わが逃走[218]瀬戸内ロケハン の巻
── 齋藤 浩 ──

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わけあって高齢者(両親)を連れ、広島・愛媛・高知を旅してきた。

二人とも足腰丈夫なのは良いことだが、想像の斜め上を行くようなことを言ったりやらかしたりするので、肉体的にも精神的にも疲れたわけです。

そのことを綴ると愚痴だらけになりそうなので、今回は旅の合間にみつけた構造美をいくつかご紹介します。

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年に何度か上る階段なのだが、何度見ても面白い。
地形と建築にあわせて現場合わせでつくられたものなのだろうか。
見る角度、季節、時間帯によってさまざまな表情をみせる絶妙な立体構成は芸術以上の存在といえましょう(と思うのだが)。尾道にて。





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ここも、何年通い続けたことだろう。
階段の手すりを支える柱とその基部なのだが、
全ての中心線がずれている。そのリズミカルで現場合わせな機能美は何度見ても美しい(と思うのだが)。尾道にて。

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滑り止めの××と、金網の影の××。
虚と実の対比を愛でる。
おかしな奴とお思いだろうが、私にとって何時間でも眺めていられる愉しい階段である。向島にて。

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短い直線を繋ぎ合わせた水路を中心に、それを縁取るラインの法則が興味深い。
外側に膨らむ部分が曲線であるのに対し、内側にえぐれる部分は直線でV字に削られている。

手前の曲線を強調するかのように高低差を演出する曲面の存在も秀逸。
大三島にて。

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小さな橋の向こうは急坂。近年落成したカッコいい建築の脇には、素朴な山村の路地がかろうじて残っていた。

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同じ橋を別角度から。
平行して水道橋があり、その一部は滝となって川と合流する。
とても興味深い構造で、できれば半日ほど眺めていたかった。梼原にて。

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メインストリートに繋がる並列階段。
この町の「あたらしいアートディレクション」も素晴らしいと思うが、

こういった「これまでの日常を想起させる構造物」を目にすると、とても安心する。これらの対比が町のリズムを作っているように思えた。梼原にて。

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境界。空間も時間も、このあたりを境に変化しているように見え、妙な統一感があったりして、ホントこの町は奥が深い。尾道にて。


今回の旅は、まあ、いろいろと気を使うことが多く(笑)、興味をそそられる物件を素通りせざるを得ない状況が続いた。

なので、あくまでもロケハンと位置づけ、次回はゆっくり穏やかに、気になった物件を観察できればと思う。

とくに車の運転中に見かけた沈下橋や美しい岸壁など、この辺りは構造美の宝庫だ。

というわけで、再訪を誓い瀬戸内を後にするのだった。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられ
ないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィ
ックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。