ローマでMANGA[129]SMA:演出を学ぶための最強の方法
── Midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりしていきます。

●SMA:サイレント・マンガ・オーディション

20年越しでmanga構築法のセミナーをしてきて、やっと今年度から正式の三年生のコースになったmangaの授業。8人の生徒で昨年10月半ばから出発したのだった。実技担当のパオロ君、そして、manga構築法担当の私の二人三脚のコースだ。

教室内での授業の他に、サイレント・マンガ・オーディションへの参加を義務づけた。
http://www.manga-audition.com/japan/


以前に、正式コースではなく、学校生徒なら誰でも無料で受講できる「manga構築法セミナー(週に2時間)」の時も、同オーディションに参加を義務づけたことがあった。





このセミナーは年度の条件はないものの、ほとんどが比較的暇な一年生が参加する。一年生だとまだまだ色々基本ができてなくて、なんだかレベルの低いものばかりが出てきた思い出がある。

三年生だと描画の基礎はできてるはずなので、期待は大だったのだ。

私を師と呼んでくれるイタリア人二人が、相次いで同賞でグランプリを取ったので、参加する方も受賞は夢物語ではないとわかってもらえる。

そもそも、サイレント・マンガ・オーディションとは、2000年に設立された元少年ジャンプの編集長堀江信彦氏、同氏が担当していた漫画家の原哲夫氏(北斗の拳)、北条司氏(シティーハンター)、次原隆二氏(よろしくメカドック)が立ち上げたコアミックス社が、2012年に開催し始めたオーディションなのだ。
http://www.coamix.co.jp/


mangaの魅力を作っている条件の一つは、キャラの感情が読者と同期できる演出力なのだ。特に初心作家は台詞があると、ついつい台詞で解説してしまおうとする。

だから、その台詞を取ってしまうことで、感情や構図や小道具の使い方、要するに演出で表現するしかなくなる。演出を学ぶための最強の方法だと私は絶賛している。

●教室でのSMA

予定では、1月にアイデアを出してストーリーボードを作り、2月にはストーリーボードを何度か修正して、3月に仕上げるという段取りにした。しかも、作業は家でやる。そうしないと授業が進められない。

そのかわり、ストーリーボードをFBのメッセンジャーで私に送ってくれたら、いつでもお直しすると言った。幸か不幸か、しつこく何度も送ってきたのは一人だけだった。

みんな、作業が遅い。初めて一つの物語を原稿にする生徒がほとんどで、やり方がわからないということもあるのだろうけど、だったら、聞いてよ! と思うんだけどね。

ともかく、作品を一つ、決められた期間内に仕上げる、という体験をして欲しかったので、2月の半ばから授業中にストーリーボードの見直しをすることになった。

Facebookのメッセンジャーを通してストーリーボードを送ってくるフェデリカは、初めてデジタルでトーンを貼って、非常に満足していた。「すごく気に入ってる」と興奮した感じで書いてくる。

初めてトーンを貼った自分の原稿を見ると、なんだかプロ仕様に見えてしまうのだよね。実際は、あちこちに欠陥があって、それを指摘するけれど、なかなかわかってもらえない。

2月終わりにあった中間講評では、どれだけがんばったかではなくて、仕事の質を見るのだという教務課長の意見に従ったため、あまりいい点をあげられなかった。

フェデリカは頑張って描いていたので、えらくがっかりして落ち込んでしまったが、二週間もすると持ち直してきた。学生のうちにダメを経験するのはいいことだ。

今回のSMAの締め切りは3月31日。その週の火曜日、27日に提出することと決めていた。

先述のフェデリカともう一人、着実に製作を進めていたベロニカが、27日を待たずに仕上げを終了して、自分のブック型コンピュータから作品をアップした。

女の子のフェデリカじゃなくて、フェデリコという男子学生は、仕上げてアップした二人がいるのにまだ鉛筆の下書きを終えていなかった。すべての鉛筆下書きを細かくしっかりしないと、ペン入れができないと言う。

「とても間に合わないよ。絶対に仕上げるけど、SMAに送らなくてもいいかな」と言うので、締め切りを守ることを優先して、そのためには何でもするようにと指示した。

細かく描いた鉛筆の下書きは、それだけで鑑賞に値する仕上がりになっている。余計な線を消して、スキャンしてフォトショップでちょっとコントラストを強くしたら十分に使えるから、ペン入れは諦めてとにかく期日までに仕上げるようにと言った。

丁寧に作品を仕上げるタイプで、キチンとした線を引かないと気が済まない。だから、当初は鉛筆描きで提出することにすごく抵抗感があった。でも、鉛筆画の柔らかい線が彼のスタイルに合っている。

最後には納得して、鉛筆の原稿で提出した。フェデリコにとっては、裸で表に出たような違和感があったと思う。なんとしても締め切りに間に合わる、という経験をさせることができた。

コミックス課に在籍する子たちの80%は、mangaとアニメを見て育ってmanga家になりたいと夢見て学校に来る。我がEuromangaコース8人の内7人もそうだ。

フェデリコは特異で、mangaとかアニメにほとんど興味がない生徒だ。だからこそ、知らなかった世界を身につけて、自分を広げたいという積極的な生徒だ。

そのせいか、ストーリーボードを細かく直してその理由を説明するのを、すごく熱心に聞いてくれる。フェデリコ君にはなんとなく納得出来ないことも、やってみる、と言ってくれる。

●SMAとイタリア

SMAにはイタリアからの応募も多い。そしてなんと、スタッフに日本語を読み書き会話できるイタリア人が雇われた。イタリア人スタッフのエンリコ君は、生徒達の作品アップロードの手助けをしてくれた。

というのは、教室でアップロードをしていた先述の二人、SMAのアップロードページがうまく作動せずに「アップロードは成功です。」の表示が出るのに、いざプレビューしてみると全部のページが表示されなかったり、全く表示されなかったりするのだ。

次の授業の際に、それぞれ自分のコンピュターを持ってきて、アップロードをまたまた試みたが同じ結果。オーデション側にコンタクトを取ってもらったら、日本では午後8時、エンリコ君がFBメッセンジャーを利用して二人に同時に返事を書いてくれた。

結局、サイトが上手く作動していないとのことで、エンリコ君のメールに直接送ることにして事なきを得た。日本人並に働くイタリア人のようだ。

ついでにエンリコ君のことをちょっと言うと、夢を追って積極的に人生を歩んでいる人だ。

mangaが大好きで日本に興味があって、日本語を覚えたいのでお金を貯めて東京に行き、語学学校に通い始めた。

言葉がちょっとできるようになると、manga好きの殿堂、まんだらけに就職した。まんだらけではサイト構築を担当した。

やがて、まんだらけに客として来ていた原哲夫氏と親しくなって、SMAでイタリア人の応募者が増えると原氏に編集者として来ないかと誘われたのだ。

ほんの数行で彼の7年間を語ったけど、かなりの勇気とガッツが必要だったと思う。

●SMAとEuromangaコース

4月5日から8日まで、お定まりのコミックスフェア「ROMICS」が開催された。毎回、国際的なマンガ家一人ににRomics黄金賞というのを授与していて、今回は北条司氏だった。

エンリコ君が付き添いとして来伊した。いろいろ話すうちに、北条先生も交えて私とパオロ君とエンリコ君の4人で会って、SMAを学校内でもっと正式にしていく件を話すことになった。

SMA側からの正式認可(?)がなくても、ずっと課題の一部として強制的にやっていくつもりなので、私的には変化がないけれど、私のコースだけではなくて、他のコースからも参加していく道順を考えていこう。この素晴らしいコンタクトを活かして行こう。

そして、イタリアマンガ界に新風を吹き込むのだっ!


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】

今年の復活祭は4月1日だった。復活祭は毎年移動する。3月21日後の最初の満月の次の日曜、という「の」がたくさん入ってしまう、長い説明を要する条件を満たすのが今年は4月1日だった。エイプリルフールはイタリアではあまり騒がないので、幸い、この件はスルーできる。

舅姑が亡くなり、ヴェローナに住む義妹も同居の姑さんの体が利かなくなってきてローマまで来れなくなったので、ダンナと一緒になって初めてダンナと息子と私の3人家族水入らずの復活祭となった。

ダンナがいそいそとトスカーナの安いレシデンスを見つけてきて、飼い犬も連れてのんびり三泊して、トスカーナの美味しいものを食べてきた。


[注・親ばかリンク]息子のバンドPSYCOLYT


MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/


主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/


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