[4549] 空飛ぶ円盤はロマンの巻

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《考えるトリガーを引き出せ》

■わが逃走[215]
 円盤はロマンの巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[83]
 「フォントソムリエ感」パート2
 関口浩之



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■わが逃走[215]
円盤はロマンの巻

齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20180412110200.html

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子供の頃はみんな、木曜スペシャルUFO特集を見て、空飛ぶ円盤の真相について熱く語り合っていたものだが、大人になったらそんなヤツは周囲からひとりもいなくなったのは何故か。

それは、大人のくせにUFOとか言ってるヤツは、モテないからである。

その情熱を(昔でいうなら車の免許を取るとかギターの練習をする等)モテるための努力へと変換することこそ正しいとされてきた。少なくともそれが大多数の意見だったと言えよう。

しかし。もし福山雅治がUFOの話をしたとしてもモテるはずだ。これはズルい。くやしい。だが福山の話は例外中の例外なので、この際考えないこととする。

つまり、真顔で空飛ぶ円盤がどうとか言ってる大人はアブナイ奴、とみられることが多く、実際、某書店のスピリチュアル&超常現象コーナーの雑誌をブツブツ言いながら立ち読みしているアノ人は、「目をあわせちゃダメよ」という気にさせてくれるに充分な資質を備えていると言えよう。

したがって世間体を考える常識人は、たとえ興味があったとしてもおおっぴらにしない。

それが大人の節度というヤツである。

一般的に「未確認な飛行物体は宇宙人の乗り物」。だからオカルト! ということになっているわけだが、今回はその根本のところを切り離して考えたいと思う。

実際、米空軍が撮影した動画(CNNが報じたヤツ)や日航貨物機が遭遇したアノ事件など、未確認の飛行物体は確かに存在しているわけだが、そもそもそれが何なのかが判明しないから、未確認飛行物体なのである。

この際、宇宙人とか陰謀論とかは置いといて、純粋に「なんだかわからんモノが飛んでることを面白がる」というのをやってみようかと思う。

重たいものが、空に浮かんでたら楽しいよね。

誰でも思い浮かべる「アベコベの発想」こそクリエイティブの原点なのだ。

考えてみればマグリットの『ピレネーの城』なんかも、「岩に乗っかった城が空を飛んでいる」と確認されるまでは未確認飛行物体だ。そもそもゲージュツだったら、どこに何が浮かんでようが構わないのである。

それなら、みんなで好きなものを浮かべてみよう、なんて思うのだ。

そうしたとき、やはり浮かべたくなるのは円盤なのである。

シンプルな形状であればあるほど魅力を感じる→不思議な印象が強くなるのは何故か。

また円錐や円柱でもよさそうなものだが、王道な感じがしないというか、どうも二番手な感は否めない。

『空飛ぶ円盤』という言葉自体も、人を振り向かせるに絶妙なフレーズであるように思う。

ところで、小学生のときに読んだ本によれば、いちばんポピュラーなタイプはアダムスキー型円盤で、それらの母船が葉巻型円盤だそうだ。

でもよくよく考えてみれば、葉巻は円盤ではなく円柱だよね。

というわけで、いつもほうじ茶をいれるときに使っている急須の蓋を浮かべてみた。


世田谷上空の急須の蓋
https://bn.dgcr.com/archives/2018/04/12/images/001


お花見に現れた急須の蓋
https://bn.dgcr.com/archives/2018/04/12/images/002

東京タワー上空の急須の蓋
https://bn.dgcr.com/archives/2018/04/12/images/003

けっこうタノシイ。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[83]
「フォントソムリエ感」パート2

関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20180412110100.html

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

4月10日は「フォントの日」でした。あれっ、そんな日があったの? 「フォン(4)ト(10)」の語呂合わせから、昨年、アドビが中心となって制定しました。

昨年、日本記念日協会に登録されたことを記念し、2回目のイベント「#フォントの日」が、Yahoo! JAPANのオープンコラボレーションスペース「LODGE」にて開催されました。

・超難度絶対フォント感が試される「フォントの日」 ITmedia NEWS
http://bit.ly/2qmRVtp


日頃から仲良くさせていただいている、フォント業界のみなさんが出演しているので、わくわくしますね。

フォントおじさんこと関口も、このイベントを楽しみにしてましたが、参加できませんでした。というか、参加しませんでした。Webビジネス企業のメンバーズから「フォントを学ぼう3DAYS」講座の企画話があり、授業初日をフォントの日に開催することにしました!

・【フォントおじさん、関口浩之氏特別講座】『フォントを学ぼう』
2時間×3日間
http://bit.ly/2H9Rex0


メンバーズ社員の方々とは、全国各地のセミナーでご一緒することが多いこともあり、今回、メンバーズユニバーシティ(Members University Open Campus)学長の川井健史さんと意気投合し、合計6時間の授業が実現しました。

なお、Members Universityは、今年から「Co-Create Digital Lab.」に名前が変わりました。その記念すべき第一回の、講師としてお招きいただき、光栄でした。

●Co-Create Digital Lab.とは?

なぜ、Co-Create Digital Lab.なのかというと、講義を一方的に受講するのではなく、講師と受講者、そして受講者同士も一緒に論議し、刺激しあって、一緒にクリエイティビティ(想像力)を高めようという趣旨が加わったからです。

メンバーズの授業は、社内の社員受講者と、オープン枠の社外からの受講者が、半々ぐらいで参加するという珍しい受講者構成でした。そして、二人机には、メンバーズ社員と社外からの参加者が、ペアで座る形で案内しているのが素敵だなと思いました。

このセミナー、事前連絡なしで欠席または遅刻した場合は、次回以降のセミナーには応募できないというペナルティがあります。この方針はすごくいいなと思いました。

セミナーが有償、無償に関わらず、参加したい人がいるのに、連絡なしでドタキャンするのはとても悲しいことなので、主催者にとっても、参加者にとっても、良いことだと思いました。

今回、授業中に、たくさんの例題を出題して、コールアンドレスポンス(呼びかけと応答)の形を取り入れました。アンケート形式の場合もあれば、個人に質問する形も取り入れました。

フォントの例題においては、答えが一つのケースもあれば、答えが一つでないケースもあります。日本における授業では、正しい答えは一つでなくていけない、間違った答えを発表するのは恥ずかしい、と思っている人が多いのではないでしょうか。

自分がこれかなと思うこと自体が大事なことで、それが正しい、間違っているは重要でないと思うんです。

僕は、数学や英語は得意だったんですが、国語の「作者はどのような意図でこの文章を書いたのか?」に関しては、僕はことごとく間違った回答をして、先生から叱られた記憶があります。でも、僕が感じたことが本当に間違っていたのか、作者に聞いてみないと分からないと思うんですけど……。

今回、心掛けたのは、想像力を高める、もしくは、考えるトリガーを引き出すことでした。知識の引き出しを増やすことも大事ですが、その知識を引き出すためのトリガー(きっかけ)を増やすことも大事だと思うんです。

なので、堅苦しくない雰囲気作りを心がけました。

●フォントソムリエ感を高める題材

「フォントを高めるため」の初日講座は、
・活字、文字の歴史を学ぼう
・街中のフォントを観察してみよう
・絶対フォント感、フォントソムリエ感
を中心に2時間の授業を行いました。

では、その授業で使用した題材を二つ紹介します。

リゾートホテルの支配人になったつもりで考えてください。新企画の宿泊プランのメインビジュアルを作ることになりました。あなたなら、どのフォントを使いたいですか?
http://bit.ly/2qnfiD6


すべてのフォントが正解です。出題するときには、どんな新企画なのかを説明しなかったので、企画内容に応じて、ふさわしいフォントは異なります。

授業参加者の反応は、1番が7割、2番が1割、3番が0割、4番が1割、5番が1割って感じでした。

綺麗なホテルの写真から想像すると、3番の古印体の選択はしづらいかもしれませんが、「怪談話ナイト」企画では、この書体がいいかもしれません。

それぞれの書体の解説はこちらです。
http://bit.ly/2v2Dtvp


もう一つの題材は、こちらです。
http://bit.ly/2v1D6Bi


先週、新小岩駅に仕事で立ち寄ったのですが、違和感を覚えたサインシステムを発見したので、写真に撮りました。アルファベットが半角等幅で組まれていました。

パーソナルワープロ全盛期の1980年代は、全角の欧文と半角の欧文しか印刷できない時代はありました。でも、今は、パソコンDTPの時代です。仮設とはいえ、大きなサインボードに半角等幅で「Shin-koiwa」と表現されると、外国人でなくても違和感を感じてしまうのではないでしょうか?

英語の文章は、アルファベット一文字一文字を読んでいるのではなく、単語(ワード)単位のひとかたまりとして目に入ってくると聞いたことがあります。

文字幅が狭い「i」と文字幅が広い「w」が等幅で続くと、一つの単語に見えない、もしくは、変形した単語に見えるそうです。

東京オリンピックを2年後に控えて、多くの外国人が来訪されると思います。国際都市である東京のサインシステムの外国語表記は、もっと親切で心地よいと感じる「歩幅」で文字が組まれることも、大切なおもてなしだと感じた題材でした。

今回、フォントを身近な題材から二つ紹介しましたが、学ぶべきことがあったなら嬉しいです。テーマや文脈に沿った書体選び、そして、見た人が心地よいと感じる文字の組み方って、デザイナーだけが知っていればいいという時代ではありません。

パソコンを使ってビジネス文書や案内状で作成する方は、ぜひ、意識して文字を観察してみてください。フォントソムリエ感のレベルが向上しますよ!

僕もまだまだ修行中なので、これからも身近な題材でフォントソムリエ感のセンスを皆さんと一緒に向上したいと思っています。

次回のもじもじトークは4月26日(木)を予定しています。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

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編集後記(04/12)

●横尾忠則「創造&老年」を読んだ(SB Creative/2018)。横尾忠則と9人の80歳以上の“生涯現役クリエイター”による対論集である。瀬戸内寂聴、磯崎新、野見山暁治、細江英公、金子兜太、李禹煥、佐藤愛子、山田洋次、一柳慧という方々。全部名前は知っているが、佐藤、瀬戸内以外はよく知らない。

画家は長生きが少なくない。ピカソ、シャガール、ミロ、みんな90代まで生きた。江戸時代の平均寿命の短い時代でさえ、北斎は90歳の人生を全うした。日本の女流画家の長命も驚くべきものだ。創作活動と長命には何か深い因果関係があるらしいと睨んだ横尾は、長寿と創作活動の秘密を探るべく、すべて年長の9人の芸術家に会ってみようと考えた。インタビュアーが一番若いのだ。

画家・野見山暁治(97)には、肉体年齢に反して、創造年齢・芸術年齢が一致していないアンバランスからくる悩みのようなものを聞き出そうとするが、全然あてが外れて、そういうものはないといわれる。画家ほど何も考えなくて、ストレスのない仕事はないらしい。絵描きの世界は勝負の世界ではない。

野見山は奥さんが死ぬとき、あんたは長生きすると言われた。仕事のことも気にならないし、人との関係にも煩わされない。自分が好きでやっているだけだから。人は人間関係で疲れるものだ。ヘルマン・ヘッセも言う。芸術家が社会に必要以上に関ったり、政治に興味を持ったり活動したりすると短命に終わる。野見山は九条の会の役員だ。どうやら真面目にやっていないのがバレた(笑)

小説家は社会を相手に闘っているが、絵描きは宇宙を相手にしている、と大きく出たな、横尾。「そうそう、かなりアホな人間がやっている」「明日どうするつもり、と聞かれても答えようがない「今でも絵描きが何かはよくわからない。これは職業だといっても、職業ではないし、道楽というにしては、どこか違う。何かいい言葉はないかなあ」と野見山、のんきでストレスはない。

生まれ変わったら何の職業に就きたいか、というアンケートで志賀直哉、川端康成は絵描き、梅原龍三郎、安井曾太郎もなんと性懲りもなく絵描きだった。三島由紀夫は「絵画の力には敵わない。文学は無力だ」と言っている。横尾の考えでは、画家の長生きは「考えない」ということに結びついている、らしい。

この本は、横尾の足かけ3年(79歳〜81歳)、その時々の素朴な好奇心から聞いた「創作のこと」「年を重ねること」「死のこと」が収録されている。ロングインタビューをまとめたものではない。なにしろ、聞くだけの人ではない。相手の話を奪うように話す。だから対談集である。なかなかいいリズムだが。

「年をとることで脳の支配から逃れた身体がかえって前面に出てきて、創作活動や芸術行為というものに純粋に取り組める。それがさらに寿命を延ばすことにもなる。年を取るということは、逆に少年に返っていくこと」そこが一番大事なところで、それこそ創造の根幹であり、核となるものだという。う〜む、幼児性の源郷に帰ることが成熟だなんて、トンデモ屁理屈だと思うが。(柴田)

横尾忠則「創造&老年」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797384646/dgcrcom-22/



●ロビの予備ネジというか、ゴミ箱の続き。ゴミにするには他に支障がないので修理できないか考える。

突起をボンドで接続するのは心許ない。押し込んでも折れないように頑丈にしなければならないが、今まで耐久性が必要な場所で成功したことはない。

で、頭に浮かんだのがロビのネジ。数ミリ単位で揃っていて、ゴミ箱のガワを貫通させずに済みそう。ゴミ箱はたぶんポリプロピレン製で、とても丈夫。ネジを回しても割れることはなさそう。続く。 (hammer.mule)