツール「CharacterBox」は、Windows版しかない。
https://www.psoft.co.jp/jp/product/cbox/


それに、Windowsに限らないけど、3台目のマシンを持ちにくいってのもある。Adobe CCは3台目で起動しようとすると、サインアウト/サインインしなくちゃいけないのがマジ面倒で。なら、3台目は持たないようにしようって。

●あまり見ない人向けのテレビ改善案

いまだにテレビは「続きはCMのあとで!」をやってる。面白い内容でノリノリで見てるとき「あ、しばらくCMやってないから、そろそろ危ないぞ」って不安がこみ上げてきて、案の定そうなる。映像の一部を「?」で隠されると、「あ、来るぞ!」って思う。

これをずっと繰り返されると、テレビの楽しさより苦痛のほうが上回ってくる。さっさと消すか、チャンネルを変える決断が、近頃は軽くなってきた。続きを見たい! って気分は5秒もすれば忘れる。

毎週決まった時間にテレビの前に行くのが苦手w あのバラエティが何曜日の何時に放送してるかほぼ知らない。通りがかってたまたまテレビのスイッチ入れたときに楽しみたいだけ。

毎週ずっと見てれば面白いんだろうけど、ほとんどの番組が「一見さん」状態。

基本的に、僕にとってはテレビはボケーっと見る受動的なもので、面白くなかったらチャンネルを変える以外に何にも動きたくない。

録画して見るのは能動的だ(録画機器持ってない)。検索もしないし視聴者参加もしたくない。パッと見で面白そうな番組をやってもらう以外に手はないw

僕的に「パッと見」で見続けてしまうだろう番組は、「30秒以内のYouTubeの犬猫や面白動画を延々」とか「1項目30秒以下のニュースや情報を延々」など……せっかちだなあw


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


子供たちの85%が公衆電話を使ったことがないそうで、無理もない。僕自身、公衆電話を最後に使ったのっていつだっけ? 今世紀に入ってから使ったことないかも。手順を迷わずチャッチャと使えるか自信ないw

・スワロフスキー「招き猫」と「HOOT HAPPY BIRTHDAY」が出ました。
http://bit.ly/2ni8HaD

http://bit.ly/2orkDIs


・スワロフスキー干支モチーフの「ZODIAC」
https://www.fashion-press.net/news/33277


・スワロフスキーのLovlotsシリーズ「Hoot the Owl」
http://bit.ly/2ruVM9x


・パリの老舗百貨店Printemps 150周年記念マスコット「ROSEちゃん」
http://departmentstoreparis.printemps.com/news/w/150ans-41500


・rinkakインタビュー記事
『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん
https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii



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編集後記(04/11)

●久坂部羊「祝葬」を読んだ(2018/講談社)。筆者は現役の医師、ブラックな医学界ものが実に面白い。「早死にの呪い」がかけられている一族、そんなものがあるのか、横溝正史か。まず家系図が示され、もっともらしい展開だが、実は日本人の近未来ディストピアを描く、皮肉な“SF”であるといっていい。

2020年頃から短縮し始めた日本人の平均寿命が、いったん78歳まで下がったあと、2040年から再び延長に転じ、2060年にはついに90歳を超えた(その設定なら、わたしは94歳で生存中。やだやだ)。「人生90年」「本来の寿命は120歳」などの文言がメディアを賑わし、80歳が早死にといわれる時代になった。

この短編「忌寿」も、タイトルの「祝葬」も意地悪な筆者の造語だろう。好きだけど。主人公はWeb記事で「米寿の現役ドクター手島崇さん(88)アクティブ散歩で薬いらず」と紹介されている。取材記者はなんでも勝手に解釈し、自分の作るストーリー通りに書いているのだった。いるいるこういうバカ編が。

医療が進歩したせいで、現場の医師は予想外の窮地に立たされた。がんは進行がんでさえ免疫療法で治るようになった。おかげで外科手術の出番がなくなり、抗がん剤も放射線治療も廃れてしまった。主人公も消化器系外科医だが、患者激減で、せっかく開発した胃がん術式も使えず、検診医に鞍替えしたのだ。

検診が盛んになるにつれ、判定の見落としが大きな社会問題となった。見落としで治療が手遅れになったら意味がない。しかし、見落としゼロは不可能である。見落としを賠償の対象にするなら、リスクが高すぎて判定を引き受ける医師がいなくなる。そこで折衷案として、ベストコンディション義務が生まれた。

検診の見落としはゼロにはできないが、容認されるのは医師がベストコンディションで判定した場合に限るというのだ。すべての医師にこの基準が適用された。で、ひとつのバカバカしい裁判話があって、やはりこの作家の「底意地の悪さ」に嬉しくなる。わたしも人からそう言われたことがある。嬉しかった。

「無闇に寿命を延ばすのも罪ですね。医療は死を遠ざける努力を積み重ねてきたけれど、結局は何もしないのがいちばんいいと分かったなんて、皮肉もいいとこだわ」「もうすぐ適当に死なせてくれる医療が開発されるさ。そこまで生きているかはどうかは疑問だが」という会話の苦々しさ。こんな未来は厭だ。

患者はよりよい長生きを求め、医療者はよりよい医療でそれに答えようとする。その結果、皮肉にも忌まわしい長寿を作り出した。もちろん、早すぎる死を逃れた人もいる。でも、思い通りの死などできるはずがない。「人はだれしも、ただ一度だけ、自分の死を死ぬ以外にない」ときれいにまとめた。 (柴田)

久坂部羊「祝葬」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062207729/dgcrcom-22/



●食事中は気楽に見たいので、バラエティ番組を選ぶことが多い。「続きは〜」な流れは本当にうっとうしい。CMの間に、その後の予告を挟むのもうっとうしい。CMの後、さっき見たよね? という映像が延々と流れる。

途中から見た人を逃さないためだとは思うが、その番組を最初から見ていたら、5回ぐらいは同じものを見るような気がする。

終わりそうだからと見ていると、いきなり別の話題が始まり、メインの話は番組最後、なんてのもある。

なので「続きは〜」の番組だとわかったら、途中からでも録画。で、申し訳ないけれど、CMや何度も出てくる場面はスキップ。これで2時間番組は45分ぐらいで見られるし、途中で止めて続きを別の日に、ということもできる。途中で止めたものを改めて見ることはほぼないが。

若い人たちのテレビ離れは理解できる。これがYouTubeなら、スライダー移動させて見たいところだけ見られるもん。勝手に巻き戻され、同じ場面ばかり見せられるわけじゃないもん。 (hammer.mule)