[4570] 世界ポスタートリエンナーレトヤマの応募作制作開始◇丸明オールドと砧明朝体が素敵だ

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《「フォントおじさん」で検索で1位獲得》

■わが逃走[217]
 ビヨンドをつくる。の巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[85]
 丸明オールドと砧明朝体
 関口浩之




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■わが逃走[217]
ビヨンドをつくる。の巻

齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20180524110200.html

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三年に一度開催されるポスターの祭典『世界ポスタートリエンナーレトヤマ』が募集を開始した。

例によって、発表済みポスターのA部門と自主制作のB部門が設定されているわけだが、B部門は、今回から自由課題の他にテーマが設けられた。

お題は「beyond」。辞書によれば、「……の向こうへ」「……を越えて」とある。越えてゆく。一文字で表すと「越」。

「越」、いいね。

子どもの頃から好きな字のひとつ。カチっとした“四角い感じ”がイイ。まずはこれを使って制作しようと考えた。

私の中ではこの字が最も「越える感」が強かったのだが、アイデア練りの最中、エヌ氏(仮名)に話したら「越? 他に“超”なんかも作ったりするの?」と言われて、あ、「超」もアリか。

「超」のもつ胡散臭さが面白く感じたし、ポスターにはケレン味って大切だよね、ということで「超」でも考えてみることにした。エヌ氏(仮名)ありがとう。

物心ついたときは
「超」能力とか
「超」特急とか「超」現実主義とか
「超」の後には名詞が来るものと決まっていたが、

私が小学生の頃から、「超」スゲーとか、「超」歩くなどと言われるようになった(うしろに形容詞や動詞がついてもアリになった)。

その10年くらい後には、同世代がテレビで普通にそう言うようになったことも要因のひとつなのか、今では「非常に」「とても」「たいへん」を意味する言葉としてすっかり日常語として定着しましたね。よくも悪くも。

そのうち時代劇で「超かたじけない」とか言う日がくるかもしれない。

「超」にしろ「越」にしろ、その文字をじっと見ていると、ゲシュタルト崩壊して抽象画や記号に見えてくる。

しかもモダニズムっぽい。とくにソウニョウが。

また、トンパ文字に見えたかと思えばルーン文字にもみえてくる。

正気を保つため、昔の看板や商標なんかを眺めてみると、書き順や筆致を無視しているとしか思えないものがたくさんあって愉快だ。

いまは世界中から情報が入って、みんなが「いいね」するもんだからか、すべての制作物が均質化している。

それに対し、100年、200年前のタイポグラフィのなんと自由なことよ!

さて、前回までは入選したい! 賞とりたい! みたいな気持ちも確かにあったし、いわゆる教科書に書いてあるような方法論に基づいて制作していたところもあったけど、昨年倒れてからそういった欲みたいなものがすっかり消えた。

また、全世界的に均一化されつつある「デザインぽいもの≒うすらグラフィック」という潮流をこれまで以上にキモチワルく感じるようになり、それらから距離を置きたいとも思っていた。

純粋に“次の表現”を提示したいだけというか。

幸いこれは自主制作なので、条件さえ守れば、表現は自由である。

まずは、前から作ってみたかった写真との組み合わせによる案に着手した。ここ10年くらいで撮りためた「beyond」を想起させる写真をいくつかセレクトし、最終的に“静か系”と“激しい系”の二点に絞った。

どちらも「越えてる」感じだ。これらの被写体の角度にあわせて「超」と「越」の文字を3Dで作成、はめ込んでみると……。

ぜんぜんダメだった。ラフスケッチまではイイ感じだったのに。

とくに写真として迫力があって、ポスター映えすると思っていた“激しい系”がまったくダメ。

そもそも写真とは、イイ! と思った瞬間を切り取ったものなので、あとから手を加えるとダメになる場合が少なくない。

そしてポスターは完成イメージに基づいて素材を集め、制作するものなので、ポスターに写真を使うなら(写真が主役の場合を除き)ほとんどの場合、そのために撮られた写真を使う方が“伝わるもの”ができる。

今までの経験からわかってたんだけどね。でも、今回はイケるかも? って思って。で、作ってみたわけだが、やっぱりダメだったね。わはは。

なので写真を使った案はしばらく放置し、「超」に着手。

YMOの名曲『U.T.』で語られているような、ハイパーな超地球的存在が宇宙空間で誕生するシーンを想像しつつ、いい加減なスケッチを描いた。

今見返すと、へろへろなスケッチである。

こんなものからよく作れたなと感心するほど、いい加減だ。

しかし、そのスケッチを通して完成図がイメージできれば、へろへろでも構わないのである。そこが自主制作のイイところだ。

今年の年賀状のために、今年になってから制作した『春』という作品? というか習作があるのだが、この制作が自分なりに楽しかったこともあり、同じ考え方で他の文字も作ってみたいという気持ちもあった。

いま思えば作り方は簡単で、前述のゲシュタルト崩壊を脳内で逆再生させながら、いちばんイイ瞬間で止めて、それを描くだけ。

あ、けっこう超地球的存在のイメージに近いものができた。

なんかこう、昭和の水曜スペシャル的に言えば“念写”に近いなあ、なんて思った。

だったら、ちゃんと現像してみるとよりイメージに近づくかも。と考え、一度Photoshopに書き出した後、Lightroomを使って現像処理を行った。

お、イイじゃん、オレ的にOK。

さて、これをいかにしてポスターのフォーマットに配置し、「beyond」として完成させるか。

けっこう悩んではみたものの、結果的にはほぼノートリミングで落ち着いた。

今までだったら文字周辺に落ちた想定外の影や光を整理したりしたものだが、今回はあえてそのまま。

とても微妙ではあるけれど、作為と無作為の境界をさまよった結果、視覚的に不自然でも心理的に自然と思われる方をとってみた。

まあ、ほとんど差はないんだけどね。

https://bn.dgcr.com/archives/2018/05/24/images/001


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられ
ないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィ
ックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[85]
丸明オールドと砧明朝体

関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20180524110100.html

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もじもじトークの関口浩之です。

今日のテーマは「丸明オールドと砧明朝体」です。

●丸明オールドという書体

過去のもじもじトークで、何度か登場した「丸明オールド」という書体。僕が好きな書体のひとつです。

ゴシック体には、角ゴシックと丸ゴシックがありますよね。でも、明朝体には、丸明朝体ってありましたっけ?

はい、あります。砧書体制作所(旧:片岡デザインワークス)が2001年にリリースした「丸明オールド」です。

では、僕が街中で、最近撮影した丸明オールドの皆さんを紹介します。じゃーん!
http://bit.ly/2s89EEK


明朝体の特徴は、横画のトメの部分に三角形のうろこが付いてますが、この書体は、うろこが丸いのです。さらに、ハライの先端なども丸いエレメントで構成されています。

なので、柔らかさと優しさを感じるわけです。そして、ひらがなとカタカナが、活版印刷の時代の書体の骨格で作られているので、懐かしさも感じます。

丸明オールドの過去記事も読んでくださいね。
http://bit.ly/2IHwtdK


●砧明朝体という新しい書体

5月11日に竹尾の見本帖本店2Fで開催された「日本タイポグラフィ年鑑2018グランプリ」受賞記念スペシャルトークショーに参加しました。登壇者は、グランプリを受賞した、砧書体制作所の片岡朗さんとと木龍歩美さんです。

毎年、国内外からタイポグラフィ・デザイン作品が応募され、『日本タイポグラフィ年鑑』に受賞作品や入賞作品が収められます。今年は、1,374件の作品が応募され、お二人が制作した『砧明朝体』がグランプリを受賞されたのです。おめでとうございます!

こんな素敵な明朝体なのです。トークショーの様子もご紹介します。
http://bit.ly/2ILqmAQ


●スペシャルトーク

グランプリ受賞を祝福したくて、最前列に座って、片岡さんと木龍さんのお話をじっくりお聴きしました。

そう言えば、4〜5年前に、片岡さんにお会いした際、「自分の明朝体を探す旅にでます」と聞いたがあります。「明朝体を究める旅にでてます」というニュアンスだったかもしれません。

今回の新書体も、5年の歳月をかけて、丹精こめて作られた書体だったのかーと感動しました。

新書体のコンセプトは、「優しさ」と「間」だそうです。こちらをじっくり観察すると、感じることができると思います。
http://bit.ly/2Lq0XhR


砧明朝体は、曲線の要素を多く取り入れたそうです。それが、印刷のにじみ効果のようになり、それが見る人に対して優しさを感じさせるのです。そして、横棒と縦棒にも、曲線を取り入れているので、よく見ると直線ではないのです。

トークショーで、とくに記憶に残ったお話がこちらです。

「写植時代には、1mmの幅の中に手描きで10本の線を書くという技術が必要とされた。いまはMacで書体を作れるけど、その感覚を大事にすることが重要なのです。画数の多い字を縮小しても潰れないように作る際に必要な処理です。そして、仮名は曲線がもともと美しい書体なので、漢字との調和を保つよう、制作しました」

このイベント申し込み時に、「メッセージや質問ありますか」の欄があったので、質問を書きました。当日、トークショーの中で回答いただきましたので紹介します。

僕のメッセージと質問内容は、こうです。

「片岡さんと木龍さんが手掛ける書体には優しさと温もりを感じます。そして使い続けても飽きがこないのは凄いなぁと感じます。

質問です。砧明朝体のアルファベットはとても個性があります。
A B K N Q R とか g k ! ? & 6 9 など、
今まであまり見たことない形をしていると思います。でも組んでみると違和感がありません。最初からこの形が思い浮かんだのか、試行錯誤の中から誕生したのでしょうか」

片岡さんの回答は、こうでした。

「欧文書体はものすごい数の書体が存在してるし、綺麗な書体がすでにたくさんあります。日本語書体を制作しているので、欧文書体の美しさを求めるというより、和文と欧文とを組み合わたときに、こういったアルファベットもあってもいいじゃないかなと思ったんです。漢字や仮名の要素を欧文に流用したのは実験的でもあり、みなさんが、これからどう感じていくのだろうかと思ってます」

なるほど……。片岡さんのコメントは、すごく深いんです。利用者に対して、書体をどう表現するかの選択肢の提案をしているんだと思いました。

そして、うれしいことに、セミナー会場で、僕の近くの席に、アートディレクターの副田高行さんが聴講されていました。

副田さんは、丸明オールドがまだ制作過程の時の2,000年に、丸明オールドを使ったサントリーモルツの新聞広告を発表しました。それがきっかけとなり、リリースから17年経ったいまでも、丸明オールドが広告やポスターで使われているのです。

その後、18年間、丸明オールドは、飲み物や食品、化粧品の広告には、なくてはならない存在になったのです。

新書体に対する感想や評価って、リリースされた時のものと、数年経ってからのもの、何十年、何百年経ってからのものがありますよね。

ファッションと同じように、書体の評価も時代と共に変化するものなのかもしれないですね。

●「フォントおじさん」で検索で1位獲得

最後に、自分ネタです。

昨年秋から「フォントおじさん」でGoogle検索すると、一番上に、僕のインタビュー記事が掲載されるようになりました。

・フォント素人のWebエンジニアが、「フォントおじさん」に聞いてみた! 
Webフォントの最近の事情とか
http://bit.ly/2ITuSxK


取材中に「関口さんを一言で表現するとなんだろう」という話になり、「フォントおじさん」という言葉が浮かんで、その話したら、「関口さん、フォントおじさんって表現、そのままじゃん」ということになったのです(笑)

そして、ありがたいことに、その記事が多くの方に読まれて、いつのまにか、検索結果の最上位にくるようになったのです。

その後、セミナー登壇のセッションタイトルに「フォントおじさん in ◯◯」と付くようになり、その関連記事も上位に入るようになりました。

いまでは、「フォントおじさん」のGoogle検索結果の上位に、僕の関連記事がたくさん出てくるようになったのです。

これって、すごい、ことですよね。インターネットがなかった時代の1980年代だったら、同人誌とかに僕の記事が書かれても、読む人はせいぜい数百人だったと思います。

それが、インターネット時代においては、数万人に読んでもらえる可能性があるわけです。

フェイクニュースやバズらせることを目的の記事が多数存在する中、楽しくて正しい情報をコツコツと掲載したいですね。

では、二週間後に、またお会いしましょう。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。


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編集後記(05/24)

●昨年の図書館利用状況を整理したら戸田・川口・蕨の図書館から借りた本の冊数が365を超えていたのにはおどろき。こりゃだめだと、速攻で返した本もたくさんあるし、途中で投げ出した本もたくさんある。でも、確かにこの数年、読書量は増え続けている。理由はただひとつ、お金のないひまじんだからだ。

かつてなら絶対手に取らないであろう本も、最近では読むようになった。難解そうで敬遠していたジャンルも、読んでみれば理解できるようになった。学生時代に不倶戴天の敵だった理数系も、今になって読むとけっこう理解できてしまうのだから不思議だ。もしかしたら、若い頃より頭がよくなったのかと思うが、それは錯覚であろう。でも、嫌いな思想の本は絶対に手をのばさない。

難解な本は翻訳ものに多い。先日ゴメンナサイしたのは、E・ノルビー著・井上栄訳「ノーベル賞の真実 いま明かされる選考の裏面史」である(2015/東京化学同人)。高山正之の「変見自在」シリーズでよく出てくるのが「盗まれたノーベル賞」。本来ならば日本人の受賞なのに、無法に外国人に攫われた話。

そういう実話を読みたかったが、この本にはなかった。それどころか、本文の難解さといったら。受賞者の研究内容、生命化学発展の歴史などさっぱり分からない。ウイルス学、免疫学、タンパク質の構造解明とか、もう完全にお手上げの世界だった。理解できたのは訳者のまえがきとあとがきだけだった(泣)

1901年の発足以来、二度の世界大戦を乗り越えて継続してきたノーベル賞。授賞者の選考に国家や企業が関与せずに、国境を越えて世界で最高の業績をあげた人が公正に選ばれる仕組みになっている。ノーベル委員会での審議内容は、外部からの影響を受けず公正さを維持するため、完全な秘密にされている。

第一回ノーベル生理学・医学賞に北里柴三郎が推薦されたことは知られている。しかし委員会と教授会でどんな論議がされたかは、今まで明らかになっていない。日本人としては非常に興味あることだ。訳者は著者に頼んで、カロリンスカ研究所ノーベル文書館の1901年の記録資料を読んでもらった。good job

ジェンナーの種痘(1796)→パスツールの狂犬病ワクチン(1885)→北里とベーリングの抗毒素血清→免疫学の成立という系譜の中で、北里の抗血清作製の意義は大きい。委員会及び教授会は「抗血清の治療効果はベーリングが北里と一緒に発表したが、ジフテリアの治療研究を行ったのはベーリングである」と断じ、ベーリングにノーベル賞を与えた。当時は共同授賞という形はなかった。

1980年の論文の第一著者はベーリングだった。北里の破傷風抗毒素の作製に関する1891年の論文は、1890年のベーリング・北里論文の前に出しておくべきだった。1926年のノーベル賞委員会は山際勝三郎(コールタールを使う発癌実験)ではなく、ヨハネス・A・G・フィビゲル(寄生虫による発癌説)に授賞した。これはノーベル賞選考における、数少ない間違いとして有名である。

1960年に生理学・医学賞を受賞したメダワーは、化学の発見を二つに分類した。結果が予想される「分解的」発見と、予想もつかない画期的な「合成的」発見だ。後者がノーベル賞に値し、北里の発見はこれに該当する。残念。(柴田)

「ノーベル賞の真実 いま明かされる選考の裏面史」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4807909320/dgcrcom-22/



●15日の「面倒くさい」続き。というのを作りたいと思ったが、構想が大がかりになって断念した。

冷蔵庫の監視はきっとそのうちメーカーがやってくれるだろう。賞味期限切れるよ、と残り物での最適レシピの提案や、いつもストックしているあれがもうなくなっちゃうよ、今なら安いから買っておけば? という登録している店のシュフーチラシの特売告知やらと。ああ、日保ちするものならネットスーパーへの自動注文と。

トイレットペーパーや歯磨き粉などの日用消耗品の管理もいるよね。普段よく使うものは管理しやすいけれど、たまに使うものだと、まだあると思っていたのに〜とか、ないと思ってお店でまた買っちゃったわとか、ありがち。続く。 (hammer.mule)

BABYMETAL Babymetal Live Concert 2018 (Rock on the Range)


公式アナウンスなし。病気なのか脱退なのか、学業優先なのか方針転換なのか
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