はぐれDEATH[48]これがはぐれの喧嘩のやり方/藤原ヨウコウ

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約一年ほど任されていた顧問職を、馘同然で辞めることになった。

なにしろ、ボクを引っ張り込んだM氏が匙を投げたのである。

とにかく何か改革らしきコトをしようとすると、役員と(一人しかいないんだけど)その取り巻き共が揃ってストを始め、「辞める」と言い出し(辞めてくれればこっちは好都合なのだが、残念ながら辞めた人は一人もいない)、挙句の果てには「顧問の言うことは難しい」で逃げ出し、役員が彼らを擁護するのでほとんど何も出来なかった。

役員と取り巻き共はどうでもいいのだ。気の毒なのは若い子達である。

出来る子からじゃんじゃん辞めて行くのだが、ボクは内心「新しい所で頑張れっ!」としか言えない。育成途中なのでキチンと何かが身についているワケではない。

「ナゼ止めなかった?」と思う方も少なくないと思うが、止めてもメリットは何一つないのだ。むしろ早く辞めて、新しい環境に移った方がマシなのだ。

原因は役員と取り巻き共の無能、怠慢、無責任だ。三拍子揃ってどうする。

手柄は全部自分のものにして、失敗は若い子に押し付けるという非道さである。





詳細は省くが、このような連中にとってボクやM氏は目の上のタンコブをナゼか通り越して、憎悪の対象にしかならないようだ。

就任前に「若い人達の教育を頼む」と役員に言われたのだが、こんな状態では教育どころの騒ぎではなく、まず屑どもから若い子を守ることから始めないといけない、という間抜け極まりない攻防戦に着手する必要があった。それ程、理不尽なコトがまかり通っていたのだ。

こんなアホなことには関わりたくないのだが、とにかく若い子を預かった身である。ワガママをこねるワケにはいかない。

と言っても、まともな会話になるかというと、そんなことはまったくなく、黒い噂を作り出しては役員の心証を悪くする、という情けないにも程があることしか出来ないのだ。まともな思考の持ち主なら、足を引っ張るデメリットしか思い付かないような情けないことばかり。

これはM氏の元部下で、ボクもフリーになって散々お世話になったY氏も頭を悩ませていたようで、これが元で昨年の春に胃潰瘍を患い、未だに回復していないという事態まで追い込まれたのだ。

M氏とボクは、もちろんY氏も元凸版印刷である。いわば、チーム凸版が匙を投げたと言ってもいいだろう。因みにM氏とY氏は、ちゃんと定年まで勤めあげたお方である。ボクはM氏のDNAを引き継ぎながらも、たった3年で辞めたけど。

海千山千の修羅場を潜り抜けてきた二人が匙を投げ、撤退戦に突入しようかと思案していた頃、時期を同じくして「顧問総追い出し作戦」が動き出した。昨年の夏あたりだ。

ボクはこの二人の前では下っ端同然(というか実際下っ端なのだが)なので、先の事は二人に任せっきりにして、相も変わらぬアホな攻防戦に終始していたのだが、それでも屑どもは上記したようなアホなことばかりしており、ボクは預かったはずの若い子が辞めていく後姿を、見送ることしか出来なかった。

それでも大先輩二人の手前、大人しくしていた。もちろんクレームを入れるべき時はすかさず突っ込んでいたのだが。

事態が急変し始めたのが昨年暮れである。Y氏の体調が戻らず、更にこの組織に嫌気がさしていたY氏の辞任がほぼ確定して、怒涛の「目の届かない所でコソコソ」が役員と屑どもによって発動された。

最初にキレたのはM氏だった。

普段は温厚そのものなのだが、この人だけは絶対に怒らせてはいけないのに(こんなコトすら気がつかないのだから恐れ入る)、ものの見事にM氏の堪忍袋の緒を切らせてしまった。

当初は「出来るだけ穏便且つ平和的に」撤退する作戦だったのだが、屑どもの間抜けな所業で台無しになってしまった。

ここまでならまだM氏もキレることはなかったろう。

役員が「退職については顧問一人づつと面会して事情を説明する」という約束を守らなかったのだ。それも選りに選ってボクだけ(笑)

他の顧問は年が明けて役員がM氏に尻を叩かれてやっと説明はしたようだが、待っても待ってもボクには声が掛からない。

この組織の期末は2月なのだが、2月になってもなしのつぶてで「このまま声が掛からなかったら来月も出勤ですね」とM氏と話していたのだが、屑の一人がボクの二月最終出向日の朝礼で、ボクの退職を発表してしまったらしい。

明らかに筋が通らない。しつこいようだがボクはM氏から成り行きを聞かされているだけで、役員本人からはなぁんにも聞いていないのだ。

本人に確認したら「辞めると役員から聞いてます」と、また斜め上のアホな返答。肝心要のボクが役員から話を聞いていないのに、これはあまりに酷過ぎる。

ボクは「さもありなん」と呆れていたのだが、M氏は完全に面目を潰された格好になった。何しろこの日の前の週末に、役員本人に念押ししていたのだ。

呆れつつもM氏が「これは怒っていい!」とボクのケツを叩いたので、「しゃぁなしやな」とこの屑に詰め寄ったのだが(ここから先はもう完全に演技である)、何しろこの風貌の上に、この日に限ってスーツまで着ていたので迫力倍増(笑)

ちなみにスーツを着ていたのは、この日のすぐ前にお通夜に出ていて「カッターを一回切りでクリーニング屋さんに出すのも勿体ないなぁ」というせこい発想による。そうそうスーツなんか着ないし、カッターに至ってはもっと滅多に着ない。

ボクの質問にまともに答えられなかったので、M氏が役員室に怒鳴り込みに突撃してしまった。

本来なら、鉄砲玉のボクが先陣を切って突入すべきなのだが……。

役員室ではこれまた屑の一人が役員とだらだらお喋り。で、こいつはM氏が血相を変えて怒鳴り込んできた途端に逃げ出した。もうどうよ、これは……。

話は前後するが、M氏もボクもこういう事態は想定内だったので、あらゆるメモやら記録は全部保存している。「言った 言わない」で逃げるのが、ヤツらの常套手段なので外堀はきっちり埋めておくに限る(笑)

M氏は役員に詰め寄りつつ、朝礼でボクの退職を発表した屑も同席させた。名目上はいわゆる証人なのだが、証人の役に立つはずがない。だが朝礼の件を役員に白状させることは出来る。まぁ、それだけの役目だ。

取り敢えず朝礼の件は白状させたので、あとはM氏の独壇場である。

例によって役員が「言った」「言わない」でのらりくらりし始めたので、M氏は一瞬中座し、デスクから業務日報(これまたM氏が個人的に用意していた)を持ってきて、これを前に役員相手に詰め寄り始めた。

最初は「私はそんなことを言った憶えはまったくない」だったのだが、M氏の詳細極まりない記録(年月日はもちろん時刻まで控えてある)の前にあっさり「言いました」と折れてしまった。

もちろん、ボクも同席していたのだが(そもそもボクの話なのだ)、二人の問答を横で聞いていて、爆笑を押さえるのに必死だった。なんとか顔に出さないようにしたのだが、こうするとボクの場合、眉間に皺が寄り目つきもどんどん怪しくなっていく。もちろん怖い方にだ。

ちなみに同席させられた屑は沈黙する一方である。これまたボクの笑いのツボを、ピンポイントで押さえていたのは言うまでもあるまい。

とにかく「藤原さんに役員が直接話をする約束をしていた」という言質は取れたので、ここからはボクと役員の一騎打ちである。

言質を取ったと言っても「いや、打ち合わせが終わったら藤原さんを呼ぼうと思っていた」とかぬかしていたのだが、この事件が発覚したのはボクが帰宅準備をしていた時である。

ここまでどうしようもない嘘をつける人間相手に、ボクがまともな受け答えをするはずもない。

繰り返すが、こういう事態はとっくの昔に想定されており、ボクと役員との一騎打ちの場面もボクは想定していたので、2月に入ってから『仁義なき戦い』シリーズを一応全部観ておいた(爆)

関西にしか住んだことがない相手なら、ボクの怪しい事この上ない広島弁でも十二分に効果は発揮できる。ボクが関西弁を初めて聞いた時に、びっくりしたのとちょうど同じ効果である。

「吐いた唾、呑みこまんよう気ぃつけなさいや」で始まったのだが(この言葉の意味をまともに理解しているとは到底思えないのだが)、役員はもう吐いた唾呑み込みまくりである。

挙げ句の果てには逆ギレを始めたので、こちらはたたみ込むようにその上を行くキレ方をしたら、ビビって「あなたはヤクザか?」などとほざきだした。

まぁ、ヤクザな商売ではある(笑)だから「周りの人間には自分が商売柄ヤクザな人間であることを明かしている」と言ったら、目をむいて口をパクパクさせ始めた。

さすがにこれ以上はマズいと判断したので、落とし前の付け方を教えて(!)、最後は土下座して「今日まで色々お世話になりありがとうございました」とMAX優しい声で鄭重に挨拶をした。我ながら意地が悪い。

散々、脅した後である。予定通り意表を突かれたようで、慌てて役員も土下座をした。おそらく彼の脳内は完全にパニックになっていただろう。というか、「この場で心臓止まるんちゃうか?」と、こちらが不安になるぐらい混乱していたようだ。

「押したら引く」法則を全く知らないようだが、まぁこの程度の人である。

普段ならボクが部屋を出たあと、そっこーで屑の取り巻きを集め罵詈雑言を吐いて憂さを晴らすはずなのだが、この日ばかりはちょいと勝手が違ったようだ。

帰り際にちらっと部屋を眺めたらまだ呆然としていた。その内「思い出し怒り」が発動するだろうがもう遅い。

一騎打ちの内容については勘弁していただきたい。演技とはいえあまりに恥ずかしすぎる内容なのだ。というか、内容などない。要は「この落とし前どうしてくれる?」だけなのだ。

役員室を出てみんなのいるところに戻って、やっと普通の表情になった。それまでずっと我慢していたのだ。これぐらいは許してもらえるだろう。もちろん、役員と屑共の目につかないところでだ。

ボクの声が大きいのは、以前にも散々書いたと思うのだが、この特性は大いに生かしたので、役員室からはボクの声だけが丸聞こえだったようだ。

M氏を除く他の社員は、みんなボクが本気で怒って、徹頭徹尾攻撃して役員を降伏させたと思っていたらしい。作戦成功である。もうみんな遠巻きにしてボクをビビッた目で見ていた。

そんな所に戻ってきて、舌をぺろっと出して軽く笑ったので度肝を抜かれたようだ。これまた、笑ってしまったのは言うまでもあるまい。

もちろんこの効果については、事前に時間を掛けて布石を打っておいた。会社員時代の武勇伝は一通り話しておいたのだ。もう30年近く前の話なのに、今でもボクがそういうことを本気でしかねない、と思わせるように仕向けておいたのだ。

我ながらなかなかの策士っぷりだが、この程度のことは50を過ぎればでふぉだろう。いや、世間様は知りませんが。

とにかく、アホ相手に本気で怒るほどエネルギーにゆとりがあるわけではないし、マジメに怒ろうが演技で怒ろうが、その後何をしでかすのかは同じである。

エネルギー消費量が少ない方を選ぶのが合理的というもんだ。まぁ、元々本気で怒る気はなかったんですが。アホらしいだけだしその上疲れる。

とにかく徹底的に潰したのだが、それでも潰された方は「何とか報復できないか?」と考えるもんである。特にここの役員と屑共はその傾向が強い。というか、そうするに決まっている。

これまた想定済みだったので、役員室の中では堂々とiPhoneをテーブルの上に置いていた。役員室での会話を全部録音したのだ。妙なことをすれば、これが爆弾になるのは言うまでもあるまい。

これにはM氏も驚いたようだが(黙っていたのだ)、実は役員室にいたみんなの前で堂々と操作をしていたのだ。まさか録音アプリを立ち上げていたとは、誰も思っていなかったようだ。

スマホいじりの弊害はこれまでに散々書いているが、裏を返せばこれは日常風景の一つに溶け込んでいることでもある。ボクが突撃攻撃中に少々iPhoneをいじったところで、誰も気にもとめない。そういう風潮を利用させていただいた。

M氏はともかく、役員は完全に盲点だったようで、とにかく自分が不利になることばかり発言してくれたので、ありがたいことこの上ない。もちろん、最後の挨拶まできっちり録音してある。

はぐれはデメリットも多いが、裏を返せばメリットも多いのだ。はぐれだから(はぐれじゃないと)出来ないことは腐るほどある。それを実行しただけの話である。

まぁ、どっちに転んでも、質が悪いのは言うまでもないだろう、呵々♪


【フジワラヨウコウ/森山由海/藤原ヨウコウ】
YowKow Fujiwara/yoShimi moriyama
http://yowkow-yoshimi.tumblr.com