ユーレカの日々[66]21世紀買い物ブギー/まつむらまきお

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娘がNASAのロゴがでかでかと入ったTシャツを買ってきた。丸い青地の、有名なロゴマークだ。彼女は別にNASAに興味があるわけではなく、単にデザインが気に入って買ってきたらしい。

これ、どこで買った? と聞くと、カジュアル衣料のチェーン店「GU」で1000円しないと言う。

宇宙オタクというほどではないが、60年代生まれ、宇宙開発時代まっただなかだったのでそれなりに興味がある。というわけで、近所のショッピングモールのGUにでかけた。




●初GU。会員登録してみると……

普段ユニクロはよく買うが、姉妹ブランドのGUには縁がなかった。ユニクロよりも若い層向けという印象で、行く機会がなかったのだ。ちょうどバーゲンの時期で、店はたくさんの客で賑わっている。

NASAのTシャツはかなり種類がある。Tシャツ以外にも、開襟シャツがあり、胸にNASAのワッペンが3つ。そのうち一つは、月面に降りようとしている鷹の図案。そう、1969年、人類初の月面着陸を果たした、アポロ11号搭載の月面着陸モジュール「イーグル号」の記章である。

宇宙オタクではないが、当時、小学校2年の時、眠い目をこすりながらテレビの中継に見入った覚えがある。雑誌に付いてきたイーグル号のペーパーモデルを作った覚えもある。幕張の宇宙展も見に行った。

けっして宇宙オタクではないが、買わないわけにはいくまい(わたしの買い物基準のひとつは、それについてどれくらい語れるか、である)。あれやこれやで6点ほど、カゴに入れてレジへ向かう。

このバーゲン期間、店頭で購入すると、クーポンがもらえるらしい。そのためには、スマホのアプリが必要だという。

ユニクロでも、アプリで会員登録することで、様々な特典がある。同じ会社なんだから、同じアプリにしてくれればいいのに、会員登録っていろいろ入力させられて、面倒なんだよなぁと思いながら……とブツブツ言いながらアプリをダウンロード。

会員登録しようとして、ちょっと驚いた。なにも登録していないのに、会員証(バーコード)が使える状態になっている。一瞬、なにが起きているのかわからないかったのだが、すぐに理解した。ああ、そうか。そもそも、スマホのアプリで会員登録すること自体がナンセンスだったのだ。

販売店が会員カードを発行するのは、常連になってほしいからだ。常連になってもらうためには、ポイントをつけたり、DMを出したりする。

会員カードが物理的なカードだった時代では、カード紛失や、DM郵送のため、会員の氏名や住所といった、個人情報を登録しておく必要があった。その習慣から、スマホアプリでも名前やメアドを登録させられてきた。

しかし、考えてみれば、そんなことをする必要はなかったのだ。インストールした時点で、サーバーからユニークなIDを発行してもらえばOK。

店側からすれば、顧客個人を特定する必要はなく、会員IDが特定されればいい。DMもアプリからの通知(アプリが取得)をすればいいので、名前やメアドを収集する必要などない。

昨今、ハッキングや不注意で、会員情報が流布されるケースが多い。個人情報を預からず、常連を作れるのなら、それに越したことはない。

よく考えてみれば、昔からスタンプカードとか、お店でシールをもらって台紙に貼って交換してもらうとか、そういうサービスがあったが、どれも会員登録なんか必要なかった。

うーむ、今まで、会員登録させられていたのは何だったんだろう…

感心しながらレジに向かう。レジコーナーの店員に案内されたのは、キオスクのような端末。ほう、GUはセルフレジなのか。最近はスーパーなどあちこちで、セルフレジが多くなっている。ユニクロではたくさんの店員がレジを担当しているが、ローコストなGUでは、セルフレジというわけか。

●魔法のようなセルフレジ

うちの近所のスーパーのセルフレジ。行列ができるレジより、はやく支払いができるという触れ込みだが、どうもあれは苦手だ。

何度かチャレンジしてみたことがあるのだが、レジ袋をセットしたり、重量を計測したりと、手順がやたらおおく、戸惑っていると店員が飛んでくる。なんだか申し訳ない気分になる。

レンタルビデオもセルフレジだ。こちらも試してみたことがあるが、防犯タグがうまく外せず、結局店員のお世話に。慣れてしまえば早いんだろうが、不慣れだと、店に手間をかけさせる罪悪感だけが残る。

案内してくれた店員が、「ハンガーははずさないとダメなんです」と言って、シャツのハンガーを外していく。ハンガーがダメ? そしてレジの下のロッカーのようなところに、カゴを入れろと言い残して、去っていった。ぽかーん。

言われるままに、カゴごとロッカーに入れ、扉を閉めると画面が反応する。まずは先程のアプリで会員番号のバーコードを読ませる。すると、瞬時に買った商品のリストが画面上に現れた。

一瞬、何が起こってるのかわからない。

商品と金額を確認しろと指示が出るが、正直あまりの驚きに、商品数も金額もよくわからないまま、クレジットカードをリーダーに通すと、ロッカーのドアが開く。なんだか煙に包まれたような気分だ。

ロッカーから取り出した商品、衣類はきれいに畳まれて、袋詰されて出てくる……となれば、まるでSF映画の世界だが、さすがにそういうわけにはいかず、自分で梱包コーナーで袋に入れて持ち帰る。

袋に詰めながら改めて商品のタグを見ると、小さくICタグ、と表記されている。ICタグは、非接触で商品を判別できる。知識ではわかっていたが、実際にカゴに無造作に突っ込まれた衣類を、一瞬で認識したのはかなりの衝撃だ。

非接触による決済は、すでに日常に根付いている。交通系カードしかり、電子マネーカードしかり。わたしも日常的に便利に使っている。

しかしこれらは、1対1の確認に使われているだけの話だ。一瞬で複数のものを認識するのは、これらの体験とはかなり違う衝撃だった。

ネットで調べてみると、GUでは昨年からICタグを推進していたそうで、まとめサイトなどでも、GUのレジがすごい、という話題が見つかった。

後日、他のGUにも行ってみたが、そこのレジは自動化されておらず、人が対応する普通のレジだった。また、ユニクロの製品をよく見てみると、タグはすでにICタグになっている。ICタグ化はすでに済んで、徐々に店舗展開をしているところらしい。

そういえば、似たような経験をしたことがある。うちの近所にある、チェーンのパン屋では、パンをレジに持っていくと、トレイごとカメラでスキャンする。すると瞬時にその形状から商品を認識し、レジ入力が終了する。

その様子はモニターに映し出されるのだが、実写のパンの輪郭がマーキングされ、「メロンパン 150円」「カレーパン 180円」といった具合に表示される。認識する様子は、まるでターミネーターの主観映像みたいだ。

これも最初見た時は、そのSFぶりに感動したのだが、今回のGUの方がSF度は上だ。トレイの上に並んだパンを一瞬で認識し、暗算することは、訓練すれば人間でもできそうだが、カゴ一杯の衣類を瞬時に認識することは、人間では不可能だ。

家に帰ってから、ICタグを水につけてみると、中から金属版のタグ本体が現れた。まるでナスカの地上絵のような、パターン模様。チップ本体はゴマ粒よりも小さく、金属パターンはアンテナである。

以前はコストがかかるのがネックと言われていたが、今はかなり安くできるようになっているらしい。

●ロッカーに入れるのが面白い

ICタグの実力を思い知らされたわけだが、とりわけ感心したのは、カゴをロッカーに入れる、という行為だ。

どこのスーパーでもあるカゴ。当然、同じ店では、同じカゴが使われる。つまり、規格化されている。別にカゴを使わなくても買い物はできるが、多くの人は無意識にカゴを手にする。

この時点で、会計対象はすべて、同じ大きさに統一されることになる。

次にロッカーに入れる行為。すでに定形のカゴに商品を詰めるという手順は済んでいるので、誰でも間違えることはない。

ドアの開け閉めが、トリガーになるので、機械の操作手順が減らせる。

ATMなどで「操作を始めるには画面タッチしてください」ってのがあるが、あれと比べると、とてもスマートだ。

そして読み取りの確実性。最近利用してないのですっかり忘れていたが、うちの市の図書館では、2016年からICタグを導入している(図書館のタグは使い捨てではないので、全国的にもすでに普及しているらしい)。

こちらも、台の上に本を重ねて置くだけで、借りる本が一瞬でリストアップされる。が、置き方が悪いと、うまく読み取ってくれなかったりする。

GUの、カゴとロッカーを使う方法は、ユーザーが無意識でも確実性をあげられる、すばらしいアイデアだ。

●接客は無人化するのか

無人レジ、無人店舗。中国では現在、ICタグを使った無人コンビニが一般化しているという。アメリカでは、アマゾンが実験店舗を始めたのがニュースになっていた。

アマゾンの無人店舗は、ICタグではなく、客の動きをセンサーで感知し、何を手にとったかを判別するそうだ。これらの無人店舗、万引きは大丈夫なんだろうか? と思っていろいろ調べてみると、どちらの方式も、会員制で、入店時に個人を特定するのだそうだ。

なるほど。入店時に会員確認すれば、なにかおかしな行動をする客がいた場合でも、本人特定が可能だ。身元がバレている、というのは、抑止力になる。

なにかあった場合、その場で取り押さえることはできなくても、ブラックリストに載せることはできるし、その客が次に来店した時、バックヤードのスタッフに伝えることができる。

ということは、GUの場合も、会員制にして入店を会員のみにすれば、完全無人も可能……あ、無理だ。客が広げた服をまた畳んで、棚に並べるのは、まだ機械化できていない。だったら、会員制で閉鎖的にするより、だれでも気軽に入ってもらった方がいい。

強盗の場合はどうするか。会員には抑止力が働くが、非会員の強盗にそれは効かない。このレベルの犯罪は、有人店舗であっても、防ぐことはできないが、無人店舗が増えることで、強盗が増える可能性は高い。

しかしGUの場合のように、レジが無人化しても、実際は、完全に無人ということはほとんどないのだろう。商品を管理補充したり、清掃したりと、いろいろ仕事はある。スタッフの数ある仕事のうち、「販売接客」という仕事がなくなるということだ……。

昨今、AIの実用化で、いろんな仕事がなくなっていくと言われているが、接客もか……と思って、いや、そうじゃない、接客こそ、だと気がついた。

考えてみれば、この50年ほどで、ゆっくりと接客の仕事は消滅してきている。バスは昔、運転手とは別に車掌が乗っていた。駅ではきっぷは駅員が販売していたし、改札でも駅員がきっぷを切っていた。

飲食店でも、食券を買ったり、カウンターで注文したり。どれもあまりに普通に思っていたが、もともとはウェイター、ウェイトレスが接客する方が多かった。GUでもスーパーでもコンビニでも、棚から自分で商品を選び、レジに行く。

これも昔はそうではなかった。今でも八百屋や魚屋では、店の人に口頭で欲しいものを伝えて、商品を受取るが、この方法の方がスタンダードだった。

「ちょっとオッサン、これナンボ?」というのは、50年代のヒット曲、「買い物ブギー」だが、そういう買い方をすることが、考えてみればずいぶん減っている。近い将来、この歌詞の意味がわからない、ということになるのかもしれない。

●ヤフオクでも接客が消えた

最近、実家の不要物を処分するのに、ヤフオクで売りさばくのをひさしぶりにやっているのだが、ヤフオクのシステムも進化していた。

以前は、売り手と買い手が、テキストベースでやりとりをして、入金の確認から発送まで打ち合わせる必要があったのだが、今はそれをシステムが全部、仲介してくれる。おかげで、取引終了まで、メッセージのやりとりを一切しないことも可能だ。

落札相手とのやりとりはたしかに面倒なので、システムが仲介してくれるおかげで、取引はとてもスピーディーになっている。しかし、以前は「どんな人がこれを買っていくのだろう?」と想像する余地があったのが、今は、人に譲っているということすら、意識しない。

住所氏名はお互い、自動的に知らされるが、送り先伝票も書かないし、送料も自動で設定、決済されるので、見る必要がない。

これもまた、「接客」という仕事が減ったということだ。

●支払いの実感さえも……

接客が減るのと同時に、モノを買う、という感覚もだんだん薄れてきている。

先日、大阪の長居公園で開催された「肉フェス」というのに夫婦ででかけた。日本全国の肉料理が軒を並べているフードフェスなのだが、このフェスでびっくりしたのが、すべての店の決済が「電子マネー」もしくは食券のみなのだ。現金はNG。

さらに、スポンサーになっている、三井住友の「iD」というサービスであれば、優先レーンが用意され、行列に並ばなくても買える。

実際、どの店も3〜50人の行列ができているところに、スイスイ、割り込みができる。さらにiDはチャージ式ではなく、あと決済。要はクレジットカードなので、残高不足にならない。

100円払おうが、5000円払おうが、同じ「チャリーン」という音が鳴るだけ。煩わしさがない、ということは、支払っている実感がない、ということだ。

その結果、食べては買い、飲んでは買い、がはかどるはかどる。おそらく、現金で並んで買うのと比べて、倍以上消費したはずだ。

聞けば、日本の現金決済依存度は、世界的に見てものすごく高いらしい。世界的には電子決済、クレジット決済がすでに主流になっているそうだ。そらそうだ。この便利さを知れば、現金には戻りたくない。

わたしが社会人になった頃はすでに、給料は銀行振込だったが、その少し前まで、給料は現金で支払われていた。銀行振込になって、給料もらっている実感がないと、よく上の人が言っていた。そして今では、支払う実感もなくなってきたわけだ。

●コミュ障の未来

ICタグ、セルフレジ、無人店舗が普通になる、少し未来。

今でも高級料亭などがそうであるように、人間が接客してくれる店は、贅沢な高級店になり、接客という仕事は伝統的で、専門性を要求される仕事になるのかもしれない。

接客が好きな人、されるのが好きな人はいるから、なくなりはしないだろうが、少数になっていくのだろう。そして日常の生活では、セルフレジ、無人店舗が主流になり、他人と接するわずらわしさが減る。

その結果、人類は今より少し、コミュ障になるのだろう。

接客もなくなり、決済の実感もなくなっていく世界。たしかに昔より便利で、昔よりスピーディーだが、なんだか、そうやって、いろんな実感がなくなっていくことに不安も感じる。

この先、どうなっていくんだろう?

他人とのやりとりの実感がない先は、人を傷つけても実感がわかない世界?支払いの実感がない先は、盗んだり嘘をついても実感がわかない世界?

いやいや。仕組みが新しくなれば、新しい実感というのが生まれる。

ファミコンでラスボスとの最終決戦、Aボタンを押した実感を憶えている。はじめてのクレジットカードで、サインがうまく書けなかったことを憶えている。ICタグのセリフレジで、ドアを開け閉めした感じを憶えている。

だって、お金を払って買う、という行為だって、物々交換の時代と比べれば、実感のない抽象的な概念に頼っている。紙切れが、金属片が、魚や肉や野菜と同じ価値だという実感は、使いながら覚えてきたことだ。

ならば心配することはない。セルフレジも、電子マネーも、何度か痛い目にあうかもしれないが、それは必要な実感なのだ。新しい実感なのだ。その実感がGUのレジのような、楽しいものになるといいと思う。


【まつむら まきお/まんが家、イラストレーター・成安造形大学教授】
twitter: https://twitter.com/makio_matsumura
http://www.makion.net/
mailto:makio@makion.net

「宇宙家族ロビンソン」に出てくるロボット「フライデー」のプラモデルを作っている。Netflixでリメイクされているようだが、会員でないので見ていない(会員になると人としてダメになる予感がするので、なってない)。

以前の映画化もそうだったが、今回もシリアスドラマなのね。オリジナルのフライデーとドクタースミスの掛け合い漫才が楽しい、コメディの印象がある。調べてみると、日本で放映された第二シーズン以降だそうで、元はシリアス・ドラマだったらしい。

コメディだったロビンソンでは、ドクターがいつも悪態をつき、フライデーはいつも「ソレハ 計算サレマセン」とすっとぼける。Siriがボケても許せるのは、このドラマが好きだったからかな。コメディでリメイクしてくれないかな。