わが逃走[217]ビヨンドをつくる。の巻/齋藤 浩

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三年に一度開催されるポスターの祭典『世界ポスタートリエンナーレトヤマ』が募集を開始した。

例によって、発表済みポスターのA部門と自主制作のB部門が設定されているわけだが、B部門は、今回から自由課題の他にテーマが設けられた。

お題は「beyond」。辞書によれば、「……の向こうへ」「……を越えて」とある。越えてゆく。一文字で表すと「越」。

「越」、いいね。

子どもの頃から好きな字のひとつ。カチっとした“四角い感じ”がイイ。まずはこれを使って制作しようと考えた。

私の中ではこの字が最も「越える感」が強かったのだが、アイデア練りの最中、エヌ氏(仮名)に話したら「越? 他に“超”なんかも作ったりするの?」と言われて、あ、「超」もアリか。

「超」のもつ胡散臭さが面白く感じたし、ポスターにはケレン味って大切だよね、ということで「超」でも考えてみることにした。エヌ氏(仮名)ありがとう。





物心ついたときは
「超」能力とか
「超」特急とか「超」現実主義とか
「超」の後には名詞が来るものと決まっていたが、

私が小学生の頃から、「超」スゲーとか、「超」歩くなどと言われるようになった(うしろに形容詞や動詞がついてもアリになった)。

その10年くらい後には、同世代がテレビで普通にそう言うようになったことも要因のひとつなのか、今では「非常に」「とても」「たいへん」を意味する言葉としてすっかり日常語として定着しましたね。よくも悪くも。

そのうち時代劇で「超かたじけない」とか言う日がくるかもしれない。

「超」にしろ「越」にしろ、その文字をじっと見ていると、ゲシュタルト崩壊して抽象画や記号に見えてくる。

しかもモダニズムっぽい。とくにソウニョウが。

また、トンパ文字に見えたかと思えばルーン文字にもみえてくる。

正気を保つため、昔の看板や商標なんかを眺めてみると、書き順や筆致を無視しているとしか思えないものがたくさんあって愉快だ。

いまは世界中から情報が入って、みんなが「いいね」するもんだからか、すべての制作物が均質化している。

それに対し、100年、200年前のタイポグラフィのなんと自由なことよ!

さて、前回までは入選したい! 賞とりたい! みたいな気持ちも確かにあったし、いわゆる教科書に書いてあるような方法論に基づいて制作していたところもあったけど、昨年倒れてからそういった欲みたいなものがすっかり消えた。

また、全世界的に均一化されつつある「デザインぽいもの≒うすらグラフィック」という潮流をこれまで以上にキモチワルく感じるようになり、それらから距離を置きたいとも思っていた。

純粋に“次の表現”を提示したいだけというか。

幸いこれは自主制作なので、条件さえ守れば、表現は自由である。

まずは、前から作ってみたかった写真との組み合わせによる案に着手した。ここ10年くらいで撮りためた「beyond」を想起させる写真をいくつかセレクトし、最終的に“静か系”と“激しい系”の二点に絞った。

どちらも「越えてる」感じだ。これらの被写体の角度にあわせて「超」と「越」の文字を3Dで作成、はめ込んでみると……。

ぜんぜんダメだった。ラフスケッチまではイイ感じだったのに。

とくに写真として迫力があって、ポスター映えすると思っていた“激しい系”がまったくダメ。

そもそも写真とは、イイ! と思った瞬間を切り取ったものなので、あとから手を加えるとダメになる場合が少なくない。

そしてポスターは完成イメージに基づいて素材を集め、制作するものなので、ポスターに写真を使うなら(写真が主役の場合を除き)ほとんどの場合、そのために撮られた写真を使う方が“伝わるもの”ができる。

今までの経験からわかってたんだけどね。でも、今回はイケるかも? って思って。で、作ってみたわけだが、やっぱりダメだったね。わはは。

なので写真を使った案はしばらく放置し、「超」に着手。

YMOの名曲『U.T.』で語られているような、ハイパーな超地球的存在が宇宙空間で誕生するシーンを想像しつつ、いい加減なスケッチを描いた。

今見返すと、へろへろなスケッチである。

こんなものからよく作れたなと感心するほど、いい加減だ。

しかし、そのスケッチを通して完成図がイメージできれば、へろへろでも構わないのである。そこが自主制作のイイところだ。

今年の年賀状のために、今年になってから制作した『春』という作品? というか習作があるのだが、この制作が自分なりに楽しかったこともあり、同じ考え方で他の文字も作ってみたいという気持ちもあった。

いま思えば作り方は簡単で、前述のゲシュタルト崩壊を脳内で逆再生させながら、いちばんイイ瞬間で止めて、それを描くだけ。

あ、けっこう超地球的存在のイメージに近いものができた。

なんかこう、昭和の水曜スペシャル的に言えば“念写”に近いなあ、なんて思った。

だったら、ちゃんと現像してみるとよりイメージに近づくかも。と考え、一度Photoshopに書き出した後、Lightroomを使って現像処理を行った。

お、イイじゃん、オレ的にOK。

さて、これをいかにしてポスターのフォーマットに配置し、「beyond」として完成させるか。

けっこう悩んではみたものの、結果的にはほぼノートリミングで落ち着いた。

今までだったら文字周辺に落ちた想定外の影や光を整理したりしたものだが、今回はあえてそのまま。

とても微妙ではあるけれど、作為と無作為の境界をさまよった結果、視覚的に不自然でも心理的に自然と思われる方をとってみた。

まあ、ほとんど差はないんだけどね。

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【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられ
ないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィ
ックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。