[4579] 現代中国SFアンソロジー「折りたたみ北京」◇LPレコード録音と調整◇映画「ウィラード」

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《音楽を聴くってこういう『神聖な儀式』だったんだ〜》

■エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[22]
 北京は折りたたみ式
 月が許してくれている間に
 柴田友美

■グラフィック薄氷大魔王[567]
 LPレコードの録音でいろいろ苦労する
 吉井 宏




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■エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[22]
北京は折りたたみ式
月が許してくれている間に

柴田友美
https://bn.dgcr.com/archives/20180606110200.html

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◎北京は折りたたみ式

ケン・リュウ編 中原尚哉・他訳 現代中国SFアンソロジー『折りたたみ北京』早川書房刊を読みました。ケン・リュウという人が選んで英語に翻訳した7人の作家(陳楸帆、夏笳、馬伯庸、○〈赤におおざと〉景芳、糖匪、程○〈女に青の下が円〉波、劉慈欣)の短編を、今度は日本語にした本のようです。

内容はSFなのですが、出てくる人の名前や地名が中国なので面白かったです。内容も妖怪が出てくるようなのから、変にハイテクになった未来まで色々で楽しめました。

今回は自分の作品は出さずに(ケン・リュウは自分でも作品を書くみたいです)作品を選んで英訳したケン・リュウの前書きがあって、「あんまり作品を中国への批判ととったりとか、中国的な特徴を探すとか、そんなことはせんといてね。」と書いてありましたが、いやこれめっちゃ中国のこと書いてあるんちゃうの、と心の中でつっこみながら読んでました。

この本のタイトルにもなっている、○〈赤におおざと〉景芳の「折りたたみ北京」という作品は、未来の北京は折りたたみ式になっていて、その別々の世界に分断された所を行き来するおっちゃんの話でした。この話と、夏笳の「童童(トントン)の夏」は読んで泣きました。

この中にも作品がある劉慈欣の、『三体』という小説が英訳されて、それがきっかけでアメリカでも中国でも「中国SF」のブームになり、書き手もたくさん出てきた、ということのようです。

検索すると、夏笳と○〈赤におおざと〉景芳は。すぐにテレビのインタビュー動画が出てきました。可愛い女性でした。なんかほんまにブームなんやな、と思いました。

中国SFは、中国人に、「テクノロジーばかりが進化して、人類はどうなるんだ」という文章を書かせたら、美しい詩になってしまった、という感じです。本の装丁もかなりかっこいいので、是非買って読んでみて下さい。

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◎月が許してくれている間に

ある日、僕の頭から馬がたくさん出ていった。最後の一頭に乗ってついて行くと、中央大通りを通って、トンネルを越えて大阪港に来た。

馬たちはそのまま船に乗ってどこかへ行った。僕は電車に乗って家に帰った。このままタイに行って、象の目になろうと思った。



【柴田友美(しばたともみ)】

短いお話を書いています。
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■グラフィック薄氷大魔王[567]
LPレコードの録音でいろいろ苦労する

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20180606110100.html

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●LPレコードには塵がつく

高3の春、バイトして月賦で自分のステレオを買って以降、レコードは買ってくるなりカセットテープに録音してた。なので、ほとんどのレコードは一度しかかけてなく、ほぼ新品。キレイに録音できた。

でも、それ以前の古いレコードは、さすがにホコリや塵のチリチリ音や汚れや傷だらけ。念入りに湿式クリーナーで掃除しても、それほど改善しない。

で、片面の後半になると音が割れてくる。ビリビリ余計な振動を拾っちゃってる。針を観察すると、後半でホコリが盛大に溜まってる。それでかー!

たぶん、溝から太古の塵を掘り起こしてるんだろう。途中で何度か針を掃除しながら録音するとマシ。

●CDは圧倒的にいい音だ!

レコードとCD両方持ってるアルバム。iTunesにも入れてるので、聞き比べてみたところ、CDのほうが圧倒的にいい音。一か月以上かかって、苦労して録音したのがバカみたいに思えてきた。針音やプチプチノイズには趣きがあるかもしれんけど、趣きなんか消し飛ぶくらいいい音。

実家のレコードを全部録音するつもりだったけど、変更。CDや配信でリリースされてなかったり、特別なものだけにしよう。

思い出した。初CDは84〜85年頃。初代CDウォークマンとドビュッシーのピアノ曲のCDを、名古屋事務所を抜け出して買いに行った。事務所に戻り、先輩に隠れてラジカセに繋いで、ボリュームを上げておき、スタート。

一曲目が鳴った瞬間は今も鮮明に覚えてる。「完全に透明な背景からあふれ出す音!」って感じだった。先輩が駆けつけて「何! このいい音は?!」って。そのくらい「次元が違ういい音」だったのだ。

ここ一か月以上、LPレコード録音と調整ばかりしてたので、iTunesもCDもほぼ聴いてなかった。レコードと同じアルバムをiTunesで聴いて「いい音!」って思ったのは、CDを初めて聴いた時の感動が蘇ったってことかw

●顔パック的にレコードパック

昔、LPレコードに木工用ボンドを何度も塗っては乾かしてベリベリと剥がし、塵を除去したのを思い出した。

フィギュア塗装に使う水性マスキングゾル(木工用ボンドと同じ酢の匂いがする)を全面に塗布、よく乾燥させてから剥がす。多少は改善するものの、劇的に変わるわけじゃないみたい……ヤメ!

と思ったけど、その後再挑戦。マスキングゾルの塗布が薄かったのかもしれないと、大容量入りの木工用ボンドを買ってきて、5枚のLPの裏表にシリコンのヘラを使って分厚く二度塗りした。廊下に並べて扇風機で乾燥。

剥がしてそのままターンテーブルに載せ、すかさず録音。確かに雑音は少なくなった(気がした)。

ただし、見えないくらい微妙に残ったボンドの薄皮が雑音の原因になることもあるようで、手間の割には実りが少ないとも言える……。

結局、中性洗剤と湿式クリーナーでゴシゴシし、水ですすぎを念入りにし、シリコンヘラで水を弾き飛ばして乾燥。これが最も良い結果になるようだ。後半で針先に塵が溜まって丸くなることもない。

アナログオーディオって不確かな改善要素が無数にあるし、結果も「気のせい」程度。底なし沼に落ちる人が多いのはよくわかる。

音楽を聴くことと、音を聴くことは別。僕はiPod付属のイヤホンでぜんぜん平気なところまで修行したのに、変にアナログをいじっちゃって退化w

●レコード雑感

・数年前の「実家で30年ぶりのレコードプレーヤーの操作体験」は、焦りまくって大型作品制作中の片手間だったので、味わうほど余裕はなかった。今回は、「あ〜〜なるほど。音楽を聴くってこういう『神聖な儀式』だったんだ〜」って実感した。

・儀式→湿式レコードクリーナーでフキフキし、針のホコリもチェック。回転ボタンを押して、針をのせる。ちょっとパチパチとかノイズがあって演奏が始まる。終わるとアームを上げて、回転ボタンを押して止める。DJ用は一般のプレーヤーのような全自動じゃないのだ。

・配信やクラウド上の音楽をパソコンやスマホで聴くのが普通になった今は、CDさえ面倒。そういえば、CDの操作には儀式っぽさは含まれてなかったかも。

・「レコード盤の溝のギザギザを針が拾って電気的に増幅してスピーカーから音が出る」という音は、デジタルとは違う音ってわかる気がする。思い込みかもしれんけど、儀式を通してそう感じてしまう。

・傷などで針飛びするのはどうしようもないと思い込んでたけど、Webで調べたら修復可能とのこと。

爪楊枝で怪しい部分をゴシゴシこすってスムーズにしてやると、針飛びが直った! それでもダメな場合はカートリッジの針圧を重くしたり、最後の手段としては指でギューっと押さえることでクリア。

・録音する場合は足音や物音を立てないように注意するけど、普段はそこまで気を使わなくても大丈夫。

・ゆったりと音楽を聴くのにレコードは最高の体験とはいえ、まあ、普段やろうとは思わない。また、たとえばレコード300枚って、相当ちゃんとした置き場所を作らなきゃいけないわけだし。ちょっと贅沢な趣味。

狭い仕事部屋で、レコードプレーヤー用に小さい机を一つ占有されてるだけでも、ガマンならないw

・A面B面と分かれているところがイイ。裏返す操作で気分が新鮮になる。飽きずに聞ける片面の長さ。20数分でひっくり返すのはいいリズム。ながら聴きすると、短すぎて慌ただしいけど。

・昔聴いた「A面最後の曲」とか「B面最初の曲」とかやたら印象強くない? ふさわしい曲がその位置にあったと思う。YMO「BGM」の「QUE/キュー」とか。

・親が買った「映画音楽大全集」とか「リーダーズダイジェストポピュラー音楽名曲集」などの十枚組みセットが、今回のクライマックスだった。

小学校高学年の頃、相当気に入って繰り返し聴いてたはずだが、数枚以外はほとんど覚えてなかった。それに、特別に思い入れのある曲以外、ほとんどがダサく聞こえて残念。

・小学校高学年で最もカッコイイと思っていた音楽は「荒野の七人」のテーマ曲(非サントラ音源)だったもんw 2つ3つ上の近所の中学生に「これいいでしょ!」と聴かせてたことがある……恥ずかしい〜w

たぶん彼らはすでにロックなど聴いてたはず。っていうか、「荒野の七人」は別にダサくないけど、「小学生がドヤ顔で」が恥ずかしい。

・考えてみれば、レコードや本から内容を取り出して保存するのってすごいこ
とだな。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


WWDC 2018で新しいMacBook Proが出なくて拍子抜け。そういえばMac Proは本当に今年中に出るのか? とかおいといて、気になる件。

新MacOS MojaveからOpenGLとOpenCLが非推奨になるらしい。Apple独自のMetalという仕組みへの移行を促してる? 後になってMetalのほうがぜんぜん性能よかった! になったとしても、移行期には困ったり混乱したりするのかも。

僕的にはGPU非搭載のMacBook Pro 13でさえ、MODOの作業が重くてダメとかぜんぜん感じないので,あんまり関係ないのかもしれんけど。

しばらく大丈夫そうでも、本当に3DがMacで作業できないことになったら、2Dメインに戻るだろうなw

追記。Metalはとても優れたものだそうです。今までダメダメだったMacの3DCG環境が劇的によくなる可能性も。

・スワロフスキー「招き猫」と「HOOT HAPPY BIRTHDAY」も出ました。
https://bit.ly/2qWbmZh


・rinkakインタビュー『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』
https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii



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編集後記(06/06)

●高校時代は生物部に所属し、部長も務めた。血も涙もない男と言われたこともある。文化祭で生き物の(いや死体だけど)解剖ショーを催したりしたからだ。でもこれは部の伝統であり、ネズミやモルモットなどの扱いなんか、何の抵抗もない。さて、この映画は閲覧注意というお節介な人や、こんな怖い映画はないという人がいる。それが1971年のアメリカ映画「ウィラード」だ。

わたしはネズミなんか全然怖がらず、気味が悪いとも感じない特殊な人なので、最後のクライマック、大量ネズミが人間を襲撃するシーンも、ふーん、この程度で大騒ぎかいと思う。たぶん劇場では大変なことになったはずだ。公開当時、ヒッチコックの「鳥」を凌ぐとさえ言われたそうだが、それは絶対違うね。

肝心のネズミの人間襲撃は、95分の映画の最後のせいぜい10分程度だ。それまでは、主人公ウィラードの冴えない日常が延々と続く。今で言う(最近は言わないかも)ネクラで気弱で、残念ながら見ていて感情移入したくなるような青年ではない。亡き父の会社を乗っ取った、下品なボーグナイン(分かりやすい悪役だ)の嫌がらせの下で卑屈に仕えている。そのあまりの弱さがもどかしい。

家に帰れば愛情過剰でうっとうしい母親がいる。階段に電動昇降機をセットしているくらいだから、脚が悪く歩行が難儀である。ウィラードが望まないのに誕生パーティを開くが、彼の友達は一人もおらず、母親の知り合いや欲深い叔母しかいないからいる場所がない。その母も死に、彼はリアルに孤独である。会社で向かいあって座るバイトの女の子との、ほのかなラブはあるのだが。

彼が親しくしているは、家の庭に棲むネズミたちだけである。ネズミたちはどう思っているかわからないが。エサを与えて繁殖させ、調教まがいなことをする。地下室にネズミの住処をつくり、中でもよくなついた知能が高そうな二匹にベンとソクラテスと名付ける。彼と二匹は会話しているようにも見える。

この二匹を通勤鞄に入れて会社に連れて行く。倉庫に隠しておいた二匹だが、ある日(一か月後のクビを宣告された日)社員に見つかり大騒ぎとなって、ソクラテスはボーグナインに突き殺されてしまう。その夜、ベンと大量のネズミたちを車で会社に運び、ボーグナインを殺させる。終わったあと、ウィラードはベンを見捨てて、ひとり家に戻り地下室のネズミたちを水に沈めて殺す。

翌日、ベンが家の中に現れる(どうやって帰ってきたんだよ)。仲間たちを呼び集め(まだいたのか)、ウィラードを襲わせる。「友達だったじゃないか!」と叫んで倒れた血だらけのウィラードに、ネズミたち群がる。高みから見下ろすベンは笑っているように見える。ネズミの攻撃シーンはけっこうしょぼい。

うつむけで伏したボーグナインやウィラードの、身体の上に群れるネズミたちの姿はなかなか素敵だが、どうやって撮影したのか。ネットで捜したら、ネズミに襲われる演者は体中にピーナツバターを塗りたくって、ネズミを誘導したとあった。最後のシーンでは実際に500〜600匹のネズミが放たれたという。CGがない時代、大変な撮影だっただろう。続編「ベン」見ようかな。 (柴田)

「ウィラード」
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●セイコーGGP続き。F-1の時に思ったんだけれど、テレビだと捕らえている時間を増やすため、走行に合わせてカメラを流すから、体感スピードが殺される。

テレビで2秒映るとしたら、会場だと0.3秒とか。数字は適当。ビューンがビュンって感じ。近くでビュンを体感するか迷ったが、レース全体も見てみたいので会場の上下真ん中あたりに座り、遠くから眺めることにした。

特殊な競技はやったことがないから、その凄さはわかっているようでわかっていないかもしれない。走りは誰でもやったことがあるわけで、凄さがよくわかる。めっちゃ速い。みんな速い。これが世界トップレベルなんだなぁと。続く。 (hammer.mule)

「セイコーゴールデングランプリ陸上2018大阪」
http://goldengrandprix-japan.com/ja-jp/