腕時計百科事典[59]腕時計のちょっとかわったムーブメント
── 吉田貴之 ──

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腕時計の電池を交換した経験のある人は、どれくらいいるものでしょうか。現在は10年近く電池交換が要らない腕時計もたくさんあり、ともすると電池を交換するまでに、腕時計に飽きたり失くしたりする可能性のほうが高いかもしれません。

これとは別の理由で、電池交換しなくてもよい腕時計があるのはご存知でしょうか。ちょっと変わった腕時計を紹介します。





○現在主流のムーブメント

現在、時計販売店で手に入れることのできる腕時計は、大きく分けて3種類のムーブメントを搭載しています。それぞれ、「クォーツ」「太陽電池(光電池)」「自動巻」です。

「クォーツ」は電池で動作する腕時計で、価格も安く、比較的入手しやすいものです。「太陽電池(光電池)」は、基本はクォーツと同じですが、電池ではなく蓄電池を搭載しており、光のエネルギーを電気に変えて動作します。

「自動巻」はいわゆる機械式腕時計で、中に回転錘(ローター)がついており、腕の動きに合わせて錘が回転することでゼンマイを巻き上げ、その解ける力を利用して針を動かします。

○珍しいムーブメント

上で紹介した「クォーツ」「太陽電池」「自動巻」以外にも、いろいろな方式のムーブメントが存在します。歴史の流れに消えていったものから、ユニークな独自の技術を取り入れているものまで様々ですが、その中のいくつかを紹介してみましょう。

○何が珍しいのか?

時計の機構自体はそれほど大きな違いがないのですが、「動力」の部分と「調速機構」の部分に違いがあります。

先程の「クォーツ」は動力が電池(電気)、調速機構はクォーツです。「太陽電池」は動力が光電池、調速機構はクォーツです。「自動巻」は動力は錘により巻き上がるゼンマイ、調速機構は脱進機です。

○手巻き

手巻き式の腕時計は自動巻同様、機械式腕時計に分類されます。ゼンマイが動力ですが、これを手で巻き上げて使います。

昭和生まれの方であれば、おじいさんやおばあさんの家に手巻きの掛け時計があったのをおぼえておられるかもしれませんね。現在も手巻き式腕時計は制作されていますが、その数が相対的に少なく、ほとんどの機械式時計は自動巻時計です。

○音叉/電磁テンプ

いずれも、動力は電池ですが、調速機構がクォーツとは異なります。それぞれ、音叉や電磁石の特性を調速に活かした仕組みを採用しています。いずれも、

クォーツの登場に前後して開発/発売されましたが、クォーツに押し出される形で市場から姿を消しました。もし稼働する個体を手にすることができたのであれば、それはとても貴重なものです。

○スプングドライブ

「スプリング」という名前からも分かるように、動力はゼンマイです。ゼンマイの動力に、調速機構としてクォーツを採用した変わり種です。

自動巻のアナログ感とクォーツの正確さの良いとこ取り、というイメージでしょうか。スプングドライブは、日本のセイコー社が開発した独自の機構です。

○キネティック

キネティックは自動巻と同じ回転錘を備えていますが、その錘でゼンマイを巻き上げるのではなく、発電した電気を蓄電池に充電します。調速機構はクォーツです。

スプリングドライブ同様、思いついても販売までは至らない仕組みのように思いますが、セイコーが商品化に成功しました。

○マイナーなムーブメントを楽しむ

もっとマイナーなところでいえば、腕と大気の温度差を利用して発電する「温度差発電」の腕時計なども存在します。

ブランドや価格だけではなく、機械の歴史に着目して腕時計を追うのもおもしろいのではないでしょうか。


【吉田貴之】info@nowebnolife.com

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兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。